全国一広い医療圏でリウマチ・膠原病の診療拠点に

JA北海道厚生連帯広厚生病院が位置する「十勝医療圏」は、全国一面積が広い2次医療圏だ。同病院消化器内科リウマチ・膠原病グループは、患者のかかりつけ医と連携を深めるなどして、限られた医師数でこの広大な医療圏の診療拠点としての役割を担っている。グループリーダーを務めるのは部長の清水裕香氏。患者と医師が長く向き合い、人生そのものに関わっていくことにもなるリウマチ・膠原病診療の醍醐味を、研修医・専攻医に伝えたいと教育にも力を入れている。

JA北海道厚生連帯広厚生病院・
消化器内科(リウマチ・膠原病内科)
(北海道帯広市)

JA北海道厚生連帯広厚生病院は1945年に開設され、2018年に現在地に新築移転した。現在の診療科は24、病床数は651床。消化器内科リウマチ・膠原病グループの外来患者数は年間約3000人に上る。

 JA北海道厚生連帯広厚生病院(北海道帯広市、大瀧雅文院長)の消化器内科は、「消化器」「糖尿病・内分泌」「リウマチ・膠原病」の3グループに分かれている。リウマチ・膠原病グループ所属の医師はリウマチ専門医2人、リウマチ専門医を目指している内科専門医1人、専攻医2人、研修医2人の計7人で、グループリーダーを務めるのは2017年に北海道大学病院リウマチ・腎臓内科から赴任した部長の清水裕香氏だ。 

 帯広厚生病院が位置する「十勝医療圏」の面積は1万平方キロメートル超と、2次医療圏としては全国一広い。帯広市内にも圏内の町村にもリウマチ・膠原病診療の拠点となる病院が帯広厚生病院の他にはないため、「限られた医師数でこの広大な医療圏のリウマチ・膠原病診療をカバーしている点が、私たちリウマチ・膠原病グループの大きな特徴です」と清水氏は話す。 

一般内科や整形外科のかかりつけ医と連携・協力 

 リウマチ・膠原病グループの現在の外来患者数は年間3000人ほどで、そのうちリウマチ患者は1400人強。清水氏を含む2人のリウマチ専門医が1日1人当たり50~60人ほどの外来患者の診察を担当している。新規のリウマチ・膠原病患者の多くは、患者宅近くのかかりつけ医からの紹介で帯広厚生病院を受診して来る。通常は初診から2週間ほどかけてエコー検査、X線検査、MRI検査、CT検査などを実施し、治療が軌道に載るまでは毎月1回通院してもらう。病状が安定したら3カ月に1回に切り替えることが多いという。 

 患者が希望すれば、自宅近隣のかかりつけ医に処方を引き継ぐ方針だ。ただしその場合でも、半年ごとに帯広厚生病院を受診してもらっている。「患者さんの自宅近隣のかかりつけ医はリウマチ・膠原病の専門医ではない場合がほとんどです。ですので、連携診療の場合は1年に1〜2回は当院に来てもらい、検査で炎症の具合などを評価して必要に応じて治療方針や処方を修正しています。患者さんをかかりつけ医と私たちとで半々で診ることで、より多くの患者さんに対応できるようになります。また、何かあったときにも、かかりつけ医から私たちに気軽に相談してもらえます」(清水氏)。 

 非専門医との連携では、専門医同士以上にコミュニケーションが大切になる。清水氏は、患者を診察したら必ず、検査の結果や次回の診察(検査)の予定などをかかりつけ医に伝えているという。かかりつけ医から清水氏へも、患者が帯広厚生病院を受診する際に手紙を持たせるなどして、普段の患者の様子を知らせてくれている。 

 帯広厚生病院で年3〜4回開催している症例カンファレンスが、医師同士の連携を深めるために役立っている。これは十勝医療圏でリウマチ・膠原病の患者を診ている医師の勉強会で、専門医か非専門医かにかかわらず参加可能だ。連携する病院やクリニックからの紹介で入院中の患者の経過なども、このカンファレンスで報告される。「カンファレンスで顔見知りになった医師からは、地域連携室を通さず直接電話や電子メールで患者さんの症状に関して相談を受けたり、新規患者さんの紹介をしてもらったりしています。新型コロナウイルス感染症のアウトブレークで中断していたのですが、そろそろカンファレンスを再開したいと考えています」(清水氏)。 

