多職種が連携してCTアンギオと組み合わせた肝がんRFAを実施

済生会新潟病院・消化器内科は、肝がんの経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)の草分け的な施設の1つだ。保険適用になった2004年から継続して実施しており、現在の実施件数は年間150~200例、通算の延べ実施件数は4500件以上に上る。消化器内科部長の石川達氏は、「これだけ多くの患者さんに、質の高いRFAを実施できているのはチーム医療がうまくいっているから。高度な多職種連携も、当診療科の大きな特徴です」と話す。

済生会新潟病院(新潟市)消化器内科

済生会新潟病院は1991年に開設された。病床数410床、標榜診療科数24、1日当たりの外来患者数が800人を超える新潟市の基幹病院の1つ。消化器内科は8人の常勤医を抱える。

 経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)は、超音波診断(エコー)装置のガイドの下、体外から腫瘍を目指して電極針を差し込み、高周波電流を流してがん細胞を焼灼、死滅させる治療法だ。名称に「ラジオ波」とあるのは、電流の周波数がAMラジオなどと同じ帯域の約450KHzであるためで、切開手術と比べて侵襲が少ないなどの利点があり、肝臓がん、肺がん、腎がん、乳がんなどの治療で広く実施されている。済生会新潟病院は、肝臓がんの治療でRFAを積極的に実施している施設として知られ、新潟県内のみならず北陸地方全域と近県、さらには新幹線沿線の地域や関東からも患者が訪れている。

 同院は、保険適用前からRFAによる肝がん治療の治験に参加し、保険適用となった2004年以降、本格的に実施し始めた。先頭に立ってRFAに取り組んできたのは消化器内科部長の石川達氏だ。

 「当院消化器内科で実施するRFAは、ほぼ全例、CTアンギオとエコーとを組み合わせて精密に病変を描出し、徹底的に焼灼しているのが特徴です。肝がんの診断については、CTアンギオが国際的にも一番診断力が高いと評価されているため、この方法を取っています。年間150~200件の肝がんへのRFAを実施しており、導入以来の延べ実施件数はCTアンギオを含めたカテーテル治療が約6000件、RFAが約4500件に達しました。RFAをはじめとする、肝臓疾患分野での高度な多職種連携も、当診療科の大きな特徴です」と石川氏は話す。

済生会新潟病院消化器内科部長の石川達氏。
済生会新潟病院消化器内科部長の石川達氏。

CTアンギオを組み合わせてエコーでは見えない腫瘍も焼灼

 済生会新潟病院での、肝がんRFA治療の流れは次のようなものだ。

 肝がんが疑われる患者が来院したら、まず外来で、通常のダイナミックCTなどの画像撮影を行う。病変が見つかった場合には入院してもらい、CTアンギオと肝動脈塞栓術を同時に実施する。カテーテルを肝臓の血管に留置して造影剤を注入。アンギオ画像を撮影し、続いてCTアンギオ画像を撮影する。ここで腫瘍の位置と栄養を送っている血管が特定できるので、該当の血管を塞栓する。CTアンギオ画像上で、見つかったすべての腫瘍病変をマーキングしておく。

 RFAは約1週間後を目安に実施する。CTアンギオ画像にマーキングした腫瘍病変のデータをエコー装置に取り込み、リアルタイムで実施するエコー画像と空間座標を合わせる。2つの画像を組み合わせた「仮想画像」をガイドにして、RFAを実施するわけだ。

 CTアンギオとエコーを組み合わせることで、エコー画像のみでは確認できなかった腫瘍も見つかり、漏れなく焼灼できる。実際に、外来時のCTでは肝臓に病変が1つしか見つかっていなかったがCTアンギオで複数個の病変が追加で見つかったケースもあったという。

 「エコーにCTアンギオを組み合わせることで、患者さんの予後に良い影響を与える可能性があります。当院の治療成績については論文発表を準備中のため、まだ公開できないのですが、CTアンギオを組み合わせた場合とそうでない場合との比較で、RFAの治療効果には大きな違いが見られます」と石川氏は説明する。

CTアンギオの実施体制を確立

 石川氏は、RFAが登場し普及する前から肝動脈塞栓術などのカテーテル治療を得意としていた。そのため済生会新潟病院でRFAを導入するに当たっては、自身でCTアンギオを実施する体制を整えたとのことだ。

 施設によってはCTアンギオは放射線科の領域とされていて、依頼で実施してもらうにせよ他科の医師が独自に実施するにせよ、スムーズに受け入れられないケースもある。だが済生会新潟病院では、石川氏が赴任した2002年当時から、消化器内科主導で実施する体制が問題なく構築できたという。

 ただし実施に当たっては、看護部から、患者をアンギオ室からCT室に移動する際のリスクの高さに懸念が示された。CTアンギオとしての撮影のために、カテーテルを挿入したまま患者をアンギオ室からCT室まで2回運ぶ必要があったためだ。そのため石川氏は、1回のカテーテル挿入でCTAと CTAPが両方撮影できるシステムを企業と共同開発するなど、リスク軽減の対応策を講じた。さらに並行して院内勉強会を開き、CTアンギオとエコーを組み合わせてRFAを実施することの意義、患者メリットについて説明して、看護師をはじめとするコメディカルスタッフに理解してもらえるよう努めたという。

