海外で勉強したい思いが強く、基礎か臨床かにはこだわらなかった

北里大学医学部整形外科学講師の宮城正行氏は、2012年4月から1年間、カナダ・モントリオール市のマギル大学(McGill University)に留学して基礎研究に従事した。腰痛モデル動物を使った慢性腰痛発症機序に関する研究を精力的に行う一方、休日には自家用車で家族旅行をするなど、公私にわたりカナダでの生活を満喫したという。なぜ基礎研究での留学を選択したのか、留学で得られた成果は何か、そして留学を経てものの見方や考え方がどう変わったのか──などについて話を聞いた。

北里大学医学部整形外科学

宮城 正行 氏
2003年千葉大学医学部卒業、千葉大学医学部整形外科入局、2012年千葉大学大学院修了、医学博士。2013年独立行政法人医薬品医療機器総合機構医療機器審査第二部臨床担当。2014年北里大学医学部整形外科学助教、2016年より現職。


―― まず留学先とそこでの活動内容について簡単に教えていただけますか。
宮城 留学先は、カナダ・ケベック州のモントリオール市にあるマギル大学(McGill University)です。同大アラン・エドワード・ペインセンターのローラ・ストーン先生(Laura Stone, Ph.D.、現・米ミネソタ大学Professor)の研究室で2012年4月から1年間、博士研究員(ポスドク)として基礎研究をしました。渡航したのは私が千葉大学の大学院博士課程を修了した年で、当時34歳でした。留学先での研究テーマは、腰痛モデル動物を使った慢性腰痛発症機序に関する研究です。ストーン先生の研究室で開発された「SPARC-nullマウス(早期に椎間板が変性を来すノックアウトマウス)」を使って、主に腰痛の行動評価と椎間板や支配感覚神経に発現する疼痛関連物質の同定研究を行いました。

―― 留学先としてその研究室を選んだのはどうしてですか。
宮城 博士課程での私の研究テーマが椎間板由来腰痛の発症機序に関する研究だったので、ドンピシャだったのです。ストーン先生の研究室は、当時、モデル動物を使って腰痛の行動評価が行える数少ない研究室で、留学前からストーン先生とは学会や講演会などを通じて面識がありました。大学院博士課程でご指導いただいた大鳥精司先生(現・千葉大学大学院医学研究院整形外科学教授)がストーン先生と懇意にされていたことから、サポートしていただき留学が実現しました。

―― 基礎研究ではなく、臨床で留学することは考えませんでしたか。
宮城  基礎か臨床か、どちらで留学するかにはあまりこだわりがなく、とにかく1年くらい海外で勉強したいとの思いが強かったように思います。博士課程を修了した年に基礎で留学するのが一番の近道だと考えていましたが、良いチャンスが巡ってこなければ、もう少し待って臨床で留学することも選択肢でした。

留学して増えた家族と過ごす時間

―― 当時、先生は結婚されていて小さいお子様もいらしたそうですが、その点は留学を決断するうえで障害になりませんでしたか。
宮城  娘はまだ1歳でしたが、私も妻も、性格的にあまり気にしないタイプなんです(笑)。「みんなで仲良く行きましょう!」といった感じで、全然、問題ありませんでした。モントリオールには、それ以前にも出張で行ったことがあり、おおよその様子は分かっていました。カナダ人はフレンドリーで、「銃が氾濫していないアメリカ」という雰囲気だったので治安も心配していませんでした。

ストーン先生(左から2人目)のラボのメンバーと、それぞれの家族を交えてBBQをしたときの写真。右から5人目が宮城氏。(宮城氏提供)

 

―― 留学時代の1日の流れを教えてください。
宮城  平日は家族みんなで朝食を食べた後、午前8時くらいに大学に向かいます。徒歩5~6分くらいの場所にアパートを借りていました。ラボに着いたら主に1人で実験をしますが、ラボのメンバーに実験手順を教えてもらったり、ときどきストーン先生らと研究方針のミーティングなども行います。昼食は、自宅が近いのでいったん帰って家族と食べたり、家族みんなでダウンタウンのレストランに行って食べたりしました。昼食後、ラボに戻って実験を再開して午後7時頃までには帰宅します。帰宅後は子どもとゆっくり遊ぶ時間もとれました。

