――高田先生は、医師として痛みをとることを非常に大切にされているとお聞きしました。どのような理由でペイン治療や整形外科に進もうと考えられたのでしょうか。

　父親が産婦人科医だったので、当初は産婦人科医になることを考えて麻酔科に進みました。患者様の非常に辛い瞬間や深刻な命の問題に立ち会う経験も数多くしましたが、その中で、痛みを取って患者様の喜ぶ顔を見られることに、医師としての手ごたえを感じました。痛みがあると、それだけで生活の質は下がります。患者様のQOLを上げることは医師として満たされる部分が大きいですね。

――こちらのクリニックはショッピングモールの一角にあり、国道に面しているということもあって多くの患者様がいらしているように思います。どのような患者様が多いのでしょうか。

　ご年配の方が多いですが、年齢層は幅広いですね。この地域は子育て世代も多く、3世代同居の方も多くいらっしゃいますし、高校も近くにあるため、若年層の方も多く来院されます。また農業をされている方が多く、隣接の玉野市は工場地帯も多いため、職業柄か膝や腰の痛みを訴える方が多いですね。整形外科の治療は身体を動かさなければ治りにくいもので、お薬だけ飲めば治るというものではありません。そのため、リハビリについては理学療法士と一緒に患者様のモチベーションを上げられるよう、積極的にお声掛けしています。

――最近では高齢化もあって、ロコモティブシンドローム（ロコモ）に悩む患者様も増えています。高田先生はロコモについてどのようにお考えでしょうか。

　ロコモの問題は以前よりあるもので、昔は年齢などのせいにしてあきらめてしまうことが多かったように思います。医師になったばかりの頃は、患者様も「歩けなくなっても当然」「車いすのほうが楽でいい」と考えている印象でした。現在は、過去に比較して、ロコモになっても自分で歩くことなどをあきらめない風潮がありますね。元気なおじいちゃん、おばあちゃんは増えていますし、元気に動けるまま年齢を重ねたいという考えが医師だけではなく患者様にも広まっていると思います。

――患者様と接する際に意識されていることはなんでしょうか。

　痛みに向き合うことは、患者様にとって非常に怖いことだと考えます。つい目を背けたくなってしまうような痛みでも、体が異常を教えてくれる重要なサインです。また患者様ご本人だけでなく、ご家族も含めて非常に大変です。「痛い、痛い」という患者さんに、ご家族が「もう年なんだから、そんなに痛いって言わないで」などと言ってしまうこともあります。そうすると、患者様は年齢のせいにして動くことをあきらめてしまう。そういった大変さがあるからこそ、医師があきらめてはいけないと思っています。痛みのある患者様は、今の痛みをいきなりゼロにしたい、と考えがちです。しかし、いきなり痛みゼロを目指すのではなく、10を9や8くらいの、すぐ手が届くような痛み軽減のための取り組みを実践してもらい、少しでも楽になった実感があれば、リハビリなど治療にも積極的になれます。だからこそ、リハビリには医師も積極的に関わるべきだと思いますし、医師、理学療法士、患者様のコミュニケーションが重要だと思います。

――本記事はさまざまな医療従事者に向けた記事となります。医師だけではなく、医療従事者の皆様にとって大切なことはどのようなことだとお考えでしょうか。

　私は、医師になってからのほとんどの時間を岡山で勤めてきました。そのため、患者様を他の病院などに紹介する際も、お住いの場所や患者様の性格などから、相性の良いところを紹介できると考えています。それは、ずっとこの地域で医師をやってきたからこそできることだと感じております。地域の医師同士の連携が強いんですね。そういった地域のつながりは非常に重要だと思います。それに、医師をはじめ看護師、理学療法士など、さまざまなプロフェッショナルが手を取り合うことで初めて、患者様の幸せにつながると考えています。それぞれの分野の力を合わせていくことは、とても大切なことです。患者様の幸せのために、そうやってこれからもやっていきたいと思います。

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高田英一 先生

岡山大学医学部卒業。岡山大学医学部麻酔科、広島市民病院麻酔・集中治療科、岡山大学医学部整形外科、岡山労災病院整形外科、玉野市民病院整形外科、国立岡山医療センター整形外科、岡山赤十字病院整形外科を経て、2013年7月にみなみ整形 痛みのクリニックを開院。