多発性骨髄腫と悪性リンパ腫の診療に注力する群馬県北部の基幹病院

国立病院機構渋川医療センター血液内科は、伝統的に多発性骨髄腫の診療に強みを持ち、治験の実施件数が多いことで知られる。血液内科部長でリンパ腫・骨髄腫センター長の斉藤明生氏は、将来の新薬につなげたいとの思いに加えて、現在治療中の患者の治療選択肢を増やすこと、若手医師の教育の効果も考えて、積極的に治験を引き受けていると話す。悪性リンパ腫に関しては、診断精度の向上を図るため、血液内科医と病理診断医の連携カンファレンスなどを実施している。多職種による連携に積極的に取り組んでいる点も、国立病院機構渋川医療センター血液内科の特徴だ。

国立病院機構 渋川医療センター 血液内科(群馬県渋川市)

国立病院機構西群馬病院と渋川市立渋川総合病院が統合して誕生した国立病院機構渋川医療センター。新病院の病床数は450床、診療科目数は28。(渋川医療センター提供)

 国立病院機構渋川医療センター(以下、渋川医療センター)は、国立病院機構西群馬病院と渋川市立渋川総合病院が2016年に統合して誕生した、群馬県北毛地域で唯一の基幹病院だ。病床数は450床で、標榜診療科目数は28、1日当たりの外来患者数は約450人となっている。北毛地域の人口は群馬県全体の13%ほどだが、面積は同県の半分以上を占める。渋川医療センターは広域からの紹介患者を一手に引き受けるとともに、より高次の医療が必要な患者については、県南部の大学病院などにつなぐハブの機能も担っている。

 群馬県内で入院患者に対応できる血液内科は、県全域でも6施設に限られる。6施設のうち渋川医療センターを含む5施設は群馬大学血液内科医局の関連なので、主な疾患への対応を施設間で役割分担しているとのことだ。例えば急性白血病の同種造血幹細胞移植は、群馬大学医学部附属病院と済生会前橋病院の実施件数が多い。渋川医療センターが主に担当しているのは多発性骨髄腫と悪性リンパ腫で、これらの疾患については群馬大学医学部附属病院などで診断された場合でも、患者の利便に問題がなければ渋川医療センターで治療を引き継ぐ場合がある。

 渋川医療センター血液内科の所属医師は常勤6人、非常勤2人で、46床の血液内科専用病棟には無菌室6床、準無菌室1床が備わっている。血液疾患の新規患者数は年間100~140人ほどで、2023年度の実績では、悪性リンパ腫67人、多発性骨髄腫24人、白血病12人などだった。

 血液内科部長でリンパ腫・骨髄腫センター長の斉藤明生氏は「当院血液内科は、前身である西群馬病院の時代から、多発性骨髄腫の診療に力を入れてきました。いち早く新しい治療を取り入れる方針を掲げており、新薬の臨床試験を多く手掛けているのも大きな特徴です。悪性リンパ腫については、難しいとされる診断の精度向上に力を入れています。多職種によるチーム医療を積極的に進めているのも特徴の1つです」と話す。

血液内科部長でリンパ腫・骨髄腫センター長の斉藤明生氏。                            血液内科部長でリンパ腫・骨髄腫センター長の斉藤明生氏。

悪性リンパ腫の治療選択肢を増やすため積極的に治験を実施

 西群馬病院の時代に、現・臨床研究部顧問の澤村守夫氏、現・副院長の松本守生氏らが、自家末梢血造血幹細胞移植をいち早く取り入れたことなどから、多発性骨髄腫の治療で評判が高まった。患者が多く集まるようになり、それに伴って製薬会社からの治験の依頼が増えた経緯がある。斉藤氏は、こうした伝統を引き継ぎ治験を積極的に実施し続けている理由を3つ挙げる。1つ目は将来の患者のため、2つ目は現在治療中の患者のため、3つ目は若い医師の教育のためだ。

 「患者さんが多い病院が治験を引き受けないと、治療はなかなか進歩しません。実際に、私が若い頃に治験に関わった薬が既に実用化されていて、それにより今の患者さんの予後は確実に改善しています。将来の患者さんのメリット、医療への貢献になると考えて、治験に取り組んでいます」(斉藤氏)。