 少ない医師数で多数の患者を効率よく診察するには、医師以外の医療スタッフとの協力も欠かせない。清水氏は、コロナ禍で講演会参加が制限されていることもあり、グループ内の医療スタッフにリウマチ診療に興味を持ってもらうため、不定期に「グループ内講演会」を開催しているとのことだ。清水氏らが学会や講演会などでリウマチ・膠原病関連の講演をする際に、リハーサルと称して、グループ内の医師、看護師のほかDA(医療事務作業補助者)らにも聴いてもらっているという。 

 また、他病院とのオンラインを用いた看護カンファレンスにも参加し、他病院のリウマチ・膠原病診療、問題点への取り組みについてスタッフ皆で話し合い考える機会を設けている。「医療スタッフを巻き込んで、みなが勉強しながら、患者さんに良い医療を提供しようとやっていくことが大事だと思っています。そのための試みです」(清水氏)。

帯広厚生病院消化器内科・リウマチ膠原病グループのスタッフ

 1人の患者との出会いからリウマチ専門医の道へ 

 清水氏は徳島大医学部を2006年に卒業後、札幌医療センター斗南病院(札幌市、奥芝俊一院長)で臨床研修を受け、2010年に北海道大学病院の内科Ⅱ(膠原病、糖尿病・内分泌、腎臓病)に入局した。リウマチ・膠原病の専門医を目指した理由について「研修医時代に担当した1人の患者さんとの出会いが大きなきっかけになりました」と振り返る。 

 ローテーションで最初に配属された診療科がリウマチ・膠原病内科だった。5月頃、強皮症による間質性肺炎の急性増悪を起こした70歳の女性患者が搬送されてきたため、上級医とともに気管挿管して人口呼吸器を導入。その後、急性期を脱するまでこの患者を担当することになった。呼吸の管理、栄養の管理、ステロイドや免疫抑制剤の使い方、それらの薬を使ったときにリスクが高まる感染症への対応など、1人の患者を通じて様々な経験をしたという。 

 さらにその半年後、清水氏がローテーションで外科を回っているときにも、同じ患者が胆のう炎で手術となり、手術後の管理も担当した。「この患者さんが病院に搬送されてきたときには、もうご自宅に帰れないのではないかと思いました。しかし1年ほどかけて見事に回復され、歩いて自宅に戻られたのです。膠原病が様々な臓器に様々な病態を起こすことに加えて、医療がどのように関わってそれを回復させていくのかを、この患者さんを通じて教わりました」(清水氏)。 

 実は清水氏は当初、別の診療科の専門医を目指していた。しかし研修初期にこの患者と出会ったことにより、リウマチ・膠原病を診る医師には患者の全身を診る能力と、患者と長い時間向き合う粘り強い姿勢が求められることを知って興味を持つようになったという。 

 「加えて、斗南病院で指導してくださったリウマチ・膠原病科の上級医がとても熱い方だったのです。常々、『リウマチ・膠原病をしっかり診るには、リウマチ・膠原病以外の知識もたくさん身に付けなければいけないよ』と言われ、幅広く内科の知識を学ぶよう導いてくれました。その医師が北海道大学病院リウマチ・腎臓内科からの派遣だったことから、ぜひ一緒にリウマチ・膠原病の勉強をさせていただきたいと思い入局しました」(清水氏)。 

