専門医療と地域医療を担う特徴生かし「早期実践」の専攻医教育を実施

埼玉医科大学病院は埼玉県西部の専門医療と地域医療を同時に担っており、様々な疾患の患者が多数訪れる。同大整形外科では、その特徴を生かして、早期から手術・外来などを経験させる実践的な専攻医研修を実施している。同大整形外科の運営責任者で埼玉医科大学病院整形外科・脊椎外科診療部長の門野夕峰氏も、自ら専攻医との問答を通じて気付きを促すなど、医師教育に直接関わっている。「よく考える医師を育てたい」「自分自身の家族を任せたいと思える医師を育てたい」と門野氏は話す。

施設情報

埼玉医科大学 整形外科

埼玉医科大学 整形外科
◎医局データ
運営責任者:門野 夕峰氏
医局員:25人(うち専攻医7人)※部医長としての派遣を除く
延べ外来患者数: 3万1575人(2024年度実績)
初診外来患者数: 2478人(同)
延べ入院患者数: 1万9036人(同)
手術件数: 1804件(同)
関連施設:12施設

 埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町、篠塚望院長)は埼玉県の中西部にある798床の大学病院だ。3つある埼玉医大の病院の「本院」であり、隣接する日高市にある3番目の病院「埼玉医科大学国際医療センター」とは臨床、教育、研究で密接に連携している。

 整形外科・脊椎外科は病院設立当時からある診療科の1つで専門医療、地域医療を担うとともに、同地域で活躍する若手医師を育成し輩出してきた。初診外来患者数は2478人、延べ外来患者数は3万1575人、延べ入院患者数は1万9036人、手術件数は1804件に上る(いずれも2024年度実績)。医局のトップは2019年に整形外科・脊椎外科診療部長および整形外科運営責任者に就任した門野夕峰氏だ。

 門野氏は、「埼玉県は医師充足率が全国ワーストで、特に県西部の医師不足は深刻です。そのような事情から当医局・診療科は、大学病院として高度な専門医療を提供するだけでなく、地域医療の中核としての役割も担ってきました。整形外科医の育成については早い段階から外来や手術をする機会を提供し、自らよく考える医師の育成を目指しています」と話す。


整形外科・脊椎外科診療部長で整形外科運営責任者の門野夕峰氏。

人工関節置換術の実施件数は県内トップレベル

 埼玉医大病院の整形外科・脊椎外科は急性疾患から慢性疾患まで幅広く診療を行っているが、特徴の1つは人工関節置換術の件数が多いことだ。人工股関節置換術の件数は年間286件、人工膝関節置換術は同140件に上り(2024年度実績)、埼玉県内でトップレベルにある。

 施設・設備も充実しており、CT画像をガイドとして正確な手術を可能にする「ナビゲーションシステム」や、1ミリメートル単位の正確さで骨を削ったり人工関節を設置したりするのを支援するロボットアームも、門野氏が教授に就任した2016年以降に導入済みだ。

 門野氏は、自身のサブスペシャル分野である「リウマチ外科」に関しても、「地域の方々に最先端の手術を提供する環境が整っています」と胸を張る。その一方で、手術の適応については慎重に見極めているとのことだ。近年、新しいリウマチ薬が登場したことにより、リウマチ治療は劇的に進展した。以前は阻止することが難しかった関節破壊を止めたり、進行を遅らせたりすることができるようになった。それでも手術が必要な患者はいるが、手術の実施についての方針は大きく変わったという。

 「以前なら骨を切断して人工関節を設置していたケースでも、薬物治療の効果により、関節の温存が選択できるようになりました。また、以前であれば、骨の「土台」がもろくなって再建手術ができなかった患者さんでも、薬物治療で関節破壊を抑制し、進行が止まった段階で、変形した手指の機能を再建する手術ができる可能性が出てきました。手術を受けた患者さんからは、『リウマチになる前のように、レストランでフランス料理が食べられるようになってうれしい』などと感謝をされることもあります。最先端の手術を実施するだけでなく、薬物療法の効果を前提にどんな手術をするべきか、そもそも手術をするかしないかの見極めも、大学病院の整形外科医の重要な役割だということです」(門野氏)。

