国内における関節リウマチ・膠原病診療の中核施設として、業界を長年リードしてきた東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター。同センターを前身とする同大医学部膠原病リウマチ内科学分野の第6代教授・基幹分野長に2026年1月、勝又康弘氏が就任した。全国のリウマチ関連講座の中でも有数の規模を誇り、関節リウマチ以外にも様々な膠原病を診療できる強みを生かし、優れたリウマトロジストの育成を目指す。
施設情報
東京女子医科大学医学部 膠原病リウマチ内科学分野
東京女子医科大学医学部 膠原病リウマチ内科学分野
◎医局データ
教授:勝又 康弘氏
医局員(常勤医):26人
外来実患者数:年間約5000人
入院実患者数:年間約250人
附属病院:本院含めて3施設
関連病院:5施設
東京女子医科大学医学部膠原病リウマチ内科学分野は、1982年にリウマチ性疾患の専門医療機関として開設された同大附属膠原病リウマチ痛風センターを前身とし、2018年5月に医学部の講座として新たに設置された。
同大の膠原病リウマチ痛風センターは、「リウマチ科」という標榜科がなかった時代に、整形外科と内科のはざまのような位置付けだったリウマチ・痛風領域を国内で先駆けて体系化した施設として知られる。患者・人材ともに全国から集まる国内の中核施設として、業界を長年リードしてきた。同センターで2000年から取り組んできた関節リウマチ患者対象の観察研究「IORRA」は、累積登録患者数が1万人を超え、単施設コホートとしては世界有数の規模を誇る。
2026年1月、同講座の第6代教授・基幹分野長に就任したのが、勝又康弘氏だ。
「針谷正祥前教授をはじめとする先達の努力によって築かれたリウマチ学における日本トップクラスの規模と実力を持つ講座を受け継ぎ、さらに発展させていきたいと思っています。そのために、安全で良質な診療、魅力的な卒前・卒後教育、先端的な研究──を3本柱に掲げ、優れた成果を生み出していく所存です」。勝又氏はこう抱負を語る。

東京女子医科大学医学部膠原病リウマチ内科学分野教授・基幹分野長の勝又康弘氏。
整形外科・小児科と密に連携した診療に強み
膠原病リウマチ内科の外来を訪れる患者は、1日に約120人。年間実患者数は関節リウマチ患者が3500人、関節リウマチ以外の膠原病患者が2000人に上る。
2018年までは「膠原病リウマチ痛風センター」として、現在の附属病院の外来棟とは別の建物で、独自に外来診療を行っていた。当時は、膠原病リウマチ内科、小児リウマチ科、リウマチ関節外科(整形外科)が、いわゆる医局(教室)としても、大学附属医療施設としても、1つの組織として同センターに属しており、センター全体の年間外来患者数は1万人規模であったという。外来診療の機能が外来棟に移行した現在は、膠原病リウマチ内科、整形外科、小児リウマチ科においてリウマチ性疾患の患者を診ているが、診療科間で垣根を作らず、密に連携しながら診療するスタイルは脈々と受け継がれている。
「膠原病リウマチ内科に通院中の患者で手指や手首への関節注射が必要となったケースや、手術を要するようなケースなどについて、我々から整形外科『リウマチ班』の医師に直接依頼・相談することもあれば、反対に、整形外科の主治医から、生物学的製剤を使用中に肺炎が疑われた患者のレントゲン読影を依頼されることもあります。外来棟のリウマチ内科と整形外科の診察室が同じブロックにあるという環境も手伝って、診療科間での連携は非常にスムーズです。さらに、小児リウマチ科とのスムーズな連携も当院の特徴の1つであり、全国的に課題となっている小児リウマチ科から成人の膠原病リウマチ内科への移行についても独自のプログラムを作って取り組んでいます」と勝又氏は説明する。
初診患者の受け入れは週に20人ほど。「大学病院」「リウマチ学の総本山」とのイメージの強い同科の外来は、一見、受診や紹介の敷居が高そうに映るが、実態はその逆。勝又氏は、病診連携において患者の紹介元となる地域の開業医に対するメッセージとして次のように語る。
「『軽い関節の痛みを訴えているが、更年期障害や加齢による症状かもしれず、関節リウマチの確証はない』くらいの見立ての患者であっても、紹介してくださって構いません。『大学病院への紹介は検査結果をひと通りそろえてからでなければ』などと身構えず、リウマチ性疾患の可能性が疑われたら、積極的に紹介していただければと思います」。
紹介受診した患者の紹介元への逆紹介についても、個々の施設の意向に沿う。大学病院や地域の基幹病院クラスであれば、新規薬剤導入時の全身評価や薬剤選択などを行った上で患者を紹介元に返すというのが一般的な対応だが、同科では紹介元が希望した場合には患者を戻さず、同科の外来で診療を継続することも少なくないという。
大学病院ではあるものの、「膠原病リウマチ痛風センター」というビル診療所が始まりのクリニックとして、軽症例から重症例まで幅広いステージの関節リウマチ患者を診療し、前述のコホート研究「IORRA」にも長年取り組んできた伝統と実績が、こうした柔軟な診療方針のベースとなっているようだ。

