多摩地区で高度なリウマチ膠原病診療を実現

東京都立多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科では、1990年に前身である都立府中病院にリウマチ膠原病科が開設されて以来、リウマチ内科とリウマチ外科の連携を全国に先駆けて行ってきた。現在、同科が診療する患者は年間3500人に上り、多摩地区において都心の大学病院と同等の高度な医療の提供を実現している。

東京都立多摩総合医療センター リウマチ膠原病科(東京都府中市)

東京都立多摩総合医療センター リウマチ膠原病科
東京都立多摩総合医療センターは35診療科と889床を有する。

 多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科を率いるのは、2010年から同科の医長として診療に当たってきた島田浩太氏だ。2020年に同科部長に就任した島田氏は「当院では、高いレベルの標準的な診療が受けられる体制を整備することによって、これまで都心の大学病院に通わざるを得なかった患者さんを多摩地区に引き戻すことができています」と語る。

膠原病の専門外来を立ち上げ

 多摩総合医療センターでは、リウマチ膠原病科に「全身性エリテマトーデス(SLE)外来」や「レイノー外来」といった専門外来の設置などにより、島田氏の言う「高いレベル」の診療を実践している。これら専門外来の立ち上げにあたっては、疾患名を冠してアピール度を高める一方、レイノー外来に限っては紹介状なしで受診する患者も受け入れることで、膠原病を早期の段階で拾い上げることを狙ったという。

 その狙いは、着実な成果を上げつつあるようだ。「SLE外来やレイノー外来が設置されてから5年ほどしかたっていませんが、徐々に受診する患者さんが増えています。以前はリウマチ膠原病科を受診する患者さんの多くは関節リウマチの患者さんだったのですが、今ではその比率は半分以下にまで減っています」と島田氏は話す。

 SLE外来を主に担当しているのは、リウマチ膠原病科で医長を務める横川直人氏だ。横川氏は、米国でリウマチ膠原病のフェローとなった経歴を持つSLE診療のスペシャリスト。帰国後に、欧米ではSLEの標準治療薬となっているヒドロキシクロロキンが日本で使えない実態を受け、その承認に向けて中心的な役割を果たした人物でもある。島田氏は「SLEに非常に詳しい横川がいることで、その下でSLE診療を学びたいという専攻医が集まってくることを期待しています」と言う。

 一方のレイノー外来では、後爪郭皮膚の毛細血管を観察することができる装置「キャピラロスコピー」を輸入して、いち早く導入。全身性強皮症や皮膚筋炎などの膠原病の早期拾い上げに努めている。

 さらにリウマチ膠原病科では、隣接する東京都立小児総合医療センター腎臓・リウマチ膠原病科の小児リウマチ膠原病外来との連携関係を構築。十代後半のリウマチ膠原病患者の移行期医療にも積極的に取り組んでいる。「多摩総合医療センターと小児総合医療センターは建物が中でつながっていますので、互いに行き来して患者さんのカルテを一緒に見たり、治療について相談したりすることが日常的にできています」と島田氏は語る。

 小児リウマチ膠原病外来を担当する赤峰敬治氏は、米国で小児リウマチ膠原病のフェローを経験したことから前出の横川氏の知己となり、その縁で小児総合医療センターに着任した。多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科も兼務しており、両者の橋渡し役を務めている。

 また、多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科では、同科が主導する形で東京都立多摩北部医療センターと東京都立多摩南部地域病院にもリウマチ膠原病科を設置。担当医の相互派遣や共同臨床研究などを通じて連携を深めている。「3病院のリウマチ膠原病科では毎週、共同オンラインカンファレンスを開催していて、『こんなときどうしていますか?』などと気軽な情報交換も行える環境をつくっています」と島田氏は話している。

都立3病院のリウマチ膠原病科の合同カンファレンス風景。(島田氏提供)

 リウマチ膠原病診療に不可欠な「持続可能性」

 多摩地区において高度なリウマチ膠原病診療を展開する上で、最も注力している事柄は何か。それを問うと、島田氏からは「持続可能性」という答えが返ってきた。「高度な医療を提供することはもちろん、それを支える臨床研究や、情報発信をしていくことも必要です。ただ、そうした活動は持続可能でないと何の意味もありません」と島田氏は言い切る。

 持続可能性を担保する要素の一つが、絶えず医師が集まる診療科であり続けることだという。「診療科として存続するためには、常に医師が来てくれることが必要です。言い換えれば、医師にとって魅力のある診療科でなければならないということです」。こう語る島田氏は「そのために、リウマチ膠原病科はどうあるべきかということを常に意識しています」とも付け加える。

