全国各地で活躍できる整形外科のリーダー育成に取り組む

2021年、大阪大学大学院 医学系研究科器官制御外科学講座(整形外科)の第7代教授に、九州大学出身の岡田誠司氏が着任した。大阪大学整形外科教室の伝統と言える臨床・研究面の強みをさらに発展させながら、組織の活性化に取り組む。今後は大学や様々な医療機関の整形外科でリーダーシップをとれる人材を育成し、全国に送り出すことを目指している。

大阪大学大学院医学系研究科 器官制御外科学講座(整形外科)

大阪大学大学院医学系研究科 器官制御外科学講座(整形外科)
医局データ
教授:岡田 誠司氏
医局員:80人(学内のみ)
病床数:50床
手術件数:約1000件/年
外来患者数:30000人/年
関連病院:80病院

 大阪大学大学院 医学系研究科 器官制御外科学講座(整形外科)は、1945年に大阪帝国大学医学部に整形外科学講座が開設されて以来、約80年の歴史を刻んできた日本有数の整形外科教室だ。第7代教授として岡田誠司氏が着任した2021年時点で、同教室が輩出した整形外科医の総数は1066人に上る。

 広島県の出身である岡田氏は、高校の修学旅行で九州を訪ねた際にその土地柄に魅せられたことなどから、九州大学医学部に進学した。学生時代はサッカー部の活動にも積極的に取り組んだという。「キャプテンを務めた年に西医体(西日本医科学生総合体育大会)で優勝できたことはいい経験でした。強い組織を作ること、結果を残すことの難しさや素晴らしさを体験できました。多少は教授の仕事に通じる部分もあると思います」と岡田氏は笑う。

 サッカー部OBなどの話を聞いて、岡田氏は卒業後に外科系の医局へ進むことを考え、最終的に選んだのが整形外科だった。「外科は食道や肺など限られた臓器を対象に治療することが多いのに対し、整形外科は全身が対象であり手術以外の治療手段も多く、また赤ちゃんから高齢者まで幅広い患者を診ることができると考えました。整形外科の先生方が、皆楽しそうに手術や診療をしておられたことも決め手になりました」と岡田氏は言う。

 整形外科教室に入局した後は、九州大学病院、佐賀県立病院、独立行政法人労働者健康安全機構総合せき損センター整形外科などで、骨折や関節外科、脊椎手術を中心に臨床経験を積んだ。その後、慶應義塾大学の大学院に進学して基礎研究に勤しみ、2006年に学位を取得している。

 岡田氏は「人それぞれ」と言いながらも、一定期間基礎研究に取り組むことは、その後の医師人生に良い影響を与えると考えている。「基礎研究は自由にテーマを選択できるので、若いうちから自分のオリジナリティーを出しやすいのが特徴です。臨床とは異なり、0から1を生み出す作業に取り組むことになるので、自分を成長させる良い訓練になると思います。若い人にはぜひ興味を持ってもらいたいですね。将来、指導的な立場に就きたいと考える人には大学院への進学を勧めています。特に大阪大学医学系研究科の基礎研究は世界屈指のレベルですので、整形外科の常識を覆すような研究をしてもらいたいと思っています」と岡田氏は熱く語る。

 岡田氏自身も整形外科並びに脊椎脊髄外科の専門医として診療する傍ら、中枢神経の再生に関する世界的な業績を挙げてきた。「整形外科領域で深いサイエンスをする臨床医の存在は学問の発展に欠かせないと思っています。幅広く人材を求め、整形外科の臨床と研究の発展に貢献する人材を大阪大学で育てていきたいですね」と言う。

「良質な医療を提供すると共に、医療人の育成と医学の発展に貢献する」という理念を掲げる大阪大学医学部附属病院。

 
阪大整形外科の利点を活かした研修を

 整形外科の専門分野は、骨折などの外傷に加えて、膝関節や股関節などの関節外科、脊椎外科、腫瘍外科、小児整形外科、スポーツ整形外科など多岐にわたるが、大阪大学整形外科では、専門医を取得する前に出来るだけ幅広い領域を研修できるようなシステムを構築することに注力しているという。岡田氏は、「研修先や派遣先は本人の希望も重視しますが、経験の乏しい若いうちは自らがイメージできる特定のところに偏りがちです。自分の希望とは異なっていても、実際に研修すれば面白いし、勉強になり、将来医師としての幅を広げてくれる分野は少なくありません。そこで大阪大学整形外科では、公正なくじ引きの順番に、医局が提示した研修病院の中から自分がやりたいことや場所を鑑みて選んでもらっています」と言う。

