東海地方でも群を抜いて多くのリウマチ患者を受け入れている聖隷浜松病院は、2020年10月に「リウマチセンター」を開設した。リウマチセンターでは、多職種のチームによって患者をサポートする一方、定期的な受診や投薬は連携する地域の整形外科医が担当し、問診結果や半年ごとに実施する検査に基づく薬剤の見直しは、リウマチセンターのリウマチ専門医が担当する「2人主治医制」と呼ぶべき体制を実現しているのが特徴だ。さらに、リウマチ治療薬に詳しい薬剤師が、患者からの質問や相談に応じる「リウマチ薬剤師外来」など、全国的に見て珍しい取り組みも実践している。
聖隷浜松病院(静岡県浜松市)リウマチセンター
聖隷浜松病院 リウマチセンター (静岡県浜松市)
聖隷浜松病院の膠原病リウマチ内科の外来には、年間1200人ものリウマチ患者が訪れる。その病院に、リウマチ専門医と整形外科医、看護師、薬剤師、作業療法士といった多職種のチームによってリウマチ患者のサポートに当たる「リウマチセンター」が開設されたのは2020年10月のことだ。センター長に就任した宮本俊明氏(膠原病リウマチ内科部長)は、センター開設の理由を次のように語る。
「治療薬の進歩によって、患者さんの病気自体をよくすることは難しくなくなりました。ただし、リウマチ専門医による診察だけでは、『症状は治まったけれど、今後も本当に仕事を続けていけるのか』や『よく効く薬を処方してもらったが、ずっと使い続けていいのか』など、患者さんの疑問や不安を全て解消することまではできていませんでした。こうした社会的・心理的課題の解決には、医者には言えないことを引き出せる看護師さんが適任ですし、薬については薬剤師さんと話したいという患者さんもいます。また患者さんによっては、整形外科的な介入やリハビリテーションが必要になる人もいます。それぞれの患者さんのニーズに応えるため、ベストな人材でチームを組んで様々な角度からアプローチする必要があると以前から考えており、それを実践するためにリウマチセンターを立ち上げました。
リウマチセンター立ち上げまでに様々な障害
とはいえ、病院の了承を得てリウマチセンター開設にこぎ着けるまでには、いくつもの障害が立ちはだかったという。その一つが、病院の人事異動によって、リウマチに造詣が深い看護師であっても他科に配属されてしまうことだった。「総合病院では、膠原病リウマチ内科の外来を担当していた看護師さんが、翌年には消化器内科の病棟担当になったりするような人事が珍しくありません。当院には日本リウマチ財団が認定する『リウマチケア看護師』の資格を持つ看護師さんもいるのですが、資格があっても1カ所にとどめ置くことは難しいのが実情です」と宮本氏は話す。
薬剤師の協力を得ることも、スムーズには進まなかった。リウマチセンターに薬剤師を出しても、所属元の病院薬剤部には病院経営上のメリットが生じないからだ。「薬剤師さんがリウマチ患者さんの質問や相談に応じても、それで算定できる診療報酬点数はありません。薬剤部の上層部にしてみれば、ただでさえ忙しい部下が、仕事量を増やされてしまうと感じる面があったと思います」。こう語る宮本氏は「病院経営面で目に見える貢献がなくても、患者のみでなく、病院にとっても必ずプラスになるんだということを訴えて協力を求めました」と付け加える。
その甲斐もあって、リウマチセンターの開設に先んじる形で2019年、リウマチ治療薬に詳しい薬剤師が週1回、患者からの質問や相談に応じる「リウマチ薬剤師外来」がスタート。患者からの評判は極めて高く、担当する薬剤師も手応えを感じていたため、センター開設に合わせて薬剤師外来は週2回へと拡大されることになった。「医者が診察時に話す内容のうち、患者さんが本当に理解できる内容は限られていて、実際には同じ説明を何度も繰り返す必要があります。特にリウマチの薬は、調子が悪いときに休薬すべき薬と休薬してはならない薬があることや、サプリメント等との飲み合わせなど、詳しい説明が求められます。そこをリウマチ薬剤師外来でフォローしてもらえることで、非常に助かっています」と宮本氏は言う。