多職種の高度に連携でスムーズにRFAを実施

 「今では、私たち消化器内科医が細かい指示をしなくても、看護師をはじめとするコメディカルが自主的に動いて対応してくれます」と石川氏。

 病棟看護師は、RFAの実施前に入院中の患者にしっかりと治療内容を説明している。患者の不安を取り除くことを重視しているためだ。再発で、2度目、3度目のRFA実施となる場合には、前回の施行中に患者が徐脈になった、体動が激しいといった情報がないかを臨床工学技士が確認し、あれば、合併症回避のため事前に医師に伝えている。もちろん術後の経過観察期間には、病棟看護師が主体となって患者のケアを担う。

 CTアンギオをサポートするのは診療放射線技師と放射線科看護師だ。医師がカテーテルを操作して画像を撮影した後、医師とともに画像を読んで腫瘍の位置を特定。RFAで腫瘍を完全に焼灼できるように、腫瘍の周囲に5mmのセーフティーマージンを設定してマーキングし、医用画像の国際規格であるDICOMデータとしてCD-Rなどの記録媒体に保存している。

 診療放射線技師からそのCD-Rを受け取ってエコー装置にデータを取り込み座標を合わせるなど、RFAのセットアップを担当しているのは臨床工学技士だ。RFA実施の準備が全て整ったところでRFAを行う体制になっている。

それぞれの職種が研究テーマを設定、学会発表がモチベーションに

 治療に関わるコメディカルはみな、モチベーション高く業務に取り組んでいるとのことだ。連携がうまくいっている要因について石川氏は、「チームとして機能し始めるまでに時間はかかりました。しかし、みな医療者ですから、なぜこの処置が必要かを説明され患者メリットが大きいことに納得すれば、率先して協力してくれるようになります。加えて、コメディカルにはそれぞれ『学術的な課題』を割り振っています。学会発表や論文発表といった目標、達成後の打ち上げも、スタッフのモチベーション向上に寄与しています」と石川氏は話す。

日本消化器病学会、日本肝臓学会など5学会合同の学術集会「JDDW2024」には、済生会新潟病院から14演題を発表した。(石川氏提供)
日本消化器病学会、日本肝臓学会など5学会合同の学術集会「JDDW2024」には、済生会新潟病院から14演題を発表した。(石川氏提供)

これまでに放射線科看護スタッフは、腹部アンギオ実施が決まった患者の術前訪問が患者のQOL(生活の質)に及ぼす影響や、カテーテル治療の違いと患者のQOLとの関係などを研究テーマとして取り上げて、学会発表している。

 臨床工学技士は、RFA施行中に熱により発生する破裂音「ポッピング」が起こる原因について、患者の臨床背景との関係を解析する研究も手掛けた。臨床放射線技師は、サルコペニアとRFAの予後との関係についてデータ解析して学会発表している。

 「それぞれの職種がデータベースを作っており、それを他の職種が持つデータベースと組み合わせることで様々な研究テーマが設定できます。各職種が、それぞれの視点で臨床研究を手掛けることは、当院が実施するRFAの質を高めることにもつながっています」と石川氏は言う。

RFAの技術とチーム医療の大切さを若い医師に伝えたい

 RFA関連の今後の抱負について、石川氏は、「引き続き多職種連携で、患者さんに質の高いRFA治療を提供していきます」と話す。

 もう1つの抱負は後進育成だ。「私も年齢的に引退が視野に入ってきているので、後継者を育てたいですね。若い医師には、私の技術を積極的に学び取ってほしいのです。私からも経験を積極的に伝えていきます」と話す。石川氏によると、初めてRFAの手技を手掛ける消化器内科医は、電極針を刺すことに怖さを感じる場合が多いという。しかし自分の手技によって肝臓の腫瘍を壊死させることができ、患者が回復する様子を見ると、大きな達成感が得られるという。

 「RFAやカテーテル治療の手技を習得して『面白さ』を感じられるようになるまでには、やや時間がかかります。ですから、ある程度長いスパンで学んでほしいのです。RFAやカテーテル治療は、低侵襲な肝がんの治療法として、今後も重要な医療であり続けると私は思っています。RFAを実施することで、抗腫瘍免疫応答が誘導されることなどを示唆する研究結果も出てきており、研究面での広がりもあります。ぜひ、多くの若い医師にこの分野の専門家を目指してほしいと思います」(石川氏)。

 多職種連携の大切さやチーム医療のノウハウについても後進に伝えていく考えだ。「市中病院である当院で、これだけ多くの患者さんに、質の高い治療を実施できているのは多職種によるチーム医療がうまくいっているからです。これはとても重要なことなのです。チーム医療にしっかり取り組むことで、結局は自分の仕事が楽になったり、多職種の目が入ることでミスが起こりにくくなったりするといったことも、しっかり伝えていきたいと思います」と石川氏は話している。
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石川 達(いしかわ・とおる)氏

石川 達(いしかわ・とおる)氏
1986年新潟大学工学部建築学科卒業。1992年新潟大学医学部卒業、新潟大学医学部附属病院。2002年済生会新潟第二病院消化器科医長。2007年済生会新潟第二病院消化器科部長。2009年済生会新潟第二病院消化器内科部長。2009年済生会新潟病院(病院名変更)消化器内科部長。2022年済生会新潟病院検診センター長併任。2023年済生会新潟病院予防医療センター(センター名変更)長併任。

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