呼吸器合併症の診療に強み、関節エコーでリウマチ診療もレベルアップ

獨協医科大学リウマチ・膠原病内科の主任教授に2023年春、池田啓氏が就任した。同医局は、呼吸器・アレルギー内科の診療グループから独立して誕生した経緯があり、膠原病の呼吸器合併症の診療に強みを持つ。池田氏自身も肺の画像診断に関する研究を多数手がけてきたことから、その強みを今後も維持していきたい考えだ。池田氏は、英国に留学して解剖学に基づく関節エコーの手技、結果の解釈などを学び、日本で関節エコーの標準化に取り組んだことでも知られる。関節エコーを診療に取り入れることにより、正確な診断、正確な治療を実現することにも意欲を示している。

獨協医科大学 リウマチ・膠原病内科

◎医局データ
獨協医科大学リウマチ・膠原病内科
主任教授:池田 啓 氏
医局員:13人
病床数:20床
入院患者数:約300人/年(2022年度実績)
外来患者数:約1500人/年(2022年度実績)
関連病院:上都賀総合病院など7施設

 獨協医科大学リウマチ・膠原病内科は、同呼吸器・アレルギー内科に設置された「膠原病診療グループ」が前身で、2016年に診療科として独立した。現在の医局員は13人でリウマチ専門医は8人。リウマチ・膠原病の診療を担う病院が栃木県には少なく、患者は県全域から来院する。年間の外来患者数は約1500人、20床ほどの専用病床は常にほぼ満床という。 

 医局のトップを務める池田啓氏は、元千葉大学医学部附属病院アレルギー膠原病内科診療准教授で、2023年4月に第2代主任教授に就任したばかりだ。池田氏は英国リーズ大学(University of Leeds、ウエストヨークシャー州)に臨床留学して関節エコーについて学び、解剖学とデータに基づいた関節エコーの手技を日本の多くの医師に伝えてきた。日本における標準化に取り組んできたことでも知られ、全国で開催される講演会や講習会の講師として活躍中だ。

 「医局の成り立ちから、膠原病の呼吸器合併症の診療に強いことが、当医局の大きな特徴です。その強みを継承しつつ、さらに、関節エコーをはじめとする画像診断を駆使して精密医療を提供することにも取り組んでいきます」と池田氏は意気込みを語る。

                             獨協医科大学リウマチ・膠原病内科主任教授の池田啓氏。

膠原病の呼吸器合併症の診療に強み 

 初代主任教授の倉沢和宏氏(現・特任教授)は池田氏と同じく元千葉大学医学部附属病院アレルギー膠原病内科の医師で、池田氏の15期上の先輩に当たる。膠原病の合併症の1つである間質性肺炎の研究で実績を上げていたことから、獨協医科大学病院呼吸器・アレルギー内科主任教授だった福田健氏に招かれて移籍し、2004年、呼吸器・アレルギー内科内に「膠原病診療グループ」を設立した。 

 リウマチ・膠原病内科は2016年に独立したが、現在も、呼吸器・アレルギー内科だった頃からのメンバーが多く残っており、呼吸器疾患の知識、知見が膠原病の診療に生かされている。また、診療科が分かれた後も呼吸器・アレルギー内科との関係は良好で、気管支鏡検査、気管支肺胞洗浄液検査、肺生検などが必要なときには迅速に協力してもらえるとのことだ。 

 「膠原病の重症病態の代表格で、数も多いのが肺の合併症です。当医局がこれまで、診療でも研究でも一番力を入れてやってきた部分であり、実績もあります。私自身も千葉大学で、数多くの肺の画像診断の研究に関わってきました。ですから倉沢先生の時代に築かれた『呼吸器の合併症に強いリウマチ・膠原病内科』という特徴は、今後も維持していきます」と池田氏は話す。 

シンガポールと英国で解剖学に基づく関節エコーを学ぶ 

 一方で池田氏が自身のカラーとして新たに取り組みたいと考えているのは、関節エコーの活用により、関節リウマチの診療レベルを底上げしていくことだ。 

 池田氏が関節エコーに出会ったのは2004年、視察に訪れた欧州リウマチ学会(EULAR、ドイツ・ベルリン)だった。当時は関節エコーがリウマチの診断や治療効果の確認に有用であることが発表され始めた頃だった。池田氏は論文を読んで関節エコーに興味を持っていたが、効果については半信半疑だった。しかしEULARのハンズオンブースで実際に関節エコーを体験して、こんなに鮮明に炎症が確認できるのかと衝撃を受けたという。 

 EULARから帰国後、池田氏は関節エコーの手技を独学でマスターしようと試行錯誤したものの、いったんは挫折。その後、海外留学の機会を得たため、目標の1つとして関節エコーについて学ぶことを掲げたという。シンガポールのタントクセン病院(Tan Tock Seng Hospital)を経て、2006年から1年間、英国リーズ大学に臨床留学し、関節エコーの世界的な草分けとされるリチャード・J・ウェークフィールド氏(Richard J. Wakefield)に師事した。 

 「関節の解剖学が分からないと関節エコーは見えません。その部分の教育が日本では抜け落ちているために、独学で学ぶのが難しいことに気づかされました。解剖学に基づく関節エコーの手技、診断、結果の解釈など、日本で学べなかったことをしっかりと学び、帰国後、自信を持って関節エコーを診療に取り入れることができるようになりました」と池田氏は振り返る。 

