歴史を受け継ぎつつ新たなチャレンジを続ける

日本に初めて膠原病内科が誕生したのは1969年、順天堂大学医学部附属順天堂医院でのことだ。以来、免疫に関係する疾患の診療・研究に注力して年月を重ねてきた。現在は、新しい治療法やICTを活用した診療支援の導入にも積極的に取り組んでいる。30年以上を同科で過ごしてきた第5代教授の田村直人氏は、膠原病・リウマチ領域を「新たなフロンティア」と位置づけ、診療と研究、若手医師の教育に奮闘している。

順天堂大学医学部附属順天堂医院膠原病・リウマチ内科

順天堂大学医学部附属順天堂医院膠原病・リウマチ内科
医局データ
教授:田村 直人氏
医局員:32人
病床数:34床
外来患者数:5500人(診療中の患者数)
関連病院:7病院

日本初の膠原病内科が源流

 順天堂大学の膠原病・リウマチ内科の前身は、1969年に初代教授の塩川優一氏が日本で初めて設立した膠原病内科だ。第2代教授にはリウマチが専門の廣瀬俊一氏が就いたが、当時は糖尿病や血液内科領域の疾患も診療していた。第3代教授の橋本博史氏は全身性エリテマトーデス(SLE)や血管炎が専門で、この時代に診療科名が現在の膠原病・リウマチ内科に改称された。抗核抗体が専門の第4代教授・高崎芳成氏はリサーチマインドに富み、多くの研究を手がける一方、学会活動にも積極的に取り組み、日本リウマチ学会の理事長も務めた。

 順天堂大学の膠原病・リウマチ内科は、1994年以降は完全に単科の専門診療科となり、文字通り膠原病・リウマチに特化した診療を続けてきた。現在、医療機関の紹介が必須の完全予約制の外来として、関節リウマチ、脊椎関節炎、SLE、多発性筋炎・皮膚筋炎、血管炎(ANCA関連血管炎)、膠原病関連肺高血圧症、血漿交換・白血球除去療法、混合性結合組織病、自己炎症性疾患の専門外来を開設している。

 こうした歴史を受け継ぎ2017年1月に第5代教授に就任した田村直人氏は、1987年に順天堂大学医学部を卒業して同大学の内科に入局して以来、本院や他の附属病院で診療に当たってきた。「特定の臓器を専門にするのではなく全身を診たい。有病率が高い疾患よりも特殊な難治性疾患を診たい」という思いから、自らの専門に膠原病内科を選択した。

 これには免疫学に興味を持っていたことも影響したという。「膠原病内科は多くの医局スタッフを留学に出していたことも、留学志向を持つ私には魅力でした」。こう語る田村氏は、「内科で3年間、様々な領域の疾患を診療した後は、ほぼ膠原病・リウマチの臨床と研究一筋です。基礎研究は学内の奥村康先生の下で免疫学を学び、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校のリウマチ科で関節炎に関する研究を行いました」と付け加える。

膠原病・リウマチ内科のスタッフたち。前列左から4人目が田村氏。

 

医局スタッフには様々な疾患を経験させたい

 膠原病・リウマチ領域の疾患治療は長期間に及ぶため、同科で治療中の患者は5500人を超える。平日の外来診療には4つの診察室を当てているが、診療時間が延び、病院が設定している診療時間内に収まらないこともあるという。

 「診断を確定し治療方針が決定したら、できるだけ患者さんを地元の診療所へ戻す病診連携を進めることを考えています。順天堂医院も「2人かかりつけ医」制度を推奨しています。しかし患者さんが当院での診療を希望するなどして、思い通りに行かないこともあります」と田村氏は話す。そうした患者に対応するため、遠隔診療も導入している。「診察には血液データが不可欠なので、血液検査への来院だけはお願いしています。その検査データを見ながら、電話やテレビ会議システムで遠隔診療を行っています」。

