「選ばれる医局」の実現と遠隔診療で専門医不足・偏在に挑む

島根大学医学部附属病院に膠原病内科が設置され、初代教授に一瀬邦弘氏が着任した。島根県では膠原病・リウマチの専門医不足と偏在が深刻で、そのために一瀬氏がまず掲げたのは、膠原病内科を「選ばれる医局」にして専門医を増やすことだ。一瀬氏は長崎大学で、いち早く膠原病の遠隔診療にも取り組んできた。短・中期的な専門医不足・偏在への対応策として、遠隔診療の活用、普及にも取り組んでいく。

島根大学医学部附属病院 膠原病内科

島根大学医学部附属病院 膠原病内科
医局データ
教授:一瀬 邦弘 氏
医局員:8人
外来患者数:7832人/年(2022年度実績)
関連病院:島根県立中央病院/隠岐広域連合立隠岐病院/安来第一病院/松江赤十字病院/JCHO玉造病院/医療法人社団耕雲堂小林病院/医療法人壽生会寿生病院/出雲市民病院/出雲徳洲会病院/大田市立病院/済生会江津総合病院/浜田医療センター/益田赤十字病院/医療法人橘井堂津和野共存病院

島根大学医学部附属病院膠原病内科は2022年秋、内科学第三講座から独立して、単独の講座に昇格した。初代教授のポストに就いたのは、元・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学共同専攻リウマチ・膠原病内科学分野の准教授を務めていた一瀬邦弘氏だ。 

 新講座設立に至った経緯について一瀬氏は、「島根県では膠原病・リウマチ専門医の不足と偏在が深刻です。加えて、長らく島根県の膠原病・リウマチ診療を支えてこられた村川洋子先生(元・難病総合治療センター教授)の定年退官が2022年3月に迫り、それ以降の専門医育成が停滞するのではないかと懸念されていました。そこで島根大学病院長の椎名浩昭先生らを中心に、テコ入れ策として、膠原病内科の新設が計画されたのです」と説明する。一瀬氏は臨床医としての実績に加えて、医師教育や基礎研究に積極的に取り組んできた点が高く評価され、公募・選挙を経て新講座の初代教授に選ばれた。 

医局で力を合わせて「選ばれる医局」を目指す 

 膠原病内科の現在の人員構成は一瀬氏を含むリウマチ専門医(指導医)4人と専攻医4人。計8人で2022年度実績で年間7832人(外来)、3299人(入院)の診療を担当する。新講座設立の経緯からも、人員拡充が目下の課題だ。一瀬氏は膠原病内科を「選ばれる医局」にすることに力を入れて取り組んでいる。 

 「研修医への対応だけでなく、ポリクリで膠原病内科に回ってきた医学部5年生、クリクラで当科を選び再び来てくれた6年生への対応にも真剣に取り組んでいます。具体的には、指導医、上級医が研修医や学生一人ひとりとしっかりと向き合い理解度、進捗を確認しながら、より深く膠原病に興味を持ってもらえるよう丁寧に指導しています」と一瀬氏。 

 また同氏は、こうも語る。「実習で回ってきた学生の名前をちゃんと覚えて、名前で呼んであげるといったことも大事だと思います。特別なことではありませんが、医局の全員で力を合わせて、仲間を増やすことに取り組みます。『あの膠原病の講義は面白かったな』とか、『リウマチとか免疫の病気ってよく知らなかったけど、医局でやっているのを見たら興味が出てきた』『あの医局の先輩たちと一緒に仕事をしたい』などと思ってくれる研修医や学生が1人でも多く出てきてほしいと願っています」。医局で定期開催している論文抄読会の様子。

 楽しみながら学べる「思考のトレーニング」セミナーを開催 

 膠原病・リウマチ診療について、一瀬氏は「体の中で起っている現象を想像し、自分が持っている知識と組み合わせてアウトプットする『思考のトレーニング』が大切な疾患分野です」と話す。そのため、今年から研修医向けに、楽しみながら思考のトレーニングに取り組める新たなセミナーを始めることにした。 

 これは実際の症例を基に、患者の病態や検査結果を示して疾患名を当ててもらうクイズ形式のセミナーで、NHKで放送されていたテレビ番組「総合診療医ドクターG」によく似ている。ただし研修医自身にクイズの構成を考えてもらい、プレゼンターとして出題してもらう点が大きな違いだ。 