「脊椎関節炎外来」を3診療科合同で開設

 「脊椎関節炎外来」も、埼玉医大病院整形外科・脊椎外科の特徴的な取り組みの1つだ。体軸性脊椎関節炎は脊椎関節や仙骨関節などと末梢関節に炎症が生じる疾患で、腰背部痛と手指や肩などの痛みや腫れ、こわばりなどの症状が出る。進行すると背中が曲がらない、首が回りにくいといった症状に進展することもある。原因は未解明で、進行した体軸性脊椎関節炎は強直性脊椎炎として厚生労働省指定の難病にもなっている。門野氏は日本脊椎関節炎学会の理事を務めており、埼玉県で随一の脊椎関節炎診療のスペシャリストだ。

 埼玉医大病院の脊椎関節炎外来は、整形外科・脊椎外科とリウマチ膠原病科、皮膚科の3診療科が合同で、月に2回ほど開設している。3診療科の専門医が一堂に会して1人の患者を診察し、その場で議論して診断を下すスタイルは、全国的にもほとんど例がない。同外来の日には、脊椎関節炎の疑い患者が関東のみならず、新潟県や福島県などからも来院するという。

 脊椎関節炎の診療で、特に難しいのは診断だ。脊椎関節炎の炎症は腱が骨に接続している「付着部」で起きる。運動のし過ぎなどで発症する腱鞘炎や、関節リウマチとの鑑別が必要になる。分類基準はあるが診断基準がないため、グレーゾーンの診断に難渋しがちで、日本国内で正確な診断ができる医師は「全ての都道府県にいるとは言えない程度」(門野氏)とのことだ。

 「脊椎関節炎は筋肉の炎症、関節リウマチは関節の骨の炎症なので炎症の部位をしっかり確認することが大切です。しかし関節の骨と腱の付着部は数ミリメートルの違いしかないので、超音波検査の画像だけでは誤った診断をしてしまうリスクがあります。ですから脊椎関節炎の正しい診断のカギは、画像、血液検査、理学所見などを組み合わせて、総合的に判断することだと言えます。理学所見を取る際のポイントは負荷のかけ方です。一般的に、患部の筋肉に負荷をかけると脊椎関節炎の患者さんは痛みを訴えますが、関節の骨に負荷をかけなければ関節リウマチの患者さんはあまり痛がりません」と門野氏は話す。

 3診療科合同の診察にはそれぞれの科の若手医師も同席させている。合同診察の実施には、他診療科の若い医師に脊椎関節炎について学んでもらう意義もあるという。

専攻医プログラムの特徴は「早期暴露」「早期実践」

 医師教育に関して、同医局の専攻医プログラムの特徴は「早期暴露」「早期実践」だ。「埼玉県西部は医師充足率が特に低く、規模の大きい医療施設も限られるため、当院は大学病院と市中病院の両方の役割を担っています。当医局の医師教育では、その特徴を生かして、早い段階から実践的な研修に取り組んでもらっています」(門野氏)。

 一般的な大学病院の整形外科専攻医プログラムでは、専攻医1年目は大学病院の病棟で入院患者の担当をするだけのことが多い。手術や外来を学ぶのは、外部の病院に派遣される2年目以降となる。埼玉医大病院整形外科の専攻医も1年目は大学病院に所属するが、6つある専門診グループ「脊椎外科」「関節外科(股・膝)」「スポーツ整形外科」「手の外科」「救命救急」「骨軟部腫瘍」を2カ月ずつローテーションしながら、病棟管理のみならず、手術も外来も担当する。それぞれの専門診で先輩医師の手術を見るだけでなく、指導医が安全を確保した上で手術の一部を経験したり、外来で早い段階から予診などを担当したりするという。

