医局の紹介で留学、プレッシャーに打ち勝って研究を完遂

長崎大学病院総合診療科助教の梅田雅孝氏は医局の紹介で、米国ハーバード医科大学に基礎研究留学した。先輩医師の業績に負けないようにと研究に打ち込んだ結果、成果を上げることができたという。現地では新型コロナウイルス感染症によるロックダウンも経験したが、小学生の娘との絆を深めるかけがえのない時間になったと振り返る。

長崎大学病院 総合診療科

梅田 雅孝(うめだ・まさたか)氏
2010年長崎大学医学部卒業、長崎大学病院研修医。2011年諫早総合病院研修医。2012年長崎大学病院第一内科医員。2013年佐世保中央病院内科。2014年長崎大学病院リウマチ・膠原病内科医員。2016年長崎大学病院医療教育開発センター助教。2018年米国ハーバード医科大学/Beth Israel Deaconess Medical Center Tsokos lab. 博士研究員。2021年4月より現職。

――米国留学から今年、帰国されたのですね。

梅田 米国ハーバード医科大学の関連病院、ベス・イスラエル・ディコーネス・メディカルセンターのジョージ・C・チョコス教授(George C. Tsokos, MD ,Professor of Medicine, Harvard Medical School Chief, Division of Rheumatology and Clinical Immunology, Beth Israel Deaconess Medical Center)のラボに2年8カ月留学していました。当初は2年間の予定だったのですが、8カ月延長して今年2月に帰国しました。

――新型コロナ感染症の影響で延長したのですか。

梅田 いえ、そうではありません。あと少しで研究がまとまりそうであったので、チョコス先生にお願いして滞在期間を延ばしてもらったのです。そのおかげで研究プロジェクトを完遂できました。新型コロナ感染症によるロックダウン期間が2020年3月から約3カ月間ありましたが、それは延長を決めた後のことでした。

――留学先で手掛けた研究について教えてください。

梅田 ラボの教授であるチョコス先生は、全身性エリテマトーデス(SLE)の教科書を執筆されたことでも知られる著名な医師です。しかしそれだけではなく、毎年大きな研究資金を獲得してインパクトの大きな論文を何本も発表している、世界トップレベルの研究者でもあります。

ラボではいくつかのチームに分かれて研究を進めていました。研究テーマの1つは、「CREM:cAMP response element modulator」という分子が発現を制御している遺伝子を1つひとつ見つけ出し、その遺伝子の発現が、SLEの病態にどのように影響しているかを解明することでした。私もその研究チームに所属していました。

私の主な研究業績は、CREM の遺伝子制御によってADAM9(アダム・ナイン)という分子が増えることを新たに発見したことです。さらにADAM9がTGF-β1を産生して、Th17細胞の分化を促進させ、SLEの病態を悪化させることを突き止めました。研究内容はすでに論文発表しています。

チョコス先生と教授室で記念撮影。(梅田氏提供)

医局の紹介で著名教授のラボへの留学が決定

――留学先はどのように決めたのですか。

梅田 医局の紹介です。当医局からは私の前に、一瀬邦弘先生(第一内科講師)、古賀智裕先生(分子標的医学研究センター助教)がチョコス先生のラボに留学していました。2人の先生は留学期間中に、非常に大きな研究成果を出されており、そういった経緯もあって当医局からの留学を継続的に受け入れてもらえています。私の後にも、別の医局員がチョコス先生のラボに留学することが決まっています。

――有名な先生のラボで安定したポストが得られるのは、医局の紹介で留学するメリットですね。

梅田 そうですね。ただ、一瀬先生、古賀先生と同じ医局から来た研究員という目で見られますから、プレッシャーは大きかったです。私が期待に応えられなかったら次に留学する人のポストがなくなるかもしれません。ですから、がむしゃらに頑張りました。しっかり研究成果が出せてホッとしています。

――チョコス先生はどんな方でしたか。

梅田 研究に関してはとても厳しい先生です。ラボの運営者ですから当然といえば当然ですが、1人ひとりの研究員について、支払う給与に見合う価値があるかどうかをシビアに見ています。

その一方で、家族が体調を崩したときには親身にサポートしてくれるなど、「人情味あふれる親分」のような面もお持ちでした。日本文化、日本食が大好きな親日家でもあります。まじめで仕事が丁寧といった「日本人らしい働き方」を高く評価してくれる点もありがたかったです。

