時代や環境の変化に合わせ診療スタイルや組織運営を大胆に変革

医療法人鉄蕉会・亀田総合病院のリウマチ・膠原病・アレルギー内科は、2019年4月に六反田諒(ろくたんだ・りょう)氏を部長に迎え、新たなスタートを切った。関節超音波検査(関節エコー検査)を駆使して高精度のリウマチ・膠原病の鑑別診断を行い、疾患・病態・重症度に応じた適切な治療を実施。同時に、診療時間の短縮をはじめとする医師の働き方改革を進めてきた。また、診療科内での情報共有を推進して各医師の知識量や経験値の底上げを図るとともに、コロナ禍をきっかけに普及したオンライン会議の仕組みを活用し、勉強会のネットワークを院外へと広げることにも取り組んでいる。

医療法人鉄蕉会亀田総合病院 リウマチ・膠原病・アレルギー内科

医療法人鉄蕉会亀田総合病院 リウマチ・膠原病・アレルギー内科(千葉県鴨川市)


亀田総合病院は、数年前から診療科部長の若返りを図っている。リウマチ・膠原病・アレルギー内科部長の六反田諒氏や呼吸器内科、腎臓内科の部長は、2020年に病院長に就任した亀田俊明氏と同世代の40歳代前後だ。
六反田氏は九州大学医学部を卒業後、総合内科医を目指した。どの診療科でも診断がつかない患者に対応することが多い総合内科でも、特に膠原病の診断は難しい。「ならば、この領域を得意分野にしよう」と、リウマチ・膠原病の診療で有名な関東の病院に移った。さまざまな臨床を経験できる点が気に入った日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)や、米国リウマチ学会の専門医を取得した医師が複数いる聖路加国際病院(東京都中央区)などで経験を積んだ。
そして現在は、「部長としてリウマチ・膠原病・アレルギー内科を自由に運営してほしい」という誘いを受けて、亀田総合病院で診療に当たっている。「亀田総合病院は大学の関連病院ではないため、運営の自由度が高いのが特徴です。患者数が多いので、さまざまな治療が経験できる点もメリットです。総合内科をはじめとして他科が充実している点も、リウマチ・膠原病診療を行ううえで良い環境でした」(六反田氏)。

薬剤師が外来診療の場に同席

亀田総合病院を訪れる患者は、関節リウマチだけでも年間約2300人(2019年)に上る。病院周辺や千葉県内にとどまらず、関東一円から2〜3時間かけて受診する患者も多い。そのため六反田氏が着任する前は、外来診療が夜6、7時にまで及ぶ状態が続いていた。だが、「今では5時を過ぎることはほとんどない」と六反田氏。多職種によるチームで、効率的に外来診療に当たる体制を確立しているからだ。
その一つが、外来診療における薬剤師の登用。きっかけは、薬剤部長から六反田氏に「いくつかの診療科で臨床を学んできた薬剤師に、リウマチ・膠原病も勉強させたい」という相談があったことだ。薬剤師の業務は機械化やICT(情報通信技術)導入で効率化が進んでいる。効率化によって生まれた時間をどのように活用すべきかを薬剤部では模索していた。そこで六反田氏は薬剤師を外来診療チームに加えたところ、多方面にその効果が現れた。
薬剤師の病棟業務は多くの場合、患者への服薬指導や薬剤に関する相談、残薬管理などに限られる。これに対して六反田氏は、薬剤師に診察前の患者ヒアリングを担当させ、その薬剤師を外来診療の場に同席させる。そして投与された薬剤の有効性・安全性の評価や、患者の意思決定の支援、薬物治療の方針提案までを任せるという全国的にもまれな試みを行っている。これによって患者満足度が向上するとともに、診察時間や待ち時間の短縮、処方ミスの削減などが実現した。
また、薬剤師は生活習慣病などの基礎疾患に処方された薬にも詳しいので、相互作用に関して広範に医師にアドバイスできる。さらに、「薬剤師による処方変更の提案によって、患者さんの多剤服用によるポリファーマシーのリスクを回避できたケースも少なくない」と六反田氏は、その効用を話す。

エコー検査担う臨床検査技師とも協働

亀田総合病院のリウマチ・膠原病・アレルギー内科では、他の病院の診察室ではなかなか見かけない臨床検査技師が医師の診察に同席してエコー検査を担当することがある。従来は検査室で臨床検査技師が行うエコー検査と診察室で医師が行うエコー検査とに分かれていたが「より良い検査を考えるために診療の現場を見学したい」という臨床検査技師の希望に対して、六反田氏が「それなら診察室でのエコー検査もお願いしたい」と応じ、第3のスタイルが生まれたのだ。
だが、検査室で臨床検査技師が手がけるエコー検査と、診断のために医師が行うエコー検査はかなり異なる。一般に臨床検査技師は、関節リウマチの患者に対して、指示された関節にあらかじめ決められた通りに超音波を当てる。つまり決まったプロトコールで機械的に検査を行うため、経時的に状態をフォローしたり、研究用のデータを収集したりするのに適している。一方、医師が診察室で行うエコー検査は、関節リウマチ以外にも全身性エリテマトーデスや血管炎などさまざまな膠原病を視野に入れるため、関節以外にも超音波を当てる。決まったやり方に縛られないため、検査する側に幅広い疾患に対応できる知識や経験が必要になる。
六反田氏は、さまざまな疾患の診療に積極的にエコー検査を用いる医師に学ぼうと、短期間ながらスペインや英国などに留学している。その経験から、エコー検査の効用を次のように語る。「関節リウマチは、診察による所見や血液検査の結果に加え、炎症の有無や細かい骨の変化を観察するためにエコー検査を用いれば、診断の精度が高まります。日本では関節エコーが普及していますが、その他にもエコー検査が有用である疾患は多いので、臨床検査技師の勉強になればと考え、外来診療に加わってもらいました」。関節リウマチの診療時、医師が行っていた検査を検査技師が行えば、その時間に医師はカルテの記入などを行えるので、診療時間の短縮にも効果がある。

