関節リウマチと好中球の関係を探求するため米国NIHの研究所に留学

京都大学医学部附属病院リウマチセンター特定病院助教の中坊周一郎氏は、米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立関節炎・筋骨格・皮膚疾患研究所(NIAMS)に約6年間、留学していた。留学先では主に、関節リウマチと好中球、カルバミル化蛋白質の関係について研究を進めて成果を得た。ラボのPIの承諾が得られたため、帰国後も、留学先での研究を継続・発展させていく方針だ。留学を目指す医師に向けて中坊氏は「興味があるなら、とりあえず行ってみるのもよいのでは」とアドバイスする。

京都大学医学部附属病院 リウマチセンター 特定病院助教 中坊 周一郎 氏

中坊 周一郎(なかぼう・しゅういちろう)氏
2005年京都大学医学部卒業、京都大学医学部附属病院初期研修医。2007年天理よろづ相談所病院内科ローテイトコースシニアレジデント。2010年京都大学大学院医学研究科臨床免疫学入学。2014年同研究生。2017年京都大学医学部付属病院免疫・膠原病内科医員、京都大学医学博士取得。2018年NIAMS/NIH (Mariana J Kaplan’s lab) visiting fellow。2024年京都大学医学部附属病院リウマチセンター特定病院助教。

――留学先、期間などから教えてください。

中坊 私が留学していたのは米国NIHの27ある研究所の1つ、関節炎・筋骨格・皮膚疾患などの研究を手掛けている研究所「NIAMS(National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases)」です。2018年6月から2024年8月までの6年2カ月間、マリアナ・J・カプラン先生(Mariana J. Kaplan, M.D. Deputy Scientific Director, NIH Distinguished Investigator)のラボで基礎研究をしていました。

――なぜカプラン先生のラボに留学することにしたのですか。

中坊 関節リウマチと好中球の関係について研究したいと思ったからです。マリアナはリウマチ性疾患と好中球の関係についての研究者として、米国で最初に名前が挙がる人物の1人です。日本リウマチ学会や日本免疫学会に招聘されて来日講演をしたこともあります。

関節リウマチへの好中球の関与を探求できる留学先を探した

――留学前の研究とは、どうつながっていたのですか。

中坊 私は留学前、大学院で、大村浩一郎先生(現・神戸市立医療センター中央市民病院膠原病・リウマチ内科部長)の下で研究をしていました。最初にもらった研究テーマが「新たなACPA」を見つけることでした。ACPAは、翻訳後修飾によりシトルリン化された蛋白質に結合する抗体で、リウマチの診断や予後予測の重要なマーカーとして知られています。当時は、様々なシトルリン化蛋白質に対して、別々の抗体が存在すると考えられていたのです。新たな抗体を見つければ、関節リウマチの予後予測や診断の精度向上につながると考えて、研究に取り組んでいました。

そんな中で、オランダ・ライデン大学の研究者が、関節リウマチ患者ではACPAとは別に抗カルバミル化蛋白質(抗CarP)抗体が検出されることを報告し、新たな診断マーカーになる可能性を示唆したのです。しかし対応する抗原がまだ見つかっていなかったので、私が使っていたACPAのスクリーニング系で見つかるのではないかと考えて、並行して研究を開始しました。それが、私が抗カルバミル化蛋白質抗体の研究を始めたきっかけです。研究の結果、抗CarP抗体の標的抗原の1つがカルバミル化アルブミンであることが分かりました。

この研究の過程でACPAと抗CarP抗体に共通点が多いことに気付き、実際ライデンのグループなどからも数多くの報告がなされました。抗体の性質はほとんど一緒で、関節リウマチの重症化に関係していて、病気が発症する前から出現するなど、たくさんの共通点があります。共通点の中で私が一番注目したのは、それぞれの抗体の標的抗原ができる過程で翻訳後修飾を担っている酵素についてです。シトルリン化をするのはPAD(ペプチジルアルギニンデイミナーゼ)、カルバミル化をするのはMPO(ミエロペルオキシダーゼ)という酵素なのですが、これらはいずれも好中球の細胞内にある酵素なのです。つまり関節リウマチの発症や進行に好中球が深く関係しているのではないかと考えました。

