臨床にタッチできるスウェーデン留学で日本では得難い経験を積む

北海道大学の整形外科医員の藤田諒氏は2024年4月から1年間、スウェーデンのウプサラ大学整形外科に留学した。クリニカルリサーチャーの資格で、研究と臨床の両面で日本では得難い多くの経験ができたという。それも先輩医師をはじめ多くの人たちの支援があったからだと言う藤田氏は、これから留学を目指す若い臨床医に対して、「今度は自分も惜しみなくサポートするので、ぜひチャレンジしてほしい」と語っている。

北海道大学大学院医学研究院 専門医学系部門 機能再生医学分野 整形外科教室 医員 藤田 諒氏

藤田 諒(ふじた・りょう)氏
2011年秋田大学医学部医学科卒業、帯広厚生病院(研修医)。2013年北海道大学病院。2014年釧路市立病院。2015年製鉄記念室蘭病院。2016年北海道大学病院。2017年北海道大学整形外科大学院。2019年北海道整形外科記念病院。2021年北海道大学整形外科大学院修了(博士号取得)。2021年北海道大学病院。2022年北海道せき損センター、北海道医療センター。2023年北海道せき損センター。2024年4月〜2025年3月スウェーデンUppsala University Hospital留学。2025年4月函館中央病院整形外科医長、10月より現職。

——まず、留学の期間と留学先を教えてください。

藤田 私は2024年4月から2025年3月まで、スウェーデンのウプサラ大学整形外科准教授のAnna MacDowall先生のもとに臨床留学しました。クリニカルリサーチャーという資格で、臨床にちょっと携わらせていただきながら研究をやるという名目で行きました。

——留学の準備はいつ頃から始めたのですか。

藤田 留学したいと決めたのは10年ほど前です。留学に向けたグラントは2件申請する予定で準備を整えていました。ところが申請の直前になって、一方のグラントの当年度の対象からウプサラ大学が外れたことが分かって困惑しました。後日いろいろ聞いても、特段の理由は分かりませんでしたが、とにかく予定した資金が半減してしまいました。改めて別のグラントを申請する余裕はなかったので、足りない分は自己資金で補いました。10年前に留学に行くことを決めたときたらコツコツとそのための貯蓄をしてきていたので、それでなんとか穴埋めができました。

国際学会で留学先のキーパーソンと面談

——留学先はどのように決めたのですか。

藤田 私はできるだけ脊椎外科の臨床に近い経験ができるところということで、米国ではなく、ヨーロッパに絞って検討しました。2022年にバルセロナで開かれた頸椎治療の専門学会「CSRSヨーロッパ(The Cervical Spine Research Society - Europe)」の年次総会に参加したところ、スウェーデンからの発表は高齢者の事例も多く、日本との比較研究の手がかりにもなりそうな感触を得ました。また、スウェーデンには「Swespine」という脊椎手術のレジストリがあって、1990年代から25年以上の国内の脊椎手術の8割のデータを学会が管理しているビッグデータがあるのです。日本では今そのレジストリを作っている最中なので、ぜひこれを使った研究もしたいと思いました。

この頃までに、実はウプサラ大学整形外科のAnna先生はこれまでに日本から何人もの留学生を受け入れていることが分かりました。直近の2020年にウプサラ大学に留学しておられた防衛医科大学の北村和也先生と連絡がついて、バルセロナの学会でお会いして、先方の様子の詳細を伺うことができました。翌年2021年にはストックホルムでの開催だった同学会に再び参加し、北村先生と落ち合って、Anna先生をはじめウプサラ大学や北欧、ヨーロッパのこの領域のキーパーソンに直接紹介していただけました。

そのため、いざ2024年にAnna先生を訪ねた際には、とてもスムーズに受け入れていただけました。Anna先生は頸椎がご専門で、2025年の第98回日本整形外科学会に招聘されて招待講演をなさいました。その際には以前ウプサラ大学でお世話になった“同窓生”が集まって、懇親の場を持つことができました。

ウプサラ脊椎グループで集まって行ったホームパーティー時の集合写真、右から2番目がAnna MacDowall先生。(藤田氏提供)
ウプサラ脊椎グループで集まって行ったホームパーティー時の集合写真、右から2番目がAnna MacDowall先生。(藤田氏提供)

幅広い研究に加え手術室でも多くの経験

——ウプサラ大学病院では臨床経験もできたのですか。

藤田 ウプサラはストックホルムから北に電車で45分くらいのところにある大学の街です。ウプサラ大学は北欧で最古の大学で、2022年にネアンデルタール人のゲノム研究でノーベル生理学・医学賞を受賞したスバンテ・ペーボ博士をはじめ、多くの研究者を輩出しています。留学中には臨床と研究、両方でかなりいろいろな力を授けていただきました。