――研究成果を論文発表されたこと以外にも、留学の成果だと感じていることはありますか。

梅田 留学前、実験から出てきた結果をどう解釈し、次にどんな実験につなげていくかを考える力が自分には足りないと感じていました。なので海外留学して基礎研究にどっぷり浸かり、考察力や研究を発展させる力を高めたいと思っていたのです。まだまだ発展途上ですが、留学を経て、以前よりも力がついたと感じています。

また、自分の意見を堂々と言う「アメリカらしさ」「ポジティブさ」を学べたことも、今後の自分の人生にプラスになったと思います。米国ではみんなが自分の能力をしっかりアピールします。プレゼン能力の高さにも感心しました。

ラボの同僚と大学のキャンパスでランチ。(梅田氏提供)

自転車に乗れるようになった娘とグースを観察しに湖へ

――休日はどのように過ごされましたか。

 梅田 家族との時間を多くとりました。娘がまだ自転車に乗れなかったので、ロックダウン期間中に自宅近くの公園で乗り方の練習をしました。自転車に乗れるようになったら、一緒に冒険をしました。ボストンの湖にはグースがたくさんいて巣を作っています。卵を温めているグースを観察しようと自転車で「パトロール」に出かけたのは良い思い出です。海外留学せず、日本でずっと働いていたら、娘とあんな風にゆったりとした時間を過ごすことはできなかったかもしれません。

 ――お子様は現地の生活にすぐに慣れることができましたか。

 梅田 日本の幼稚園(年長)を途中で辞めて渡米し、9月に現地の小学校に入学しました。最初は苦労しましたが、短期間で英語を話し出し、友達もたくさんできました。元々、性格的にあまりものおじしないタイプなので、米国人のほか、現地に来ている日本人、中国人、ブラジル人など様々な国の子どもと仲良くなりました。英語はネイティブの子どもと遜色ないくらい流暢になり、親とは月とスッポンの違いです(笑)。

 友達とどんどん仲良くなって、帰国が決まった時には、「もうちょっと居たい」「なんとかしてよ」と駄々をこねられました。渡米時には幼稚園を辞めたくないとあんなに泣いていたのに(笑)。

 ――滞在中に家族で行ったボストン、ボストン近郊の観光地で印象に残ったところはありますか。

 梅田 ボストン近郊にあるセーレムという町に家族みんなで行きました。この町はかつて「魔女裁判」が行われたことで知られます。その逸話に基づいて、町中に魔女や魔物のディスプレイがされています。行ったのがハロウィーンの期間だったので、町の人も、観光客もみんなコスプレをして楽しんでいました。

 セーレムからさらに20kmくらい行ったところにロックポートという漁師町があるのですが、この町もすごく景色が良くて素敵でした。ロブスターなど新鮮なシーフードが安くて美味しいのも魅力で、ボストン滞在中に家族で3~4回くらい行きました。

ボストンから近いわけではありませんが、アイスランドにも行きました。日本から行くのは相当大変ですが、ボストンからは直行便が出ていて5時間ほどで着くのです。ディズニー映画「アナと雪の女王」の雪と氷の世界みたいなところで、娘が大喜びでした。
ボストン近郊の漁師町「ロックポート」に家族旅行。極上のロブスターをお腹いっぱい堪能。(梅田氏提供)

――最後に、留学を考えている医師にアドバイスをお願いします。

 梅田 日本で働く臨床医にとって、海外に住む経験ができるのは、留学の機会くらいではないでしょうか。一度海外に住んでみたい、研究をがむしゃらにやってみたい、家族に海外の生活を経験させたいなど、行きたい理由は何でもよいと思います。行きたい気持ちがあるなら、例えば周囲で「留学に行きませんか」といった話があったとき、その話に積極的に乗ってみたらどうでしょうか。ぜひ、挑戦してみてください。

海外留学を実現するにはいろいろなハードルがあります。決して簡単ではありませんが、ハードルを乗り越えて行ってみたら、そこで得られる経験は言葉に尽くせないものになりますよ。留学経験がある人と話をすると、みなさん「留学して人生が変わった」と言います。困難を乗り越えていく価値はあると思います。私も、多分、人生が変わったと思います(笑)。

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