骨粗鬆症対策のため限られた医療資源をフル活用

東埼玉総合病院が位置する埼玉県幸手市と隣接する杉戸町、宮代町は、住民の高齢化率が30%を超える一方、全国有数の医療過疎地域でもある。同病院は、骨粗鬆症マネージャーを中心とした「骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)」に取り組む一方、埼玉県北葛北部医師会と協働して独自の「骨粗鬆症サポーター」制度を創設して活用。さらに、30カ所にも上る周辺のクリニックと診療ネットワークを構築するなど、限られた医療資源をフル活用して骨粗鬆症対策に当たっている。

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス
東埼玉総合病院(埼玉県幸手市)

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス
東埼玉総合病院
東埼玉総合病院は、幸手市と杉戸町、宮代町発生の救急案件の約3割をカバーするともに、年間30人前後の在宅看取りも行っている。

 東埼玉総合病院は、埼玉県東部の幸手市にある一般病床189床を擁する総合病院だ。前身は1973年に隣の杉戸町に開設された東埼玉病院で、2012年5月に現在の幸手市へ新築移転した。

 この地域は全国屈指の高齢化地域である。内閣府の高齢化推計によると、65歳以上の人口割合(高齢化率)は幸手市で32.0%、杉戸町で30.7%と全国平均の27.4%を上回っている(いずれも2018年2月1日現在)。同病院の副病院長で獨協医科大学臨床教授を兼務する浅野聡氏は「この地域の高齢化率は10年後の日本に匹敵します」と指摘する。つまり、日本の平均を10年先取りする形で高齢化が進展している状態だ。

 高齢化が進めば必然的に介護の問題が大きくなる。厚生労働省の調査では、介護が必要となる原因疾患の1位が認知症であり、骨粗鬆症による骨折、転倒は第4位である。ところが浅野氏によれば、「幸手市、杉戸町では介護が必要となる原因の第1位は、骨粗鬆症による骨折や転倒」だという(図)。高齢化が進んでいるこの地域では、脆弱性骨折に対する取り組みが待ったなしの状況にある。


図:幸手市と杉戸待ちにおける介護が必要になった原因(第6期介護保険事業〔2014年3月〕のデータによる)

 

 一方で同地域には、全国屈指の医療過疎地域という側面もある。埼玉県は人口当たりの医師数が全国ワーストの都道府県であるが、幸手市と杉戸町、宮代町を含む利根医療圏は、県内で医師数が最も少ない医療圏である。

 進む高齢化、求められる骨粗鬆症への対応、そして限られた医療資源──。これら複合した問題を解決するために、東埼玉総合病院では次のような方策を取った。院内においては多職種による「骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)」を通じて骨粗鬆症の検査率と治療率を向上させること、院外においては患者を診る広範な診療ネットワークを地域に構築することだ。

「骨粗鬆症サポーター」制度で多職種ケアを実現

 脊椎脊髄病を専門に扱う浅野氏によると、東埼玉総合病院では1年間に入院する骨粗鬆症性骨折の内訳は、椎体骨折70~80例、大腿骨近位部骨折70~80例、上腕近位端骨折が約10例、橈骨遠位端骨折が約20例である。椎体骨折は主に保存治療を行い、それ以外の骨折では、ほぼ全例に手術を施行している。また、同病院に登録された骨粗鬆症患者は2000例に上る。そこで同病院では、2015年に多職種で患者の骨粗鬆症診療に当たるOLS委員会を立ち上げ、骨粗鬆症マネージャーを4名輩出している。

東埼玉総合病院で骨粗鬆症患者のケアに当たるスタッフたち。左端が浅野氏。

 
 加えて東埼玉総合病院の骨粗鬆症診療を支える上で大きな役割を果たしているのが「骨粗鬆症サポーター」だ。骨粗鬆症サポーターは、東埼玉総合病院OLS委員会の協働のもとで埼玉県北葛北部医師会が独自に作った、骨粗鬆症診療を支えるスタッフを認定する制度である。骨粗鬆症マネージャーと骨粗鬆症サポーターが互いに協力して患者に向き合っている点が、東埼玉総合病院における骨粗鬆症診療の大きな特徴になっている。

 骨粗鬆症マネージャーは、日本骨粗鬆症学会が看護師や理学療法士などを対象に、骨粗鬆症に関する知識を有する専門スタッフとして認定している資格である。医療・介護・福祉に関する国家資格を有すること、学会員であることが必要であり、レクチャーコースを受講後に認定試験に合格しなければならない。また、学会への参加や、活動報告や論文発表、研修単位の取得など、資格を継続更新するために5年ごとの高いハードルが課せられている。骨粗鬆症マネージャーが院内でイニシアチブをとり診療を支えることが期待されているが、現状では診療所や高齢者施設で活躍している例は少ない。

