「克己殉公」と「挑戦」の精神に基づく救急医療を継承

救急医療の“老舗”である日本医科大学付属病院と関連病院で救急医学を学んだ横堀將司氏が2020年、同大学救急医学教室の第4代教授に就任した。学是の「克己殉公」に加え、医局のモットーである「挑戦」の精神を受け継ぐ。他医療機関の救命救急センター支援や海上保安庁と連携する洋上救急業務など、同病院高度救命救急センターを象徴する救急対応にも通じた横堀氏は、救急医療の進展とともに後進の育成にも注力している。

日本医科大学救急医学教室

日本医科大学救急医学教室
医局データ
教授:横堀 將司 氏
医局員:32人
病床数:60床
関連病院:26病院


 2020年4月に日本医科大学大学院医学研究科救急医学分野の教授に就任した横堀將司氏は、同大学付属病院の高度救命救急センターを率いる。同センターは、横堀氏が生まれた1975年に国内で初めて開設された救急医療センターに端を発し、50年近い歴史を持つ。同大学救急医学教室の運営を担う教授は初代大塚敏文氏から山本保博氏、横田裕行氏へと引き継がれ、横堀氏で第4代を数える。

 日本医科大学の学是は「克己殉公」。我が身を捨てて、広く人々のために尽くすという精神を表す言葉である。「情熱を傾けて命を救うという私たち救急医学教室のコンセプトは、学是と親和性が高いのです。大学病院として高度な先進的医療を提供することはもちろん、地域に密着した急性期医療を提供していることが日本医科大学の特徴です」と横堀氏は語る。


日本医科大学付属病院高度救命救急センターのスタッフたち。(横堀氏提供)

 

地域の特性に応じた救命救急センター

 同センターに運び込まれる救急患者について特筆すべきは、搬送数のおよそ4分の1は他の医療機関から転送されるということだ。「一般的な救命救急センターでは対応が厳しい患者さんや、緊急手術が必要になった患者さんを受け入れる、いわば『救命救急センターのための救命救急センター』という位置づけです。そのため、受け入れ要請は断らない方針です」と横堀氏。地域における救急医療の“最後の砦”の機能を果たしている。

 日本医科大学は3施設の分院を持つが、それぞれの救命救急センターも、地域の特性に応じた特徴を備えている。千葉北総病院(千葉県印西市)は、千葉県ドクターヘリの基地病院であり基幹災害拠点病院であることから、入院患者の8割以上が外傷患者であり、救命救急センターも外傷対応に特化している。武蔵小杉病院(神奈川県川崎市)は、若い家族が多く住むエリアにあるため、周産期の対応が多い。多摩永山病院(東京都多摩市)は、高齢者の比率が高い地域で血管内治療の症例が多い。本院を含めたこれら4病院の医師は相互に支援し合っており、様々な症例を経験することになる。

 4病院いずれもドクターカーを運用することで、救命救急センターに搬送されるまでの「病院前医療」に注力している。もちろん救命率を向上させるためだが、日本医科大学のドクターカーは医師を同乗させて患者を搬送するだけではない。他施設の救命救急センターからの受け入れ要請には、必要に応じて救急医が同乗したドクターカーを出動させ、転送元で必要な処置を施した後、患者と一緒に帰ってくるケースもあるという。



日本医科大学付属病院高度救命救急センターのドクターカーと医療用車両。(横堀氏提供)

 

 本院の高度救命救急センターでは、病院前医療の一環として海上保安庁と連携した洋上救急業務も行っている。同庁からの要請を受けた救急医が羽田特殊救難基地へ向かい、ヘリコプターやジェット機で船舶火災や転覆の現場に駆けつける。その貢献に対して横堀氏らは同庁から表彰を受けている。

 ジェット機といえば、横堀氏の子どもの頃の夢はパイロットになることだった。しかし前橋高等学校時代に身内の死を経験し、視力が低下したことから、医師志望へと変わった。現役で群馬大学医学部に合格し、医学生となってからは脳外科領域に興味を持っていた。しかし、へき地医療の実習を経験したことで救急を目指すことに決めた。

 「私が実習に通っていた群馬県上野村は、最も近い救命救急センターまで救急車でも1時間半から2時間かかるところでした。そのような地域に必要なのは救急医であると強く感じたのです」と横堀氏は振り返る。そこで、救急医療に積極的に取り組む日本医科大学付属病院高度救命救急センターに1カ月間泊まり込みで実習に参加し、卒業後はそのまま同センターに入職した。以後は、分院や関連病院の救命救急センターで臨床経験を積み、2006年に本院の高度救命救急センターに戻った。

伝統の精神を守りながら働き方を改革する

 救急医学教室の教授公募に際して、「医局の伝統を守ろう」と決心した横堀氏は、手を挙げた。「前任の横田先生には求心力があり、『迷ったらゴー』と言って、私たちスタッフを後押ししてくれました。新たに挑戦したことについて叱られたことはありませんでしたが、躊躇して動かないときは注意されました。開設以来、医局のモットーは『挑戦』です。その精神を横田先生から引き継ぎ、スタッフとともに継承していこうという思いから、教授を目指すことにしました」と言う。