―― 研究は順調でしたか。
宮城  1年間の留学期間で実験を完結させることが求められていたので、その点は大変でした。2013年3月までに実験を全て終えて帰国した後、ストーン先生と電子メールなどでやり取りをしながら論文を書き上げて雑誌に投稿しました。

―― 週末はどのように過ごされていましたか。
宮城  家族3人でよく出かけました。モントリオールで生活を始めて3カ月目くらいに自動車を購入したので、ドライブで遠出もしました。ケベックシティには3時間弱、6時間くらい走ればニューヨークやトロントにも着きます。ナイアガラの滝や、紅葉で有名なモン・トランブランにも自動車で行きましたね。赤毛のアンで有名なプリンスエドワード島や、キューバのリゾート地で有名なバラデロにも休暇を利用して遊びに行きました。



当時1歳の娘さんと。ケベックシティにある「アイス・ホテル」を休日に家族旅行で訪れたときの様子。(宮城氏提供)


―― トラブルなどはありませんでしたか。
宮城  カナダだからというわけではありませんが、コインパーキングに自動車を止めていたら、時間超過でレッカー移動されたことがありました。1時間くらいで戻るつもりだったのですが、つい楽しくて、時間が過ぎてしまって。3時間たって戻ってみたら自動車を止めていた場所に「レッカー移動したぞ」という(ことらしい)紙が貼られていたのですが、フランス語なので何が書いてあるのかよくわかりません(笑)。ですが電話したらどこに行けば自動車を返してもらえるかなど、英語で親切に教えてくれました。何とかなるものです。

一番の成果は国際腰痛学会のプライズ受賞

―― 今、振り返ってみて、留学の成果は何だったと思われますか。
宮城  1年間の研究をまとめた論文で、第41回 国際腰痛学会(41st International Society for the Study of the Lumbar Spine [ISSLS])のプライズを受賞することができたことは研究面での一番の成果です。加えて家族との時間がしっかり持てたこと、ストーン先生はじめ研究室で働いていた人たちとのつながりも留学の成果だと思っています。

―― 交流は今でも続いているのですか。
宮城  はい。彼らが来日したときには日本食をごちそうしたり、私がカナダに出張したときに食事に呼んでもらったりしています。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年以降は会えていませんが、流行が落ち着いたらまた会いたいですね。

―― 留学を通じて、留学前とものの見方や考え方が変わったことはありますか。
宮城  私が留学で行ったストーン先生のラボのスタッフは、ストーン先生をはじめ、臨床医ではないPh.D.の研究者がほとんどでした。日本の大学医学部では臨床医が臨床も基礎研究もやるのが普通ですが、米国やカナダでは「分業制」が一般的です。マギル大学への留学は、両者のメリット・デメリットを改めて考える機会になりました。
 やはり臨床医でないと気付かない研究の切り口というのはあるので、それは自分が基礎研究をやるうえで今後も大切にしていきたいと思っています。一方で、基礎と臨床の二兎をバリバリ追うことにはやはり限界があるので、基礎研究を専門にしている先生と連携し、分業することも大事だと思うようになりました。
 実は北里大学整形外科には、臨床医ではない、基礎研究専門のPI(研究責任者)の先生がいらっしゃるのです。全国の大学整形外科を見回してもまだ珍しいことだと思いますが、その特徴をうまく生かせれば、理想的な研究環境がつくれるのではないかと思っています。

―― 最後に若い医師に、留学についてアドバイスをお願いします。
宮城  留学したいという思いがあり、迷っているなら行くべきだと思います。若い人から相談をうけたらブレーキをかけることだけはしないように、「行っておいで!」と背中を押すようにしています。基礎か臨床かは本人の希望次第で、どちらでもよいと思います。たとえ語学力に自信がなくても、どうにかなるものですよ。

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