感染症に精通した血液・リウマチ専門医を育成

愛媛大学大学院医学系研究科の血液・免疫・感染症内科学(第一内科)教室は、開学以来の伝統を引き継ぎ、感染症に精通した上で血液疾患や膠原病を診られる医師の育成に力を入れている。2018年に教授に就任した竹中克斗氏は、研究・教育面で若手医師を手厚くサポートする一方、自らの専門である血液内科の県内ネットワークを立ち上げ、県内の血液疾患診療の質の向上にも取り組んでいる。

愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学(第一内科)

愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学(第一内科)
教授:竹中 克斗氏
医局員:15人
病床数: 35床
外来患者数:新来患者数 394人、再来患者数 15,460人(2021年実績)
関連病院:9病院ほか

 愛媛大学の第一内科は、1973年の医学部設置時に開設された。名称こそ「血液・免疫・感染症内科学」に変更されたものの、実質的には今も第一内科が健在だ。その教室の第4代教授に2018年、九州大学医学部第一内科出身の竹中克斗氏が就任した。愛媛大学の第一内科は、開講時に九州大学第一内科から多くのスタッフを受け入れており、以前から深い相互交流があった。竹中氏は九州大学第一内科の関連病院である松山赤十字病院で臨床研修を受けた縁もあり、大学で自らの理想を追求したいとの思いから、教授公募に応募したという。

 「九州大学と愛媛大学の第一内科は専門分野がほぼ同じであることも愛媛大学に来た理由の1つです。どちらも手技を身に付けることに主眼を置く診療科の教室とは異なり、臨床で見つけた疑問をじっくりと考えることが中心になる教室なので、おのずと雰囲気が似てくる部分がありますね」と竹中氏は語る。

医局員の希望を可能な限りサポート

 愛媛大学第一内科の開講以来の理念は、「楽しく自由に学び、個性を伸ばす。地域に根ざし、世界に通じる医療人を育てる」。前半の「楽しく自由に学び、個性を伸ばす」については、医局員の希望を可能な限りサポートする方針を採っている。「例えば、他の施設で勉強したいということであれば喜んで行かせますし、臨床しながら研究もしたいということであれば、技術的なことから研究費までサポートします」と竹中氏。「小さい教室ですので、若手も気兼ねなく話をできる雰囲気作りを大事にしています」とも言う。

 「若手の医局員は独力で研究費を確保することは難しいのですが、研究を推進している人に集中的に資金を投下することで、『研究費がないから実験ができない』ということがないようにしています」。こう語る竹中氏がその具体例として挙げるのが、新しいがん免疫療法の開発だ。教室からのサポートを受けて、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)作成の最適化に関する研究を続けていた大学院生の論文が今、投稿中の段階にこぎ着けているという。

 一方、教室の理念の後半にある「地域に根ざし、世界に通じる医療人を育てる」については道半ばのようだ。「地域に根ざした医療を提供するため県内各地に医局員を送りたいのですが、まだ人数が少ないので十分ではないですね。今は医局員が、非常勤で地域に出て行って専門的な診療を行ったり、そこで大学病院での治療が必要な患者さんを連れて帰ってきたりしている状態です」。こう語る竹中氏は「愛媛県には交通の便が良くない地域が多く、大学病院まで通院するのは大変なので、そういう地域に早く医局員を送れるようにしたいと考えています」と付け加える。

 世界に通じる医療人の育成は、まずは研究からと竹中氏は考えている。「若手には、研究を進めて世界に通用する業績を出したり、海外に留学して勉強したりする経験を積んでもらいたいと思っています。これまで教室の人員不足から留学が途絶えていたのですが、これからは研究を頑張っている人たちに、それぞれに適した留学先を紹介するなどのサポートを行っていくつもりです」と話す。

第一内科における若手への研究サポートは手厚い。(竹中氏提供)

 

専門にかかわらず「感染症が診られる医師」に

 これまで述べてきた理念に加え、愛媛大学第一内科の医師教育は、感染症に精通した上で血液疾患や膠原病を診られる医師を育成している点が大きな特徴になっている。その理由を、竹中氏は次のように語る。

 「大学病院という特性上、私たちのところには、熱が続いて全身状態が悪いけれど地元の医療機関では原因が分からないというタイプの患者さんが数多く訪れます。最終的には感染症か血液疾患か膠原病のことが多いので、第一内科がそうした患者さんに対応しますが、血液や膠原病だけを診ていては適切な診断・治療ができません。いずれの疾患も免疫を強く抑える治療をする機会が多いので、ベースとして感染症に精通しておくことが非常に大事なのです」。

 血液専門医は充足しているとは言えないが、造血幹細胞移植などの高度な治療は実施施設が限られるため、必ずしも各地域にいる必要はない。また、関節リウマチは患者数が多いが、リウマチ専門医は一定の数が存在する。こうした愛媛県の状況下で第一内科の医師に求められるのが、感染症をきちんと診られる能力だと竹中氏は言い切る。「血液疾患が専門でも膠原病が専門でも、感染症にはしっかり対応できる医師を育成したいと考えています。そうでないと、大学から地域の基幹病院に出たときに必要な役割を果たせず、県民のニーズにも応えられないからです」。

 実際、今回のコロナ禍で、県内の新型コロナ感染症の診断・治療に当たっているのは、愛媛大学第一内科の出身者が多いという。ただし、感染症は診療の範囲や分野が広いので、血液やリウマチの専門医を目指す医師が感染症の専門医も取得することは容易ではない。この点について竹中氏は「私が教授になってから入局してきた人たちには、血液専門医やリウマチ専門医を目指す場合でも感染症専門医が取れるように、大学にいる間は感染症のカンファレンスに参加してもらったり、実際に患者さんを受け持つなどして、経験を積ませています」と話す。

