大学病院として最新・最適な治療の提供に取り組む

滋賀医科大学内科学講座血液内科は、2022年に独立した新しい医局だ。初代教授の村田誠氏は、大学病院として「最新・最適な治療を提供すること」の実現に力を注いでいる。着任後すぐに造血幹細胞移植の実施体制を強化するとともに、間葉系幹細胞による細胞治療、ECP(体外フォトフェレーシス)などの導入に着手。現在はCAR-T細胞療法の導入準備を進めているところだ。血液内科分野では、基礎研究での成果がいち早く実用化されやすい。患者メリットのために、最新の治療法の有効性を見極めて遅滞なく導入することが大切だと村田氏は考えている。

滋賀医科大学 医学部医学科
内科学講座 血液内科

滋賀医科大学 医学部医学科 内科学講座 血液内科
◎医局データ
教授:村田 誠 氏
医局員:12人
専用病床/クリーンルーム:21床/5床
入院延べ患者数:約6700人(2022年度実績)
外来延べ患者数:約7800人(2022年度実績)
関連病院:常勤医派遣病院3施設、非常勤医派遣病院3施設

 滋賀医科大学医学部附属病院血液内科の外来患者数(2022年、延べ人数)は年間約7800人、入院患者数(同)は約6700人で、2023年の同種造血幹細胞移植の実施件数は21例だった。現在の血液内科専用の病床は21床で、無菌室は高密度無菌室が2床と準無菌室が3床の計5床。2024年度中に、高密度無菌室を3床増やし、2025年度中には準無菌室を改築して高密度無菌室を全9床にすることが決まっている。将来的には準無菌室も復活させて、全17床にする計画だという。診療を担うのは血液内科医局に所属する12人の医師だ。 

 もともと血液内科は内科学第二講座の1グループだったが、組織再編で2022年に独立した医局となった。初代教授は、名古屋大学医学部血液・腫瘍内科学准教授から就任した村田誠氏だ。村田氏は米国に留学して移植免疫学を学び、帰国後は名古屋大学医学部附属病院に移植・細胞療法チームを立ち上げ、移植医療の礎を築いた。基礎研究でも、GVHD(移植片対宿主病)を主な研究テーマとして多数の論文を発表してきた。その経験と実績を基に、滋賀医大では、最新の血液内科診療を導入し提供することに力を入れている。 

 「滋賀医大に赴任して来たとき、血液内科が目指すビジョン・将来像を2つ掲げました。その1つは『一人ひとりの患者さんに寄り添う心を持つこと』。もう1つは『最新・最適な治療法を提供すること』です。これらの実現を通じて、地域の患者さんに『滋賀医大の血液内科で治療を受けて良かった』と言っていただけるようになることが大きな目標です。1つ目の『一人ひとりの患者さんに寄り添う心を持つこと』については、私が教授に就任する前から、滋賀医大の先生方がしっかり取り組んでくれていました。ですから私の役目は『最新・最適な治療法を提供すること』の実現だと考え、力を入れているところです」と村田氏は言う。


滋賀医科大学内科学講座血液内科教授の村田誠氏。

急性GVHDに細胞治療を導入、その効果が他科にも波及 

 滋賀医大病院は滋賀県における血液内科診療の拠点であり、村田氏が着任する前から、年間十件ほどの同種移植を手掛けていた。ただ全国の大学病院の中では、新薬や新しい治療法の導入がやや遅れ気味だったという。そこで村田氏が着任後、まず手掛けたのは、間葉系幹細胞を使った細胞治療の導入だった。 

 「移植後の患者さんがGVHDを発症した場合、まずはステロイド剤などの投与で症状改善を目指しますが、一定の割合でステロイド抵抗性の患者さんがいます。間葉系幹細胞による細胞治療は、ステロイド抵抗性の急性GVHDを対象とする治療法の1つです。2015年に日本で承認されて以降、名古屋大学病院をはじめ、多くの大学病院で実施されていました。滋賀医大病院でも2023年に新規導入し、特に下痢などの症状が強い、ステロイド抵抗性のGVHD患者さんに有望な治療選択肢を提案できるようになりました」と村田氏は説明する。 

 滋賀医大病院では、血液内科でこの細胞治療が開始されるまで、いわゆる再生医療の実施経験が1件もなかった。そのため村田氏は、製薬会社から冷凍で送られてくる間葉系幹細胞の保管・解凍のための施設などハード面から、国が定める20年間の診療記録保管を確実に実施するためのソフト面まで1つずつ整備を進め、ようやく治療スタートにこぎ着けたという。 

 こうした血液内科での取り組みは、滋賀医大病院の他の診療科にも影響をもたらした。「細胞治療が実施できる環境が整ったことで、外科の先生方もその仕組みを活用してくれるようになりました」と村田氏は明かす。クローン病患者では、難治性の複雑痔瘻ができることがある。瘻孔の処置後、間葉系幹細胞を局所投与して治癒を促進する治療法が、消化器外科で新たに導入されたという。「私たちの取り組みが他の診療科の患者さんのメリットにもつながっており、それはとてもうれしいことです」(村田氏)。

血液内科のスタッフとともに。前列中央が村田氏。(村田氏提供)