 順天堂大学の膠原病・リウマチ内科の特徴のひとつに、外来での疾患による専門分けをしていないことが挙げられる。「当科の医師には様々な疾患を経験してほしい」(田村氏)という方針からだ。本院以外の附属病院も同様のスタイルをとっており、特別な事情がない限りは本院へ紹介しない「自己完結型」の診療を行っている。

 また、アフェレシス療法を実施していることも、膠原病・リウマチ内科の特徴だ。これは同科教授の山路健氏が主導している治療法で、血液から特定成分を分離させる手法である。血管炎などで重篤な症状が現れた急性期に行うと、症状が改善し予後も向上する。

膠原病・リウマチ内科のカンファレンスの様子。

 

研究ではグループを組織して若手を刺激

 研究面で田村氏は、若手の意欲を刺激するよう努めている。「医師になって5、6年目の頃は内科の専門医資格を取得し、臨床が面白くなってきます。一方で私は、研究にも興味を持って取り組んでほしいと思っています。臨床研究はもちろんですが、免疫学の基礎的研究も臨床にも役立つことを伝えて、研究のための時間を確保する習慣を身につけさせたいと考えています」。

 研究マインドを醸成するために、田村氏は准教授クラスをリーダーに据えたグループを研究テーマごとに6つ設立し、研究や臨床での疑問を相談し合えるようにしている。研究テーマがオーバーラップしてくるため、複数グループに所属する若手医師もおり、それぞれが多種多様な情報交換を行っている。臨床ではあえてグループを作らず幅広い経験を積ませる一方で、研究では若手に刺激を与えるためグループを設けている点は、順天堂大学の膠原病・リウマチ内科の大きな特徴といえる。

 具体的な研究取り組みとして挙げられるのは、順天堂大学の附属病院との共同でSLEのレジストリを行っていること。田村氏がセンター長を務める順天堂医院 臨床研究・治験センターでは、SLE関連の治験も増加している。「リウマチの治療はこの10年で大きく変わりましたが、SLEも同様に今後10年で大きく変わる可能性を感じています」と田村氏は話す。

カンファレンスには病棟のスタッフステーションからもオンラインで参加できる。


膠原病・リウマチ領域は「魅力的なフロンティア」

 膠原病・リウマチ領域に対する医学生のイメージを、田村氏は次のように受け止めている。「膠原病はよく分からない病気」、「患者さんは少ないのに憶えなければならないことが多い」、「マニアックな感じ」──。これに対して田村氏は、膠原病・リウマチ領域は全身を診る一般医的な要素を強く持ちつつ、疾病メカニズムの解明が急速に進み、新しい治療薬が次々と生まれている魅力的なフロンティアであると訴えている。

 「コロナ禍以前は、実習に来た学生と昼食を取りながら、私たちの診療科の紹介をしていましたが、今はその機会を作ることが難しくなっています。それでも、初期臨床研修を終えようとしている医師を対象にした医局説明会を開くことなどで、必要な数の入局者をなんとか迎え入れることができています」と田村氏。「魅力的なフロンティア」という言葉に触発され、膠原病・リウマチ内科を志す若い医師も少なくないようだ。

 田村氏が若手の育成と同様に注力していることは、同科が得意としているSLEや血管炎、それに加えて脊椎関節炎の治療で新しいエビデンスを出していくことだ。また、最近増加している炎症性筋疾患、自己炎症性疾患などの診療・研究にも余念がない。日本初の膠原病内科という歴史を受け継ぎながら、新たな分野にチャレンジし続ける順天堂大学医学部附属順天堂医院膠原病・リウマチ内科ならではの取り組みといえそうだ。

 「昔は多かった病気でも今は少なくなっているものがありますし、その逆もあります。高齢化や生活習慣の変化が影響していると考えられますが、膠原病・リウマチの分野でも、なぜ疾病構造が変わっていくのかを研究していきたいですね」。新しいチャレンジを続ける田村氏の膠原病・リウマチへの興味は尽きない。

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田村 直人氏

1987 年 3 月 順天堂大学医学部卒業。順天堂大学医学部膠原病内科、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)リウマチ科留学、順天堂大学医学部膠原病内科などを経て、2017 年より現職。

 

 

 


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