「訪問助教」として留学、若い研究員の教育も担当

慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科の秋山光浩氏は、米国カリフォルニア州のスタンフォード大学に訪問助教として留学した経験を持つ。自身の研究をこなしつつ若い研究員の教育も担当するポジションで、大変だったが貴重な経験になったそうだ。有給のポジションが得られたので、米国滞在中はスタンフォード大学の職員向け医療保険に加入した。そのメリットはとても大きかったという。

慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科

秋山 光浩(あきやま・みつひろ)氏
2010年慶應義塾大学医学部医学科卒、さいたま赤十字病院初期臨床研修医。2012年慶應義塾大学医学部内科専修医。2013年同大学医学部リウマチ・膠原病内科助教。2018年スタンフォード大学免疫リウマチ学訪問助教。2020年慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科特任助教。2021年国立病院機構東京医療センター膠原病内科医員。2021年慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 助教(写真は秋山氏提供)


――秋山先生は米国に留学されていたそうですね。
秋山 2018年1月から2020年9月まで、米国スタンフォード大学医学部教授・コーネリア・ワイヤンド先生(Cornelia Weyand, MD, PhD Professor in Medicine Vasculitis Clinic Division of Immunology and Rheumatology Stanford University, Department of Medicine)のラボに、基礎研究で留学していました。渡航時の私の年齢は32歳でした。研究テーマはANCA(抗好中球細胞質抗体:anti-neutrophil cytoplasmic antibody)関連血管炎です。病態への好中球の関わり、その詳細な機序について2年8カ月、研究してきました。

――日本の大学院でも、ANCA関連血管炎の研究をされていたのですか。
秋山 日本の大学院では、IgG4関連疾患を研究テーマにしていました。患者さんから血液サンプルを頂いて解析する手法で、リンパ球の動態や機能の解明を目指していました。
もちろん1つのテーマの研究を継続することも大事ですが、海外留学は新しいことにチャレンジするいい機会だと考えて、あえて別の研究テーマを選んだのです。医師、研究者として、幅を広げることにつながると考えました。

――「別の研究テーマ」として、ANCA関連血管炎を選んだのはなぜですか。
秋山 留学前から血管炎には興味を持っていたのです。高齢でも発症することがある病気であり、重篤な症状で悩んでいる患者さんが多くいらっしゃいます。少しでもその病態解明に貢献したいと考えました。

――振り返ってみて、違う研究テーマを選んでよかったと思いますか。
秋山 はい、よかったと思います。留学先ではしっかりと研究成果を出すことができ、論文にまとめて雑誌で発表しました。留学期間内に結果が出なかった研究もいくつありましたが、それらは後任の研究者に引き継ぎました。
当初期待していたように、自身の幅を広げることができたと実感しています。留学時の経験は今後、日本での診療、研究に役立つと思います。

家族の暮らしさやすさを優先し、留学する国や居住地域を先に決定

――留学先のラボはどのように決めたのですか。
秋山 妻と娘(幼稚園入園前)と一緒に行く前提だったので、家族優先で決めました。まず欧州か米国かを、次に居住地域を決めて、そのうえで条件に合うラボを探しました。
米国を選んだのは、ドイツ語圏やフランス語圏よりも、英語圏の方が生活しやすいだろうと考えたためです。米国内の地域としては治安や気候が良くて日本からのフライト時間も短い西海岸を選びました。

――留学先は医局からの紹介などではなく、ご自身で探されたのですね。
秋山 はい。自分で探しました。ワイヤンド先生のラボに応募した最初のきっかけは、PubMed検索でした。「血管炎」をPubMedで検索すると、主要な論文の著者としてワイヤンド先生のお名前が出てきたのです。ラボはカリフォルニア州のスタンフォード大学ということで、所在地の条件にもぴったりだったので、さっそく電子メールを送りました。さらにCV(履歴書)を送り、その後何度かやり取りをして採用に至ったという経緯です。

スタンフォード大学のキャンパスで、ラボのメンバーとの記念写真。(秋山氏提供)