 慢性GVHDの新しい治療法「ECP」も導入 

 ECPも、村田氏が早期に導入したいと取り組んできた医療だ。「血液透析と同様の設備やスタッフを必要とするため、血液浄化部の先生に協力してもらって実現しました。国内でこの治療法を実施しているのは、現在(2024年3月)5〜6施設ほどに限られます」と村田氏は話す。 

 ECPはステロイド抵抗性の慢性GVHDに対する新しい治療法だ。患者の血液から白血球成分のみを取り出し、紫外線に反応する薬剤を混ぜて紫外線を照射する。ドナー由来の白血球を部分的に不活化して患者体内に返すことにより、過剰な免疫反応を調節する。「薬剤による治療と違って肝臓障害などが起きにくく、また感染症に対する防御が弱くなりにくいのが大きな特徴です。慢性GVHDからくる肝障害が出ているステロイド抵抗性の患者さんのうち、条件に当てはまる方を対象に、2024年1月から治療を開始しています」(村田氏)。 

CAR-T細胞療法の導入に向け準備を進める 

 さらに現在、村田氏が近い将来の開始を見込んで準備を進めているのが「CAR-T細胞療法」だ。CAR-T細胞も「再生医療等製品」に当たるが、間葉系幹細胞による細胞療法を導入したことにより、実施に向けたハード面・ソフト面の下地は既に整っている。 

 CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞をいったん体外に取り出し、血液がん細胞への攻撃力を高める遺伝子を導入した後、体内に戻す治療法。血液内科の最先端医療の1つで、認定を受けた施設でしか実施できない。 

 「現在の造血幹細胞移植、特に自家末梢血幹細胞移植の一部は今後、CAR-T細胞療法で代替されていくのではないかと私は考えています。そして従来の治療法とCAR-T細胞療法との併用によって、より効果の高い治療が可能になっていくものと思います。将来的に多くの人が必要とする治療法になると見込んでおり、滋賀県の患者さんのためにも、なるべく早く実施できるよう準備を進めています」と村田氏は話す。 

 このように村田氏が最新医療の導入に力を入れるのは、米国への留学や名古屋大病院で移植医療を長年手掛けてきた経験から、血液内科領域では最新の治療法の導入が患者メリットに直結することを実感しているからだ。「血液疾患は他の臓器の疾患と比べて、手術ができない一方で、抗がん剤や分子標的薬などが効きやすく、治療効果が確認しやすいといった特徴があります。効果が高い治療法がいち早く実用化されやすいので、最新の治療法の有効性を見極めて遅滞なく導入することがとても大切なのです」(村田氏)。

血液内科でのカンファレンス風景。(村田氏提供)

 医療全体への貢献も念頭に基礎・臨床研究をスタート 

 今後の抱負について村田氏は、CAR-T細胞療法の早期開始に向けて力を注ぎ、開始後は施設間連携についても積極的に取り組んでいきたいという。現在、CAR-T細胞療法は主に悪性リンパ腫のセカンドライン以降の治療法として実施されている。悪性リンパ腫の患者は普段は比較的小規模の病院にかかっていることも多いが、「滋賀県内のどの病院に通っていても滋賀医大病院でCAR-T細胞療法が受けられるよう、広く連携を進めていくつもりです」(村田氏)。 

 基礎研究と臨床研究についても、本格的な実施に踏み出すという。2023年まで血液内科には基礎研究を実施するための専有スペースがなかったが、村田氏が大学側と粘り強く交渉した結果、居室に加えてラボスペースが確保できることになった。2024年3月に医局の引っ越しを終えて、本格的に研究を開始する体制が整ったところだ。 

 村田氏は名古屋大学で、移植後の免疫応答をテーマとする様々な研究を手掛けてきた。滋賀医大でもその方針は踏襲するつもりだという。具体的な研究テーマの1つは、移植後のGVL効果(移植片対腫瘍効果)を引き上げつつ、GVHDを抑える治療法の開発だ。 

 この研究テーマの探求は、村田氏が臨床研修医だった時代に経験した1つの症例に端を発しているとのことだ。「急性骨髄性白血病の患者さんが移植後に再発した際、免疫抑制剤の投与量を減らしただけで、抗がん剤などを一切使うことなく寛解に入ったのです。それはまさに同種免疫の力でした。GVL効果とGVHDは表裏一体ですが、それをうまく分離することができれば、移植の成績が上がり、より多くの患者さんを治すことができるのです」(村田氏)。 

 他にも、造血幹細胞移植そのものの改良、移植とCAR-T細胞療法、分子標的薬などを組み合わせて治療効果を引き上げる研究にも取り組んでいきたい考えだ。「特にがん治療に関しては、血液がん向けに開発された治療薬や治療法が、しばらく経ってから固形がん治療にも広く応用されるようになったケースがこれまでに多数あります。ですから大学の血液内科の役割として、既に実用化された治療法を使って患者さんを治すだけでなく、医療全体の進展に寄与することも念頭に、臨床と研究に取り組んでいきます」と村田氏は話している。

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村田 誠(むらた・まこと)氏

1992年名古屋大学医学部卒業、名古屋第一赤十字病院勤務。2000〜2003年米国フレッド・ハッチンソン癌研究センター留学。2005年名古屋大学医学部附属病院助手。2008年同助教、2009年同講師。2016年名古屋大学大学院医学系研究科准教授。2022年滋賀医科大学医学部教授。

 

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