 鑑別疾患は何が考えられるか、診断にはどういった検査が必要か、どういった診療のピットフォールがあるのか、ヒントとして示すのはどんな情報がよいかといったことをしっかり考えて練り込まないと面白いクイズにはならない。周辺知識を幅広く整理することも必要で、クイズを準備する過程が研修医にとってよい勉強になるという。準備は研修医に全て任せきりにせず、上級医や専攻医がサポートする。 

 一瀬氏は10年ほど前、長崎大学で研修医の教育担当をしていたときにこの形態のセミナーを考案してスタートさせた。「『楽しみながら膠原病のことが深く理解できた』と研修医に好評で現在も継続していることから、島根大学でもやってみることにしました。よく練られたクイズが出題されると、セミナーはすごく盛り上がります。回答者や聴衆を唸らせるような面白くて勉強になるクイズを出題してくれた研修医には、賞を進呈しようと考えています」(一瀬氏)。 

専門医の不足と偏在には当面、遠隔診療で対応 

 専門医の育成には地道な取り組みが必要だ。成果が現れるまでには時間もかかるため、一瀬氏は、専門医不足と偏在への短・中期的な対応策として遠隔診療に力を入れていくつもりだ。 

 一瀬氏は長崎大学時代、全身性エリテマトーデス(SLE)の遠隔診療にいち早く取り組んできた。長崎県は全国で最も離島の数が多い県で、内陸部にはへき地も多い。さらに高齢化率(県人口に占める65歳以上人口の割合)は全国11位と、遠隔診療が必要性とされる条件がそろっていたことが背景にあったという。 

 「島根県も長崎県と同様にへき地が多く、高齢化率は長崎県を上回る全国5位です。そのうえ専門医の不足と偏在が深刻なので、より差し迫って膠原病・リウマチの遠隔診療が必要なのはむしろ島根県の方かもしれません」(一瀬氏)。 

 長崎大学では民間企業と共同で、ビデオ通話でSLEの診察をするスマートフォン向けアプリを開発した。アプリには患者自身が毎日の病状を簡単に入力して送信できる機能も組み込んだ。専門医が遠隔で診察して患者の状態を判断し、問題がなければ在宅療養を継続。処方薬は宅配便で届ける仕組みとした。 

 実証試験の期間が新型コロナウイルス感染症の蔓延期と重なったこともあり、試験に参加したSLEの患者からは「小さな子どもを連れて頻繁に通院しなくてよく、とても助かった」「医師への伝え忘れが減った」などと好評だったという。一瀬氏はこの経験を元に、さらにバージョンアップした「島根モデル」の遠隔診療を構築する構えだ。 

 島根モデルの一番の特徴は、「訪問看護師との連携」になる見込み。モニターごしの診察で懸念される見逃しのリスクを、他職種との連携で補う戦略だ。まずはSLE向けで試験的に始めるが、最もニーズが高い関節リウマチ向けへと早期に取り組みを拡大していく。 

 遠隔診療の受け手となる病院は、専門医不足が深刻な島根県西部の関連病院にしたい考えだ。現在は島根大学医学部附属病院の膠原病内科から専門医や専攻医が1週間に1回出向いて外来診察を担当しているが、同じ日に出張先の病院で、遠隔診療も行うことを想定している。 

 「膠原病・リウマチの診察は今後、対面と遠隔を組み合わせたスタイルが標準的になっていくと思います。対面診察が当たり前だと思っている医師が医局内にもまだ多いのですが、積極的に遠隔診療に参加してもらい、意識変革をしていきたいと思います。私たちの医局が日本の遠隔診療を先取りするんだという意気込みで取り組んでいきます」(一瀬氏)。

島根大学医学部附属病院膠原病内科のスタッフ。

 基礎研究では他科とのコラボレーションを積極的に実施 

 一瀬氏は2008年から約3年間、米ハーバード大学の関連病院であるベス・イスラエル・ディコーネス・メディカルセンターに基礎研究留学をしていた。ラボのPI(研究責任者)であるジョージ・C・チョコス教授(George C. Tsokos, MD ,Professor of Medicine, Harvard Medical School Chief, Division of Rheumatology and Clinical Immunology, Beth Israel Deaconess Medical Center)は、SLEの分野において世界的に有名な医師であり研究者だ。一瀬氏はチョコス教授の下、SLEの動物モデルを使ってT細胞がサイトカイン産生を制御するメカニズムを明らかにするなど、大きな業績を残した。 

