魅力的な専門研修プログラムによって東北で活躍する専門医の育成を目指す

東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)教授の石井智徳氏は現在、地域連携と人材育成の2つに力を入れている。特に人材育成に関しては、東北地方では血液専門医、リウマチ専門医ともに不足が深刻であり、その解消が喫緊の課題だ。石井氏は、専攻医にとってのメリットを熟慮して派遣先施設を選定するなど、魅力的な専門研修プログラムの策定に尽力。将来、東北地方で、専門医として活躍したいと望む医師の入局を呼び掛ける。

東北医科薬科大学
内科学第三(血液・リウマチ科)

東北医科薬科大学 内科学第三(血液・リウマチ科)
◎医局データ
教授:石井 智徳 氏
医局員:13人(うち専攻医5人)
専用病床:29床
外来患者数:年間約1500人
関連病院:9施設

 東北医科薬科大学病院の前身は1946年に開設された宮城第一病院だ。1982年に仙台市宮城野区の現在地に移転するとともに「東北厚生年金病院」に名称変更された。2013年には学校法人東北薬科大学に事業譲渡され「東北薬科大学病院」になった後、同大学に医学部が新設されたことにより2016年から現在の名称となっている。

 医学部新設から10年ほどしかたっていないため、内科学第三(血液・リウマチ科)の歴史も始まったばかり。この新しい医局のトップを現在務めているのは、東北大学病院・臨床研究推進センターの副センター長から2024年4月に2代目教授に転じた石井智徳氏だ。

 「大学病院としての歴史は浅いのですが、当院は、東北厚生年金病院時代からリウマチ性疾患の地域医療の中核として活動してきました。引き続き、多くの地域の患者さんが新しい治療の恩恵を受けられるように、近隣の病院、診療所との連携を推進します。加えて、東北地方で特に不足しているリウマチ専門医、血液専門医の育成にも力を入れていきます」と石井氏は話す。

東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)教授の石井智徳氏。2024年4月に就任した。
東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)教授の石井智徳氏。2024年4月に就任した。

東北大学病院とは異なる役割、地域の病院や診療所をサポート

 石井氏の出身医局がある東北大学病院から東北医科薬科大学病院までは約10キロメートル。仙台市内の、それほど遠くない距離にある2つの大学病院だが、「互いの役割は全く違います」と石井氏は言う。

 東北大学病院には、他の施設で専門治療を受けたが治らなかった難治性の患者が多く集まる。県内、あるいは東北地方における専門医療の最後の砦といった役割だ。それに対して東北医科薬科大学病院は、難治性であるか否かにかかわらず、地域の病院や診療所の一般内科の医師が診断や治療に困った患者に対応している。「より地域に密着して、専門医の立場から診断、治療をサポートしていくのが当院の役割だと考えています。ですから、当医局がまず力を入れているのが地域連携です」(石井氏)。

 石井氏は現在、地域の医療機関の医師らと勉強会を開催するなどして、顔の見える関係づくりを進めているところだ。どんな症状、病態の患者にリウマチ・膠原病、血液疾患の可能性があるのか。そういった患者に遭遇して困ったとき、どういった手順で東北医科薬科大学病院に紹介すればいいのか──。そういったコンセンサス作りを進めている。

 大学病院に患者を紹介してもらうケースだけでなく、地域の施設と大学病院が協力し合って1人の患者に対応するケースも想定しているとのことだ。

 「例えば、リウマチの治療でグルココルチコイド薬を使うと骨粗鬆症になりやすく、骨折のリスクが高まります。リウマチの患者さんであっても、椎体骨折などを起こしたら近隣の整形外科にかかったり、時に入院することも必要となりますが、患者さんにとって、うまく対応できていない場合も多いのが現状です。グルココルチコイドによる骨粗鬆症などは代表例と思いますが、骨折などの重大事象が起こる前から、お互いに何をやっているか分からないままリウマチの治療も進めても、不十分なだけでなく非効率的です。ですから、日常における骨粗鬆症対策を行う施設、骨折時などに対応する施設、リウマチ薬を処方する医師、そして専門医の立場からバックアップする大学病院の私たちの間で「地域連携パス」を作り上げたいと考えています」と石井氏は語る。

 グルココルチコイド性骨粗鬆症に伴う骨折への対応については、既に2025年春から、関係する地域の施設の医師が集まって話し合いをスタートさせている。全身性疾患であり、かつ長期治療が必要となるリウマチ性疾患の治療中には、骨粗鬆症ではなく多彩に現れる多くの病態があるため、このような連携を、各種疾患について、それぞれの専門医、一般内科医も巻き込んで検討していきたい意向だ。

 石井氏の構想の先には、さらなる連携推進と医療の効率化がある。「リウマチ患者さんの中にはリウマチ自体は落ち着いていても、血圧が高い、高脂血症がある、といった人がたくさんいます。今はそういった患者さんもずっと大学病院で診ていますが、日常的な診察を大学病院のサポートの下、地域の施設の先生方に託すことができれば、大学病院は早期診断、早期治療の導入にもっと力を入れることができます。そうした形が理想的ではないかと、リウマチ医療に携わっている皆さんは感じていると思いますが、その実現のためには、いろいろな意味でお互いにメリットがあるシステム構築が必要であると私は思っています」と石井氏は話す。

