大学病院との役割分担で臨床・教育に取り組む

岡山市立総合医療センター岡山市立市民病院の膠原病・リウマチ内科は岡山大学病院の関連施設の1つだ。2015年に岡山大学病院から赴任し、診療科長を務めている若林宏氏は、特に臨床と教育に力を入れている。若い医師に対しては「臨床にファインプレーは必要ない」と説き、基本的な内科診察技術の習得を促しているという。

岡山市立総合医療センター
岡山市立市民病院
膠原病・リウマチ内科(岡山市)

岡山市立総合医療センター岡山市立市民病院は2015年に北長瀬駅前に新築移転した。病床は400床、27診療科(2024年1月現在)。

 岡山市立総合医療センター岡山市立市民病院は、岡山市が100%出資する地方独立行政法人「岡山市立総合医療センター」を経営母体とする公立の医療機関だ。開設されたのは1936年。旧病院はJR岡山駅の南東2kmほどの場所にあったが、2015年にJR岡山駅から南西に約4km、山陽本線の1つ先の北長瀬駅前に新築移転した。2024年1月現在の病床数は400床で、1日の平均外来患者数は約700人だ。 

 同病院は岡山大学の関連施設の1つだが、膠原病・リウマチ内科には、新病院ができるまで常勤の医師は派遣されていなかった。2015年に初の常勤専門医として岡山大学から赴任し、以来、診療科長を務めているのが若林宏氏だ。その若林氏が今、一生懸命取り組んでいるのが「教育」だという。若手医師の教育だけでなく、看護師や薬剤師など他職種の教育にも力を入れている。

                                 膠原病・リウマチ内科の診療科長を務める若林宏氏。

若手医師の教育では基本的な技術習得を重視 

 若林氏は、岡山市立市民病院に赴任することになった背景を次のように話す。 

 「大学病院の重要な使命として臨床、教育、研究がありますが、高度専門化により、岡山大学病院だけで3つ全ての役割を担うのは年々難しくなっていました。重症患者への対応や研究に時間を割かれがちで、特に、時間をかけて若い医師に基本的な診察技術を教えることが難しくなっていました。大学のプライオリティーは研究であり、それに注力しやすい環境を整えるためにも、臨床、教育を担う中核病院が必要でした。そこで新築移転を機に、臨床と教育に主軸を置いて取り組んでみたい気持ちもあり、元々外勤でお世話になっていた当院に赴任してきました」 

 現在、岡山市立市民病院膠原病・リウマチ内科の専攻医は2人で、2024年春にはさらに2人が加わり研修をスタートする。また、岡山大学病院リウマチ・膠原病内科の専攻医研修プログラムにも組み入れられているため、同科所属の専攻医もやって来る。もちろんローテーションで回ってくる岡山市立市民病院の研修医の教育も、若林氏が担当する。 

 若林氏が医師教育で重視しているのは、内科医としての基本的な技術を身に付けてもらうことだ。「医学部を卒業して医師になる人は、基本的にみな勉強が得意な人たちですから、教科書に書いてある答えは自分自身で見つけられます。しかし目の前の患者さんをどう診察して、その結果をどう解釈するかといったことは、教科書には書いてありません。正解があるかどうかさえ分からない場合もあります。ですから私たち指導する側の医師は、基本的な診察の手技と、答えを探す方法をしっかり教えてあげることが重要だと考えています。自分で力を伸ばしていくための土台を作る手助けをしてあげるということです」。 

 同科に配属された専攻医に、若林氏はまず、膠原病内科の初診外来を担当させている。見落としのない診察の仕方を学んでもらう意図がある。初診の患者に聴いたり実施したりすべきアセスメントの項目は、若林氏がリストを作って専攻医に渡している。そのリストを診察室のデスクに置き、一つひとつ項目を潰していけば漏れなく必要な所見が取れ、自然と「診察の型」が身に付くのだそうだ。 

病棟回診でフィジカルアセスメントのコツと解釈を指導 

 ただし、聴診、触診、打診などのフィジカルアセスメントについては、自分のやり方や解釈が合っているのかが、経験が浅い医師には確かめられない。なので、その点は病棟回診で指導しているという。 