 「私が来ることになり、『基礎研究をやらされて忙しくなるのではないか』と戦々恐々としていた医師もいたようです(笑)。もちろん無理強いはしませんが、基礎研究はとても面白いものだと教えてあげたいのです。医局の若い医師たちが成功体験を持てるよう、基礎研究でもサポートをしていきます」(一瀬氏)。 

 一瀬氏は島根大学でもSLEの病態解明に取り組むつもりだ。研究の方法としては、積極的にコラボレーションをしていきたいと考えている。「診療科間の垣根が低く、基礎研究でも連携しやすい雰囲気が島根大学のとても良いところだと分かってきました。そういった特徴をうまく生かして、共同研究の参加者がみなウイン-ウインになるようなコラボレーションをしていきます。まずは手始めに、膠原病内科、腎臓内科、内分泌代謝内科、泌尿器科の医師が、それぞれの診療科の立場から腎の病態を解明する共同研究をスタートさせました」(一瀬氏)。 

 さらに別のテーマとして、SLEの病態と「ポドサイト(糸球体上皮細胞)」の関係を解明する研究の立ち上げも検討中だ。ポドサイトは腎臓のろ過障害のバリアとなり、タンパク尿抑止に働く細胞として知られる。免疫疾患との関係はよく分かっていなかったが、一瀬氏はこれまでの研究で、ポドサイトが免疫細胞としての機能を持っていることを明らかにした。(Ichinose K, et al. Arthritis Rheumatol. 2016 Apr; 68(4): 944-52.)「さらに研究を進めて、老化したポドサイトがSLEの病態悪化に関連しているのではないかという仮説の解明やワクチン開発にもつなげていきます」と話す。 

専門医の配置や基礎研究の風土づくりが中・長期的な課題 

 「選ばれる医局」への取り組みが実を結び、専門医の数が増えた後には、専門医の配置と活用が次の課題となる。「なるべく早期に、関連病院に常勤の専門医を配置したいのです」と一瀬氏。実現できれば、地域の膠原病診療の底上げにつながるのに加え、専門医育成においてもメリットが大きいと考えている。 

 島根大学医学部では、医師になった後、一定期間へき地で勤務してもらう「地域枠入学制度」を採用している。「現在は、『地域枠』の医師が膠原病・リウマチの専門医を志してくれても、義務年限中は専門医資格のための単位取得を完全にはサポートできません。常勤の指導医をへき地の関連病院にも配置できれば、こうした課題にも対応できるようになります」(一瀬氏)。 

 基礎研究に関しての中・長期的な目標は、医局の研究マインドを醸成し、定着させていくことだ。「医師は臨床の中で、日々、たくさんの疑問を持つものです。その疑問を疑問のまま終わらせず、研究課題として拾い上げて基礎研究で解決していくことを私たちの医局の風土にしていきます」(一瀬氏)。 

 海外留学を希望する医師が出てきたら、積極的にサポートするとのことだ。「チョコス先生からは、『君がボスになった島根大学のラボからも誰か優秀な研究者を送ってくれないか』と言われています。私自身、いろいろな方に助けられて海外留学が実現し良い経験をさせてもらったので、当医局の若い医師にもぜひ道を開いてあげたいですね」と一瀬氏は話している。
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一瀬 邦弘(いちのせ・くにひろ)氏

2000年 長崎大学医学部医学科卒業。2002年田川市立病院内科。2004年岡山大学大学院医歯薬総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学講座国内留学。2007年長崎大学大学院医歯薬学総合研究科修了、医学博士。2008年Harvard Medical School, Beth Israel Deaconess Medical Center, Rheumatology divisionポスドク。2011~2014年長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座(第一内科)助教。2015年長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学共同専攻リウマチ・膠原病内科学分野講師。2019年長崎大学政策企画室・学長補佐兼任。2022年1月長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学共同専攻リウマチ・膠原病内科学分野准教授。2022年11月島根大学医学部附属病院膠原病内科教授。


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