診療科運営を規定する二つの理念

リウマチ・膠原病・アレルギー内科のスタッフ構成は、常勤医師6人に後期研修医2人を加えた計8人。六反田体制がスタートして以来、「Equal Partnership」と「Sharing」を診療科運営の理念としている。
「Equal Partnership」は、敬語など社会的に最低限の礼儀を除き、年齢、役職に関わりなく一個人として対等であるという姿勢をとること。免疫分野は日進月歩で、情報量も加速度的に増加している。またICTの発達によってさまざまな情報がインターネット上に蓄積され、そこへのアクセスが容易になっている。従来、経験年数と情報量は相関していたが、今は若い医師が積極的に情報を収集することで、ベテランの情報量を上回ることもある。従って「教える者」と「教わる者」の関係が固定されることがなくなり、互いの立場は領域によって入れ替わりもする。だからこそ対等な関係を堅持し、学年や経験によらず良い情報や正しい判断を常に優先する必要があると六反田氏は考えている。
「Sharing」は、自ら学習し、それをみなで共有すること。個人の努力で得られる情報量には限界があり、常に全ての情報をアップデートすることは困難だ。そのため毎日、持ち回りで医局員それぞれが興味を持っている領域の論文の抄読会を開き、知識の共有を図っている。また、毎日のカンファレンスでは全入院症例のレビューを行い、外来症例についても興味深いケースについては情報を共有することで経験のシェアを行って、各医師の経験値の底上げにつなげている。
一方、リウマチ・膠原病・アレルギー内科では、他の診療科では診断が難しい症例も担当するので、各診療科との合同カンファレンスも欠かせない。ただし六反田氏は、これを定期開催することはしていない。「合同カンファレンスを定例化すると、必ず惰性化が生じます。他科との検討が必要な症例に出合ったら、その都度、合同カンファレンスを開催すればいいのです。これに限らず、私達の科では徹底して無駄な定例行事をなくし、カンファレンスや勉強会も全て必要に応じて開催します。その結果、開催するものは全て意味があるものになり、参加のモチベーションや意義を維持することができるのです」。

オンライン勉強会で院外ネットワークを拡大

亀田総合病院の来院患者は、公共交通機関よりも自家用車を利用する例が多いこともあり、コロナ禍でも「外来患者数は減っていない」と六反田氏。だが、病院を会場にして毎年開催してきた医師・医学生向けの「亀田リウマチ膠原病セミナー」を2020年は開催できなかった。今もコロナ禍は終息していないため、2021年はオンラインで開催する計画だ。
2019年のセミナー参加者は70人だったが、今年に入りオンライン開催を告知したところ、募集人数300人に対して初日に400人以上から申し込みがあった。告知から1週間が経過すると、申し込みは750人を超えた。リアル開催の10倍以上の人数に対して情報発信できる計算だ。現在、これに対応するためにサーバーを増強し、募集人数を1000人にまで引き上げる準備を進めている。


2019年の「亀田リウマチ膠原病セミナー」で講演する六反田氏。2020年はコロナ禍により開催できなかったが、今年はオンラインで開催する予定だ。(六反田氏提供)

「コロナ禍で、オンライン会議やオンラインセミナーが急速に普及しました。これらはフェース・トゥ・フェースという従来の方法や手段にこだわらない、自由な発想によって実現したものと言えるでしょう。診療スタイルや診療科の運営にも、時代や環境に合わせた変革が必要です」。こう語る六反田氏は早速、いくつものオンライン勉強会を立ち上げている。
臨床医に不足しがちな基礎医学的な視点・知識を養うために、海外留学中の基礎医学研究者や理化学研究所(埼玉県和光市)所属の基礎医学研究者に協力を要請して定期的に行っているオンライン勉強会は、その一つ。また、先駆的な取り組みを続ける院外の臨床医との勉強会にも、同様にオンラインを活用している。六反田氏が院外に広げたネットワークによって、亀田総合病院の地理的ハンディキャップは、少なくとも教育・研修面では解消されつつある。
加えて、亀田総合病院のリウマチ・膠原病・アレルギー内科では、診療科の二つの運営理念によって自由に学べることが担保されている。「上意下達の関係では、トップの器量によってその診療科のポテンシャルが決まってしまうという限界があります。そうならないようにと決めた理念ですが、逆の見方をすれば経験年数だけでは昇進できない組織だともいえます。常に学び、知識や経験を共有していくことが必要なのだと、自分自身の戒めにもしています」と六反田氏は話している。

亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科の面々。同科は常勤医師6人と後期研修医2人を擁する。


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六反田 諒(ろくたんだ・りょう)氏

2006年九州大学医学部卒。飯塚病院総合診療科、日本赤十字社医療センターアレルギーリウマチ科、聖路加国際病院アレルギー膠原病科などを経て、2019年より亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科部長。

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