当時、学位取得が間近になり留学を考えていたタイミングだったので、関節リウマチと好中球の関係を探求できるラボに留学しようと考えました。検索してみたところ、条件に合うラボは少なかったのですが、米国に3件ほど見つかったので、全てのラボにアプライしました。するとその中の1つのラボのPI(principal investigator)であるマリアナから、「受け入れ可能です」と返事がきたのです。ポスドクの1人がラボを離れることになり急に欠員が出たとのことで、私にとってはとても運が良かったです。

ラボメンバーとKeystone symposiaにて。中央がマリアナ。(中坊氏提供)
ラボメンバーとKeystone symposiaにて。中央がマリアナ。(中坊氏提供)

3~5年は滞在する覚悟で渡米

――最初から長期留学を考えていたのですか。

中坊 J-1ビザで滞在できる期間で最長とされる5年間くらいまでは、滞在期間が延びることを想定していました。まとまった研究成果を出すには、ある程度の期間が必要だと思ったからです。マリアナからも最初の面接の際、「できるだけ長く居てほしい」と言われたので、「最低でも3年間は居るつもりだ」と返したら、「それならオーケー」と言われ、有給での採用が決まりました。

――米国に移住する選択肢も考えていたのですか。

中坊 あまり強くは考えていなかったですが、そういう道もあるかもしれないくらいには考えていました。その場合には臨床をやめて基礎研究1本で生きていくことになるので、なかなかハードルは高いと思っていました。

――ラボから給料が出たとのことですが、中坊先生は日本学術振興会の海外特別研究員の奨学金も獲得されていますね。

中坊 はい、年間500万円の奨学金を2年間いただきました。有給で雇ってもらえることが既に決まっていた渡航直前の時期に、マリアナから勧められて応募していたのです。そもそも初年度から年間6万ドル超の雇用契約を結んでいたので、実は私にとって奨学金獲得の金銭的メリットは、あまりありませんでした。しかしラボ側のメリットは一定程度あったと思います。最初の2年間は奨学金分を差し引いた額を私に給料として支払えばよく、浮いた日本円で1000万円程度の経費を、別の人を雇う人件費に回せたからです。また、Traineeにグラントを取らせたということは、小なりといえどもラボの実績になります。

好中球内でカルバミル化される蛋白質の探索に苦戦

――留学先での研究テーマはどのように決まったのですか。

中坊 関節リウマチとカルバミル化、好中球の関係についての研究は私自身で計画し、マリアナの承諾を得て実施しました。それに加えて、時々、マリアナから「この研究もちょっとやってください」と言われることがあり、それも手がけていました。

マリアナからの指示で私が実施したものの1つは、全身性自己免疫疾患のループスと体内時計、好中球の関係について調べる研究でした。概日リズムを調整する時計遺伝子「Bmal1」が働かない好中球は若い状態が維持されて、アグレッシブになるという既知の知見があったのです。それならばBmal1がループスの悪化にも関連しているのではないかとの仮説の下、それを確認するために研究を行いました。

研究の結果、Bmal1はヒトのSLEにおける疾患活動性の低下と関連していることなどが分かりました。好中球の概日リズムの乱れが、SLEの病因になる可能性があることを示唆する結果です。この研究成果は既に論文発表しています。

――関節リウマチとカルバミル化、好中球の関係については、どんな研究をしたのですか。

中坊 シトルリン化もカルバミル化も好中球の酵素が担っているということは、関節リウマチの始まりは好中球の異常ではないかと考えられるわけです。その解明を大きな目標としつつ、まずは手始めに好中球が何の蛋白質をカルバミル化しているかを調べ始めました。留学前に、培養上澄液からカルバミル化された蛋白質を同定していましたが、好中球の細胞内については確認していなかったからです。

しかしその実験が、全然うまくいきませんでした。日本で培養上澄液で実験していたときは、カルバミル化蛋白質の電気泳動のバンドがしっかり確認できていました。しかし好中球の細胞溶出液でやってみると、バンドが全く見られなかったのです。いろいろな条件を試したのですが、どうしても駄目でした。ですから、その実験はいったん中断して、他の研究をやったりしていたのです。それがあるとき、ふと解決しました。好中球の酵素がカルバミル化している蛋白質は、ヒストンだと分かったのです。

