これまでの伝統や慣習にとらわれない「楽しく自由でアットホームな医局」作りに邁進

名古屋市立大学医学部は近年の病院統合によって、附属病院5施設、総病床数2200の規模にまで拡大した。同大学で整形外科のかじ取りを担う第5代主任教授の村上英樹氏は、2019年の就任以来、これまでの伝統や慣習にとらわれない働きやすい医局の実現のために様々な取り組みを進めることにより、医学部の規模拡大に応えられるよう医局の充実を図ってきた。目指すのは「楽しく自由でアットホームな医局」だ。「前任地から持ち込んだのは私の手術技術だけ」というしがらみのなさを武器に、村上氏はさらなる医局の充実に邁進している。

名古屋市立大学大学院医学研究科整形外科学分野

名古屋市立大学大学院医学研究科整形外科学分野
医局データ
教授:村上 英樹 氏
医局員:39人(留学中を含む本院在籍者数)
病床数:772床(本院、一般病床)
救急病床数:18床
手術件数:1万1000件/年
外来患者数:約3万人/年
関連病院:36病院(全病院が名古屋市から通勤圏内)

 名古屋市立大学医学部は、2021年に名古屋市立東部・西部医療センターの2病院を医学部附属病院として、国公立大学病院の中で最大規模を誇る約1800床の医学部附属病院群を形成した。また、2025年には救急・災害医療センターの設置も予定しており、同大学の整形外科は質・量ともに、さらに充実させていく必要に迫られている。 

 こうした状況の中で名古屋市立大学の整形外科のかじ取りを担っているのが、2019年2月に第5代主任教授に就任した村上英樹氏だ。村上氏の専門は脊椎腫瘍。以前から同大学の整形外科には、応援を兼ねた国内留学として、金沢大学医学部の整形外科腫瘍グループから医師が派遣されていた。村上氏はその金沢大学の准教授を務めていた。 

 村上氏が教授に選出された際、名古屋市立大学の理事長からは「3年で30人を入局させてみなさい」と発破をかけられたという。当時、整形外科への入局者は毎年5〜6人にすぎなかったが、医局員にとっての働きやすさを重視した様々な取り組みによって、就任1年目から10人以上の入局者を確保した。「中部地方の8県には医学部が12大学ありますが、医局員数が最も多いのが名古屋大学、次が金沢大学で、名古屋市立大学は3番目です。恩返しの意味も込めて医局員数、同門会員数で金沢大学を超えることが次の目標です」と村上氏は意気込む。 

働きやすさ実現する施策を矢継ぎ早に打ち出す 

 村上氏が掲げる医局のモットーは「楽しく自由でアットホームな医局」。すなわち、「働きやすさ」と「医局員が思い通りに自由に力を発揮できる環境」を兼ね備えた医局だ。「学内で、自由で働きやすい医局という噂が広まったことが、入局希望者の増加につながったのではないでしょうか」と村上氏は振り返る。 

 「楽しく自由でアットホームな医局」の存在をアピールする数々の仕掛けが、医局廊下などに施されている。まず目に入るのは「名古屋市立大学整形外科学講座」と記された大型の銘板だ。「この看板はここで手術を受けた患者さんが寄贈してくれた物で、板金によって形作られた曲面がセクシーです」(村上氏)。 

 他にも、同講座をアピールする動画を常時放映しているデジタルサイネージや、配電盤の扉をラッピングする形で貼られた関連病院一覧がある。「ここまで気合いが入った医局廊下は、全国どこを探してもないでしょう」と村上氏が胸を張る通り、これらの仕掛けが学生や初期臨床研修医に、整形外科の医局を印象づける効果を発揮している。 

 医局室内には、女性医局員の増加に合わせて「LADIES LOCKER ROOM」と名付けた女性部屋(談話室)を有名デザイナーに依頼して新設した。「これで入局者数が増えるわけではありませんが、医局の部屋とは思えないほど素敵な部屋に仕上がったと自負しています」と村上氏は言う。 

 村上氏の取り組みは、装置や設備にとどまらない。医局員の活躍の場を広げるため、医局員の国内留学にも前向きだ。「国内留学に積極的ではない医局もあるようですが、私は本人に国内留学したいという意思があれば応援したいと思っています」。過去には、医局を辞めて沖縄の病院に移りたいという医局員を、国内留学として派遣するよう調整したこともあったという。 

