多職種のチームで急性期病院ならではの骨粗鬆症ケアを追求

三次救命救急センターを擁する北九州総合病院は、年間5700台の救急車を受け入れ、大腿骨近位部骨折の手術を年間250例以上手がける。平均在院日数10.8日という急性期病院でありながらも、多職種で構成するチームによる骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)を積極的に展開。入院直後からの早期介入を徹底する一方、リハビリテーションを担う転院先の病院との連携を強化するなど、急性期病院ならではの骨粗鬆症ケアのあり方を追求している。

北九州総合病院 整形外科

北九州総合病院 整形外科(福岡県北九州市)


医師「変わりはないですか? 調子は悪くなさそうね、ちゃんと歩いているし」
患者「はい、いいです。今は1日に1000歩くらい歩いています。歩数が携帯に出るんですよ」
医師「それはいいね。で、骨密度という骨の検査の結果なんだけど、太ももが前回よりちょっと下がっているね。100点満点でいうと70点かな。やっぱり1000歩はちょっと少ないかなあ。できれば20分から30分くらいかけて、2000歩から3000歩くらいは歩いた方がいいね」
患者「用事があって出かけるときには3000歩行くんですけど……」
医師「そうね。それくらいは歩いてください。あと、今日の検査結果は診療所の先生に送っておきます。飲み薬は、診療所の先生から出してもらってくださいね」

このやり取りは、北九州総合病院の整形外科で、毎週木曜日に設けられている「骨粗鬆症専門外来」でのもの。副院長の福田文雄氏が担当しているが、診察には必ず看護師と骨粗鬆症マネージャー数人が同席する(写真)。入院から退院まで、多職種のチームによる介入を継続的に行っているのが、同病院における骨粗鬆症ケアの特徴だ。

骨粗鬆症専門外来の診察風景。医師の福田氏の後ろで、医師事務と骨粗鬆症マネージャーが患者の訴えに耳を傾ける。

「早期手術」の達成後にリエゾンサービスに着手

北九州総合病院の整形外科では、2016年から福田氏の指揮の下、骨折により救急車で搬送されてきた骨粗鬆症患者の早期手術を可能にするシステム作りに取り組んできた。その結果、入院から手術までの待機日数を、全国平均の4.2日に対して、2018年実績で1.9日にまで短縮。そこで次のステップとして2018年から、骨粗鬆症による二次骨折の予防を目的に、多職種のチームによる骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)の活動を開始した。その経緯を、福田氏は次のように語る。「欧州の脆弱性骨折ネットワーク(FFN)の知見では、早期手術や多職種のチームによる骨折後ケアの導入が、二次骨折を予防する効果のあることが示されています。当院では既に早期手術は実現できていたので、2018年に骨粗鬆症リエゾンチームを立ち上げて、疾病の管理や転倒予防に取り組むことにしたのです」。
骨粗鬆症リエゾンチームのメンバーは、医師2人、薬剤師2人、理学療法士3人、作業療法士1人、診療放射線技師1人、医師事務作業補助者5人の計13人。このうち7人は、日本骨粗鬆症学会が認定する骨粗鬆症マネージャーの有資格者だ。このチームが、入院直後から退院時まで、骨折した骨粗鬆症患者に様々な角度から携わっていく。

骨粗鬆症リエゾンチームのメンバー。左から理学療法士の村上雅哉氏、薬剤師の松尾麻美氏、整形外科医の原夏樹氏、福田文雄氏、医師事務の石井直美氏、同じく藤川みゆき氏。

例えば大腿骨近位部骨折や椎体骨折の場合、早ければ入院当日から退院調整を開始する一方、数日以内に骨密度などの検査を行い、未治療なら骨粗鬆症の薬物治療を開始する。治療中であってもクリニカルパスに沿って、病棟薬剤師の提案で投与薬剤を変更することもある。これと並行して、退院後の受け入れ先となる回復期リハビリテーション病院の医師やコメディカルスタッフに来院してもらい、共同回診を含むカンファレンスを行ってスムーズな退院へとつなげる。入院から退院までは1〜2週間程度だ。
その過程で、対応に迷ったり問題が生じたりしたケースについては、全てのメンバーが顔をそろえる月1回のOLS会議で検討する。「患者へのアプローチの仕方は職種によって異なるため、生じる問題もそれぞれ違います。OLS会議の場では、各メンバーが問題を持ち寄ってぶつけ合い、みんなで話し合って解決策を探り、標準化を図っていくという形をとっています」と福田氏は言う。
こうした一連の活動が評価されて、北九州総合病院は2020年、国際骨粗鬆症財団(IOF)が定める二次骨折予防のためのプログラム「Capture the Fracture」の銀賞を受賞した。