 ローテーションでは、専攻医はそれぞれの専門診の小グループに入る。「専攻医1人と、年次の違う上級医2~3人を組み合わせて1グループにしています。グループの人数が多すぎると専攻医と上級医の距離感が縮まりにくく、少なすぎると上級医に下の面倒を見る余裕がなくなるので、教育効果がより高くなるよう、人員配置にも配慮しています」と門野氏は言う。


埼玉医科大学整形外科のスタッフたちと。前列中央が門野氏。(同氏提供)

埼玉医大国際医療センターと一体で医師教育

 埼玉医大病院と埼玉医大国際医療センターは緊密に連携しており、整形外科の専攻医プログラムは基本的に一体で運営されている。埼玉医大国際医療センターは、がん、心臓病、高次救命救急に機能を特化した施設だ。そのため埼玉医大病院で2次救急を学んだ後、埼玉医大国際医療センターで3次救急を学ぶことになっている。また、埼玉医大国際医療センターの骨軟部組織腫瘍科・整形外科では、骨肉腫など悪性肉腫の臨床を学ぶ。「埼玉医大病院でも埼玉医大国際医療センターでも専攻医の教育方針は同じです。指導医、上級医の手厚いサポートの下、積極的に臨床経験を積んでもらっています」(門野氏)。

 大学病院に在籍する1年目で、一般的な整形外科疾患はほぼ網羅できるとのことだ。手術件数も相当数確保できる。1年目の終わりに各専攻医の進捗状況を評価して、さらにより多く経験してほしい疾患が経験できる施設はどこかといった観点で、2年目以降の派遣先が決まる。専攻医の派遣先となる医局の関連施設は12施設あり、1人の専攻医は2~4年目の3年間でそのうちの2~3カ所に派遣されることになる。幅広い分野を研修するために、さいたま市や朝霧市など都市部の施設と、秩父市などの過疎地域の施設の組み合わせになることが多いという。

 「当医局の専攻医プログラムは、大学病院と市中病院の良いところをミックスしたような内容で、専攻医は研修の進捗にもどかしさを感じることなく、やりがいを持って日々の研修に取り組めると思います。『早期暴露』『早期実践』といっても、崖から突き落として『自分で這い上がってきなさい』ということではありません。指導医や上級医がしっかり見守りながら実践の機会を豊富に与えているということです」。こう語る門野氏は、「自ら成長していける人を上に引き上げるだけでなく、つまずいた人を支え、下から押し上げて成長の軌道に載せることも重視しています。そのために必要なマンパワーもしっかりかけています。当医局に入ってくれた専攻医を1人も取り残すことなく、私自身も『家族の診療を任せたい』と思えるような整形外科医に育てたいと考えています」とも付け加える。

問答を通じて「よく考える医師」を育てる

 専攻医が大学病院に配属されている期間、門野氏自身も実際に教育に関わっている。「よく考える医師」の育成を目指して、専攻医に「問答」を仕掛けているという。

 門野氏は忙しい業務の合間を縫って、1日に1度は必ず病棟に行き、専攻医や専門医資格をとって間がない若い医師に声を掛けるのを日課にしている。一例は次のようなものだ。この日の問答の相手は、執刀する先輩医師に付いて、転落で肩を粉砕骨折した患者の整復手術を初めて経験した専攻医だった。

門野「肩のバラバラになった骨をもとの位置に戻すのは大変じゃなかった?前後左右をどうやって判断したの?」

専攻医「上腕の筋を基準にしました」

門野「なるほどね。どっちが前かはどうやって確認した?」

専攻医「えーっと、腕を曲げていました」

門野「そうだね、腕を曲げると上腕二頭筋が前にくるから、骨の前後が分かりやすいんだよね。整復してネジによる固定ではなく、人工骨頭置換を選択したんだね。人工骨頭はどうやって入れた?」

