プレホスピタルからER、集中治療まで全てが学べる施設に

兵庫県立はりま姫路総合医療センターの救命救急センターは、兵庫県西部の播磨姫路医療圏(人口約80万人)の二次救急と三次救急を担う最大規模の救命救急センターだ。姫路市内の2つの中核病院であった兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院を統合・再編する形で2022年5月に開院した。2023年の年間の救急搬送数は6601件、2024年も7000件を超えるペースで増加しており、地域の救急医療の要となっている。

兵庫県立はりま姫路総合医療センター
救命救急センター
(兵庫県姫路市)

2022年にオープンした兵庫県立はりま姫路総合医療センターは、地元では「はり姫」の愛称で知られる。

「はり姫」の愛称で知られる兵庫県立はりま姫路総合医療センターは、兵庫県西部で中核的な役割を果たす医療センターとして2022年にオープンした。病床数736床、最新の医療設備を備え、33の診療科に多数の専門医が在籍。地域住民に救命救急医療や高度専門・急性期医療を提供するほか、医療人材の育成にも力を入れる。 

地域の二次・三次救急体制拡充のため2病院を統合・再編 

 病院の統合・再編の目的の1つが、地域の二次・三次救急体制の拡充だ。姫路市は人口当たりの医師の数が少なく、二次救急の患者の応需率が低いことが長年問題になっていた。姫路市内の複数の病院に分散している急性期の医療資源を集約し、救急患者の受け入れ体制を確保することも、はり姫の開設の重要な使命だった。 

 救命救急センターは開院以来、着実に実績を重ねている。2023年の年間の救急搬送数は6601件、救急車での搬送は平均18.5件/日で、救急外来の患者数は27.2件/日。週2日、兵庫県のドクターヘリが駐機し、年間出動件数は150件超。2023年秋からは毎週日曜日にドクターカーの運用も開始した。 

 前身の姫路循環器病センターが循環器の専門病院であったことから、現在も心血管障害や脳卒中などの重症例が多い。2023年の重篤患者数の総計は1385件。病院外心肺停止172件、急性冠症候群291件、大動脈疾患84件、脳血管障害187件、重度外傷189件、消化管出血66件。くも膜下出血などの脳血管障害も病院統合後に増加。集中治療室(ICU)搬入患者数は、統合前の2病院を合わせた数の2倍以上に増えた。 

 はり姫の救命救急センターは、ハイブリッドERがある救急初療室とE-ICU 20床(CCUを含む)、救急病棟24床からなる。専攻医6人を含む常勤医師11人に、非常勤講師4人が加わり24時間体制で患者を受け入れている。常勤医師5人のうち2人が、兵庫県立加古川医療センター救急科の出身、他3人は製鉄記念広畑病院救急科の出身。それぞれ外科専門医、脳外科専門医、整形外科専門医、集中治療専門医などの資格を取得している。 

 救命救急センターの救急外来(ER)や初療室、ICUには、救急科や各診療科の医師に加えて、看護師、救急救命士、臨床工学技士、診療放射線技師、薬剤師、医療事務など100名を超えるスタッフがおり、多職種が協働して治療に当たっている。

ドクターヘリの前に立つ医局のメンバーたち。後方中央が副センター長の清水氏。(兵庫県立はりま姫路総合医療センター提供)

 「何でも屋」を卒業し救急の専門性が活かせる体制に 

 救命救急センターの立ち上げにおいて中心的な役割を果たしたのが、副センター長の清水裕章氏だ。2008年に鳥取大学医学部を卒業後、岡山中央病院を経て、岡山赤十字病院で脳神経外科専門医を取得。京都市の洛和会音羽病院や兵庫県立加古川医療センターで救急医として研鑽を積みながら、様々な専門資格を取得した。 

 病院統合の話が出てきた当時、清水氏は兵庫県立加古川医療センターの救命救急センターにおり、当時の救命救急センター長だった当麻美樹氏に誘われる形で、はり姫の救命救急センターの立ち上げに関わることになった。「ちょうどその頃はコロナ禍で、私はCOVID-19の重症病棟でICU管理などを担当していたこともあり、声を掛けていただいたのです」と清水氏は話す。 

