楽しく働ける環境で整形外科医を育て宮崎大学ブランドの確立を目指す

宮崎医科大学以来、開講50周年を迎えた宮崎大学医学部。その整形外科の第4代教授に着任した亀井直輔氏は、医局員のワーク・ライフ・バランスを大事にしつつ、楽しく働けるようにスタッフのモチベーション向上にも取り組む。患者の高齢化でニーズが高まる整形外科医を育成して地域医療の充実を図るとともに、スポーツ医学や再生医療を軸に宮崎大学の整形外科ならではの情報を積極的に発信していくことを計画している。

宮崎大学医学部 整形外科学教室

宮崎大学医学部 整形外科学教室
◎医局データ
教授:亀井 直輔 氏
医局員:29人
病床数:60床
手術件数:1350件(2023年)
外来患者数:5347人(2024年)
関連病院:30病院

   宮崎医科大学以来、開講50周年を迎えた宮崎大学医学部。その附属病院は宮崎県の医療の中心であり、最後の砦としての役割を果たすとともに、地域貢献や地域活性化にも寄与している。整形外科学教室の歴史も同様に50年となる。初代教授の木村千仭氏、第2代の田島直也氏、第3代の帖佐悦男氏に続き、2024年10月、広島大学医学部准教授だった亀井直輔氏が第4代教授に就任した。

 大分県別府市出身の亀井氏は地元医学部への進学も考えていたが、小学1年生時に「江夏の21球」で勝ち取った日本一の瞬間を見て以来のひいきのプロ野球チーム・広島東洋カープへの思いが断ち難く、広島大学医学部に進学したという。広島大学病院やその関連病院などで診療・教育・研究に努めてきたが、准教授になってから九州をはじめとする他大学に活躍の場を求め、それが実って現職に就いた。

 広島大学の整形外科は8つのグループに分かれていたが、宮崎大学では亀井氏の専門である脊椎グループのほか、スポーツ・上肢グループ、下肢グループという3つの大グループで構成されている。「宮崎大学では、グループ診療を推進するためにこの形を取っているのですが、各グループに所属するスタッフ数が多い分だけ融通が利きます。患者さんの情報共有を徹底しているので、休暇やシフト明けで休んでいる人がいても、グループ内の誰かが常に対応可能です。働き方改革の推進にも適しているので、以前からあったこの体制を着任後も引き継ぎました」。こう語る亀井氏はスタッフに対し、専門性を高めると同時にカバー領域を広げていくことを期待している。

宮崎大学整形外科の第4代教授に就任した亀井直輔氏
宮崎大学整形外科の第4代教授に就任した亀井直輔氏。

スポーツ庁の委託事業に取り組む

 宮崎大学の整形外科ではスポーツ医学が柱の1つになっているが、それはスポーツ外傷の治療にとどまらない。「単に日常生活を送れるようになればいいのか、それとも競技への復帰が目標になるのかによって治療法は変わってきますし、手術後のリハビリテーションの計画も異なってきます。さまざまな症例を数多く経験することで医局員の引き出しが増えていくので、大グループ制は若手の育成に適していると考えています」と亀井氏は言う。

 また、整形外科学教室ではスポーツ庁の委託事業「地域におけるスポーツ医・科学サポート体制構築事業」に取り組んでいる。これは各競技団体や地域のスポーツクラブ、学校運動部活動へのサポートを充実させるため、スポーツ外傷などに十分な知識や経験を持つ医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、歯科医師などを育成する取り組み。委託事業は3年の期間限定だが、宮崎大学では終了後も、この取り組みを継続していく方針だ。

 「私自身、中学時代にパレーボールでけがを経験したことから整形外科医を目指したのですが、若くて健康な人と医療の接点は、整形外科にほぼ限られるのではないでしょうか。スポーツ医学に力を入れている我々としては、スポーツ庁の委託事業を通じて、整形外科学教室に興味を持ってくれる医学生、研修医、専攻医が増えてくれることも期待しています」と亀井氏は話す。

「アーリーエクスポージャー」でモチベーションアップ

 このように若手医師に広く門戸を開いている整形外科学教室では、医局員のワーク・ライフ・バランスに配慮して働きやすい職場作りを心がけると同時に、仕事に対する満足感を高められるようにも努めている。「どうしたら医局員が幸せになるかを考えるとき、生活に占める仕事の割合が高いので、『楽しく働く』ことをスローガンに掲げています。やりたいことだけできれば仕事は楽しいでしょうが、時にはイヤでもやらなければいけないことがあります。ですから、イヤなことでも楽しくできるように、医局員のモチベーションを高める方法をいつも考えています」と亀井氏は語る。

 モチベーションを向上させる方法の1つとして亀井氏が挙げるのが「アーリーエクスポージャー(早期臨床体験実習)」だ。「整形外科は職人の世界みたいなところがあって、かつては『足持ち3年』などと言われましたが、訳も分からず誰かの手伝いをしていても楽しくないし、技術も身に付かないでしょう。でも、早くから適切なサポートの下で臨床経験を積めれば、学ぶべきポイントを把握できるので、モチベーションを高めながら意欲的に取り組めるようになります」と亀井氏。実際、前任の広島大学時代には、事故が起こらないよう自身でサポートしながら、大学院生にさまざまな手術を体験させていたという。