東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)のメンバーたち(※撮影は2025年3月)。
東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)のメンバーたち(※撮影は2025年3月)。

専攻医のキャリアを重視して派遣先の「タイアップ施設」を選定

 石井氏が力を入れている2つ目のポイントは人材育成だ。リウマチ専門医は全国的に不足しているが、特に東北地方では状況が深刻だ。宮城県のリウマチ・膠原病医療を支える専門医の70%が50歳以上との統計もある。「2025年4月に、リウマチ・膠原病専攻医第1期生が当医局に2人入ってきますが、この地域に根付いて活躍する若い専門医を当医局が継続して育てていかなければ、地域のリウマチ・膠原病医療が破綻してしまうという危機感を強く持っています」と石井氏は言う。

 「近々、医師の需要と供給のバランスが均衡し、次第に医師余りに向かうと言われますが、私の感覚では、これから20年たっても東北地方でリウマチ専門医の不足が解消するとは到底思えません。勤務地と診療科の偏りがとても大きいのです。ですから、この地域で活躍してくれるリウマチ専門医を1人でも多く育てたいのです」と石井氏は力を込める。

 専門医輩出のためには、医学部生にリウマチ・膠原病分野に興味を持ってもらうとともに、医局が提供する専門研修プログラムを魅力的なものにするのが第一歩だ。そのため石井氏が現在取り組んでいるのが「タイアップ施設」を作り、増やしていくことだという。

 「タイアップ施設は、従来の関連病院に見られたような、診療科トップの役職を医局ポストとしてキープする代わりに若い医師を派遣するといった存在ではありません」と石井氏。純粋に教育面のメリットと専攻医のその後のキャリアを考えて、派遣先として選定しているとのことだ。理想的には、常勤のリウマチ指導医がいる地域の基幹病院で、救急医療に力を入れており、他の診療科との連携もしっかりしている施設を候補としている。

 石井氏はタイアップ施設をお願いする場合、派遣する専攻医にある程度診療を任せてもらえるかも重視している。「医師には、プレッシャーを感じながらも自分自身で考えて診療方針を決める力が求められます。指導医のサポートを受けながら、ある程度しっかり患者さんを任せてもらえる環境が、若い医師をレベルアップさせます。タイアップ施設では大学病院以上に、決断力や医師としての心構えを学ぶことができると期待しています」と石井氏は言う。

 タイアップ施設への派遣とは別に、特定の手技を集中的に学ぶ短期の特別プログラムも開始している。具体的には、専攻医が大学病院に配属されている期間中、関節エコーを積極的に実施している仙台市内の病院に1カ月ほど派遣している。

 「この病院には、関節エコーの経験が豊かな医師と臨床検査技師がおり、関節エコーを多数行う素地があります。多くの施設で、他の多くの関節エコー以外のエコー検査をこなさなければいけない生理検査室において、人手面でも、診療報酬の面でも、関節エコーをルーチンとして十分な検査として行うのは難しい現状にあることは皆さんもよくご存じのことと思います。積極的に、幅広い関節に十分なエコー検査をしていただける生理検査室を持った病院は貴重です。このように地域内にある、特定の診療や手技に強い施設の協力も得て、当医局の専門研修プログラムを魅力あるものにしていきます」(石井氏)。

血液内科グループは東北大学と一体で診療・医師教育に取り組む

 一方、内科学第三(血液・リウマチ科)で、血液内科グループのトップを担うのは准教授の市川聡氏で、石井氏と時を同じくして2024年4月に赴任した。リウマチ・膠原病グループとは異なり、東北厚生年金病院時代に血液内科はなかったため、診療が開始されたのは東北医科薬科大学病院が誕生した2016年からだ。

 「当院血液内科はまだ発展段階で、院内・院外で当科の存在意義を高めるべく、地域の血液疾患の患者さんを広く受け入れ診療を行っています。造血細胞移植や細胞治療については、当面は東北大学血液内科との協力体制で診療を展開していく方針です。専攻医研修においても、当科は東北大学血液内科グループの1つとして専攻医の研修を受け入れるとともに、当方で研修を始めた専攻医には次のステップとして東北大学での研修も勧めています」と市川氏は現状を説明する。

 血液専門医も全国的に不足しており、リウマチ・膠原病グループと同様、専門医の育成が重要な課題となっている。東北医科薬科大学病院の血液内科グループでは現在、院内の初期研修後に入局した1人と、東北大学血液内科と同関連施設から派遣された専攻医2人を受け入れて研修を実施中だ。