こうした障害を乗り越えて発足したリウマチセンターの陣容は、リウマチ内科医4人(リウマチ専門医2人、指導医2人)、整形外科医1人、看護師2人、薬剤師2人、作業療法士1人(兼務を含む)。このうち看護師2人と薬剤師1人、作業療法士1人は、日本リウマチ財団が認定する資格を持つ。課題であったリウマチに造詣の深い看護師の確保も実現し、多職種でのチームによって一人ひとりのリウマチ患者のサポートに当たる体制が動き出した。
地域の整形外科医との「2人主治医制」を実現
多職種のチームによるサポートに加え、地域の整形外科医と連携して「2人主治医制」と呼ぶべき体制でリウマチ患者の対応に当たっていることも、聖隷浜松病院リウマチセンターの大きな特徴だ。
先に触れたように、聖隷浜松病院には年間1200人ほどのリウマチ患者が訪れるが、その全てが毎月、同病院を定期的に受診しているわけではない。このうち約300人は、日ごろは地元の整形外科でリウマチの治療を受けつつ、半年から1年ごとに聖隷浜松病院を訪れて専門的な検査と診察を受けている患者たちだ。
日常的な診療や投薬は地域の整形外科医が担当する一方、リウマチセンターの専門医が半年から1年ごとに診療を行い、必要に応じて治療方針の見直しを行う。また、処方薬の副作用が疑われる場合や病状が急に悪化した場合も、リウマチセンターの専門医が緊急対応する──。この仕組みを、聖隷浜松病院では「循環型の病診連携」と呼んでいる。循環型の病診連携を行うに至った経緯を、宮本氏はこう語る。
「リウマチ診療は近年、内科的な治療が進歩したため、これまで治療を担ってこられたリウマチを専門とはしない整形外科の先生には敷居が高くなっている面があります。生物学的製剤やJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬などの新しい治療薬は、感染症のリスクや有害事象に気を遣わなければならないため、ちょっと怖い薬だという印象を持たれているようです。ですから、整形外科の先生には自らの得意分野を担当していただき、薬物療法についてはリウマチセンターの専門医に任せてもらうという、互いの強みを生かせる連携の在り方を模索して今の形に行き着きました」
患者の立場からすると、紹介されて受診した聖隷浜松病院の治療で病状が安定したならば、そのまま同病院にかかり続けたいと考えるのが自然だ。無理に紹介元に帰す逆紹介をすれば、患者は不安を感じ、さらには不満を抱くことになりかねない。だが、逆紹介で地域の整形外科医を受診しつつも聖隷浜松病院とつながりを持ち続けられる「2人主治医制」なら、そうした不満は生じない。「患者さんには『リウマチ専門医と整形外科医の双方に色々なことを相談できる2人主治医制って、本当にぜいたくな仕組みなんだよ』と話しています」と宮本氏は言う。
連携促進のため自ら地域の開業医を訪問
循環型の病診連携のルーツは7年ほど前、浜松市が位置する静岡県西部の整形外科開業医の会合に、宮本氏が押しかける形で話をさせてもらったことに遡る。宮本氏は「仕切り役の先生にお願いして、会合の前座として15分ぐらい話をさせてもらうことを4、5回やりました。『当院との連携によって地域のリウマチ診療を充実させていきましょう』という話をして、賛同を得られた先生方と徐々に連携を進めてきたのです」と言う。