 病院統合を機にぜひとも変えたかったのが、救急科の位置づけだ。救急科の医師の専門性をより生かせる環境を作りたいというのが、当麻氏と清水氏の一番の思いだった。 

 前身の製鉄記念広畑病院にも救急科はあったが、重症多発外傷は外科が対応するなど救急科の影は薄かった。また、もう1つの前身である兵庫県立姫路循環器病センターは、救急患者は循環器内科や心臓血管外科、脳神経外科が対応していた。両院ともICUは各診療科が管理するオープンICUであり、集中治療も全て各診療科が行ってきたため、救急科は良くも悪くも「何でも屋」であった。 

 清水氏は、「集中治療の専門医が初期治療から集中治療まで継続して診ることのメリットを知ってもらうために、新しい救命救急センターのICUでは、救急科の集中治療医が主治医の1人となり、共に診療する体制を作ろうと考えました」と話す。

                                                                                          専攻医のドクターヘリ研修の1コマ。(兵庫県立はりま姫路総合医療センター提供)

ハイブリッドERの作業手順を循環器内科と合同でシミュレーション 

 はり姫の救命救急センターの目玉は、ハイブリッドERと、Mandatory critical care consultation形式(原則としてICU内の全ての患者の診療に関与する形式)を採用した集中治療室(E-ICU)だ。 

 ハイブリッドERは、血管撮影装置とCTを組み合わせた装置であるIVR-CTを備えた救命初療室。対象となるのは、救急搬送された心血管障害や脳卒中、重症多発外傷などで、月20件程度だ。蘇生処置を含めた初期診療から、経動脈的塞栓術(TAE)やダメージコントロール手術までの治療を、患者を移動させることなく行える。死亡率改善などの報告があり救命救急センターで導入例が増えている。 

 病院統合前には、ハイブリッドERの使用方法について、救急科が主催して循環器内科などの診療科と合同シミュレーションを行った。ハイブリッドERの機能を最大限に生かすためには、スタッフが「あうんの呼吸」で動く必要がある。例えば、最重症の多発外傷では、ラインの確保やモニターの装着、超音波検査、血管造影、CT撮影の準備を素早く行う、血圧が低過ぎてCTが撮れない場合は、蘇生外科チームがすぐに開胸や開腹手術を始める――といった具合だ。「職種ごと、診療科ごとの動きをシミュレーションすることで、業務の境界の不鮮明さや新システムへの移行に伴う不安を減らすことができました」と清水氏は話す。 

 さらに、統合前は前身の2病院のスタッフに相談しながら、採用薬の種類や指示の出し方も見直した。昇圧薬やインスリン薬の種類や使い方を統一し、注射薬や輸液製剤についても医師が確実に把握できるように、細かいことでも相談しやすい雰囲気づくりに努めた。

                                                                                         はりま姫路総合医療センター救命救急センターのハイブリッドER室。患者は救急搬送後、IVR-CTの台上で検査や手術など全ての治療を受ける。(兵庫県立はりま姫路総合医療センター提供)

セミオープン形式のICUを救急科の集中治療医が管理 

 もう1つ、清水氏ら救急科がこだわったのが、ICUについて、救急科の集中治療医が主体となって管理するhigh intensity ICUの中でもMandatory critical care consultationの運用を取り入れることだった。集中治療の専門医がICUを管理することで、ICU滞在期間の短縮、死亡率の低下などのメリットがあることが報告されているからだ。 

 各診療科の医師やメディカルスタッフに理解を得るために、病院統合後のICUの運営について、姫路循環器病センターの全診療科、循環器内科、製鉄記念広畑病院を対象に説明会を3回行った。病院統合後も全診療科を対象に再度ICUの新体制に関する説明会を開き、理解を得た上で運用を始めた。救急に関わるほぼ全ての診療科との調整を入念に行った。 

 病院統合直後は、救急科と各診療科の分担や新システムに対する多少の混乱はあったが、各診療科の医師の意見を聞きE-ICUの運用方針について説明することで、少しずつ救急科が担当する範囲が明確になった。時間とともに救急科への信頼度も高まり、現在はうまく運用できるようになっている。「ICUで救急科が患者を診ているお礼ではないですが、各診療科の医師が初療や病棟で救急科の負担を減らしてくれるというような雰囲気もできてきました」と清水氏は手応えを語る。 

 現在、1階の救急外来の隣にある救急の集中治療室(E-ICU、CCUを含めて20床)には、集中治療専門医が専従。疾患特異的な部分は各診療科が治療し、呼吸管理や循環管理などの集中治療は救急科のICU専従医師が管理している。E-ICUの入室者は、初年度の2022年は1024例、2023年は1076例に達している。 

