2018年に藤田医科大学医学部リウマチ・膠原病内科学教授に就任した安岡秀剛氏は、前任地で、関節リウマチや膠原病の臨床・研究・教育に従事してきた。その経験を、藤田医科大学医学部リウマチ・膠原病内科の医局の活性化に生かしている。また、東海・中部地域におけるリウマチ・膠原病診療の均てん化を目指して、周囲の大学や医療機関との連携にも乗り出した。知己の協力を得ながら、研修・臨床ネットワークの構築に意欲的に取り組んでいる。
藤田医科大学医学部リウマチ・膠原病内科学
藤田医科大学医学部リウマチ・膠原病内科学
医局データ
教授:安岡 秀剛 氏
医局員:13人
病床数:30床
外来患者数:約4000人(年平均)
関連病院数:17施設
藤田医科大学医学部では、1981年に内科学教室から感染症リウマチ内科が独立し、2001年にはリウマチ感染症内科へと名称を変更。そして2018年には、感染症内科が独立し、リウマチ・膠原病内科へと改称した。そのリウマチ・膠原病内科学教室の教授に就任したのが、慶應義塾大学出身の安岡秀剛氏である。
医学生の頃から免疫疾患に興味を抱いていた安岡氏は、2003年卒業後、2年間の臨床研修を終えると間もなく慶應義塾大学のリウマチ内科に入局。並行して大学院生として基礎研究にも取り組んだ。大学院では強皮症の新たな自己抗体の研究などを手がけ、米国のピッツバーグ大学に留学した経歴を持つ。帰国後は母校のリウマチ内科で臨床に携わる一方、医局の教育担当として医学生や研修医のマネジメントに取り組み、医局内での教育にとどまらず研究や臨床の指導にも尽力してきた。
伝統を守りつつ研究・臨床・教育を活性化
2018年に藤田医科大学のリウマチ・膠原病内科学教授に着任した安岡氏は、リウマチ・膠原病内科の立ち上げに際して、まず臨床環境や教育システムの整備に取り組んだ。「医局を安定的に発展させていくには過去からの継続も必要だと考え、医局員のモチベーションを高める仕組み作りに努めています」と語る。「まだ発展途上なので」と断りながらも、安岡氏は自らの医局運営について、3つの具体的な取り組みを紹介してくれた。
1つ目は基礎研究。医学研究は「from bed to bench」とも言われるが、臨床研究の陰に隠れがちな基礎研究に当たる「bench」の活性化を図ろうとしている。「これまで止まっていたbenchに手を入れて動くようにする。環境整備が必要だと考えています」と安岡氏は言う。
2つ目は臨床研究だ。藤田医科大学病院は地域医療に貢献している一方で、臨床研究体制は十分に整備されているとは言い難いと安岡氏は感じていた。そのため「単に診療するだけではなく、症例登録など患者さんの情報を収集・管理しながら診療していく、クリニカルリサーチの基盤整備を進めています」と言う。
そして3つ目が教育である。「教育においては『何かを教えてできるようになる』ことが大事なのではありません。私の医局では、『生き方を教える』ことをモットーにしています。『自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の頭で考えることができる。自分で歩く力を持つことができる医師』を育てるのが目標です。長期にわたるキャリアを自力で紡いでいくためには、『自分で歩き続ける』ことが必要ですから」と安岡氏は力説する。
「自分で歩き続ける」ために必要なこととして、安岡氏は「モチベーション」と「サスティナビリティー」を挙げる。「パッション」や「バイタリティー」も、もちろん重要だが、一時的なものよりも、継続する力がより大切だと考える安岡氏は「医学生、研修医、専攻医、専門医、あるいは研究に取り組む医師など、それぞれの段階で必要なことを伝えていきたい」と意気込む。
専門医研修巡る連携からネットワーク作りへ
「東海・中部地域でリウマチ・膠原病内科が単独で専門の診療科として持つ大学は、藤田医科大学と三重大学の2施設だけです。全国的に見ても、リウマチ・膠原病内科を単独で標榜しているところは半数程度で、その大半は関東近県に集中しています」。こう語る安岡氏は、東海・中部地域のリウマチ・膠原病診療を担う要の施設として伝統を受け継ぎ、それにふさわしい役割を果たそうと心に決めている。
安岡氏は教授就任直後から、大学病院内専門医研修プログラム策定を旗印に、連携構築に乗り出した。藤田医科大学病院とネットワークを形成する病院の医師にも参加を呼びかけたところ、28の病院が研修プログラムへの参加に手を挙げたという。
地域の研修プログラムを受ける専攻医は、どの施設で症例を経験しても自身の診療実績としてカウントできる仕組みだ。安岡氏は、中部・東海地域において、研修プログラムを実現する「教育システムの共通化」にも取り組んでいる。さらに「様々なネットワークが確立されると、症例集積のプラットフォームを共通化することが実現可能になるかもしれません。そういったことも視野に入れながら、ネットワークの構築を試みています」と語る。
また安岡氏は、リウマチ・膠原病専門医以外の医師たちとの連携にも意欲的に取り組んでいる。「リウマチや膠原病は臓器障害を伴うことも多いため、これまで整形外科や呼吸器内科、腎臓内科、皮膚科など、専門外の先生が患者を診ていたケースも少なくありません。そうした先生方との連携も視野に入れています」と言う。
安岡氏が就任早々からこのようなネットワーク作りをスタートできたのは、それまでに培ってきた人脈があったからだ。周辺大学や医療機関に勤務する知己も、安岡氏が藤田医科大学の教授に就任すると知ると、すぐに協力する意向を知らせてくれたという。「藤田医科大学の関係者の方々はもちろん、地域の先生方はいろいろな形で声をかけてくださり、とても温かく私を迎えてくださいました。これは非常にありがたいことで、本当に感謝しています」と安岡氏は話している。
未だ課題山積のリウマチ・膠原病治療に挑む
慶應義塾大学時代に安岡氏がリウマチ・膠原病の診療に携わっていた当時、この分野はマイナーな存在と捉えられていた。「今でこそ慶應のリウマチ内科には30〜40人の医局員がいますが、当時は7人だけ。治療手段もステロイド剤や限られた免疫抑制剤しかなく、この疾患に興味を持つ少数の医師以外にとっては、全く面白くない領域と思われていました」と安岡氏は言う。
だが、その後の生物学的製剤や分子標的薬の登場、解析技術の進展によって、リウマチ・膠原病の治療は飛躍的に進歩したように見える。しかし、長くこの分野に携わってきた安岡氏は、「状況はあまり変わっていません」と話す。その理由として同氏が挙げるのが、典型的な病態に収まらず、完治しない患者が未だに多いことだ。リウマチ・膠原病領域における課題は今なお山積している。
「リウマチ・膠原病領域の山は高いですが、この領域に興味を持った人たちと一緒に、頂上を諦めることなく目指していける医局を作りたいと思います」。こう語る安岡氏の挑戦は、今後も続いていく。
--------------------------------------------------
安岡 秀剛(やすおか ひでかた)氏
2003年慶應義塾大学医学部卒業。
慶應義塾大学医学部助教、同講師を経て、2018年藤田医科大学医学部リウマチ・膠原病内科学教授。