第一内科のカンファレンス風景。中央の机に座り見上げているのが竹中氏。(同氏提供)

 

大学病院内外での「連携」も学ばせる

 また、多職種連携を意識した医師の育成を目指している点も、愛媛大学第一内科の特徴だ。例えば血液疾患における造血幹細胞移植では、医師や看護師だけでなく薬剤師、理学療法士の協力や、口腔ケアを担う歯科医師や歯科衛生士の関与が欠かせない。患者にかかるストレスが大きい場合には、臨床心理士によるサポートも必要になる。「若手には、多職種が連携しないと治療がスムーズにいかないことを理解し、多くのスタッフのサポートを受けながら治療していくことを学んでほしいですね」と竹中氏は語る。

 多職種連携は大学病院内にとどまらない。退院患者はもちろん、定期的な通院が難しい高齢患者などの治療に際しては、地域の医療機関との連携が不可欠だ。「各施設の看護師、薬剤師、理学療法士との連携や、ソーシャルワーカーとの連携が必須なので、そうしたネットワークを大事にしながら診療に当たっていく必要があります」と竹中氏。第一内科の医師が学ぶべき多職種連携は幅広い。

 幸い今は、愛媛大学医学部附属病院が全体として外部との連携を強化する方向にあるため、連携関係の構築がスムーズに実現しやすくなっているという。「大学病院が地域の医療機関と連携しないと県内の医療が成り立たない部分もありますから、お声がけした際に多くの職種の方に集まっていただけることで非常に助かっています」と竹中氏は話す。

 この連携をさらに強化すべく、愛媛大学医学部附属病院では、総合診療サポートセンター(TMSC)が中心となって、患者の同意を前提に、地域の中核病院との間で電子カルテ情報を共有する試みが開始されている。既に一部の病院との間ではカルテ情報の共有化が実現しており、より広い範囲へと広げる計画が進行中だという。

病棟実習風景。中央でPCを操作しているのが竹中氏。(同氏提供)

 

県内の血液内科を結ぶネットワークを立ち上げ

 2019年の夏に竹中氏は、「eHA(愛媛血液グループ)」という会を立ち上げた。これも学外連携の一例だが、対象となるメンバーは県内全域の血液内科医である点が、患者を介した連携とは異なる。メーリングリストによって診療や臨床試験に関する最新情報を共有するほか、情報交換の場として年数回の研究会を開催している。

 eHAを設立した理由を、竹中氏はこう語る。「一番の目的は、県内の血液内科医を増やすことです。愛媛大学医学部の入学者の半分は県外出身で、多くは卒業後に出身地に帰ってしまいます。一方で、県内出身でも最先端の治療を学ぶために関東圏や関西圏へ研修に出ている医師も少なくありません。そういう意識の高い医師たちに、愛媛県の血液診療の実績を知ってもらうことで、『地元に帰ってもいいかな』と思ってもらえたら、と考えました」。

 また県内でも、研修医や若手医師にも声をかけ、施設をまたぐ形で交流したり発表してもらうことで、血液診療の面白さを実感してもらい、血液内科医の道に進んでもらうことも狙っている。竹中氏は「大学病院でも地域の基幹病院でも、他の大学の関連病院も含めて県内の血液内科を『緩やかな共同体』としてまとめながら最新情報を共有するなどしていけば、血液診療の質の向上につながりますし、ひいては血液内科医を増やすことにもなると考えています」と話す。

 残念なのは、折からのコロナ禍で2020年以降、交流の場となる研修会を開けずにいることだ。「今は私が上市された新薬や臨床試験に関する最新情報をメールで発信しているのですが、やはり実際に顔を合わせないとコミュニケーションを取るのは難しいですね。何か代替手段がないかと模索しているところです」と竹中氏は言う。

時には医局旅行も。前列中央が竹中氏。(同氏提供)

 

増え始めた第一内科の入局者

 こうした地域の医療機関との連携や医師同士の横のつながりは、徐々に医局員を増やす効果を表し始めてもいるようだ。「日ごろから情報共有をしていると、例えば地域の基幹病院で初期研修を受けた医師が大学に入ってくるなど、相互の交流が深まります。今は若手の交流が進んでいる段階ですが、徐々に中堅クラスにも波及し始めています。良い流れができつつある感じですね」と竹中氏。同氏が就任以来、実習担当の教員を置くなどして教育に力を入れてきたことが周囲にも伝わりつつあり、着実に入局者が増えているという。

 そんな愛媛大学の第一内科の目標は、県内各地への医師の派遣を実現させられるだけの医局スタッフの増員だ。その実現のため、竹中氏は若手医師に向けてこう呼びかける。「私たちの科には、難治性疾患や診断が難しい患者さんが多くやって来ます。そういった患者さんに向き合って、みんなで議論しながらじっくりと診断と治療の基本を学んでいけるのが当科の利点です。内科の醍醐味を味わえることは間違いありませんので、興味のある方はぜひ一緒にやっていきましょう」。

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竹中 克斗 氏

1991年九州大学卒、同大学第一内科入局、同大学医学部附属病院内科研修医。1992年松山赤十字病院内科研修医。1993年に九州大学に戻り第一内科研究生、同医員、岡山大学第二内科助手などを経て、2000年カナダ・トロント小児病院血液腫瘍科博士研究員。2002年オンタリオ州がんセンター細胞分子生物学ポスドクフェロー。2005年九州大学病院血液・腫瘍内科助教、2012年同大学病院遺伝子細胞療法部講師、2016年同大学病院血液・腫瘍・心血管内科講師。2018年より現職。

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