研究については、日本での実績も多少あったので、好きなだけ研究していいよというような形で、いろいろなテーマでやらせてもらいました。自分から研究を発案したら、それがものになりそうだったら、即採用していただいて進められました。まだアクセプトされてないものもありますが、向こうにいた1年間で論文を5本書きました。

臨床について北欧は、米国と違って書類は特に必要ありません。向こうの免許を持っているわけではないので自分1人で何かできるわけでは当然ないのですが、スウェーデンの先生方の指導のもとであれば、手術室に入って様々なことを経験させていただけるという形で1年間過ごしてきました。臨床面では日本とは異なるやり方を目にすることもありましたし、医療に対する考え方でも、やっぱり違う世界がありました。

——どのようなところが日本の病院と違っていましたか。

藤田 医療従事者が働くルールが徹底して守られていることが日本の医療現場とはずいぶん違いました。当初はいろいろ驚きがありました。朝8時からカンファレンスが始まるのですが、勤務時間は16時30分まで(金曜日は15時30分まで)となっているので、時間になると本当に誰もいなくなってしまいます。臨時の手術が入って16時30分以降になりそうなとき、執刀医は助手ができるドクターを探すのですが、「今日はジムだから」とかプライベートが優先されて、手を挙げるドクターはなかなかいないのです。日本では時間外手術も普通にあることなので、「私は残れます」とよく手を挙げました。その結果、教授の執刀で助手は私1人というような貴重な体験が何回もできました。

この他に就業時間中にも、1日に2回「Fica」と呼ばれるコーヒー休憩の時間があります。法律でとらなくてはいけないことが決まっているのだそうで、手術に入る前と終わった後には必ずゆったりとFicaです。とにかく働く医療スタッフの生活が優先される仕組みが徹底していました。

手術で助手を務めるなど臨床にタッチする機会は少なくなかった。(藤田氏提供)
手術で助手を務めるなど臨床にタッチする機会は少なくなかった。(藤田氏提供)

生活習慣病予防のため運動が国民の義務に

——臨床面では日本とどのような違いがあったのですか。

藤田 手術をした人は、ほぼ翌日には退院していました。日本では術後最低2日は安定するまで安静にして経過を見るような手術でも、午前中に手術をしたら夕方にはもう自宅に帰っていたりします。どんな手術でも術後のドレーンは入れないなど、日本での手順とはずいぶん違うところがありました。だから海外の論文を読むときにも、そうした背景を知らずにデータの数値をそのまま真に受けたらだめだな、ということも学びました。

またスウェーデンでは、医療資源は国の将来を担う子どもたちに優先して投入し、大人、特に高齢の疾病予防、生活習慣の管理は「本人の責任」だという考えが徹底していました。子どもは高校生くらいまで医療費が無料です。地域のプライマリ・ケア医が専門医による治療が必要と判断すれば、北部の過疎地域から専門医のいる当院まで飛行機を使って受診して来ても費用は全部公費で出ます。

一方、高齢者にはほとんど医療資源を使いません。私が「この骨折は手術が必要なのでは」と診た患者さんでも、「この人はもうX歳だからね」と言って手術をしないのです。高齢者の骨粗鬆症なども本邦ほど積極的には治療しません。国民も高齢者になったら限られた医療しか受けられないことが分かっているので、予防への意識は高く、スウェーデンの人は若い頃からたくさん運動をします。同僚医師は、「スウェーデン人にとって運動は義務」だと言っていました。私は日本骨粗鬆症学会の認定医も持っているので、留学中の研究テーマとして骨粗鬆症治療の比較研究も考えていたのですが、何しろ治療例が全然ないので、この研究はできませんでした。

高齢者施設を見学に行ったとき、ホールの一角にバーがあって、車椅子の高齢者が他の客と一緒にビールを飲んでいるのも驚きでした。毎週金曜日限定でスポーツバーがオープンするんです。飲み放題ではないとはいえ、転倒して大腿骨骨折とかのリスクは問題にならないのかと尋ねたところ、「それは本人の責任だから」という答えでした。

同僚の脊椎外科医Jabbar Mohamed氏との手術室での2ショット写真。(藤田氏提供)
同僚の脊椎外科医Jabbar Mohamed氏との手術室での2ショット写真。(藤田氏提供)