事務職の骨粗鬆症マネージャーが活躍

ところで、北九州総合病院の骨粗鬆症リエゾンチームで興味深いのは、医師事務作業補助者の骨粗鬆症マネージャーが活躍していることだ。診療への立ち会いや、カルテ・紹介状の作成・整理を通じて、チームが担当する全患者のプロフィールを把握。その中から必要とされる情報を、福田氏をはじめとする医療スタッフに適宜フィードバックしている。いわばチームの司令塔のような役割を果たしているのだ。また、様々な職種が講師となる、患者向けの骨粗鬆症教室なども手がけている。
そんな業務を担当する医師事務作業補助者の一人が石井直美氏だ。実は臨床検査技師の資格も持っているが、「一度事務職員として働いてみたかった」という理由から、北九州総合病院には事務職員として就職した。とはいえ、医療に関する知識のバックボーンがあるだけに、その働きぶりは一般事務職員とは一線を画する。2020年度の日本骨粗鬆症学会OLS活動奨励賞を受賞したのはその表れで、骨粗鬆症リエゾンチームにおける中心的な存在だ。福田氏が「チームメンバーを太郎、二郎、三郎……と名付けるとしたら、長男の太郎は間違いなく石井さん」と言うほど、その信頼は厚い。
また、石井氏に限らず、現場のスタッフが主体的に動いていることも、北九州総合病院の骨粗鬆症リエゾンチームの特徴だ。「太郎と二郎、三郎たちがチームを引っ張っていってくれるので、私はただそこに乗っかっていればいいだけ。素晴らしいチームです」と福田氏は話す。
その主体性を引き出すために、心がけていることは何か。この点について福田氏は、「いいごほうびをぶら下げること」が大事だと語る。「一番いいのは学問的なごほうびです。『学会に行って発表し、みんなで学会を楽しもう。ついでに地元の名産銘酒も味わおう』。そう言って毎年、チームのメンバーや、チームをサポートしてくれている事務職員の中から5〜7人を選び、日本骨粗鬆症学会や日本脆弱性骨折ネットワークの学術集会に出かけています」とも言う。
日ごろの取り組みの成果を学会発表することは、自分たちの業務を客観的に振り返ることを可能にするし、仕事に対する自信を深めることにもつながる。北九州総合病院の骨粗鬆症リエゾンチームの高いモチベーションは、このようにして維持されている。

退院後の患者フォローアップに課題

高い効果を上げている北九州総合病院のOLSだが、課題もある。その一つが、退院後の患者のフォローアップを十分にできていないことだ。「急性期病院の弱点でもあるのですが、当院を退院後に回復期リハビリテーション病院を経て自宅などに戻った際、45%の患者さんは当院との関係が切れてしまいます。残りの55%も、患者さんが高齢だと家族の都合で来られなくなるなどして、徐々にフォローアップ率が落ちてしまうのが現状です」と福田氏は話す。
先に触れたように、北九州総合病院では転院先の回復期リハビリテーション病院とは密接な連携をとっている。問題はそこを退院後、地域のかかりつけ医を受診するようになるであろう患者との関係を、いかに継続できるかにある。同病院では、OLSの取り組みを始めてからパンフレットを作成するなどして、退院後に自宅に戻った患者について、例えば1〜2カ月ごとの診察はかかりつけ医が受け持ち、6カ月ごとの骨密度測定やX線写真撮影は北九州総合病院が担当する──といった病診連携の事例作りに努めてきた。今後は、こうした退院後の役割分担をいかに浸透させていけるかが、フォローアップ率向上のカギになりそうだ。
また、OLSの活動に対する経済的な裏付けがなく、その分のコストが病院の持ち出しになっている点も課題といえる。これはOLSを手がける全ての病院に共通する問題でもあるが、多職種のチームが提供するサービスによって二次骨折が減少したなどの報告は散見されても、現時点でそれに対する診療報酬項目は存在せず、現場スタッフの意欲頼みの状態が続いている。
「診療報酬上でのOLSの評価を訴えるのが私の仕事なので、各学会には一生懸命働きかけています」。こう語る福田氏は現在、OLSの効果を証明する多施設研究にも関わっている。「日本骨粗鬆症学会と日本脆弱性骨折ネットワークの双方で、詳細なデータを蓄積しているところです。これをまとめることにより、OLSに対する診療報酬上の評価をぜひ勝ち取りたいと考えています」と福田氏は意気込む。次回、2022年度の診療報酬改定は要注目だ。

北九州総合病院の全景。2016年に新築移転した。


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福田 文雄 氏

1990年産業医科大学卒業、同大学整形外科入局。2000年まで大阪、岩見沢、福島、山陰、総合せき損センターなど全国の労災病院に勤務。2001年産業医科大学病院整形外科助手、2002年新小倉病院整形外科医長、2007年北九州総合病院整形外科主任部長。2021年より北九州総合病院副院長。


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