異なる診療科・職種の連携で間質性肺疾患の専門的かつ包括的な診療を提供

2025年4月に設立された虎の門病院の「間質性肺疾患包括治療センター」では、異なる診療科の医師とコメディカルスタッフが連携して、間質性肺炎や肺線維症の患者に専門的かつ包括的な診療を提供している。初代センター長の宮本篤氏は、「間質性肺疾患と診断を受けたとき、どこに行けば専門的な治療を受けられるのかを分かりやすくして、無治療で症状が悪化してしまう患者を1人でも少なくしたかった」と、設立の動機を話す。

施設情報

虎の門病院 間質性肺疾患包括治療センター(東京都港区)

虎の門病院 間質性肺疾患包括治療センター(東京都港区)
虎の門病院は1958年に設立された。2019年に地下3階、地上19階の新病院に移転。現在の病床数は819床。(同病院提供)

 虎の門病院は1958年に設立された国家公務員共済組合連合会立の病院(病床数、819床)だ。「その時代時代になしうる最良の医療を提供すること」を理念として掲げる通り、国内最高水準の専門医療を実施する施設として広く知られる。その同院に、2025年4月に新たに設立されたのが「間質性肺疾患包括治療センター(ILDセンター)」だ。「間質性肺炎」や「肺線維症」と診断を受けた患者や、その可能性がある患者に対し、診療科横断的に専門的かつ包括的な診療を提供することを目標に掲げている。

 ILDセンター設立を主導し、初代センター長に就任した呼吸器センター内科・医長の宮本篤氏は「当センターを立ち上げた一番大きな理由は、『当院は間質性肺疾患の専門的な治療に積極的に取り組んでいます』ということを患者さんに分かりやすくアピールできることです。間質性肺疾患は厚生労働省指定の難病で、インターネットで検索すると有名人の死因だったとか、予後が悪いといった情報が出てきます。しかし、当院には従来からILDの専門的な治療体制があったにもかかわらず、患者さんが診断を受けたとき、どこに行けば専門的な治療を受けられるのかが分かりにくい状況でした。それを何とかしたかったのです」と話す。

呼吸器センター内科・医長で間質性肺疾患包括治療センター長の宮本篤氏。
呼吸器センター内科・医長で間質性肺疾患包括治療センター長の宮本篤氏。

以前は「診断はできるが、治療法はない病気」だった

 日本の呼吸器内科医は5000人ほどで、消化器内科医の3分の1以下、循環器内科医の2分の1以下と少ない。しかも専門が細分化しており、肺がんを専門とする呼吸器内科医は多く、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を専門とする医師も一定数いるが、間質性肺疾患を専門とする呼吸器内科医は少ない。東京都を離れると、間質性肺疾患を専門とする常勤医がいる施設はなかなか見つからないという。

 その背景について宮本氏は、間質性肺疾患が歴史的に「診断はできるが、治療法はない病気」だったことを挙げる。「有効な治療薬がないのに、『とにかく苦しいんです』と訴える患者さんと長く向き合っていかなければならない疾患でした。当時は患者さんの数もそんなに多いわけではなかったので、この分野の専門医を志す呼吸器内科医が少なかったのだと思います」と宮本氏は話す。

 宮本氏が医師になった2000年頃は経験則から手探りで治療が行われていたが、当時の治療法の多くは、現在、有効性が科学的に否定されているとのこと。状況が変わってきたのは2008年以降だ。抗線維化薬が登場し、ガイドラインも作成されてエビデンスに基づく診療が次第に確立されていった。

 「ようやく近年、『あなたの病気を完治させることはできませんが予後を延ばすことができます。生活の質もなるべく長く維持できるようにしましょう』と患者さんに言えるようになりました。しかしそう伝えるためには、早い段階で、適切な診療ができる専門医にたどり着いてもらう必要があります。間質性肺疾患は、画像で見つかった段階ではほとんど無症状です。症状が無いから治療に積極的になってくれない患者さんがほとんどで、かかりつけ医もどこに紹介すればよいのか分からず経過観察となった例も少なくありません。その結果、私ども専門医の元に来た時には症状がすごく悪化している患者さんがいます。そういった不幸な患者さんを1人でも少なくしたいのです」(宮本氏)。

他診療科とのコラボレーションにより診断を徹底

 間質性肺疾患の原因は多様だ。治療のためには、まず病気の原因を確認することが大切だ。そのため、新設したILDセンターでは適切な診断が徹底してできる体制を整えているという。間質性肺疾患の診断では画像検査が基本となるが、必要な患者にはクライオ生検や外科的肺生検も積極的に実施しているという。

 ILDセンターでの間質性肺疾患の診断で大きな特徴となっているのは、他診療科とのコラボレーションだ。当初は原因が不明でも、他診療科の専門医と共同で究明を続けた結果原因が分かり、治療方針が大きく変わることもしばしばある。基本的な診断は呼吸器内科と病理診断科や放射線診断科との連携によるものが中心だが、他の診療科との連携が奏功して診断につながるケースもあるという。