 先述のように東北大学病院では、細胞治療をはじめとする高度医療を要する難治性の患者や、希少性の高い疾患の患者が集まる一方、初診から典型的な血液疾患患者を診る機会は多くなく、教育面での1つの課題と言える。東北医科薬科大学病院は、地域に根ざした診療を展開する中で臨床各科がそろっており、様々な経路で血液疾患患者が受診する。典型例から診断の難しい例まで幅広く経験でき、良い意味で診療科間の垣根も高くないので、研修環境としては充実している。また、地域に根ざした総合病院でありながら、教育と研究を展開している医育機関であり、症例を深く診る文化が根底にある環境であることも、研修医・専攻医の研修の場として魅力的と言える要素だ。

 なお、血液内科医とリウマチ内科医が同じ医局に同居していることも、教育施設として優れた特徴になっていると市川氏は言う。「血液疾患には免疫の病態が関わっているものが多いので、免疫が専門の医師が近くにいると勉強になることが多いのです。実際の診療でもメリットが多く、例えば、いわゆる『不明熱』で状態の悪い患者さんを、血液内科医とリウマチ内科医が同時にディスカッションしながら診療できる環境というのは貴重です」。

 今は実地医療と医学生教育、専攻医教育で実績を少しずつ積み上げて、徐々に地力を付けている段階だが、ゆくゆくは高度な専門医療の実施も視野に置いているという。仙台市内には東北大学病院のほか、国立病院機構仙台医療センター、宮城県立がんセンターが同種造血幹細胞移植を手掛けているが、需要が完全に満たされているわけではないためだ。

 「大学病院として、将来的に高度な医療も手掛ける施設にしたいと思っています。近い将来、新病院の建設が視野に入ってくるかもしれません。診療環境が新しくなるタイミングをうまく捉えてステップアップできるよう、しっかり基礎を築いて存在感を増していきたいと考えています。その中で、本学生え抜きの血液専門医を育成し、彼らが地域で大いに活躍するようになればと考えています」と市川氏は意気込む。

東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)准教授の市川聡氏。血液内科グループのトップを担う。
東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)准教授の市川聡氏。血液内科グループのトップを担う。

東北地方の専門診療を支える使命感を共有する仲間に入局してほしい

 市川氏が血液内科医の立場から述べた、血液専門医とリウマチ専門医が医局に同居している利点については、石井氏もリウマチ膠原病医の立場から、大きなメリットだと感じているという。

 「血液疾患とリウマチ・膠原病は、どちらもリンパ球をはじめとする血液細胞の異常が根底にある疾患だということにおいて共通性があります。これまでは、リウマチ領域の治療と血液疾患の治療は、良性疾患と悪性疾患という枠組みの違いから、薬剤の選定に大きな違いがありました。ところが、最近の分子標的治療の発展で、特定のリンパ球を治療するという最新の治療法が進歩し、この点に関して言えば、むしろ良性疾患としてこれまで同様の治療を行ってきた各種専門領域の免疫疾患における治療の共通性より、悪性疾患を担当してきた血液分野との治療の共通点が注目されてきています。互いの分野の治療を参考にしたり、サゼスチョンを求めたりすることもでき、大きなシナジー効果が得られています。すごく価値が高い医局の特徴なので、これについてもしっかりと診療面、教育面で生かしていきます」。 

 今後の抱負について石井氏は、リウマチ・膠原病内科グループと血液内科グループに共通する課題である、専門医の育成にさらに力を入れていきたいとのことだ。

 「内科学第三(血液・リウマチ科)医局では、東北地方の血液疾患、リウマチ・膠原病の診療を支えたいという使命感を、私たちと共有してくれる仲間を求めています。そういった思いを持つ医師を迎え入れ、しっかりと専門医に導けるよう、私たちは優れた専門研修プログラムを提供するとともに、居心地が良いと感じてもらえる医局を一生懸命作っていきます。多くの若い医師が、当医局の門をたたいてくれることを期待しています」。石井氏はこう呼び掛ける。

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石井 智徳(いしい・とものり)氏

1989年東北大学医学部医学科卒業、いわき市立磐城共立病院内科研修医。1991年東北大学医学部付属病院医員(研修医)、東北大学医学部第二内科大学院研究生。1995年東北大学医学部第二内科医員、臨床検査診断学講座助手。1998年Department of Cancer, Immunology and AIDS, Dana-Farber cancer institute, Harvard medical school, Boston, USA. Visiting Research Fellow。2000年東北大学病院血液免疫科助手。2007年東北大学病院血液免疫科講師。2009年東北大学大学院血液免疫科准教授。2014年東北大学病院臨床研究推進センター実施部門特任教授。2023年東北大学病院臨床研究推進センター副センター長。2024年東北医科薬科大学内科学第三(血液・リウマチ科)教授。

石井 智徳(いしい・とものり)氏


市川 聡(いちかわ・さとし)氏

2005年東北大学医学部医学科卒業、山形市立病院済生館研修医。2008年東北大学大学院医学系研究科血液・免疫病学分野入局。2014年大崎市民病院血液内科医員。2015年東北大学病院血液・免疫科助教、2019年同院内講師。2020年東北大学病院血液内科病院講師。2024年東北医科薬科大学医学部内科学第三(血液・リウマチ科)講師、2025年同准教授。

市川 聡(いちかわ・さとし)氏

 



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