 このくじ引きについて、岡田氏は「大阪大学出身以外の人にもフェアな医局であることのアピールにもつながりますし、何といっても阪大整形外科の強みの1つは、全ての分野において充実した研修施設の数が全国随一という点です。ですから、どの病院を選択しても必ず将来のためになる、いわば外れが1つもないくじのようなものなのです。ぜひ阪大整形外科で研修して整形外科医としての自分の可能性を伸ばしてほしいと思っています」と語る。

整形外科教室のメンバーたち。(岡田氏提供)

優秀な仲間から刺激を受けられる医局の利点をアピール

 岡田氏は、若手医師に対して医局組織の魅力をもっと伝えていく必要があると考えている。「大学医局に入ると、なにかと制限が多く自由を奪われると心配している若手医師が多いようですが、医局には様々な経験を積んだ各年代の優秀な先輩や後輩たちが数多く在籍しています。そうした環境で刺激を受けることは、医師としてだけでなく、社会人としても成長することにつながります。これが大学医局の最大の利点と言えます。特に大阪大学整形外科は、全国でも屈指の大きな教室ですので、極めて自由度が高いというメリットがあります」と岡田氏。

 専門医や学位を取ることも大切だが、それは形式的な問題であり、より重要なのは充実した医師人生を過ごすために役立つ実力や哲学を身に付けることだ。長い医師人生、目先の収入や短期的な視点で物事を決めるのではなく、若いうちは様々な経験を積んでほしい。そう考える岡田氏は「指導的立場のものはもちろんですが、若いうちからも後進を指導する機会も教室内では多々あります。これも自身の成長には欠かすことができません。若手に責任を持たせて成長を促す環境作りが重要と考えています」と言う。

医局員に理解される「ビジョン」を示す

 岡田氏が考えるトップとしての重要な仕事は、(1)平等に機会を与えること(2)公平に評価すること、そして(3)組織のビジョンを示すことだという。(1)については、公平な研修先・派遣先の決定や、若手にも責任を持たせることなどで実現しつつある。(2)で気を付けていることは、論文業績や手術実績などの目に見える評価基準だけでなく、上司や後輩、コメディカルスタッフからの評判や指導力などの人間性も重視して、バランスよく判断することだという。

 その上で組織をまとめ一体感を出すために必要なものが、(3)となる。「医局のビジョンは、医局員みんなが『それ、いいな』と思えるものでなければなりません。私自身は『大阪大学の整形外科を日本一、世界一にしたい』という思いを持っています。しかし、そうした抽象的な目標を示すだけでは不十分です。例えば新人の入局者数を日本一にするといった具体的な目標や、リーダーの輩出人数、論文数といった客観的に判断できる基準を示して、みんながそれぞれの目標に向かっていけるようにすることが大事だと思っています」と岡田氏は話す。

 さらに、「大阪大学整形外科は、良き医療人の育成にとどまらず、学問としての整形外科医学を発展させていく人材を輩出する役割を担っています。単に論文を量産できるとか手術がうまいとかではなく、主要な医療機関の整形外科でリーダーシップをとる人材を数多く育成し、全国に送り出していきたいと考えています」と岡田氏は意気込む。

 こうした具体的な目標は、医局員それぞれの目標とリンクさせていくことも重要だ。「医局員それぞれのやりたいことが組織のためになるのであれば、何をおいても支援します。組織の目的と医局員のやりたいことが違うと組織は良くない方向に進みかねませんが、各人の成長が組織の成長にそのままつながる仕組み作りが大事だと私は思っています。若い人がやりたいことを手がけることによって、その可能性を伸ばせるような組織にしていきたいと考えています」と岡田氏は言う。

 大阪大学の整形外科教室は、個の力を集結して、組織の活力を増大させていく。

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岡田 誠司 氏

1999年九州大学医学部卒業。九州大学病院整形外科、佐賀県立病院整形外科、総合せき損センター整形外科等で研修を行い、2006年慶應義塾大学大学院にて医学博士取得。その後九州大学医学研究院先端医療医学部門准教授、米国イェール大学整形外科Spine Center 留学を経て、九州大学生体防御医学研究所病態生理学分野教授に就任。2021年より現職。(写真は岡田氏提供)




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