 これに対し骨粗鬆症サポーターは、骨粗鬆症マネージャーの役割を補完する存在と位置づけられており、どの職種であっても講習会の受講などによって比較的容易に取得できる。既に埼玉県北葛北部医師会は290名の骨粗鬆症サポーターを認定しているが、その半分を東埼玉総合病院のスタッフが占める。医療・介護・福祉に関する国家資格を前提としないため、事務職からも骨粗鬆症サポーターが誕生している。

 「骨粗鬆症サポーター制度が導入されたことで、多くのスタッフが自発的に患者をケアするようになりました」と浅野氏は言う。例えば、骨粗鬆症サポーターである診療放射線技師が、別の疾患の診断のために撮影したCT画像から椎体骨折を発見し、担当医師に連絡することで骨粗鬆症検査・治療に結びつけるプロジェクトが行われている。また、骨粗鬆症サポーターの薬剤師が、ステロイド剤を処方された患者を『ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン(2014年改訂版)』に照らし合わせて骨粗鬆症検査・治療が必要な例をピックアップし、骨粗鬆症外来へ繋げる取り組みも開始されている。

 こうした取り組みの結果、東埼玉総合病院では脆弱性骨折の入院患者における骨粗鬆症の検査率がほぼ100%に達し、治療開始率も70〜80%という高い水準を達成している。

訪問を繰り返して地域連携網を構築 

 骨粗鬆症の治療は、ただ薬剤を処方しているだけでは十分でない。新たな脆弱性骨折が生じていないか、治療薬が骨密度や骨代謝マーカーにどのような影響を与えているか、を定期的に検査する必要がある。「高血圧治療で血圧を測らない、糖尿病治療でHbA1cを調べない医師はいません。しかし骨粗鬆症治療では、効果を適切に評価しないまま医療が行われている現状があります」と浅野氏は憂う。

 とはいえ治療効果判定において特に重要な、腰椎と大腿骨の骨密度を計測する全身型DXA機器を保有する医療機関は多くない。そこで始めたのが「DXA共同利用」による地域連携だ。他院で治療を受けている患者が半年に1回、東埼玉総合病院で検査を受けて、かかりつけの主治医が治療効果を評価する。現在、周辺のクリニック30施設と骨粗鬆症のネットワークを構築している。浅野氏が一つひとつの医療機関に直接訪問して参加を要請して得られた成果だ。

児童や父兄相手に骨粗鬆症を授業

 「治療を継続するために最も重要なことは、患者さんやその家族に骨粗鬆症という病態を理解してもらうことです」。こう語る浅野氏は「患者さんや家族には、骨折しても『年なんだから仕方ない』という思い込みがまだ強くあります。また、たとえ骨折しても治癒すれば、予防の重要性が忘れ去られてしまいます」とも言う。

 さらに、浅野氏が提起したのが「0次予防」の重要性だ。0次予防とは聞きなれない言葉だが、骨粗鬆症による骨折を予防する1次予防、骨折後に次の骨折を防ぐ2次予防に対し、0次予防とは骨粗鬆症そのものを予防することを意味する。それゆえ、特に思春期から最大骨量を獲得する18~20歳までの女性にアプローチすることが重要となる。

 0次予防の重要性を説くため、東埼玉総合病院では地域の小学校校長会の了解を得て、2019年に小学生とその保護者を対象に特別授業を行った。看護師が体の中での骨の役割と重要さについて、理学療法士が運動の大切さを、管理栄養士が骨の健康を守るための食事の大切さを児童に説明。また、浅野氏が骨粗鬆症の診療と予防の重要性を保護者に説明したという。

 「保護者といっても、ほとんどは若いお母さん方。言ってみれば骨粗鬆症予備軍に相当します。この世代の女性に、骨を健康に保つ意義を知ってほしいと考えました。『年を取ったら骨折は当たり前』という意識そのものを変えていきたいですね」。こう意気込む浅野氏は「女性の最大骨密度は18~20歳で獲得されます。この年齢までにいかに多くの骨を作るか、また生涯を通していかに骨密度をなるべく減らさない生活を送るか。その重要性を、授業を通して認知していただきたい」と話している。

--------------------------------------------------

浅野 聡 氏

1982年北海道大学医学部卒業。
釧路労災病院整形外科部長、獨協医科大学越谷病院整形外科講師、米国トマス・ジェファーソン大学留学、スイス・シュルテスクリニック留学を経て、2003年獨協医科大学越谷病院整形外科助教授、2005年東埼玉総合病院埼玉脊椎脊髄病センター長、2011年獨協医科大学臨床教授(併任)、2012年   東埼玉総合病院副病院長。

閲覧履歴
お問い合わせ(本社)

くすり相談窓口

受付時間:9:00〜17:45
(土日祝、休業日を除く)

当社は、日本製薬工業協会が提唱する
くすり相談窓口の役割・使命 に則り、
くすりの適正使用情報をご提供しています。