 多発性骨髄腫は、いまだに完治が難しいとされる疾患だ。初回の治療が成功していったんは症状が落ち着いても、ほとんどの患者が再発し、治療と再発を繰り返す。免疫調整薬、分子標的薬、抗体薬などが登場し、それらの組み合わせによる治療で普段通りに近い生活を送れる期間は確実に長くなったものの、「2回、3回と再発して、セカンドライン、サードラインの治療薬を使っていくと、無増悪期間がだんだん短くなっていき、最後には使える薬が何もなくなってしまうのが現状です」と斉藤氏は話す。また、「数は少ないのですが最初から治療抵抗性の患者さんもいて、何をやっても効きません。ですから、これだけ多発性骨髄腫の治療が進歩しても、将来の患者さん、今治療中の患者さんのために、もっともっと治療選択肢が必要なのです」とも言う。

 斉藤氏は患者に、条件が合えば治験への参加を提案している。その場合でも、治験参加だけを勧めるのではなく、治療しないことを含めた他の選択肢も挙げて、それぞれのメリット、デメリットを丁寧に説明。その上で、患者と家族に決断を委ねるよう心掛けているという。

 施設が治験を積極的に引き受けることは、その施設で働く医師にもメリットがあると斉藤氏は言う。特に若手医師にとっては、いち早く新しい薬について学べる機会になるからだ。また、治験・臨床試験の仕組みについても学ぶことができ、さらに治療の進歩に貢献することはモチベーションの向上にもつながる。一方で、治験に付随する作業に時間が取られるといったデメリットも多少はあるが、渋川医療センターでは治験管理室が、医師の業務負担をなるべく増やさないよう細かな仕事を引き受けている。こうしたサポート体制の充実も、西群馬病院の時代から多くの治験を引き受けてきた伝統の強みといえる。

全ての関連職種の代表が顔を合わせる週1回の多職種ミーティング

 地方の病院では入院患者の高齢化が顕著だ。独居で家族のサポートが受けられない患者も多く、リハビリや社会的支援などの検討が必要な場合がある。また、血液内科病棟には、疾患や治療に伴う苦痛を和らげるため緩和ケアが必要な患者もいて、医師だけでは対応しきれないことが多い。そのため渋川医療センターの血液内科では、多職種によるチーム医療に積極的に取り組んでいる。

 病棟担当の医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、リハビリ部門のスタッフ、ソーシャルワーカーなどが集まって、患者の治療方針や、それぞれの職種の関わり方などを話し合っている。同様の多職種ミーティングを開催している医療施設は少なくないが、渋川医療センターの血液内科では、毎週1回、全ての関係部署の代表者が実際に集まるのが特徴だ。病棟担当の医師は、原則として全員出席する。「このミーティングでは、主に新規入院患者さんへの対応方針を確認しています。関連職種が毎週、顔を合わせることで、ミーティング外でも互いに声がかけやすい雰囲気が作れて、仕事がやりやすくなる効果もあります」(斉藤氏)。

 血液内科の分野では、最近、新薬が多く登場した。従来薬とは副作用の出方が全く違う薬剤もあるため、薬剤師との情報共有は非常に重要になっている。また、1つの例として骨髄腫、リンパ腫の患者の中には、脳や脊髄神経に腫瘍が進展して、麻痺が起こっている人がいる。そういった場合にはリハビリのスタッフに積極的に関わってもらい、ADLの回復がどの程度まで見込めるか、リハビリの進捗はどうかなどの情報をミーティングで共有している。治療後、自宅に帰るのが難しい患者については、ソーシャルワーカーと連携して入居可能な施設を見つけているとのことだ。

渋川医療センター血液内科では多職種が参加するカンファレンスで情報共有を図っている。(斉藤氏提供)                          渋川医療センター血液内科では多職種が参加するカンファレンスで情報共有を図っている。(斉藤氏提供)

緩和ケア専門の看護師や精神腫瘍科の医師がチームに加わることも

 渋川医療センター血液内科では、患者が終末期医療を選択した場合でも、最後まで血液内科病棟で過ごしてもらうケースが比較的多い。緩和ケア病棟に移ると、頻繁に輸血をするなどの対応が難しくなるためだ。そういった場合には、緩和ケアを専門とする看護師にもチームに加わってもらっている。疼痛のコントロールがうまくいかない場合には、麻薬の種類を替えるか、用量を変更するかなどを血液内科医と緩和ケア専門の看護師が相談しながら、患者の苦痛を和らげている。