勝又氏(中央)と膠原病リウマチ内科学分野の医局員たち。(勝又氏提供)
関節リウマチ以外の膠原病にも注力、若手育成の礎に
さらに今後は、全身性エリテマトーデス(SLE)や全身性強皮症、皮膚筋炎/多発性筋炎、血管炎症候群、ベーチェット病、成人発症スチル病、IgG4関連疾患、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎など関節リウマチ以外の膠原病~類縁疾患の患者の診療についても、対外的にアピールしていきたい考えだ。
「例えば、針谷前教授は、厚生労働科学研究『難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班』の班長として『ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023』の作成にも関わっておられましたし、私自身もSLEや皮膚筋炎/多発性筋炎、血管炎症候群を専門とし、数多くの患者を診てきました。IORRAに代表されるように、当科は関節リウマチに強い講座とのイメージがありますが、それ以外の膠原病患者の診療についても、これまで以上に患者さんを積極的に受け入れていきたいと考えています」。勝又氏はこう強調する。
実際、膠原病の研究も盛んだ。例えばSLEについては、外来や病棟で採取した患者検体を用いたバイオマーカーの探索研究や、SLEに関連した疾患感受性遺伝子の同定といった基礎研究の他、疫学研究として国際多施設共同研究にもこれまで積極的に参加している。
代表的なものが、APLC(The Asia Pacific Lupus Collaboration)による多国籍観察コホート研究だ。その1つの成果として勝又氏が筆頭・責任著者を務めた、SACQ(血清学的活動性はあるが臨床的活動性はない状態)のSLE患者に対するステロイド減量戦略の実行可能性・有益性を示した研究論文は、リウマチ学のトップジャーナルである『Annals of the Rheumatic Diseases』誌に2024年に掲載された(Ann Rheum Dis.2024; 83: 998-1005.)。
皮膚筋炎/多発性筋炎に関しても勝又氏自身、国際的な筋炎研究グループであるIMACS(The International Myositis Assessment and Clinical Studies)のメンバーの1人として、筋炎治療効果判定基準の策定や、皮膚筋炎/多発性筋炎の亜型である「抗ARS抗体症候群」の国際的な名称や略語に関する合意形成プロジェクトなどに関わってきた。
ANCA関連血管炎についても、株式会社ビー・エム・エルの研究所と組んで新しい疾患活動性バイオマーカーの探索研究を行い、特許を申請している。実用化に向けてより疾患特異的なマーカーの探索を計画中だ。
膠原病リウマチ内科の医局員は常勤医が20人以上と、全国のリウマチ関連の講座の中では規模が大きい。それ故、関節リウマチだけでなく様々な膠原病の診療に長けた医師が在籍し、病態(基礎)研究から臨床(疫学)研究まで充実した研究活動が行える点は同講座の強みの1つと言える。
「多彩な症状・病態を示すリウマチ性疾患の診療技術を習得するには、幅広い疾患の患者を数多く診察することが近道です。当講座にはそれを実現する環境が整っていますので、リウマトロジストを目指す多くの若い医師にぜひ入局していただきたいです」と勝又氏は語る。
基礎と臨床の両面からPhysician scientistを育成
このように膠原病リウマチ内科では、先端的な基礎研究に加え、国内最大級のリウマチ性疾患センターというスケールメリットを生かした臨床医学研究を多数展開している。同講座には、厚生労働科学研究や日本医療研究開発機構(AMED)研究などの研究代表者や分担者を務めるスタッフに加え、リウマチ性疾患の多施設共同臨床医学研究や診療ガイドラインの作成などに深く関わっているスタッフもいる。臨床医学研究に携わりたい医師にとっては魅力的な環境と言えるだろう。
基礎研究の中で、現在、同講座で力を入れているテーマの1つが、関節炎発症前の関節リウマチ、いわゆるPreclinical RAの病態研究だ。
「関節リウマチ治療は、分子標的薬の進化により、対症療法から寛解導入へと飛躍的に進歩しました。一方で、一度発症した関節炎を完全に治癒させることまではできず、近年、研究の焦点はハイリスク患者の発症予防に移行しつつあります。発症予防には発症予測因子の確立と、自己免疫的機序の解明が鍵となります。それを目指すのがPreclinical RAの病態研究で、当講座の岡本祐子准教授が中心となって研究を進めています」。
岡本氏は、Preclinical RA研究のメッカである米コロラド大学に留学していた際に、気道粘膜面の炎症によってPAD(protein arginine deiminase)が活性化し、それにより蛋白質のシトルリン化が引き起こされ、関節炎が発症する前の段階(前関節炎期)において抗CCP抗体の産生を誘導することを報告した。
