3診療グループ同居のメリットを生かし多角的な視点持つ内科医を育成

富山大学医学部内科学第一講座は、「リウマチ・膠原病内科」「糖尿病代謝・内分泌内科」「呼吸器内科」という3診療グループが同居する医局だ。第4代教授に就任した加藤将氏は、3つの分野の専門医が常に近くにいる環境が、若い医師たちに多角的な視点を染み込ませる良い教育効果を生んでいると話す。県内唯一の大学病院として、新しい診療環境に応じた、県全体の診療体制の構築にも取り組む。特にSLEの治療については、ガイドラインを先取りして、いち早く新薬を使った治療に切り替えていく方針だ。

富山大学医学部 内科学第一講座

富山大学医学部 内科学第一講座
◎医局データ
教授:加藤 将 氏
医局員:約50人
附属病院の年間外来患者数:延べ約25,000人
附属病院の年間入院患者数:約1,000人
関連施設:57施設

 富山大学附属病院の前身は、1979年に設置された富山医科薬科大学附属病院だ。2005年に富山医科薬科大学、富山大学、高岡短期大学の3大学が統合されて存続名称が富山大学となったため、附属病院も改称されて現在の名称になった。

 医学部内科学第一講座(第一内科)は、富山医科薬科大学附属病院が設置された当初からの15医局・診療科の1つで、「リウマチ・膠原病内科」「糖尿病代謝・内分泌内科」「呼吸器内科」という3つの診療グループを含む。3グループ合わせた年間の外来患者数は延べ約2万5000人、入院患者数は約1000人だ。医局員は約50人で、そのうち約30人が大学病院で勤務している。同病院随一の幅広い診療分野をカバーするこの医局・診療科のトップを務めているのは、第4代教授の加藤将氏だ。

富山大学学術研究部医学系内科学第一講座教授で、富山大学附属病院第一内科診療部門の診療科長も務める加藤将氏。
富山大学学術研究部医学系内科学第一講座教授で、富山大学附属病院第一内科診療部門の診療科長も務める加藤将氏。

新しい診療環境に応じた診療体制を作っていく

 加藤氏は北海道大学第二内科の出身で、2024年10月に富山大学の第一内科に赴任してきた。教授就任から半年、まず力を入れているのは診療環境の変化への対応だという。「新しい薬や治療法が出てきて、診療環境が変わってきています。しかし富山県はまだ移行期で、その変化に対応できていない部分もあります。県内唯一の大学病院の責任として、新しい環境に応じた診療体制を作っていかないといけません」(加藤氏)。

 具体例として挙げるのは、自身のサブスペシャルティ分野でもある関節リウマチの診療だ。富山県では歴史的に、関節リウマチの患者は市中の中小病院の整形外科や整形外科クリニックにかかっていることが多く、診療の主体は外科医が担ってきた。しかし近年、新しい免疫抑制剤や生物学的製剤が登場して、治療スキームが大きく変わった。関節破壊が始まる前に薬物治療で早期介入し、適切な治療を継続することで、良好な予後が見込めるようになってきている。

 「関節リウマチの治療が手術から薬物治療に変わり、主に診療を担う医師も外科医から内科医に変わってきました。ですから第一内科は、市中の病院の内科や内科クリニックの内科医との間で、よりいっそうの地域連携を進めています。その一方で、今後も手術が必要な患者さんは必ずいるので、手術適応例を見極めて、適切なタイミングで整形外科へつなぐことにも取り組んでいます」(加藤氏)。

SLE治療では新薬への切り替えにいち早く取り組む

 今後、大きな動きがあるとみて準備を進めているのは全身性エリテマトーデス(SLE)の診療だと加藤氏は言う。現在のSLEの治療では、炎症を抑えるためのステロイド薬が第一選択となっているが、現在既に3剤のバイオ医薬があり、今後さらに多くの新薬が登場して診療が変わっていくと予想されるからだ。ステロイドは、短期的な使用であれば効果が高く大きな副作用も出にくい有用な薬だが、長期使用すると骨粗鬆症や白内障、感染症のリスクが高くなるといった懸念もある。

 「今後数年のうちにSLEの治療では、ステロイド薬からの切り替えが本格化するとみています。新薬が登場しても、診療ガイドラインが改訂されるまでにはやや時間がかかりますが、第一内科ではしっかりと取り決めを作って、いち早く切り替えを進めていくことを検討しています。患者さんにとってメリットが大きい新しい治療を、ガイドラインを先取りする形で提供することも、大学病院の大切な役割だと考えるからです」と加藤氏は言う。

 新薬の治験にも積極的に参加する方針だ。また、SLE分野で蓄積した、ステロイド薬から新薬への切り替えについての知見は、診療科内の他の診療グループ、さらには院内の他診療科とも共有して生かしていきたい考えだ。

内科学第一講座のメンバーたち。
内科学第一講座のメンバーたち。

症例カンファレンス「朝会」で多角的な視点を養う

 3つの診療グループが1つの診療科・医局に同居している第一内科の特徴は、医師の教育において良い効果を生んでいると加藤氏は話す。「全国の大学病院に残るナンバー内科の中でも、3つの診療グループが同居する医局はかなり珍しいと思います。せっかく3分野の専門医が一緒にいるのですから、その良さをしっかり生かしていきたいと考えています」。