この連携の輪を広げるために宮本氏は、リウマチセンターを開設した2020年10月から、地域医療連絡室のスタッフと一緒に地域の開業医回りを始めている。「外来がない金曜日の午後の時間を使って、毎回4〜5カ所を回っています。訪問先は整形外科が多いのですが、一般内科や皮膚科を訪れることもあります」と宮本氏。「今まで30〜40軒を回りましたが、浜松だけで整形外科は90軒くらいあるので、まだ全然制覇できていません。病診連携では、互いの顔が見える関係にあることが大事なので、できるだけ多くの先生にお会いして、連携の意義をお伝えしていきたいと考えています」とも言う。
宮本氏は整形外科開業医を訪れた際、診断や治療方針の決定や新規の薬剤導入に医師自身が不安を持つ場合や、新薬を薦めても患者の不安が強く導入が難しい場合など、リウマチセンターに患者を紹介してほしい状況を具体的に伝えている。それに加え、治療とは直接関係しない社会的・心理的な不安を抱えている患者も、遠慮せず紹介してほしいと付け加えている。「病状は落ち着いたが将来への不安が払拭できないなどの社会的、心理的な不安をもつ患者さんなども幅広く受け入れますので、少しでも患者さんのため、そして先生のご負担軽減になるようであれば、リウマチセンターをぜひ使ってください、と伝えています」と宮本氏は話す。
また、リウマチセンターでは2021年6月、地域の開業医を対象に「リウマチ医療連携セミナー」も開催した。セミナーは、リウマチセンターの医師が院内の多職種連携によるチーム医療の実際を報告し、リウマチセンターと連携を図っている地域の整形外科開業医が連携の意義を語るという内容だった。今後も、こうした講演会を定期的に開いていくことにより、循環型の病診連携の効用を宣伝していきたい考えだ。
センター化で紹介患者が目に見えて増加
開設して半年余りを経た聖隷浜松病院リウマチセンターだが、センター開設の効果は確実に表れているようだ。宮本氏による地域の開業医への働きかけもあり、リウマチの紹介患者(初診)の数が、センター開設前に比べ2〜3割増えているという。この点について、宮本氏は「コロナ禍でウェブの講演会や研究会が増え、医者も飽き飽きしているところがあります。こうしたオンラインの手法だけではなく、直接訪問し、互いの顔を見ながら連携の意義を伝えてきた成果が少しずつ現れているのだと思います」と語る。
ただし課題もある。その一つはリウマチセンターのマンパワーに限りがあり、すべての患者への対応は難しいことだ。まだ開始して間もないため、今後の課題として徐々に対象を広げていきたい考えだ。
また、薬剤師や看護師の働きに、診療報酬による裏付けを持たせることも今後の課題といえる。過去の診療報酬改定では、採算度外視で始めた医療現場の先駆的な試みが、後に評価され点数化された例も少なくない。宮本氏は「薬剤師や看護師が介入することによって『これだけのメリットがある』ということを、一定の尺度で評価して点数化につなげていくことは、自分たちの責務だと思っています」と話す。
そんな宮本氏が考えるリウマチセンターの理想型は、膠原病リウマチ内科と整形外科が、隣り合って外来診療を行える専用ブースの設置だという。「膠原病リウマチ内科に来た患者さんでも、『整形外科でここを診てほしいな』というときには、すぐ隣で相談に応じたり診察してもらえるような、二つの診療科が一緒に患者さんに対応できるスタイルを実現したいですね」と言う。さらに今後は、コロナ禍で控えざるを得なかった、患者向けの啓発活動にも力を入れていく方針だ。
院内の多職種によるチーム医療の実践から、地域開業医との連携、そして患者への働きかけまで──。まだ歴史が浅い聖隷浜松病院リウマチセンターだが、その意欲的な取り組みの今後が注目される。
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宮本 俊明 氏
1998年浜松医科大学卒業、同大学附属病院勤務。1999年聖隷浜松病院に。膠原病リウマチ内科部長を務めるほか、2020年10月からはリウマチセンター長を兼務している。(写真は宮本氏提供)