他にも環境因子として、腸内細菌叢が制御性T細胞とヘルパーTl7細胞の分化バランスを調節し、粘膜免疫を介して全身免疫にも影響を与えるとの知見が近年集積されつつある。同講座では、こうした粘膜免疫や腸管細菌叢の変化などの関節リウマチのリスク因子と、前関節炎期のT細胞の機能異常との関連を検討し、関節リウマチ発症を予測するバイオマーカーや予防的介入方法の開発を目指している。
「関節リウマチ治療に関しては、既存の優れた薬剤を複数試しても症状コントロールが難しいD2RA(Difficult-to-treat Rheumatoid Arthritis)の病態に注目が集まる一方で、治療困難に陥るのを防ぐための早期介入、発症予防の研究も世界的に試みられています。難しい研究テーマではありますが、医療経済的な側面からみても、今後ニーズが高まる領域であると考え、精力的に取り組んでいます」と勝又氏は説明する。
後進の教育を通じて自らも成長
「研究第一」という大学が多い中で、東京女子医大は古くから臨床に力を入れ、大学病院での高度な臨床実践を志す医師の受け皿となってきた。勝又氏自身も、筑波大学医学部を卒業後、東京女子医大の脳神経内科(当時の神経内科)に入局。しかし、卒後2年目の内科ローテーションのときに当時指導医だった針谷氏と出会い、自身の進路に悩む中で同氏の勧めもあって卒後4年目に膠原病リウマチ内科に転向した。
「当初は大学に残ることは考えておらず、専門医を取得したらどこか市中の病院勤務医になるのだろうと漠然と思っていました」と勝又氏。ただ、針谷氏に誘われて入局し、研究をはじめ様々な手ほどきを受けた後に、皮膚筋炎/多発性筋炎の基礎研究のため米国留学する機会を得て、そこでもまた色々な人たちから指導を受ける機会に恵まれた。そうした経緯から、「せめて自分自身が教えてもらった期間は後輩を指導しなければいけないと思い、大学で研究・教育を続け、その過程で、理想とする高度な診療や研究、若手医師の育成を行うために医局を主宰したいと思うようになり、現在に至りました」と振り返る。
「大学の良いところは、教育機関という側面から、学生や後進の教育を通じて自分自身が成長できることではないでしょうか」と語る勝又氏。教える側の人間が、誰よりも詳しく理解していなければ指導者は務まらないためだ。勝又氏がそう実感する背景には、自ら大学病院の病棟長を10年ほど務めた経験がある。「診療方針を考える病棟長が判断を誤れば、患者が不利益を被るだけでなく、指導された医師や学生がその先も間違った判断をすることにつながりかねません。私自身、過去に前例がないほど病棟長を長く務めましたが、その間、他の若手の誰よりも一番臨床について勉強したと自負しています」。
女子大であり、入局者には必然的に女性が多い。女性医師・研究者の育成については大学を挙げて支援しており、短時間勤務制度の他、子育てで数年間現場を離れていた医師がスキルを取り戻すための「再キャリア支援」などバックアップ体制は充実している。それでも実際に大学に残り、後進の研究指導や幹部として医局運営を担う女性医師は、まだまだ少ないのが現状だ。
「当講座の場合、私自身が細胞や動物、試薬を用いるウェットと、疫学データ解析などを行うドライ、両方の研究で業績を残し、また現在進行形で行っており、どちらも指導できる点は強みだと思います」と勝又氏。ウェットな研究にはつきものの、例えば2時間おきの培地交換や休日の餌やりなどが育児で難しければ、ウェットな研究ではなくドライな研究を選択することで、学位の取得や、大学人としてのキャリアを継続できる可能性がある。
東京女子医大では、2022年度から新たに「彌生人(やよいびと)メンター・メンティ賞」を創設。優れたメンター(指導者)の指導により、メンティ(女性研究者)が国際的な医学誌に筆頭著者として論文掲載を成し遂げた場合、当該メンターとメンティを表彰し、メンティに対して研究助成を行うというものだ。勝又氏自ら過去にメンターとして受賞歴がある点も、女性医師にとっては心強いだろう。
勝又氏の教育に対する想いは、膠原病リウマチ内科スタッフの間にも浸透しているようだ。現在の講座の雰囲気について勝又氏は、「皆、面倒見が良く、教育好きという印象です。『自分が教育してもらったから下も育てる』といった考えが伝統として根付いているように見受けられ、頼もしく感じています。共に働く仲間を増やす一方、できるだけ多くのリウマチ性疾患の患者を診療できる環境を整え、リウマトロジストを志す若い医師を育成していきたいですね」。勝又氏はこう話している。
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勝又 康弘(かつまた・やすひろ)氏
1997年筑波大学医学専門学群卒業、同年東京女子医科大学初期研修医、99年同大医療練士研修生(専攻医)、2005年同大附属膠原病リウマチ痛風センター助手、08年同助教、12年同講師、18年東京女子医科大学医学部膠原病リウマチ内科学分野講師を経て、26年より現職。





























