シェーグレン症候群などの研究で実績、医局員の教育にも注力

金沢大学大学院医学系研究科 循環器病態内科学 リウマチ・膠原病研究室は、シェーグレン症候群、IgG4関連疾患などの研究で全国的に知られる医局だ。治療薬の開発など基礎研究に力を入れる一方で、医局員の教育にも熱心に取り組んでいる。「人を育てて、自分も育つ」という研究室の方針の下、リウマチ・膠原病の専門家であると同時に、総合診療的な診断技術を備えた医師の育成を目指している。

金沢大学大学院医学系研究科 循環器病態内科学 リウマチ・膠原病研究室

金沢大学大学院医学系研究科 循環器病態内科学 リウマチ・膠原病研究室
医局データ
病院臨床教授:川野 充弘氏
医局員:診療従事者13人、大学院在籍者4人
外来患者数:1万3980人(2021年実績)
関連病院数:20病院

病院の診療科、医学部内科系講座の再編を経て現在の姿に

 金沢大学大学院医学系研究科 循環器病態内科学 リウマチ・膠原病研究室は比較的新しい医局で、その歴史は現・科長である川野充弘氏の来歴と重なるところが多い。川野氏は1978年に金沢大学医学部を卒業後、当初から膠原病の専門医を目指していた。その志望動機について「本来免疫は、感染症などから自身の体を守るシステムです。ところが何かの要因で体を守らないだけでなく攻撃し、しかもそれが慢性的に続きます。どうしてそんなことが起こるのか、その仕組みが興味深く、免疫疾患の診療・研究に携わりたいと考えました」と語る。

 川野氏が卒業した当時、金沢大学医学部の内科系医局は第一、第二、第三に分かれており、腎臓病を中心に膠原病の診断・治療を行っていた第二内科に入局した。その後、2004年に金沢大学附属病院の診療科が臓器別に再編され、リウマチ・膠原病内科は独立した診療科となった。川野氏は初代科長の紺井一郎氏(現・紺井医院院長)を引き継いで、2007年に2代目科長に就任し現在に至っている。

 リウマチ・膠原病教室の主な研究テーマは、①IgG4関連疾患、②関節リウマチ、③シェーグレン症候群の臨床研究、④脊椎関節炎、⑤免疫グロブリン軽鎖による腎病原性の病態解析、⑥ウロモジュリン腎症などだ。中でもIgG4関連疾患とシェーグレン症候群に関しては、全国でも有数の症例数が集積する施設として、全国トップレベルの研究業績を上げている。

「抗セントロメア抗体陽性原発性シェーグレン症候群」を日本で最初に報告

 「『抗セントロメア抗体陽性原発性シェーグレン症候群』は、2001年に私たちが日本で最初に報告しました。その報告がきっかけとなって日本で抗セントロメア抗体陽性原発性シェーグレン症候群の疾患概念が確立し、多くの患者さんが正しく診断されるようになったと考えています」(川野氏)。

 当時、抗セントロメア抗体は強皮症のマーカーとして広く知られていたが、シェーグレン症候群の中にも抗セントロメア抗体陽性で乾燥症状が強い患者が一定の割合で存在することに気付いた同科の医師らが、12例のケースレポートをまとめてJournal of Rheumatologyで発表した。この報告が国内外で大きな反響を呼び、多くの医師が抗セントロメア抗体陽性原発性シェーグレン症候群を意識して日常診察に臨むようになったという。

 「『自分の病名がはっきりして、病気がちゃんと理解されてうれしい』との言葉を患者さんから聞き、よかったなと思いました。それまでは、皮膚のつっぱりなど全然ないのに、病院で「強皮症です」と言われる患者さんがかなりいたのです」(川野氏)。金沢大学病院リウマチ・膠原病内科のスタッフは、日本シェーグレン症候群学会の主要な構成メンバーとして診療ガイドライン作成委員会などで重要な役割を担っているほか、海外の臨床研究にも積極的に参加している。

「IgG4関連疾患」の疾患定義や臓器別の診断基準作成などにも貢献

 IgG4関連疾患は、国が指定する難病の1つだ。川野氏がIgG4関連疾患の研究を始めたのは、まだ「IgG4関連疾患」という疾患名が付く前、2004年ごろのことだった。「第13回日本シェーグレン症候群学会学術集会(佐賀県で開催)で「ミクリッツ(Mikulicz)病」に関するシンポジウムにたまたま参加したのがきっかけです」と当時を振り返る。