若林氏の回診には、そのとき診療科に在籍する専攻医、研修医みなが同行する。一人ひとりの患者を回って、疾患と病状を確認した上で、まず若林氏が聴診、触診、打診などをやって見せる。次に、若林氏がやったのと同じフィジカルアセスメントを、同行する若い医師にやってもらう。 

 例えば、しびれがある指や腫れがある関節などを実際に触ってみてもらい、所見の取り方のコツや解釈などをその場で伝える。指導する側と指導を受ける側が同じ患者の診察をほぼ同時に行うので、説明がダイレクトに伝わるのがこの指導の特徴だ。患者の前で言いにくい説明は、毎日、夕方に行っている「振り返りミーティング(サインアウト・ミーティング)」で伝えているとのことだ。 

 専攻医らは毎週2回の回診を通じ、若林氏のフィジカルアセスメントを間近で見て、自身でそれをやってみて、所見が正しく取れたかどうかの「答え合わせ」もすることができる。これを何度も繰り返すことでフィジカルアセスメントをマスターし、外来診療に生かすことができるようになっていくわけだ。 

 「リウマチ、膠原病の診療に、ファインプレーは必要ありません。正しい診察や正しい病態の把握、正しい治療の選択をひたすら積み上げていくことが大切で、その結果が『よくなる』ことにつながります。ミスのない診療を継続すること、それが私たちにとってのファインプレーだと私は考えています。研修医や専攻医には、そのことを日々伝えています」と若林氏は話す。 

リウマチセンターで多職種協働や教育に取り組む 

 岡山市立市民病院に設置されているリウマチセンターには、膠原病・リウマチ内科、整形外科の医師の他、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、臨床検査技師、歯科衛生士、社会福祉士などが所属している。センター長を兼務する若林氏は、同センターでの多職種協働を通じて各職種の教育とワークシェアリングに積極的に取り組んでいる。 

 リウマチセンターでは、患者向けに「リウマチ教室」として講演会を開催しているほか、WEBマガジンの発行やセルフケアの手引書制作なども手掛けている。特徴的なのは、その演者や執筆、制作などを、医師とその他の医療スタッフが自らの専門性を生かす形で分担し、患者に分かりやすく伝えていることだ。 

 例えば2023年に発行されたWEBマガジンの実績(9月まで)を見ると、1月は臨床検査技師が「関節リウマチの検査について」、2月は若林氏が「リウマチ薬の進化について」、3月は社会福祉士が「福祉用具と住宅改修について」、4月はリウマチ専門医が「関節リウマチ頸椎病変について」、5月は薬剤師が「関節リウマチと鎮痛薬について」、6月は臨床検査技師が「血液検査項目について」、7月は再び若林氏が「メトトレキサートについて」、8月は看護師と歯科衛生士が共同で「口腔ケアについて」、9月は理学療法士が「関節リウマチと靴について」と言った具合に、持ち回りで患者の疑問に答えるコラムを執筆している。 

 このように多職種で業務を分担する狙いについて若林氏は、「より良いリウマチ診療を患者さんに提供するためには、多職種の仲間が必要です。仲間を増やすには、それぞれの職能が生かされる仕事を作って、少しずつ役割を担ってもらうのがよいと考えました。やろうと思えば私自身で担当できる項目はもっとあるかもしれませんが、できる限りその分野を専門とする職種に任せて活躍してもらっています」と話す。 

 毎月1回の講演会やWEBマガジンの発行に合わせて、多職種のミーティングも行っている。そこでは医師である若林氏がリウマチに関して教育的な講演をするだけでなく、他の職種のスタッフからもそれぞれの専門分野について持ち回りで講演してもらう。他職種の講演を聞くことは、若林氏自身も参考になり、日々の診療に役立っているとのことだ。さらにリウマチ診療や患者教育の進め方についても、多職種間での意見交換が活発に行われる。 