 例えば、ある患者は当初は原因がわからず「特発性間質性肺炎」と見なされていた。しかしリウマチ膠原病科の専門医との連携で、関節リウマチに起因する間質性肺炎であることが分かったという。膠原病関連では、ほかにも強皮症が原因のケースもあったとのことだ。強皮症に関しては、寒冷刺激で指先の血の気が引く「レイノー現象」を確認するなどして診断につなげた。

図 他職種合議による診断(MDD)の概念図(宮本氏による)
図 他職種合議による診断(MDD)の概念図(宮本氏による)

 「原因が分かれば治療法の選択肢が増えます。間質性肺疾患には様々な原因があり、様々な疾患を合併するので、他診療科とのコラボレーションがとても重要なのです」と宮本氏は言う。

 診断がついた後は、治療介入のタイミングを逃さないことが大事だ。CT画像の撮影や呼吸器機能検査など、患者1人ひとりに最適な検査と実施スケジュールを考えて実施しているという。「例えば心臓合併症である肺高血圧症が危惧される患者さんには、年に1回の心エコー検査を提案します。経過観察するにしてもただ見ているだけではなく、半年後、1年後に適切に呼吸機能検査などを行い、進行の有無を確認して検査スケジュールを決めています。検査の結果により、間質性肺疾患の症状が進む前に治療を開始する場合も、間質性肺疾患だけではなく肺高血圧症や肺がんなどの合併症が起こったから治療を開始する場合もあります」と宮本氏は説明する。

間質性肺疾患治療センターで協働する異なる診療科のスタッフたち。間質性肺疾患治療センターで協働する異なる診療科のスタッフたち。

ILDセンター設立効果でセカンドオピニオンが増加

 ILDセンター設立からまだ1年弱だが、主な狙いだったアピールの効果は既に表れてきている。他院で間質性肺疾患と診断された患者が、虎の門病院のILDセンターでセカンドオピニオンを受けたいと来院するケースが増えているのだ。

 セカンドオピニオンで来院した患者に対して、宮本氏はかかりつけ医の診療方針を尊重しつつ、患者の疑問に答えたり、説明が足りていない部分を補足したり、定期的に受けた方がよい検査とその理由・スケジュールなど、さらに別の治療選択肢があればそれについても丁寧に話している。

「セカンドオピニオンを受けた患者さんには、かかりつけ医の元に戻って治療を続けてもらいます。必要だが実施していない検査があれば、『かかりつけの先生に、この検査も半年に1回やってくださいとお願いするといいですよ』といった具合に具体的に伝えています」(宮本氏)。

 同じクリニックや病院から、2度、3度と患者が紹介されてくることも多いという。最初に紹介した患者の満足度が高かったため、継続して紹介してくれるようになったようだ。当初の狙い通り、患者とかかりつけ医の間で、間質性肺疾患の専門治療施設として虎の門病院・ILDセンターの認知が進みつつある。

 もう1つ、ILDセンターの設立後に現れてきた効果は、院内の他の診療科の医師やコメディカルに間質性肺疾患の診療に関わってもらいやすくなったことだという。「虎の門病院はILDセンター設立以前から診療科の垣根が低く、患者さんを中心とした連携が自然にできていました。しかしセンター設立により、連携がもう一段レベルアップしたと感じます。従来は治療対象としていなかった間質性肺疾患に起因する循環器分野の病態(肺高血圧症)に対し、循環器センターの先生方が積極的に関わってくれるようになりました。ILDセンターを介して、複数の診療科の医師が連携して薬剤の効果を確認する試みなども開始されています」(宮本氏)。

 宮本氏がセンター長に就任したことにより、他診療科や薬剤部、看護部など他部門へ協働を呼び掛ける際、話が通りやすくなった面もあるとのこと。それもセンター設立の副次的なメリットのようだ。

呼吸器内科以外に放射線診断科、病理診断科+その他臨床診療科が一同に会し意見を出し合って病状を共有して適切な診断をするための「MDDカンファランス」の様子。MDD(multidisciplinary discussion)は「多職種合議による診断」を意味する。(宮本氏提供)
呼吸器内科以外に放射線診断科、病理診断科+その他臨床診療科が一同に会し意見を出し合って病状を共有して適切な診断をするための「MDDカンファランス」の様子。MDD(multidisciplinary discussion)は「多職種合議による診断」を意味する。(宮本氏提供)

合併症としての間質性肺炎に対応し、がん診療を支える

 ILDセンターは、虎の門病院のがん診療においても重要な働きを担っている。間質性肺炎は、投与した抗がん剤の影響で発症することがある(薬剤性肺障害)。逆に、間質性肺疾患の患者が肺がんを発症するリスクも高いとされている。