 第一内科では、毎朝8時30分から症例カンファレンス「朝会」が開催され、毎回1例の症例について報告と議論が行われる。症例報告は3診療グループの持ち回りだ。従って発表症例が膠原病の日も、呼吸器疾患の日も、糖尿病代謝・内分泌疾患の日もあるが、医局の医師は自身がどのグループに所属しているかにかかわらず基本的に全員、毎朝、参加しているとのことだ。

 同医局の医師は、他の診療グループの症例にも真剣に耳を傾け、時には議論に加わる。朝会は、加藤氏が教授に着任する前からこのスタイルで開催されていたそうだが、「良いことなので、私が教授になってからも続けています」と加藤氏は言う。

 第一内科は3グループ一体で当直やオンコールを分担しているため、自身の所属グループ以外の患者についてもある程度、把握しておく必要がある。それが全員参加で朝会を開催している理由の1つだが、それだけではないと加藤氏は言う。「若い医師にとっても、中堅・ベテランの医師にとっても、毎朝、朝会に参加することで複数の専門医の視点で物事を見ることが体に染みつき、それが診療の幅になっています。多角的な視点を持っていることは、医師にとってとても大切です。医師をやっていると、診断困難例、治療困難例に必ず遭遇しますが、そういったときの応用力、フレキシビリティの発揮につながるからです」。

 専攻医プログラムでも、3グループ同居のメリットを生かしている。同医局の専攻医プログラム1年目は全員が大学病院でスタートするが、最初の6カ月は、自分が目指す専門以外の診療グループに所属して研修を受けることになっている。

 たとえば呼吸器内科の専門医を目指す専攻医であれば、まず最初の3カ月はリウマチ・膠原病内科グループで、次の3カ月は糖尿病代謝・内分泌内科グループで研修を受けた後、半年後から呼吸器・アレルギー内科グループでの研修を本格的に開始するといった具合だ。「これも内科医としての多角的な視点を養ったり、幅広い知識・技能を身に着けたりしてほしいとの願いからです。他の診療グループの医師との間で、いつでも相談できる良い関係を作るチャンスにもなっており、若い医師にとっては特にメリットが大きいと思います」と加藤氏は話す。

第一内科での症例カンファレンス「朝会」での風景。(加藤氏提供)
第一内科での症例カンファレンス「朝会」での風景。(加藤氏提供)

発症前や早期の関節リウマチ患者を集めたコホート研究を構想中

 研究に関しては、医局・診療科の強みとなる新しい取り組みを構想中だ。加藤氏は北海道大学で、滑膜線維芽細胞のオートファジーなどをテーマとする基礎研究に取り組んできた。治療抵抗性の関節リウマチの原因の1つが滑膜線維芽細胞の活性化であることが分かり、現在、非常に注目されている研究分野だ。しかし富山大学では、より臨床に即した研究に力を入れていく方針だという。

 その1つが、新たなコホート研究の立ち上げだ。外来患者の中には、関節リウマチがまだ発症するかしないかという早期の段階にある人や、免疫異常がたまたま見つかったが関節痛の自覚はない人がいる。そういった人を集めてコホートを作り、長期観察をしていくというのが加藤氏の構想だ。コホート研究には、行政や県内の他の医療施設の協力が不可欠だが、富山大学附属病院は県内唯一の大学病院であることから、協力が得られやすいとのことだ。必要な患者数のサンプルサイズと、登録が見込める患者数がともに500人程で、ちょうどマッチする見込みだという。

 「コホートが出来上がれば、関節リウマチの発症に関わるバイオマーカーの探索や、検査法の確立などの研究にもつなげていきます。コホート研究を一から立ち上げるのは大変ですが、成し遂げれば他にはない当医局の強みになります。診療情報、画像、血液サンプルなどを紐づけたデータをしっかりと蓄積して、当医局の財産にしていくつもりです」と加藤氏は言う。

突き抜けた得意分野を持つ「名医」を輩出したい

 今後の医局運営について、加藤氏は「引き続き、3診療グループが同居する当医局の特徴をしっかり生かしていきます」と言う。特にリウマチ・膠原病内科と呼吸器内科が同居している医局は、全国的にもほとんど例がないが、実は臨床面でのメリットは大きい。膠原病の患者が呼吸器疾患を合併していることも多いからで、現在でも両グループの専門医が1人の患者を並診するケースがあるという。さらにコラボレーションを進めて、臨床研究などにも発展させていきたいと加藤氏は構想を巡らせている。

 教育については先述のように、3つの診療分野の専門医がいつも近くにいる医局の特徴を生かして、高度にジェネラルな内科医の育成を目指す。ただしジェネラリストでありつつ、何か1つ突き抜けた得意分野も持つ医師に育ってほしい、と加藤氏は言う。

 「例えば関節エコーでもいいし、気管支鏡でもいいし、基礎研究で線維芽細胞の扱いがすごくうまいとか、コホートの解析に長けているといったことでも構いません。何らかの分野で、誰にも負けない特技を持ち、人々の健康に貢献できる医師こそが『名医』だと私は考えています。そういった『名医』を、当医局から一人でも多く輩出したいのです。私自身、まだ修行の途中ですが、医局の若い医師たちと一緒に『名医』を目指していきたいと思っています」

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加藤 将(かとう・まさる)氏

2003年北海道大学医学部卒業。2010年北海道大学大学院医学研究科修了(医学博士)。2012年スイス・チューリッヒ大学病院リウマチ科研究員。2015年北海道大学病院内科II助教。2021年5月北海道大学病院内科II講師。2024年富山大学学術研究部医学系内科学第一講座教授、富山大学附属病院第一内科診療部門診療科長。

加藤 将(かとう・まさる)氏

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