生物学的製剤の登場で正確な診断の重要性が強まる 

 池田氏は、関節エコーをリウマチ診療に取り入れることの意義について次のように語る。

「リウマチ治療薬は大きく進歩しましたが、診断や治療効果の評価方法は意外にもあまり進んでいません。滑膜で炎症が続いているのか、それとも落ち着いているのかを診察で確認するスタンダードな方法は、現在も、患者の話を聞くこと、関節を触って腫れがあるか、患者が痛みを感じるかを確認することです。しかしそういった方法だけでは判断がつかないことがあります。関節エコーで炎症の有無や程度を『見える化』することのインパクトは大きく、正確な診断や治療に大いに役立つのです」。 

 新しいリウマチ薬の登場で、正確な診断の重要性はより増していると池田氏は考えている。抗体薬などの生物学的製剤は、効果は高いが患者の費用負担も大きくなりがちだ。副作用、有害事象のリスクもあるため、従来薬以上に投与してメリットがある患者を慎重に見極める必要がある。「関節エコーを診断に活用することで、治療機会の見逃しが避けられるだけでなく、炎症がないのに治療をしてしまう『過大診療』も避けられます」(池田氏)。 

 池田氏は、前任の倉沢氏の要請を受けて、診療科が独立した2016年頃から定期的に獨協医大を訪れて、関節エコーの短期講習を実施してきた。そのため同医局の医師の多くは既にひと通り、関節エコー検査が実施できる。また、倉沢氏の尽力により、全ての外来診療ブースに超音波診断装置が1台ずつ設置されるなど、恵まれた診療環境がすでに整っているとのことだ。 

 「ただ、忙殺される外来診療の中で、関節リウマチの全ての患者さんに毎回、関節エコーを実施することはできません。どんな場合にどんな頻度で実施すればよいのかなど、私自身がロールモデルとなって外来診療で実践し、医局員に示していくつもりです」と池田氏は話す。

毎週木曜日夕方から医局内で開催される医局会の様子。リウマチ・膠原病内科の教育カンファレンスとしては、週2回の症例検討カンファレンスのほか、抄読会、リウマチセンターでの他診療科、他職種との勉強会などもあり充実している。

 医局員増に向け女性も男性も働きやすい医局・診療科を目指す 

 今後の医局運営について池田氏は「まず、医局員を増やしたいですね。そのためにも、医局の医師が働きやすい環境を整えていきます」と抱負を話す。診療科が独立して以来、入局者は順調に増えているが、さらに加速させたい考えだ。医師の長時間労働規制が強化される「働き方改革」が目前に迫り、一人ひとりの業務負担を減らすために人員に余裕を持たせたい思惑がある。また、現在、常勤で医師を複数派遣している関連施設は上都賀総合病院(栃木県鹿沼市)のみだが、他の施設からも要請があり、なるべく早期に派遣できるようにしたいと言う。 

 「現在、当医局の13人の医師のうち8人が女性医師で、2人は産休中です。准教授の前澤玲華先生、講師で病棟医長を務める新井聡子先生が家庭と仕事を両立する女性医師の良いロールモデルになってくれていて、彼女たちの姿を見て入局する女性医師が続いています。これを良い伝統として定着させていきます。家庭と仕事を両立する男性医師のロールモデルにもぜひ出てきてほしいので、後押ししていくつもりです」(池田氏)。 

 関節エコーに関しては、リウマチ以外の膠原病に対しても、診断や治療効果の確認で使えるよう、活用範囲を広げていきたい考えだ。「関節リウマチの診療を劇的に変えた治療薬が適応拡大され、他の膠原病の治療にも使われ始めています。その流れは今後さらに強まるでしょうから、診断や治療効果の評価のための関節エコー検査も、応用範囲を広げていく必要があります。脊椎関節炎やリウマチ性多発筋痛症、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎・多発性筋炎などへの活用で有用性を検討し、他の画像診断の活用と合わせてより正確な診療の実現を目指します」と池田氏は言う。 

 さらに長期的な研究面の目標としては、獨協医大病院の特徴を生かして、バイオバンクを構築したいとのことだ。獨協医大病院は症例数が多いことに加え、都市部の大学病院と比べると、重症例からプライマリケアまで幅広く患者が来院する特徴がある。診療科間の連携が非常に良好で、生検などで協力を得やすいのもメリットだ。また、患者と医師の距離感が近く、「研究のお役に立つなら」と患者が快く検体採取に同意してくれるケースが多いという。 

 「現在は優秀なバイオインフォマティシャンがいないとなかなか進められないトランスクリプト―ム解析も、いずれ、AI(人工知能)の活用で簡単にできるようになると私は考えています。その際には臨床情報と紐づいた検体を多く持っていることが強みになるので、検体を採取・蓄積して将来に備えたいと考えています」と池田氏は話している。

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池田 啓(いけだ・けい)氏

1997年千葉大学医学部卒。2004年同大学大学院医学研究院修了、医学博士。2007年同大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科助教、2017年同講師、2021年同診療准教授。2023年獨協医科大学リウマチ・膠原病内科主任教授/リウマチセンター長、千葉大学客員教授。


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