医局前の廊下の配電盤扉に貼られた関連病院一覧マップ。学生や研修医に研修先を示すために掲示している。

 医局員のワーク・ライフ・バランスにも配慮 

 一方、生涯地元で働きたい医局員が多いため、「転居なしの医局」とすることにも村上氏は取り組んできた。「教授になって早々、医局員から『名古屋市から遠くに離れた関連病院への派遣は見直してほしい』という要望が上がってきました。生え抜きでない私なら、しがらみにとらわれず合理的に対応してくれると思われたのでしょう。実際、兄弟姉妹が少なく親元から離れにくい医局員が多くなってきたこと、地元には十分な症例経験が積める患者数が多い関連病院がそろっていることから、関連病院を愛知県内と自宅から通勤可能な岐阜県、三重県の近郊病院に整理しました」。ワーク・ライフ・バランスという点でも、医局員の満足度は向上した。 

 医局員のチームワークも良好だ。村上氏は医局の雰囲気について「みな仲が良い」と胸を張る。「伝統校では、論文を書いて、手術が上手くなって、海外留学して、良いポストに就く──という流れに、医局員全員が乗ろうとします。これに対して当医局では、いずれ開業したい、田舎の病院でゆっくり患者さんを診たい、忙しい病院でスピーディーに外傷治療に取り組みたい──など、決まったルートとは異なる道を目指す医局員が多く、そうした働き方の多様性を許容する風土が医局員同士の仲の良さにつながっているのだと思います」とも言う。 

 領域別に組織されたグループの垣根も低い。一般に大学病院の整形外科では、脊椎、股関節、手外科などの部位別や、腫瘍、リウマチなどの疾患別にグループに分かれており、それぞれの独立性は高いことが多い。だが、名古屋市立大学の整形外科では、「脊椎の手術に膝グループの先生が入ることが日常的に行われるなど、グループ間の垣根なく協働しています。私的な会合(飲み会)もグループ単位で行う大学が多いと思いますが、当大学では“参加したい人が誰でも参加”が基本になります。自分の都合に合わせて、診療後に遅れて参加したり、早めに切り上げて家族のもとに帰る人などもいますが、和気あいあいとやっています」(村上氏)。 

 このように、医局員の働きやすさを重視して様々な取り組みを実現してきた村上氏だが、中には医局員から反対を受けた施策もある。冒頭で紹介した救急・災害医療センター開設に対応するため、救急患者の受け入れ数を増やそうとしたことだ。村上氏の就任前は外来や計画入院中心でシフトを組んできたため、受け入れ余力がないことが理由だった。そこで村上氏は、救急に対応する外傷グループを新たに設置した。「実は外傷グループの所属医師はまだ数人しかいません。ですが救急は若手の人気領域なので、今後入局してくる医局員から希望者を集めてどんどん増員していくつもりです。ゆくゆくは外傷グループ内に部位別の専門スタッフをラインナップすることが目標です」。 

「感謝される診療科」をアピールして医局員を勧誘 

 村上氏はこれまで、整形外科医局の人気を高め、他大学の卒業生も上積みする形で入局者数を3倍増させてきた。だが、“基礎票”と言える名古屋市立大学の卒業生の囲い込みも重要だ。「今は、学生時代に専攻を決める例は少ないようです。学生にはまず関連病院での初期臨床研修を勧め、その間に整形外科の魅力を伝えて医局へと勧誘します。ですから、あちこちの関連病院に顔を出して研修医と接触することも、教授の大事な仕事だと思っています」(村上氏)。 

 「整形外科は最も患者さんに感謝される機会の多い診療科」が、医局員を勧誘する際の村上氏の“殺し文句”だ。「痛みが取れ、手足が動くようになり、歩けるようになるなど、患者さんが治療効果を実感しやすいのが整形外科です。患者さんの状態が、これほど劇的に良くなる診療科は他にないことをアピールしています。患者さんからの感謝が仕事のやりがい、達成感そして医師の幸せにつながるのです」と村上氏は言う。 