 「やってみて分かったことは、医師が全てを担うより、それぞれの専門職が熱意を持ってそれぞれの分野を担当した方が、絶対に診療のクオリティーは上がるということです。膠原病・リウマチ内科の医師の確保には、どの病院でも苦労しています。医師の増員がなかなか難しい中、多職種のワークシェアリングでそれを補っていくことは岡山市だけでなく全国的な課題です。職種の壁を越えた連携強化のモデルを構築して、全国に情報発信していきたいと思っています」(若林氏)。

リウマチセンターで協働する多職種のスタッフたちと。前列中央が若林氏。

 「看護師によるリウマチの疼痛コントロ―ル」実現に向けた取り組みも 

 若林氏が取り組む他職種への教育とワークシェアリングにおける現在の「最先端」は、入院患者の疼痛コントロールだ。「医師が担当しているリウマチや膠原病の疼痛コントロールを、看護師にやってもらうことを検討しています」と若林氏は言う。 

 リウマチ・膠原病の治療薬は引き続き医師が処方するが、痛みの症状を緩和する薬の用量調節などは看護師に任せることを検討しているという。その理由は、患者に接する時間が、医師より看護師の方が圧倒的に長いからだ。 

 「抗リウマチ薬は数カ月単位で発揮されるので、効果判定は外来主治医が行うのが自然です。しかし、鎮痛薬の効果は5〜6時間で分かります。短いスパンで評価して用量や回数を調整した方が早く治療目標に達することができ、患者さんにとってのメリットが大きいのです。そのためには患者さんの元にすぐに行くことができる看護師に、鎮痛薬の調整を任せた方がいいのではないかというのが私の考えです。がんの疼痛コントロールを医師以外の職種に任せている事例は既にあります。良性疾患ではまだ事例がないようですが、当院の膠原病・リウマチ内科でいち早く実現したいと考えています」と若林氏は話す。現在は準備段階で、看護師に鎮痛薬の用量調整についての教育を行っているほか、手元に置いて参考にしてもらうための分かりやすいマニュアル作りを進めているところだという。 

「教育のための臨床研究」も視野に 

 今後の方針について若林氏は、引き続き臨床と教育に力を入れていくと語る。若林氏が2009年に当院で週1回の外勤を始めた時の膠原病・リウマチ内科の外来患者は4人のみだったが、現在は1000人以上になっている。「患者さんが増えたのは、私の力だけによるものではありません。研修医、専攻医、他職種のスタッフの協力があってのことです。今後も一生懸命、教育に取り組み、ワークシェアリングで力を合わせて、より多くの患者さんによりクオリティーの高い医療を提供していきます」(若林氏)。 

 将来的には、臨床研究に力を入れていく考えだ。大学病院との役割分担で、臨床と教育の核となる使命を負って岡山市立市民病院に赴任してきたが、「教育のための研究」の実施は視野に置いているそうだ。 

 「当院で専門医を取得後、大学院に入って研究をするルートもありますが、研修中にもある程度は、臨床研究を経験させてあげたいのです。また、多職種の協働が診療に及ぼす効果を評価する臨床研究など、当診療科ならではの研究テーマも検討していきます」と若林氏は言う。 

 しっかりと質の高い診療を続け、質の高い人材育成を続け、ある程度は臨床研究も手掛けて情報発信をしていく。そういった取り組みを通じて岡山市立市民病院の評判を高めていくのが、長期的な目標とだという。「膠原病やリウマチになったら岡山市立市民病院に行けば大丈夫。地域のみなさんに、そう思ってもらえる病院にしていきたいです」と若林氏は力強く語る。
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若林 宏(わかばやし・ひろし)氏 

1999年浜松医科大学医学部医学科卒、岡山大学腎・免疫・内分泌代謝内科入局、浦添総合病院内科。2001年阿知須共立病院内科。2002年興生総合病院内科。2003年岡山大学医学部歯学部付属病院医員。2008年岡山大学病院糖尿病・腎臓・内分泌内科助教。2009年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科助教。2011年岡山大学病院運動器疼痛疾患治療研究センター副センター長。2015年より現職。

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