コロナの後、2022年9月になってようやく再開されたin personのラボミーティング。(中坊氏提供)
コロナの後、2022年9月になってようやく再開されたin personのラボミーティング。(中坊氏提供)

研究者との会話がヒントになり研究が急進展

――どうやって解決したのですか。

中坊 ヒストンを扱っている研究者とたまたま話す機会があったのです。その人が、「ヒストンを抽出するときにはA社の抽出キットよりも、B社のキットの方がうまくいく」と話していたので、もしやと思ってそのB社の抽出キットを使ってみたら、カルバミル化ヒストンのバンドが出てきたのです。

――なぜ、それまで見つからなかったのですか。

中坊 ヒストンはカルバミル化されると、とても分解されやすくなることが後で分かりました。ヒストンのままなら1時間くらいもつのに、カルバミル化されると1分くらいであっという間に分解されてしまうのです。そのため好中球の溶出液を分析しても、カルバミル化ヒストンのバンドが見えなかったのです。B社のキットは、詳細は不明ですが恐らく蛋白質の安定化や分解酵素をブロックする速さなどが優れていて、カルバミル化ヒストンが長く残存できるようになったようです。

改めて研究を進めて、ヒストンのカルバミル化は好中球を刺激してから15分後くらいに細胞内で起こり始めることや、これまで報告されていない未知の機序でカルバミル化が起こっていることなどが分かりました。これらの研究成果は2025年のEULAR(欧州リウマチ学会)で発表しています。

――大きな発見ですね。カプラン先生からは何かお褒めの言葉はありましたか。

中坊 いえ、特には。良くも悪くもマリアナは、個々の研究にはほとんど口を出さないのです。マリアナの下でラボの研究を取り仕切っているのは、彼女の信頼が厚いスタッフ・サイエンティストのカルメロ(Carmelo Carmona-Rivera, Ph.D.)です。カルメロはこの研究結果に興奮していましたね。帰国後もカルメロと連絡を取り合って、最近ようやく論文投稿しました。今後どうなるか分かりませんが、できるだけ早く世に出せればと思っています。

帰国後も留学先での研究を継続し発展させていく

――今後が楽しみな研究ですが、中坊先生の帰国後はどうなるのですか。

中坊 向こうで引き継ぐ人もいないので、私が日本で研究を続けるつもりです。

――カプラン先生は、それを了承してくれたのですね。

中坊 先ほども述べたように、マリアナはあまり個々の研究には口を出しません。大概のことは「OK. Go ahead!」と言ってくれる度量の大きいボスでした。日本では大学院生と一緒に研究を進めるつもりで準備しています。他大学との共同研究の話し合いも進めています。研究費獲得も頑張らなければいけないですね。もしかしたら細胞生物学のベースに関わるような大きな発見につながるかもしれないと、私もこの研究の行方にすごく期待しているのです。

――せっかく良い成果が出始めたのに帰国を決めたのはなぜですか。

中坊 1つの理由は、自分の限界を悟ったということです。基礎研究1本でやっていくのは、やはり難しいなと。マリアナを見ていても、基礎研究のラボのマネジメントなんて私にはできないなと思いました。

もう1つの理由は、私の出した研究成果が、マリアナの興味をあまり引けなかったことです。マリアナは研究内容には基本的に口を出さず、研究者の好きなようにやらせてくれます。数千ドルの高額な試薬の購入についても何も言いません。理想的な上司でした。

しかし何万ドル、何十万ドルといった規模の研究費が必要なスクリーニングを立ち上げるとなると、話は別です。やはり彼女の興味が向いている研究テーマが優先されます。今後、この研究をさらに発展させるには、私が自分自身で競争的資金を獲得して進めていくしかないと判断しました。研究を日本に持ち帰ることをマリアナが承諾してくれたので、日本で臨床をしながら進めていこうと考えました。

米国では競馬観戦も、世界的に有名な調教師が間近に

――米国での生活はいかがでしたか。

中坊 NIAMSを含むNIHの研究機関は、ワシントンDCから車で北に30分くらい行った先にあるメリーランド州のベテスダ(Bethesda)という街にあります。ベテスダは女性が夜1人で普通に歩けるような治安の良い街でした。ワシントンDCが近いので、休日には家族で、美術館や博物館を見学に行きました。スミソニアン博物館、ナショナル・ギャラリー・オブ・アートなど、多くの施設が入館料無料で運営されています。大富豪からのドネーションで成り立っているようです。そういった文化は米国のすごいところだと思いました。