専攻医「ちょっと腕を捻って入れていました」

門野「よく見ていたね。後ろに捻って人工骨頭を差し込むと、肩甲骨の関節窩にぴったり合うよね」

専攻医「はい、合っていました」

門野「どれくらい捻っていた?」

専攻医「30度だと、先輩医師が言っていました」

門野「よく覚えていたね。なぜ捻ったら、ぴったり合ったのだと思う?」

専攻医「そうか、肩甲骨の向きが元々真横ではないのですね」

門野「そう、その通り。次は君自身で人工骨頭の差し込みができるね」

専攻医「はい!」

 質問の内容とレベルは、相手の知識と経験を考慮して変えている。相手を否定せず、問答の中で自ら答えを探してもらうよう気を付けているという。門野氏と若手医師との問答は、教える側の指導医、上級医にも変化を起こしつつある。「最近は指導医や上級医が下の年次の医師に、私と同じように相手の気づきを導く問答をするようになってきました。よし、よし、と喜んでいます(笑)」(門野氏)。

医師の定着率の向上と医局員の国際化が課題

 今後の抱負について門野氏は、まず、埼玉県で活躍し続ける整形外科医を増やすことを挙げる。課題は定着率向上だ。他県出身者が埼玉医大医学部を経て整形外科医になった場合、40歳半ばで埼玉県を離れ、地元に戻ってしまうことが多い。そこで埼玉医大医学部と埼玉県が連携して、埼玉県出身の医師を増やすために、「学校選抜型選抜制度」、「地域枠奨学金」などの拡充に力を入れている。

 整形外科医局としては、「地域枠」で医師になった後に整形外科医を目指す人が増えるよう、医局の魅力を大きくすることに取り組んでいるところだ。同医局の関連施設の中には、義務年限期間の勤務地となりうる過疎地域の病院が2つあり、そこには既に常勤の指導医を配置している。従って同医局に入った地域枠の医師は、義務年限期間中でも、整形外科専門医を目指して研修が続けられる。

 「そういった施設を今後さらに増やしていきます。他大学の整形外科医局とも連携して、他の過疎地域の医療施設にも若手の指導ができる常勤医を派遣する計画です。この課題に関しては医局の枠を超えて、地域枠から整形外科医を目指す人たちがキャリアプランを描きやすい環境整備を進めていきます」(門野氏)。

 もう1つの抱負は、医局の医師の「国際化」だという。

 「整形外科疾患をまんべんなく診ることができ、よく考え、臨床現場で何ら困ることがない余力のある整形外科医になってもらうことが第一です。患者さんがニコニコしながら診察室を出てくるような、そんな診療ができるようになってほしいと思います。それを土台としつつ、ある分野では世界最先端のトップランナーと肩を並べてディスカッションができるような、とがった部分も持っている医師になってほしいのです。そのために日ごろから研究を手掛けて国際学会で発表すること、英文論文を書くこと、海外に研究留学をすることなどを推奨しています。私が教授に着任した10年前と比べると、海外の学会で発表する人がだいぶ増えてきましたが、まだまだです。これからもっと医局の国際化を進めていきます。多くの医局員が学会発表に行ったり留学をしたりするようになると医局の人員のやりくりは大変ですが、そのときは私が留守番をしっかり頑張るので大丈夫です」。門野氏はそう笑顔で話す。

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門野 夕峰(かどの・ゆうほ)氏

1995年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、茨城県立中央病院、東京都立広尾病院、三楽病院で臨床研修。その後、大学院進学、米国ペンシルバニア大学留学。2013年東京大学医学部附属病院講師。2015年東京大学大学院准教授。2016年埼玉医科大学整形外科教授。2019年より同大整形外科運営責任者と埼玉医科大学病院整形外科・脊椎外科診療部長を兼務。

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