 医師にとって魅力的な診療科であるためには、働き方改革への対応も欠かせない。「医師がヘトヘトになって辞めてしまったら元も子もないので、多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科では、主治医制でなくチーム制をとっています。誰か一人がいないとその入院患者さんのことが分からないという状況は排して、例えば子どもの発熱で医師が急きょ帰宅せざるを得なくなった場合でも、他のスタッフがカバーできる体制を整えています」と島田氏。

 外来でもチーム制を徹底している。外来担当医を表にしてホームページなどで公表している医療機関は少なくないが、多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科では、あえて担当医の名前を出さないようにしている。この点について、島田氏は「患者さんが特定の主治医に紐づいているという形ではなく、診療科全体でその患者さんを担当するという姿勢で臨んでいます」と話す。

 そのためカルテの記載については、担当医が代わってもすぐ対応できるよう、詳細に記入することをスタッフに要請している。「リウマチ膠原病の患者さんでは、受診時に生じている症状がリウマチ膠原病に起因するものなのか、あるいは感染症などによるものかなどが明らかでないケースが少なくありません。合併症などについての情報も必須なので、スタッフには詳しくカルテを記入するよう求めています」と島田氏は言う。

 また、入院患者のカルテに関しては、基本的なフォーマットを決めておいて、そこに個々の医師が必要な情報を記入することにより、互いに情報共有を図れるようにしている。島田氏は「記入する医師によって独自のカラーが出ることは当然ですが、一定の枠の中で必要な情報を記入してもらうようにしています」と語る。

 ただし島田氏は、個々の医師の診療方針に枠をはめることはしない。「当科では、リウマチ膠原病の診療に携わりたいという若い医師が集まることを目指しているのですが、科としての方針を押し付けるようでは、医師にとって魅力ある職場とは言えなくなってしまいます。スタッフが互いに意見を自由に言い合える環境を維持しながら、個々の医師の判断をできるだけ尊重するよう心がけています」と言う。

リウマチ膠原病科のスタッフたち。(島田氏提供)

 医師リクルートに様々な手法を駆使

 診療科としての「持続可能性」を高めるため、多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科では、次のような様々な手を打っている。

 一つは、医長の横川氏などの講演活動により、SLEをはじめとする膠原病の診療を志向する若手医師を集めること。「『横川先生の講演を聞いて多摩総合医療センターを知りました』と言ってスタッフに加わってくれる人もいます」と島田氏。筋骨格超音波検査のレベルアップや遺伝子診断を担当するもう一人の医長である三好雄二氏の講演も、人材獲得に貢献しているという。

 また、インターネット検索で情報を得て、スタッフに加わる若手医師も少なくないという。「特定の大学からの派遣に頼っていないこと、スタッフが平等であること、診療方針を上から押し付けるのではなく個々の医師の自主性を大切にしていることをホームページに掲載しています。これを見て当科を志望してくれる人もいます」と島田氏は語る。

 このほか一般内科や総合診療を手がける医師が、診療の幅を広げるためにリウマチ膠原病を学ぶ例も増えているという。「総合内科の実務経験を有する医師が、サブスペシャリティとしてリウマチ膠原病を選択するケースが増えていることは、最近の傾向と言えるかもしれません」と島田氏は話す。

 女性医師の活躍に取り組んでいることも、人材獲得に寄与しているようだ。「これまでは女性だから、子育て中だから、ということで非常勤になる例が少なくありませんでしたが、女性医師が働きにくいのは社会のサポート体制が整っていないからです。当科では、男女を問わず働きやすい環境を目指し、非常勤だった女性医師を全て常勤に転換しました」と島田氏。常勤となった女性医師の中には、妊娠の可能性があるリウマチ膠原病患者を診るために新設された「プレコンセプション外来」を担当している人もいるという。

 「多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科に来ても、それだけで優秀なリウマチ膠原病医になれるわけではありません。やる気があって、自分で調べて、それを実際の診療現場に応用していくという意欲がある医師が、当科には向いています。それを一人でやりきるのは難しいのですが、当科には世界標準の治療をしたいとか、最新の論文から得た知見を臨床に応用したいという、高い志を持った先輩や仲間がたくさんいます。一人では実現できないようなテーマに、ぜひ当科で一緒に取り組んでもらえれば、と考えています」と島田氏は話している。

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島田 浩太 氏

1997年東京大学医学部卒業、同大学医学部附属病院分院・本院にて内科研修。大宮赤十字病院、国立相模原病院リウマチ科、東京都立多摩総合医療センターリウマチ膠原病科医長、東京都病院経営本部経営企画担当課長を経て。2020年より現職。(写真は島田氏提供)


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