 「がんの治療中に間質性肺疾患が合併した場合、間質性肺炎が急速に悪化することが多く、それががんの治療の妨げになります。場合によっては抗がん剤を中止せざるを得ません。そこでがん診療を担う他の診療科の医師と連携して、合併症としての間質性肺疾患の診療をサポートすることも、ILDセンターの主要な役割として掲げています」と宮本氏は説明する。

 例えば、乳がんの治療を続けている患者に、間質性肺炎が合併することがある。その場合は、主治医である院内の乳腺専門医からILDセンターに、コンサルテーションの依頼が来る仕組みだ。検査の結果、抗がん剤による薬剤性間質性肺炎であることが疑われたら、宮本氏はその結果を乳腺専門医に伝える。その際、できるだけ「危険なので、もうこの薬は絶対に使わないでください」と言うだけにならないよう、心掛けているという。第一選択の抗がん剤が使えるかどうかで、患者の予後に大きな影響が及ぶことが少なくないからだ。

 宮本氏は、何とか再投与の道はないかを探るようにしている。具体的に行っているのは、まず、本当に薬剤性なのかを気管支鏡検査などを実施して徹底的に調べることだ。一見、薬剤性に見えても、実は真菌感染の場合もあるからだ。そして薬剤性肺障害であるとはっきりした場合でも、どの程度の重症度かをできる限り正確に評価して主治医に伝えている。薬剤性肺障害の症状のレベルは幅が広く、再投与が明らかに死のリスクにつながる場合がある一方で、ステロイドの投与のみで炎症が消失する場合もあるという。

 「症状を評価した結果、『再投与は無理です』と伝えなければならない場合も、もちろんあります。そうではない場合でも、『再投与は可能かもしれません』と伝えるのは勇気が要ります。しかしそれをしないと、コンサルテーションしてくれた医師との間で必要なコミュニケーションが生まれません。「再投与は可能かもしれません」と伝えた後で、使用中の薬を継続することの重要性・リスクのバランスはどれくらいか、患者さんは再投与のリスクを理解可能かなどについて話し合います。そういった対応を重ねていくことが大切だと思っています」と宮本氏は言う。

新薬の登場に期待して積極的に治験に協力

 ILDセンターの今後の抱負について、宮本氏は、「診断も治療も合併症管理も、間質性肺疾患の診療に関しては肺移植以外全てに対応できるような環境を整え続けることが、まずは目標です」と話す。肺移植は虎の門病院では手掛けていないが、実施専門施設と緊密に連携しているとのことだ。宮本氏は日本呼吸器学会のびまん性肺疾患学術部会の委員を務め、ガイドラインや診療の手引きの作成にも関わっている。「幸い、日本の間質性肺疾患の最先端が肌身で感じられるポジションにいるので、そのメリットを当センターでの診療に生かしていきます」と話す。

 チーム医療としての間質性肺疾患診療を充実させていくのも課題だ。どうすれば1人ひとりの患者がQOLを維持できるかという視点で、それぞれのコメディカルが専門技能をもっと生かしてほしいと宮本氏は考えている。「例えば生活支援を目的としたコメディカル主体の外来を開設し、安全で効果的な在宅酸素療法の指導、医療経済的な相談などができれば患者さんのメリットになると思います。また、急性増悪から回復後の患者さん、慢性期でちょっと体力が下り坂になってきた患者さんへのリハビリテーションや栄養指導も考えています。いろいろとまだ課題はあるのですが、可能性を模索していきたいです」(宮本氏)。

 さらに、もう1つの抱負として挙げるのは治験の活性化だ。現在、間質性肺疾患の治療で主に使われる薬は2種類。いずれも肺の線維化の進行を遅らせる薬剤で、その効果によって患者の予後は伸びると考えられている。しかし直接的に間質性肺疾患を改善したり、合併症を予防したりする薬はまだ登場していない。

 「間質性肺疾患の患者さんを救うためには、もっと多くの薬が必要です。複数の薬を連続的に、または併用して使う方法を議論できるようになると、患者さんのメリットは大きいです。肺がんやCOPD、喘息も、ひと昔前はコントロールも難しい病気でしたが、新薬が登場して状況が一変しました。間質性肺疾患の分野でも、同じような変化が起こることを期待しています。少なくとも、間質性肺疾患の合併症や急性増悪が予防できる時代は近く来るんじゃないかと思っています。そのためにも、新薬のメリットが活かせる環境になるよう、積極的に治験に協力していきたいと考えています」。そう宮本氏は話している。
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 宮本 篤(みやもと・あつし)氏

宮本 篤(みやもと・あつし)氏
2000年東京慈恵会医科大学医学部卒、虎の門病院内科前期レジデント。2005年虎の門病院呼吸器センター内科医員。2011年Massachusetts General Hospital Department of Pathology留学。2015年虎の門病院分院勤務。2018年虎の門病院呼吸器センター内科医長。2025年虎の門病院・間質性肺疾患包括医療センター長(兼任)。

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