患者情報をより引き出すため看護師によるリウマチ関節エコーを導入

北播磨総合医療センターのリウマチ・膠原病内科を率いるのは、日本におけるリウマチ関節エコーの第一人者として知られる診療科長の三崎健太氏だ。現在、同診療科では新しい試みとして、看護師によるリウマチ関節エコー検査の導入を進めている。患者がリラックスして検査が受けられる環境を作り、診療に役立つ患者情報をより多く引き出す狙いがある。

北播磨総合医療センター
リウマチ・膠原病内科
(兵庫県小野市)

2013年設立の北播磨総合医療センターは450床、36診療科を擁する。リウマチ・膠原病内科は設立から3年後の2016年4月に常勤医が赴任した。

北播磨総合医療センターが設立されたのは2013年のことだ。小野市民病院と三木市民病院という2つの公立病院の統合により、両市を結ぶ国道175号線沿いに450床、36診療科の新病院が誕生した。 

リウマチ・膠原病内科は旧病院のどちらにも無かったが、開院から1年がたった2014年に当初はリウマチ科として新設され非常勤医師が対応していたが、2016年4月より現在のメンバーらが常勤医として着任した。現在の外来患者数は1100人ほど。人員構成は日本リウマチ学会の専門医4人を含む医師7人と充実しており、兵庫県北部におけるリウマチ・膠原病診療の拠点としての役割を担っている。同科を率いるのは、関節エコー検査を早期から関節リウマチの診療に取り入れ、日本での標準化に取り組んだことで知られる三崎健太氏だ。 

「エコー検査を制する医師が救急外来を制する」との教えで手技を研鑽

三崎氏は関西医科大学医学部を2003年に卒業後、神戸大学医学部老年内科に入局したが、どんな患者でも診られる技術を持ちながら専門領域も極める医師になりたいと考え、同大学の免疫内科に転科した。 

後期研修では、まず救急の腕を磨くために市中病院勤務を志願して倉敷中央病院(岡山県倉敷市、現・山形専院長)へ出向。そこで出会った上級医に、「エコー検査(超音波診断装置)を制する医師が、救急外来を制する」と教えられて、エコーの手技研鑽に真剣に取り組んだ。もちろん救急の現場でもCTやMRIは使うが、個室空間かつ時間がかかるため検査中に患者が亡くなることもある。迅速な対応には、エコーによる診断技術がより役立ったのだという。 

一方、リウマチ診療では、1分1秒を争う検査が必要な場面には、ほとんど出合わない。なぜリウマチにエコー検査を活用しようと考えたのかについて、三崎氏は次のように説明する。 

「2006年頃、欧州で関節リウマチの診断にエコー検査が使われ始めていると聞いて興味を持ったのです。当時、日本ではリウマチの診断マーカーとして抗CCP抗体(ACPA)が普及し始めていました。ACPAは非常に優れたマーカーですが、この指標だけに頼っていると、1~2割の患者さんの発症を見逃すリスクがあります。リウマチの治療法が劇的に進展し、早期発見・早期治療が予後に大きく影響するようになった中で、これは大きな問題だと感じました。CT検査やMRI検査を並行して実施すれば診断精度を補完できますが、CTには放射線被曝の問題があり、MRIには検査予約が取り難くて検査費用が高いといった課題があります。一方、エコーなら被曝の心配がなく、施設の大小に関係なく誰でもどこでも同じように検査ができます。診察室で検査をしてすぐに結果が分かる点も、患者さんと医師が相談しながら治療方針を決める『シェア・ディシジョン・メーキング:SDM』に適していると考えました」(三崎氏)。 

当時はエコーのプロ―ブの性能が今ほど高くはなく、表在組織の鮮明な画像が十分に描出できなかったが、その後、急速に技術が進歩して関節リウマチの診断にも使えるようになっていった。三崎氏が本格的に関節エコーを診療に取り入れ始めたのは、関節エコーの「本場」である欧州に留学し、手技を学んで帰国した2011年頃からだったという。 

欧州留学で三崎氏が手ほどきを受けたのは、解剖に基づいたリウマチ関節エコー(Sonoanatomy)の第一人者として知られるイングリッド・モーリャー医師(Dr. Ingrid Møller, director and consultant in rheumatology and musculoskeletal sonography at the Instituto Poal de Reumatología, Barcelona, Spain, assistant professor of anatomy at the University of Barcelona.)だ。現在も三崎氏はモーリャー氏を師と仰ぎ、親交を続けている。 