 「私自身、入職当時は月給3万円で、身を削るようなつらい思いをしながらも人を助けようと臨床の現場に立ち続けました。人を助けたい思いを後進に伝えることが自分の役目」とも横堀氏は言う。一方で、医局員の労働環境の改善には積極的で、喫緊の課題に医師の働き方改革を挙げる。2024年までに時間外労働時間を年960時間の「A水準」に近づけようと対策に取り組んでいる。

 現在の高度救命救急センターの医師数は40人、看護師数は150人ほど。ICU60床を運用し緊急手術にも対応するため、日中なら30人、夜間でも5〜6人の医師が必要だ。基本的には外科・整形外科・脳外科の専門医を含めたグループを3つ編成し、昼夜2交代制の輪番で診療に当たる仕組みをとっている。これにより、例えば頭と体を強打し骨折も認められる患者が搬送された場合、脳神経外科と外科、整形外科の専門医資格を有する各救急医が、協力し合い最善の処置を行えるようになる仕組みだ。横堀氏は「勤務後にインターバルを取って当直明けに帰宅できる体制に移行しつつあるので、以前に比べれば余裕を持って診療に当たれるようになっています」と話す。



日本医科大学付属病院高度救命救急センターの処置室で治療に当たるスタッフ。(横堀氏提供)

 

 残業時間の削減には、ICT(情報通信技術)とワークシェアリングを活用している。ワークシェアリングについては、救急救命士4人を新たに採用することで医師の負担軽減に努めている。また、女性医師の育児などによるキャリア中断を避けるため、出勤・退勤時刻の調整も行っている。「ここでは受け入れから退院まで一貫して対応していますが、中には女性医師が対応した方がよい患者さんもいます。ですから女性医師が辞めずに済むよう、子どもを預けられる時間帯に勤務可能な仕組みを取り入れました。『この条件なら』と、当センターへの転職を希望する女性医師が増えるかもしれません」と横堀氏は期待している。


日本医科大学救急医学教室の女性医局員たち。

 

他領域の専門医や学位取得を奨励

 横堀氏は、日本救急医学会の専門医・指導医の資格のほか、日本脳神経外科学会の専門医・指導医などの資格を有する。スタッフにも様々な領域の専門医資格の取得を推奨しており、医局には脳神経外科6人、外科4人、整形外科2人、集中治療科2人、clinical toxicologist (臨床毒物学の専門医)3人、熱傷3人、脳血管内治療2人、高気圧酸素1人の専門医が在籍している。「救急医は様々な領域を専門とする医師にコンサルテーションを依頼する機会が多いのです。その際にはコンサル医師と同等の知識が必要になります」と横堀氏。こうした考えから、医局員に専門医の取得を奨励している。

 研究面では、医師10年目までに博士号を取得することを奨励している。「博士号を取ったら、そこから興味を持ったことを伸ばしていってほしい。そして20年目までには後輩を指導しつつ自分の知識も広げ、30年目までには後輩を育て上げるまでになってもらえれば、医局員としての役割を十分果たしたことになります」と横堀氏は話す。また、計画的な診療が難しい救急医療の特性を踏まえ、今後は研修医のオン・ザ・ジョブ・トレーニングに、バーチャルリアリティー技術を用いたシミュレーションを活用することも計画している。横堀氏は「搬送患者がいない待機時間を有効に活用することで、計画的な診療ができないハンデを補いたいと考えています」と語る。

 横堀氏が教授に就任して間もない2020年5月29日、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が、都心上空を飛行した。新型コロナウイルス感染症患者の対応に当たっている医療従事者らに敬意と感謝の意を示すためで、メディアでも大きく取り上げられた。




ブルーインパルスが都心上空を飛行した際、横掘氏をはじめとするスタッフは、屋上で感謝の意を表した。(横堀氏提供)

 

「この1番機のパイロットは群馬大学のテニス部の後輩でした。パイロット志望だった私は、後輩が操縦する機体を見てとても勇気づけられました。」と横堀氏は語る。今後は、日本医科大学の学是や医局のモットーを受け継ぎながら地域医療の担い手として育っていく後輩たちが、横堀氏を勇気づけていくことになるに違いない。

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 横堀 將司(よこぼり しょうじ)氏

1999年群馬大学医学部卒業。日本医科大学付属病院高度救命救急センター、同麻酔科、日本医科大学多摩永山病院救命救急センター、国立病院機構東京災害医療センター脳神経外科、日本医科大学千葉北総病院救命救急センター、武蔵野赤十字病院脳神経外科、米国マイアミ大学医学部脳神経外科客員研究員などを経て、2020年より現職。

 


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