「訪問助教」として若い研究員の教育も担当

――留学先でのポジションは訪問助教(Visiting Assistant Professor)とのことですね。博士研究員(Postdoctoral fellow)とは何が違うのでしょうか。
秋山 給与などの待遇はほぼ同じですが、自身の研究のほかに、若い研究員の教育なども任されていました。ボスのワイヤンド先生はドイツにルーツがある方で、そのためか、ドイツの大学から1年くらいの短期留学を多く受け入れていました。その際の教育係を、主に私が担当しました。
若いドイツ人研究者の教育係をしてみて、日本人とドイツ人の物の考え方、文化、習慣などがよく似ていることに気づきました。書類作成や研究の立案・実施など、細部まで几帳面に細かくやるところなどに類似点が多くて、びっくりしました。自身の研究を進めながら教育もこなすのは大変でしたが、貴重な経験をさせてもらったと思っています。

――どういった経緯で、訪問助教のポジションに就いたのですか。
秋山 ラボ内でのポジションは研究責任者(PI:Principal investigator)が決めます。私の訪問助教のポジションも、PIのワイヤンド先生が決めました。私からは特に希望は出していません。給与は、ほぼ同じなので、ひたすら研究に打ち込みたい人は、一般的な博士研究員の方がよいと思うかもしれませんね。

――秋山先生は、ポジションにこだわりはなかったのですか。
秋山 訪問助教か博士研究員かに、こだわりはありませんでした。ただ、有給のポジションはぜひ得たいと考えていました。というのは、無給だと医療保険が問題になるからです。米国では加入する医療保険によって、受診できる医療機関が厳格に決まります。無給ポジションだと大学職員向けの医療保険に入れず、日本の会社が提供する医療保険に入ることになります。その場合、受診できる病院が少なかったり、カバーされる額が限定的になったりすることが不安でした。家族と一緒に渡米することにしていたので、特にそう思ったのです。
それから日本の会社の医療保険では、一般的に出産関連の医療はカバーされません。私は米国滞在中に娘が1人生まれたのですが、スタンフォード大学の職員向け医療保険に入れたおかげで、出産費用は数百ドル(数万円)で済みました。もし保険に入っていなかったら、7万ドル(約770万円)以上の支払いが必要でした。

研究論文が1~2本あれば、有給のポジション獲得に有利

――有給のポジションを得るコツはあるのでしょうか。
秋山 やはり過去の研究業績が重視されます。したがって留学前までに、比較的インパクトファクターが高い雑誌に1~2本、研究論文を出しておくことが重要です。論文の本数は多くなくても問題ありません。
それから日本人がすでに留学している(留学していたことがある)ラボは、PIがなんとなく日本人の国民性をわかってくれていて、採用されやすいかもしれません。
もし希望のラボに留学している(留学していたことがある)日本人がいるなら、まったく面識がなくてもコンタクトしてみるとよいでしょう。ラボの雰囲気やPIのキャラクターがわかるだけでも、応募に役立つと思います。
なお、ラボに問い合わせの電子メールを送って、返事がすぐに来なくてもめげないでください。ただ単に事務処理が滞っているために返事が来ないことが、米国では日常茶飯事だからです。何度も、何度も、返事が来るまでメールを出し続けてください。「同じメールを何度も送ったら失礼ではないだろうか」などと気にやむ必要はありません。米国のPIはそんなことは気にしません。

――カリフォルニアの住み心地はいかがでしたか。
秋山 気候が良くて、海も山もあるし、非常に良かったです。休日は家族でいろいろなところに行きました。私も妻や子供たちも自然が大好きなので、近郊のヨセミテ国立公園などにも行きました。楽しかったですよ。

カリフォルニア州の中央部にあるヨセミテ国立公園(Yosemite National Park)を家族で訪れたときの写真。スタンフォードからは東に約200km、自動車で3~4時間の距離にある。(秋山氏提供)


――最後に改めて、海外留学を考えている若い医師にアドバイスをお願いします。
秋山 少しでも海外留学に興味があれば、迷わず一歩を踏み出してほしいと思います。長い人生のうちの2~3年ですから、「先のことはあまり深く考えず」でもいいと思います。私も医局長から留学を勧められて、ぼんやりと「刺激的なのかな」「楽しそうだな」というくらいのイメージで留学を決めました。それでよかったと思っています。本当に良い経験ができました。
留学先については、つてがなくても、医局で紹介してもらえなくても大丈夫です。最近は、自分で留学先を探す人は多いです。私もそうでしたし、周囲にもそういう人がたくさんいます。受け身にならず、自分からトライしていけば、楽しい留学が実現すると思います。

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