 「ブルーオーシャンが広がっていること」も整形外科の魅力だと、村上氏は若手医師に伝えている。「整形外科は、ガイドラインに沿って治療を行う内科や一般外科などと違って、病院や担当医によって治療内容がかなり異なります。例えば、コモンディジーズである腰部脊柱管狭窄症の手術法でさえ県内4大学で全く違うのは、最も良い方法がいまだに定まっていないからです。言い換えれば、『村上法』など自分の名前を冠した治療法や手術道具を開発、確立できる余地が整形外科領域には山のようにあるのです」(村上氏)。 

 さらに若手のニーズに対応できるよう、医局の体制も変化させている。先に救急領域を若手の人気領域として挙げたが、もう1つ、スポーツ医学領域も人気である。名古屋市立大学はプロ野球チームの中日ドラゴンズや、実業団の女子バスケットボール部のトヨタ自動車アンテロープスを支援している。特に野球に対するブランディング効果を高めるため、高校野球の愛知県大会に医師を常駐させて医療面で協力したり、プロ野球選手を輩出するような強豪校にチームドクターを派遣している。「医局の“守備範囲”を広げることにとどまらず、地域のスポーツ振興に寄与する意味でも注力していきます」と村上氏は話す。 

 一方、入局した専攻医の研修プログラムで村上氏がこだわったのは、関連病院で学んだ医師も、3年目は同期が一緒に大学に戻って研修をすることだ。入局同期の絆を強めるための計らいである。「多様性を魅力として訴えるために研修先や研修期間の縛りを緩くしている面もありますが、あえて3年目の研修先を大学に限定しました。同期は生涯にわたり最も信頼できる、公私ともに仲間になり得る存在です。それまで何を学んできたかを確認し合うことで自分のキャリア形成を見直したり、日々の疑問や悩みを打ち明け合ったりできるはずです」(村上氏)。専門領域の垣根を越えた交流を促す同期の効果も期待している。

名古屋市立大学大学院医学研究科整形外科学分野のメンバー。1列目左から4人目が村上氏(提供:村上氏)。

 「勢いある医局」とのイメージが入局者を増やす好循環も 

 2023年4月に、緑市民病院と名古屋市厚生院附属病院は名古屋市立大学に統合され、みどり市民病院、みらい光生病院という名称の医学部附属病院となった。それぞれの機能を強化するために、村上氏はみどり市民病院に6人、みらい光生病院に3人の整形外科医を新たに派遣した。「医局員数がまだ不足気味の状況下で、これだけの人数を新規に派遣することは容易ではありません。幸い医局員数が順調に増えているので決断できたのですが、これによって『あの医局には勢いがある』というイメージが広がり、入局希望者がさらに増えたようです。こうした好循環をキープしていきたいと考えています」と村上氏は語る。 

 今回の統合により、名古屋市立大学の附属病院は5病院2200床の規模にまで拡大し、地域での存在感を大きく増すことになった。しかし、近隣の大学病院の整形外科医局とも良好な関係を維持している。特に、名古屋大学で整形外科教授を務める今釜史郎氏とは旧知の仲だ。「名古屋に赴任するに当たっては転居先の相談にも乗ってもらいましたし、今もしょっちゅう会っていろいろな話しをしています。今釜先生のご子息と私の子どもが同じ小学校に通うことになり、運動会では一緒に並んで応援するような間柄です」と村上氏は笑う。 

 「前任地から持ち込んだのは私の手術技術だけ」。こう語る村上氏は、金沢大学や名古屋市立大学の伝統や慣習にとらわれることなく、これからも「楽しく自由でアットホームな医局」作りをさらに推し進めていく考えだ。

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 村上 英樹(むらかみ・ひでき)氏

1993年金沢大学医学部卒。市立敦賀病院、石川県立中央病院、金沢大学大学院を経て1999年に米国エモリー大学留学。金沢大学医学研究科整形外科学准教授などを経て2019年より現職。専門は脊椎がん。タイで初めて腫瘍脊椎骨全摘術を成功させ、タイ王国政府から感謝状を授与される。また、「村上式L字ノミ」を創作し、次世代腫瘍脊椎骨全摘術を開発。この手術動画は世界最大の整形外科学会(AAOS)でアワードを受賞した。


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