「毎年開催の欧州リウマチ学会、米国リウマチ学会、2年ごとに開催のOMERACT会議(リウマチ分野における臨床試験のアウトカム測定に関するコンセンサス会議)には必ず参加して、モーリャー先生に面会するとともに、欧州の医師たちと情報交換をしています。北播磨総合医療センターで世界レベルの医療を提供するために、常に最新情報を取り入れ、実臨床に応用することを心がけています」(三崎氏)。

リウマチ関節エコーをコミュニケーション・ツールとしても活用 

近年、日本でも、関節エコーはリウマチの早期発見や症状の変化を定期的にモニターするための有用な検査として認識され、多くの施設が診療に取り入れている。三崎氏はそうした現状を好ましく捉えつつも、関節エコーのメリットは、それだけではないと考えている。現在、リウマチ・膠原病内科で力を入れて取り組んでいるのは、関節エコーを患者と医療者のコミュニケーション・ツールとしても活用することだ。 

「特に看護師によるエコー検査には、大きなメリットがあると考えています。関節エコーの手技はリウマチの早期発見において重要ですが、同じように大事なのは患者さんの全身を診ることと、患者さんとの会話から診療に必要な情報をしっかり引き出すことです。日本では医師の指示の下、臨床検査技師に加えて看護師もエコー検査をすることができます。これは欧米には無い制度で、うまく生かせば詳細な患者情報の取得に役立ち、リウマチ診療を一段レベルアップさせられると考えています」(三崎氏)。 

北播磨総合医療センターのリウマチ・膠原病内科では、主に初診時に看護師による関節エコーを実施している。その手順は次のようなものだ。最初は通常通り三崎氏が患者の正面に座り、「今から関節エコーをやっていきますね」と話しかけて自身でプローブを当てる。所見がある箇所を探り当てたところで、「このエコー検査は日本では看護師もやっていいことになっているので、今度はこちらの看護師にやってもらいますが、いいですか」と患者に問いかけ、患者が承諾すれば看護師にプローブを渡す。 

患者と正対する席を看護師に譲り、自身は患者と看護師、エコーのモニターが俯瞰できる場所に立って検査を見守りながら「お仕事が〇〇だったら、手はよく使いますか」といった具合に患者に質問を投げかけて診療情報を引き出していく。その間、看護師は自分のペースでプローブを動かしながら所見のある部位を探ることができる。三崎氏は時折、冗談を交えて看護師にも話しかけ、医師と看護師と患者の3人で会話が回るような場を作り、和ませる。 

三崎氏自身も看護師も、患者にプローブを当てる際には利き手にプローブを持ち、反対の手は必ず患部に添えている。超音波が空気で反射しないようにプローブと肌の隙間はジェルで埋めるが、ジェルはあらかじめ人肌に温めてあるのでプローブが触れても冷たくなく、肌の上をプローブが滑るのを患者はむしろ心地よく感じるようだ。「医療者が患部に温かい手を添えつつ、温かいジェル越しにプローブを当てていきます。温もりとタッチングの効果で、患者さんが自分のこと、症状のことを話しやすい環境になると考えています」(三崎氏)。 

「看護師がエコーをすれば大切な情報がもっと引き出せる」 

現在はいわば試行期間で、近い将来、診察室とは別の部屋で看護師単独でエコー検査をしてもらう方針だという。「ただしエコー検査全てを任せることはしません。考えているのは『POCUS(Point of Care Ultrasound:的を絞った短時間のエコー検査)』です」(三崎氏)。診察時に三崎氏が最も重要な1~2点を自身が検査で観察。大まかな検査方針が決まったところで、残りの検査を看護師に指示して別室で実施してもらう構想だ。そのために、診察室の据え置き型のエコーとは別に、ポータブル型のエコーを既に導入済みだ。別室での検査では、看護師が時間をかけて患者の足の指1本1本にプローブを当てるなど丁寧に検査を実施し、検査中の会話を通じて患者から追加の情報も引き出していく。