徹底したキャッシュレス社会、独特の決済アプリに困惑

——ウプサラには家族もご一緒されたのですか。

藤田 最初から、妻と7歳の息子、5歳の娘と家族で行きました。私自身が幼少時に英語圏で過ごしていた経験があって、やっぱり海外で暮らすというのは貴重な機会なので、行くときは絶対家族も一緒にと決めていました。そのためには比較的安全な国が好ましいので、留学先にスウェーデンを選んだという事情もあります。Anna先生も大の親日家ですし、例えば土日にお互いの家族を呼んで誕生日会やろうとか、同僚や周りからも気を遣っていただきました。おかげで家族もすごくスウェーデンを好きになりました。ありがたい1年でした。

——言葉の問題はありませんでしたか。

藤田 スウェーデンは英語が第2公用語のような国なので、ドクターたちはもちろん、スウェーデンの人は全員が英語を解するので日常困ることはありませんでした。しかし、スウェーデン語は母音が英語より多くて発音が難しく、チャレンジしたのですがなかなかうまく通じませんでした。簡単なコミュニケーションは基本的にスウェーデン語なので、そこはショートフレーズを覚えて、英語とチャンポンで何とか乗り切りました。

もちろん病院の外来などでは、担当医はスウェーデン語で患者とやり取りをします。外来で陪席もさせてもらいましたが、担当医から「患者さんはこう言っているけど、あなたはこの所見をどう思うか?」と英語で通訳して聞かれて意見を説明するような形でした。手術室もスウェーデン語です。実は、娘は地域の普通の幼稚園に通ったのですが、1年弱でこのスウェーデン語の発音が正確にできるようになりました。友達とスウェーデン語で話していたのには感心しました。

——生活で困ったことはありませんでしたか。

藤田 買い物はキャッシュレスが徹底していました。日々の買い物とかで一番広く使われているのは「Swish」というスマホ決済アプリなんですが、この決済口座の登録には「BankID」(日本のマイナンバーのようなもの)が必要で、留学前半はBankIDがない私たち短期滞在者はSwishが使えないのでとても困りました。お祭りの出店や子どもを馬に乗せたりするのも「Swish Only」なので、一緒に行った友人医師にSwish払いを立て替えてもらったりしていました。留学後半にはBankIDを取得できたので、Swishが使えるようになりましたが。

それと、食料品の値段がかなり高かったのは堪えました。わが家の子どもたちは、日本にいるときから米飯が大好物で毎日大量に食べるので、割安の米を探したりして食費を抑えるのに苦心しました。

帰国時に餞別にもらったスウェーデン伝統の木靴。スタッフの寄せ書きがしてある。(藤田氏提供)
帰国時に餞別にもらったスウェーデン伝統の木靴。スタッフの寄せ書きがしてある。(藤田氏提供)

日本では経験できない研究・臨床の経験が大きな収穫に

——今回の留学ではどのような収穫があったとお感じでしょうか。

藤田 臨床技術的に日本よりものすごく進んだものがスウェーデンにあったかというと、そういうわけではないですね。やはり日本の医療技術が高いということは、行く前からおおむね分かっていたことです。しかし、日本にいたら経験できなかったことを臨床面、研究面の両方でいろいろ経験させてもらったことで、疾患の診方や医療への考え方がずいぶん変わったと思います。それが最大の収穫だと思います。心の底から行ってよかったと思っています。

——これから留学を目指している後輩にアドバイスをお願いします。

藤田 まず、留学したいという気持ちを早くに固めて準備を始めることです。準備に当たっては、ターゲットとする専門分野の国際学会に2年続けて参加して発表することをお勧めします。その領域の研究の国際的な状況が分かりますし、小さな発表でも2年続けて登壇することで、その分野のキーパーソンに名前を覚えてもらえるからです。そこで得られた人脈は、充実した留学の後ろ盾になると思います。

今、1人の整形外科医が私の後任として、ウプサラ大学のAnna先生のところに留学中です。私は、北村先生をはじめ多くの方からいただいた支援を、今度はその先生にそっくりお返ししているところです。こうした個人的なつながりを作っておくことが、留学する際には何よりも大事だと感じています。

留学先を考えるに当たっては、基礎研究の最先端である米国というのも1つの選択肢だと思います。そちらの方が行きやすいかもしれません。しかし私は、臨床をちょっとでも肌で感じることができる所に行くこともお勧めしたいです。ルールが今後どう変わるか分かりませんけれど、若手の先生方、興味ある先生方には、私も自らの経験を踏まえて応援しますので、ぜひチャレンジしてもらいたいと思います。

藤田 諒(ふじた・りょう)氏
ウプサラ大学病院で着用していた制服の白衣。看護師も同じ白衣で、ネームプレートで職種を区別していたという。足元の履き物は餞別にもらった木靴。

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