 また、患者の精神的な苦痛、症状に関しては、患者の一番近くにいる病棟看護師に、拾い上げて報告してもらうよう依頼している。問題が見つかれば、まずは血液内科医と看護師が協力して対応するが、より専門的なアドバイスが必要なときには、がんに関連した精神疾患を専門とする精神腫瘍科の医師にコンサルテーションを依頼することもある。

 斉藤氏は「血液内科医だけでやろうとすると、足りない部分がどうしてもでてきてしまいます。しっかりと多職種と連携し、情報を共有して、それぞれの職種が得意な技術や知識を発揮してもらい、患者さんのメリットにつなげていくことが非常に大事かなと思っています」と話す。

悪性リンパ腫の診断精度向上へ血液内科医と病理医が連携

 今後の抱負について斉藤氏は、自身のサブスペシャルティ分野である悪性リンパ腫の診療のレベルアップを挙げる。「現在、当院の血液内科は、多発性骨髄腫の診療で高く評価されていますが、悪性リンパ腫の臨床もそれに負けないようにして、治験の実施件数も伸ばしていきたいと考えています」。

 悪性リンパ腫は多くの組織型に分類され、進行の速さや抗がん剤の効き方、予後などが大きく異なるため、最初の病理診断が特に重要だ。典型的な組織型であれば、一般の病理医が問題なく診断できるが、非典型例だったりグレーゾーンだったりといった場合も多く、リンパ腫を専門とする病理医でなければ判断が難しいことがある。斉藤氏は血液内科医だが、リンパ腫をサブスペシャルティにしているため、その病理像についても知識が豊富だ。そこで、院内の病理医と連携して正確なリンパ腫の診断につなげるために、血液内科と病理診断科の連携カンファレンスを毎週、実施し始めたという。

血液内科と病理診断科の連携カンファレンスの様子。(斉藤氏提供)                                                                                            血液内科と病理診断科の連携カンファレンスの様子。(斉藤氏提供)

 「リンパ腫の診断を病理医任せにしている施設も多いようですが、正確な診断をして適切な治療を行うことは患者さんのために大事です。そのためには臨床側の情報、意見を伝えて病理医と議論することが重要で、それがお互いのレベルアップにもつながると考えています。既に連携カンファレンスを続けてきた効果で、病理診断の精度は確実に上がっていると感じており、カンファレンスの結果、診断困難例についてはリンパ腫を専門とする病理医へのコンサルテーションも行っています。リンパ腫の正確な診断、適切な治療を行う医療機関として、さらにレベルアップを図っていきたいですね」(斉藤氏)。

 斉藤氏のもう一つの抱負は他職種スタッフの教育と、チーム医療の成果を対外的に発信していくことだ。

 「多職種連携をもう一段レベルアップするために、血液内科の疾患や治療内容・目的などについて、もう少し理解を深めてもらえるとよいなと感じています。そのため、多職種向けの勉強会を開催したいと考えています。チーム医療をさらにレベルアップして、成果の対外的な発信も強化していきます。多発性骨髄腫に関しては、多職種チームの活動を学会などで既に一部、発表していますが、リンパ腫に関してのチーム医療の成果も、関連学会などで発信できるようになるといいですね」と斉藤氏は話している。
------------------------------------------------------ 

斉藤 明生(さいとう・あきお)氏

斉藤 明生(さいとう・あきお)氏
2003年群馬大学医学部医学科卒業、群馬大学医学部附属病院第三内科研修医。2004年関連病院(国立病院機構高崎病院、藤岡総合病院、前橋赤十字病院)で研修。2005年国立病院機構西群馬病院血液内科。2011年群馬大学医学部附属病院血液内科医員、群馬大学大学院医学系研究科卒業・学位取得。2012年国立病院機構西群馬病院血液内科。2013年公立藤岡総合病院血液内科医長。2019年国立病院機構渋川医療センター血液内科医長。2021年国立病院機構渋川医療センターリンパ腫・骨髄腫センター長。2022年より現職。

閲覧履歴
お問い合わせ(本社)

くすり相談窓口

受付時間:9:00〜17:45
(土日祝、休業日を除く)

当社は、日本製薬工業協会が提唱する
くすり相談窓口の役割・使命 に則り、
くすりの適正使用情報をご提供しています。