                                    日本リウマチ財団ケアナースで日本リウマチ学会のソノグラファー資格も持つ外来看護師の松原綾氏。三崎氏の提案に応じて、看護師による関節エコー検査を担当し始めた。


 リウマチケア看護師で日本リウマチ学会のソノグラファー資格も持つ外来看護師の松原綾氏は、「三崎先生から『看護師もソノグラファーの資格が取れるんですよ。やってみませんか』と言われ、資格取得に挑戦しました」と話す。松原氏がその提案に応じたのは、三崎氏の考えと同じく、患者とのコミュニケーションを密にする手段として「看護師による関節エコー検査」が魅力的だと感じたからだ。 

患者は医療者に、自分や自分の病気のことを全て話してくれるとは限らない。特に医師に対しては、話しづらいと感じる患者が多いようだ。しかしそんな患者でも、看護師には相談してくれることがある。松原氏自身、「大丈夫、大丈夫。生活に支障はないです」と医師に告げて診察室を出た患者から、「実は〇〇ができないんだよね」と本音を明かされた経験が何度かあるという。「看護師がエコー検査をするようになれば、検査時間に患者さんと密に話ができて、大切な情報がもっと引き出せると考えました」(松原氏)。 

松原氏が言う「看護師の方が医師より話しやすい」という患者心理に加えて、三崎氏は、リウマチ患者の多くは女性スタッフに対して話しやすく感じる傾向があるとも指摘する。「リウマチは4:1で女性に発症することが多い病気です。患者さんが女性の場合、女性同士の方が話しやすく、女性目線の方が患者さんの変化や悩みに気付きやすい側面もあると思っています」。 

ちなみに三崎氏は、診療科の他の女性スタッフに対しても、患者について気付いたことがあれば教えてくれるよう伝えている。「先日は医療クラークが、ある女性患者が前回はしていなかった指輪を付けていたことに気付いて、教えてくれました。それがきっかけで患者さんが結婚していたことが分かり、治療方針の修正につながった事例もあります」(三崎氏)。

                                    医療クラークの井上幸恵氏は、「診察の際、なるべく効率よく三崎先生が動けるよう手助けするのが私の仕事です。それに加えて、診療の役に立つということなので、患者さんについて気付いたことがあれば先生に伝えるようにしています」と話す。

 世界レベルのリウマチ診療を地域の全ての患者に

 三崎氏の長期的な目標は、世界レベルのリウマチ診療を、医療資源の乏しい地域で暮らす患者にも提供することだ。「近年、リウマチの治療法が劇的に進化し、リウマチはもはや『不治の病』ではなくなりました。これはペニシリンの発見と同じくらい大きなインパクトを持つ変化だと私は思っているのですが、住居近隣にリウマチ専門医がいないために、その恩恵を受けられない患者さんが日本にもまだたくさんいます」(三崎氏)。 

三崎氏はこれまで、北播磨総合医療センターで世界レベルのリウマチ診療が提供できるよう、診療科の若い医師らとともに関節エコーの手技や全身を診る診察技術を磨く一方、優れた新薬が承認と同時に使えるよう薬剤部と連携を深めるなど様々な努力と工夫を重ねてきた。今回紹介した「看護師による関節エコー検査」の取り組みも、その一環といえる。 

次のステップとして、北播磨総合医療センターから15kmほど北にある市立西脇病院(西脇市)にリウマチ・膠原病外来を開設し、出張診療する取り組みを始めている。同病院に常駐のリウマチ専門医はいないが、北播磨総合医療センターのリウマチ・膠原病内科の医師が週1回交代で出向いてセンターと同じ診察を行っている。「出張外来、遠隔診療などを組み合わせて、兵庫県北部エリア全体に世界レベルのリウマチ診療を届けていきます。地域の診療所や病院の医師にもリウマチ診療の変化を伝え、連携を深めたいと思っています。それがこれから5~10年の、私の目標です」と三崎氏は意気込みを語る。


リウマチ・膠原病内科の医師、外来スタッフたち。

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三崎 健太 (みさき けんた)氏

2003年関西医科大学卒、神戸大学医学部免疫内科入局。倉敷中央病院、神戸大学大学院医学研究科、スペイン・バルセロナ留学を経て、2012年倉敷中央病院リウマチ内科副医長、2014年同医長。
2016年に北播磨総合医療センターに移り、2019年より同センターリウマチ・膠原病センター副センター長兼主任医長兼診療科長


 


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