 ミクリッツ病はシェーグレン症候群と同様、主に口腔や涙腺に乾燥症状が出る疾患だが、IgG4が高値でステロイドが奏功するなど異なる特徴があることから、当時はシェーグレン症候群の亜種と見なされていた。川野氏はミクリッツ病についての知識はほとんどなかったが、シンポジウムの議論を聞いて、検査値の特徴などが自身の患者と一致することに気付いたという。「私の患者さんの病変の箇所は肺でしたが、IgG4高値などの特徴がミクリッツ病とそっくりでした。ミクリッツ病は肺でも起こるのではないかと思い当たったのです」(川野氏)。

 その後、IgG4高値、ステロイドが奏功するといった特徴は共通でありながら、病変の箇所は様々な患者がいることが、全国の医療機関からの報告で明らかになった。「ミクリッツ病を含めた複数の疾患が、1つの全身疾患「IgG4関連疾患」として認識されていったのです。その全体像を世界に先駆けて明らかにしたのは日本の医師です。私たちも2007年に発足したIgG4研究会や厚生労働省の研究班に主要なメンバーとして参加し、IgG4関連疾患の疾患定義や臓器別の診断基準作成などに尽力してきました」(川野氏)。IgG4研究会は2019年に日本IgG4関連疾患学会へと昇格し、川野氏は初代理事長に就任している。

 現在、IgG4関連疾患についてリウマチ・膠原病研究室が特に力を入れて取り組んでいる研究テーマは治療薬の開発だ。IgG4関連疾患にはステロイドが奏効するが、減量したり中止したりすると再燃することが多く、寛解につながる治療法はまだ見つかっていない。

 「TNF-αやIL-6がリウマチ治療薬の標的であるように、IL-4がIgG4関連疾患の治療標的になり得るとの考え方もあります。しかし、まだ、決定的な成果は得られていません。合併症のため高用量のステロイドが使いにくい患者さんや、高齢のためステロイド服用に耐えられなくなってきた患者さんもいるので、早く『この治療法でステロイドは要らなくなりました』と言えるよう、一生懸命、研究を進めているところです」(川野氏)。

医局のスタッフたち。後列左から4人目が川野氏。(川野氏提供)

リウマチ・膠原病の専門家ながら総合診療的な診断技術も備えた医師を養成

 リウマチ・膠原病研究室が掲げる運営方針は「人を育てて、自分も育つ」。研究に力を入れる一方で、若手医師の教育にも熱心に取り組んでいる。「特に重視しているのは診断力の養成です。リウマチ・膠原病内科には、他の医療機関や診療科から『何の病気か分からない』と紹介されてくる患者さんも多いので、私たちはリウマチ・膠原病の専門家であると同時に、総合診療的な診断技術も備えていなくてはなりません」(川野氏)。診断学分野で世界的に著名な米国の医師ローレンス・ティアニー氏(Lawrence M. Tierney Jr.)を継続的に招聘して講義をしてもらっているのも、診断力を磨く学びの環境作りの一環だという。

 また川野氏は、折に触れて、ケースレポートを書くことを若手医師に勧めている。「忙しくても、珍しい症例に出会ったら論文発表を目指すようにと言っています。診断が適切でなければ、論文を投稿しても審査に通りません。患者さんの診療に当たっては、目の前の患者さんに最善を尽くすのは当然ですが、論文を書くことも意識して診察に臨むことが、スキのない診断のための良い訓練になるのです」。

 

 その一方で、診断を付けることにこだわり過ぎないように、とも伝えている。一見、矛盾するようだが、「ガイドラインや診断基準から外れた症例に出合った際、無理やり既存の枠に当てはめるのではなく、『もしかしたら未知の疾患ではないか』と疑う姿勢も大切」(川野氏)との考えからだ。抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群やIgG4関連疾患についての自身の経験に基づいた助言なのだろう。

 どういった医師に入局して来てほしいかと川野氏に問うと、「免疫疾患の診療・研究に興味があること」に加えて、「おしゃべり好きな人」と「推理小説が好きな人」との答えが返ってきた。「患者さんとのおしゃべりの中から診断や治療のヒントを見つけ出すこと、事件の謎を解くように何の病気か推理するのが好きな人は、うちの研究室に向いていると思います(笑)。ぜひ当研究室に来てください。ともに診療と研究に励み、ともに成長していきましょう」(川野氏)。

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川野 充弘氏

1987年金沢大学医学部卒業。1993年金沢大学社会保険病院血液浄化療法部部長。2006年より循環器病態内科学(旧第二内科)講師、附属病院リウマチ・膠原病科科長、同臨床教授を務める。


【参考文献】

K Katano, M Kawano, I Koni, S Sugai, Y Muro. Clinical and laboratory features of anticentromere antibody positive primary Sjögren's syndrome. J Rheumatol. 2001 Oct; 28(10): 2238-44. 




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