 Mandatory critical care consultationの運用で重要なこととして、清水氏は「患者さんを救急科が預かるのではなく、各診療科の専門性を尊重し、一緒に診ていくという姿勢を堅持すること」を挙げる。守備範囲が広い救急科の医師にとって、各診療科の診療情報をアップデートするのは容易ではない。ここでのコミュニケーションが貴重な情報源になっているという。 

循環器科の挿管や術後のICU管理を救急科が行うことも 

 新体制のスタートから約2年が経過し、院内での救急科の位置づけも変わってきた。最近は、CCU(冠動脈疾患集中治療室)の患者さんの挿管抜管や呼吸管理について、循環器内科の医師から相談を受けることがある。また、院内急変は本来、3階の手術室に隣接するG-ICU(集中治療病床、12床)やHCU(高度治療室、20床)で管理するのが原則だが、各診療科の医師から全身管理を依頼されてE-ICUに入室することも増えてきた。 

 G-ICUやHCUは、終日患者に何かあれば各診療科の主治医に電話がかかるが、1階のE-ICUで管理している間は、基本的には救急科が対応するので、各診療科の医師が夜間に呼ばれることがなくなるためだ。清水氏は、救急科の医師の負担は大きいとしつつも、「こうした変化は、E-ICUの救急科による集中治療を信頼してくれているからこそ」とこの状況を歓迎している。 

 ドクターヘリやドクターカーで現場に向かうプレホスピタルケア(病院前救急診療)も、はり姫の救命救急センターだからこそ経験できるプログラムだ。専攻医から経験を積めるようにしている。 

 「誰かの後ろで見学しているだけでは、医師として成長できません。1人で現場に出て患者に対応することで初めて責任感が生まれてきます。『あのときはこうすべきだった』『こうした方がよかった』などプレホスピタルケアは学びが多いので、それを早く経験できるのはよいことだと思います」と清水氏は話す。

                                                                                          専攻医教育(外傷手術)の様子。(兵庫県立はりま姫路総合医療センター提供)

救急を志す若手のために救急医の専門性が活かせる環境を 

 清水氏が救急科の位置づけにこだわるのは、救急を志す若手医師のためでもある。「私は兵庫県立加古川医療センター救急科に入職する前に、京都の洛和会音羽病院の救命救急センターでER救急を4年間学んだのですが、その経験が今の基礎になったと感じています。例えば、アルコール飲酒患者の救急対応に様々なコツがあることや、救急外来に患者が20人並んでいるときに、どのように優先順位を付けてマネジメントしていくかなどは、ER救急に力を入れている病院でないと学べないことです。当センターも、豊富な症例数を生かしてER救急をしっかり学べる場所にしたいと考えています」と清水氏は話す。 

 一方で、救急外来を扱うERは、軽症患者の対応やクレーム処理なども多く、専門領域のスキルを磨きたい若手医師が、患者の対応に疲弊してしまい焦りを感じるというのは、よく聞く話だ。清水氏は「救急医にとって『何でも屋』というのは避けられない一面かもしれないが、それだけだとモチベーションが下がってしまいます。当センターは、ハイブリッドERがあること、ICUの症例が多いこと、ドクターヘリやドクターカーのプレホスピタルケアの経験が積めることが強みなので、これらを生かして魅力ある職場にしていきたいと思います」と話す。 

 現在、はり姫の救命救急センターでは、救急を学びたい専攻医、専門医、メディカルスタッフを大募集している。「当救命救急センターでは、プレホスピタルケア、ハイブリッドER、重症患者への初期対応、集中治療に加えて、災害医療も経験できます。さらに、呼吸不全の管理やPICS(集中治療後症候群)、ACP(Advance Care Planning)を意識したICU管理、臨床研究や論文執筆活動なども充実させていく予定です。やりたいことは何でも勉強できる場所にしていきますので、救急医療に興味がある方は、ぜひ一緒に働きましょう」と清水氏は呼びかけている。
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清水 裕章(しみず・ひろあき)氏

2008年鳥取大学医学部医学科卒業、岡山中央病院初期研修、岡山赤十字病院、洛和会音羽病院を経て、2017年に兵庫県立加古川医療センター救急科に移り、COVID-19の重症病棟でICU管理などを担当。2020年には日本医科大学付属病院の外科系集中治療室に国内留学し、体外式膜型人工肺(ECMO)を使った治療について研修を受けた。専門領域は、集中治療、ECMO、脳外科。日本救急医学会救急科専門医、日本集中治療医学会集中治療専門医、日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本中毒学会クリニカルトキシコロジスト、日本DMAT隊員。

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