ワシントンDCには、米国の4大プロスポーツリーグである野球、アメフト、アイスホッケー、バスケットのプロチームが全部あります。2023年1月までは日本人の八村塁選手が、NBAのワシントン・ウイザーズに所属していたので、家族みんなで観に行きました。初めてプロバスケットの試合を観たのですが、スピードが速くて、すごく面白かったです。それではまってしまい、何度も観に行きました。

もちろんMLBの大谷翔平選手やダルビッシュ有選手が所属するチームの試合も観戦に行きました。特に大谷選手が来たら、現地の日本人は球場に全員集合でしたね(笑)。

――中坊先生は競馬がお好きだと聞いています。米国でも観戦されましたか。

中坊 ワシントンDCには競馬場はないのですが、メリーランド州やその他の東海岸の州で何度かレースを観る機会がありました。ニューヨーク州の北部アップステートにあるサラトガ競馬場にも行きました。パドックで出走前の馬の様子がじっくり観られる、とても良い競馬場でしたね。

パドック近くですれ違った人に見覚えがあって、「絶対見たことある人や、誰やろ……」って思ったんですが、その日のレースで勝った馬「エピセンター(Epicenter)」も育てた、世界的に有名な調教師のスティーブ・アスムッセン氏(Steve Asmussen)でした。表彰式でトロフィーを掲げている姿が大きなビジョンに映し出されたのを見て、「あっ」と思い出しました。すれ違ったとき気付いていたら、サインをお願いしたのですが(笑)。

国会議事堂のスロープでソリ遊びも。(中坊氏提供)
国会議事堂のスロープでソリ遊びも。(中坊氏提供)

すぐに受け入れ先が見つからなくても2年後を見据え準備を

――最後に、留学を目指す若い医師にアドバイスをお願いします。

中坊 もし留学に興味があるなら、行ってみたらいいのではないかと思います。non-MDの研究者の場合、いったん日本のポジションを離れてしまうと、帰国後に同じポジションに戻ったり新たなポジションを得たりするのが難しいこともあるようです。しかし医師の場合は、臨床医としてなら、まず絶対に戻って来られます。ですから留学に興味があるなら、とりあえず行ってみればよいのではないでしょうか。行ってみたがつまらなかった、自分には向いてなかったと思えば、帰国すればいいだけですから。

ただ、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任して以降、留学生の受け入れが制限され、日本からの留学も難しくなっているようです。ですから今すぐ留学しようと思っても、受け入れ先を探すのが、以前ほど簡単ではないかもしれません。しかし近い将来、情勢は変わるだろうと多くの米国人PIは考えているようです。先日、学会でマリアナと再会して話をしたのですが、彼女も同じ考えでした。

次の大統領選挙のある2028年か、あるいは中間選挙がある2026年以降は、それまでの反動で米国留学がすごくしやすい環境になるかもしれません。ですから、すぐに留学先が見つからなくても焦らず、2年後くらいを目標に準備しておけば、自分が望むポジションに近づける可能性があります。

留学が実現した後のアドバイスですが、現地の日本人コミュニティーには早めに連絡をとって、情報がもらえるようにしておくといいと思います。家族が現地の生活に早くなじめるようにというのが一番大きな理由ですが、仕事に関しても有益な情報が得られることがあります。日本人コミュニティーにどっぷり浸かる必要はありませんが、使えるものは使った方が効率的だと思います。

留学中は、研究する時間がしっかり得られることに加えて、いろいろな立場の人とつながるチャンスがあります。私にとっては、それも楽しみの1つでした。ワシントンDC周辺には大使館員が多く、彼らと知り合う機会もありました。話してみて、日本の官僚は現場の問題点を意外にしっかり把握しているが、把握したからといってもいろいろなしがらみがあって改善できるわけではないことがよく分かりました(笑)。一緒にバーベキューをしていた人が、後に宇宙飛行士になったということもありました。交友関係や視野を広げられるのも、海外留学の醍醐味だと思いますよ。

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