整形外科学教室のスタッフたち。整形外科学教室のスタッフたち。

大学院での研究を通じて課題発見力・情報収集力・論理的思考力を養成

 アーリーエクスポージャーによって臨床能力の育成を図る一方で、亀井氏は研究の充実にも力を入れている。その面で重視しているのが大学院の存在だ。「広島大学の整形外科では、大学院での研究内容によって個々の医師の専門性が認識される雰囲気がありました。宮崎大学でも、そういう空気を作っていきたいと考えています」。亀井氏が着任した2024年に2人だった整形外科の大学院生は、2025年度に新たに4人が入学し、6人になった。

 「『優秀な医師を育てるのに大学院は必要か』とか『臨床医としてブランク期間になるのではないか』と言う人もいますが、私はそうは思いません。大学院でどういう能力を身につけてほしいかと言えば、それは課題発見力・情報収集力・論理的思考力です」と亀井氏は力説する。日常診療の場で「今のままでいいのか」という問題意識を常に持ち続けないと、自身の能力を向上させるきっかけをつかめない。大学院の研究を通して、課題を探し出し、論文などで必要な情報を収集し、研究で得られた知見を論理的思考によって課題解決に結びつける経験を積むことで、その後の診療でも課題を見つけて改善していく習慣が身につき、医師をレベルアップさせていくと亀井氏は考えている。

 また、研究を進めていく過程で、一次情報にアクセスすることの大切さを実感できるようになるとも亀井氏は言う。伝聞などから得られる二次情報で、特定の条件下である処置をすると予後が改善するという知見を得たとしても、その根拠となった論文を確認してみると、その処置が必須といえるほど有効でないことに気付く場合もある。「エビデンスの相場観のようなものが、一次情報に当たることで得られるようになります。そこまで理解していると患者さんへの説明の仕方も変わってきますから、医師と患者さんの間での認識の食い違いを防ぐことにもつながります」(亀井氏)。

高齢者の骨折治療は必須、予防にも注力

 亀井氏は「命を助ける医療」と同じぐらい「QOLを向上させる医療」が大事で、整形外科の役割は高齢化の進展とともに大きくなっていると語る。だが、同門会の協力などにより地域医療が支えられているものの、地域の医療ニーズに比べ県内の医師数は少ないと言わざるを得ない。「もっと医師を送ってほしいという地域からの要望に応えるには、さらに整形外科医を増やす必要があります。そのためには整形外科学教室を、医学生や研修医から見て魅力的なコミュニティにしていかなければなりません」と亀井氏は言う。

 高齢者の場合、大腿骨など下肢の骨折は生命予後に大きく影響する。加齢によって進行が遅くなる疾患の場合、体への負担を考えながら治療方針を決定すればいいが、骨折で動けなくなると寝たきりの生活になり日常生活が送れなくなってしまう。たとえ90歳を超えるような高齢患者であっても、すぐに手術するなど骨折箇所を固定して動けるようにしなければならない。そのためには県内各地で対応できるように整形外科医を配置していく必要がある。

 同時に、骨折予防にも取り組むことも不可欠だ。「高齢者の骨折は骨粗鬆症が大きな原因の1つですが、地域の先生方の認識は必ずしも十分ではありません。骨折予防に関しては遅れている部分もあるので、適切な薬剤の使い方などを含めた啓発活動に力を入れていきたいですね」。こう話す亀井氏は、「骨密度を引き上げる効果がある強い薬には保険の縛りがあって、必要な患者さん全てに使えるわけではありません。せめて二次骨折の予防には入院中から使えるように、制度改善に向けた提言なども行っていきたいと考えています」とも付け加える。

スポーツ医学と再生医療でブランドの強化へ

 県内の医療事情から喫緊の課題として整形外科医の育成を挙げる亀井氏だが、長期的な目標として整形外科学教室を「宮崎から独自の情報発信をできるような医局」に育てていきたい考えだ。「宮崎の人たちは謙虚で奥ゆかしいという美徳がありますが、もっとプライドを持って自己主張してもよいのではないかと思います。例えば、宮崎大学独自のテーマの論文を発信するなどして、注目されるようになってほしい。『宮崎大学と言えばこれ』というアピールポイントができてくれば、それがプライドになるはずです」。

 そのテーマ候補としてまず挙げられるのがスポーツ医学だ。スポーツ庁の委託事業などで既に一定の素地はできているので、そこで得られた知見をいかに発信していくかがポイントになる。その後のテーマはまだ決まっていないが、亀井氏が広島大学時代から取り組んでいる再生医療が候補の1つだ。例えば、広島大学学長の越智光夫氏から引き継いだテーマで、鉄粉を混ぜて培養した幹細胞を注射し、磁場をかけて患部に誘導するという治療法があり、効率的でコンパクトな磁場発生装置の開発を待つところまで進展している。

 「着任前、宮崎大学の状況について周りの人に尋ねても、『よく分からない』という返事しか返ってきませんでした。それは、やはり発信不足のためです。実際に来てみたら、臨床面は優秀ですし、スタッフのポテンシャルも高いことが分かりました。これからは宮崎大学ブランドを広めつつ、整形外科学教室を任せられる後継者を育成していくことが、自分に課せられた仕事だと思っています」。亀井氏はそう話している。

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亀井 直輔(かめい・なおすけ)氏

1997年広島大学医学部卒業。広島大学医学部附属病院医員、JA広島厚生連吉田総合病院、松山赤十字病院、JR広島病院、理化学研究所(神戸市)客員研究員、広島大学病院整形外科准教授、広島大学大学院医系科学研究科整形外科学准教授などを経て、2024年より現職。

亀井 直輔(かめい・なおすけ)氏


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