「若い医師にリウマチ・膠原病診療の醍醐味を感じてほしい」 

 自身が指導する側となった現在、清水氏は研修医時代の経験を若い医師の教育に生かしている。 

 帯広厚生病院では、研修医や専攻医は主に病棟を担当している。「リウマチ・膠原病グループは消化器内科に属しているので、全体の入院患者は20〜30人で、そのうちリウマチ・膠原病の入院患者は常時5〜10人ほどです。関節リウマチの主な症状は関節症状ですが、間質性肺炎(リウマチ肺)、消化管のアミロイドーシスで消化器症状を起こすこともあります。関節リウマチで関節炎の他にも神経障害を起こすことがありますし、胸膜炎を起こして胸水がたまることもあります。全身エリテマトーデスで腎炎を起こす方、関節症状が出る方もいます。リウマチ・膠原病は1つの臓器の症状だけでなく、全身でいろいろなことが起ってくる病気です。病棟で、消化器疾患を診療しながら、さらにリウマチ・膠原病の様々な病態を学ぶことは、研修医や専攻医にとって貴重な経験になるはずです」(清水氏)。 

 もちろん回診には指導医が同行するほか、緊急でサポートが必要なときには清水氏ら指導医、上級医がすぐに駆け付ける体制を取っている。また、入院患者に特に変化がなくても毎日夕方には必ずカンファレンスを実施して、その日の患者の状態や検査結果などを報告してもらい、それに対して清水氏がアドバイスを返している。「病棟でたくさんの経験を積んでもらう一方で、研修医や専攻医が1人で責任を背負い込んで悩むことがないようにも気を配っています」(清水氏)。 

 外来診療の担当は基本的に専門医だが、入院患者が退院して外来を受診するようになったら、病棟でその患者を担当した研修医や専攻医を外来に呼んで、外来診療も経験させている。 

 「急性期を脱して症状が良くなってからも、患者さんが生活にお困りでないか外来で確認し、家族とも相談しながら日常を回復していきます。リウマチ・膠原病は患者と医師が長い時間をかけて向き合っていく疾患であり、患者さんの人生に関わっていくことが専門医の醍醐味だと私は思っています。そのことを、自身が病棟で担当した患者さんを外来でも引き続き診続けることで、研修医や専攻医に感じてほしいのです」。こう語る清水氏の教育方針やその人柄を慕い、帯広厚生病院・リウマチ膠原病グループでの研修・勤務を希望する研修医、専攻医が年々増えている。 

地域でのリウマチ・膠原病啓発が今後の目標 

 帯広厚生病院のリウマチ膠原病グループの今後について、清水氏は、「病院のリソースの問題があるのでなかなか難しいのですが」と前置きした上で、「患者さん一人ひとりの診察に、もう少し時間をかけられるよう工夫していきたいです」と話す。具体的には、特に新規患者からしっかりと話を聞くために、新規と再来の診察日を分けることなどを考えているとのことだ。 

 もう1つの目標は、リウマチ・膠原病について、地域の人たちに向けた啓発を進めることだという。「関節が痛いけれど年のせいだと思ってしまい、関節リウマチがすごく進行してから来院される患者さんがまだ多いのです。特に関節リウマチの治療は進歩して、昔なら止められなかった症状の進行が止められるようになっています。できるだけ早く病気を見つけて治療を開始できるよう、疾患セミナーや市民講座などを開催してお話しできたらと考えています」と清水氏は話している。
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清水 裕香(しみず ゆか)氏

2006年徳島大学医学部医学科卒業、KKR札幌医療センター斗南病院初期研修。2008年同リウマチ膠原病内科。2009年同消化器内科。2010年北海道大学病院内科Ⅱ(現リウマチ・腎臓内科)。2011年JA北海道厚生連帯広厚生病院第三内科(消化器内科)。2012年北海道大学大学院医学研究科免疫代謝内科学分野博士課程入学、NTT東日本札幌病院リウマチ膠原病内科。2013年北海道大学病院神経内科、北海道大学病院内科Ⅱ(現リウマチ・腎臓内科)。2017年よりJA北海道厚生連帯広厚生病院第三内科(消化器内科)医長。同年、北海道大学大学院医学研究科免疫代謝内科学分野医学博士取得。2023年よりJA北海道厚生連帯広厚生病院第三内科(消化器内科)部長。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本リウマチ学会認定専門医・指導医。


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