理想とのギャップを埋めるために、研究と日々の診療は同時に続けなければならない

慶應義塾大学病院

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――先生が医師を目指されたきっかけと、現在の専門分野について教えてください。 

学生の頃にサッカーをやっていて骨折などの怪我をした経験があり、患者として医師という職業を身近に感じていました。決して最初から強い信念があったわけではないですが、自分がお世話になったからこそ、同じように困っている人を医師として助けられたら…と、漠然と思うようになりました。整形外科は医療の中でも、QOLを追求する診療科だと思います。患者さんの生活をよりよくすることの助けになっていることに、やりがいを感じていますね。整形外科は今後、高齢化が進んでいく中で、より必要になる科だと思います。専門は背骨で、特に側弯症を専門としています。側弯症はまだまだ未知な部分が多く、課題が山積みとなっている領域。ジレンマを感じることも少なくないですし、手術を含め簡単な疾病ではないですが、プレッシャーとともに大きなやりがいも感じています。 

――渡辺先生は側弯症診療センターを設立されていらっしゃいます。どのような想いで設立されたのでしょうか。 

例えば、子どもの側弯症の場合、身体の他の場所にも問題を抱えている場合があります。それはメンタル的なところから内臓などの発育障害まで多岐にわたるため、整形外科だけでなく、それ以外の診療科とのつながりが大切になってきます。しかしながら、科をまたぐとなかなかその連携が難しいところがありました。そこを、センターという枠組みを作ることで、会議で意見交換をしたり、検査や症例情報を共有したりと、非常に効率よく議論ができるようになりました。センターの患者さんの多くは紹介で来院されています。その紹介元の小児科などの先生にもオンライン会議に参加していただいておりまして、そういうコミュニケーションの輪も、もっと広がればいいと思いますね。個人的にオンライン会議は苦手なのですが、1対1のやり取りではなく多くの方と共有できますし、オンラインだからこそ参加していただきやすいので、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています。


――ロコモティブシンドロームをはじめ、運動器の問題に接する際に意識されていることはどのようなことでしょうか。 

ロコモティブシンドロームには様々な原因があります。単に筋力が落ちた、という場合がイメージしやすいかと思いますが、整形外科的な疾患があってロコモになっている方もいらっしゃいます。側弯症の患者さんで言うと、大人の方の場合は3割ほどが骨粗鬆症などを併発しているケースが多いです。背骨が曲がってくる、というよりも崩れてくるような感じなんですね。そういう患者さんの生活クオリティを上げるために、どのようなアプローチが必要なのかを考えることがとても大切です。投薬、手術、固定などの限られた選択肢の中で、QOLを上げることを観点に選んでいくことが必要だと考えています。そのためには、我々のスペシャリティだけではなく、いろいろなスペシャリティの先生と意見交換や情報共有、学術的な議論をしていくことも、大切になってくると思いますね。 

――コロナ禍によって、多くの人々の生活スタイルが変化しました。患者さんと接する中で、その影響を感じたところはありますか? 

コロナの影響であまり出かけたりもせずに動かなくなったからか、まずは症状が良くなるんです。今までは痛いのを我慢して動いていた方が、動かないので痛くなくなって、ちょっと楽になりました、というお声がありました。ところが、特にご高齢の方ですが、動かなくなったことで、そのまま動けなくなってしまう傾向があるように思います。今後、世の中がより動き出したときにどうなるのかはまだわかりませんが、痛みが無いので良くなったと思っている方が、実は“動けなく”なっていた、というケースが増えてくるのではないかと危惧していますね。

――最後に、記事を読まれている医療従事者の方へメッセージをお願いします。 

日々、患者さんと向き合っていく中で、医療の限界というものを実感することもあります。しかしながら、今持っている医療の知識と技術によって、治せる部分はあるはず。もちろん、治せないものを治せるように、研究や開発は必要なことです。明確な課題がある場合には、しっかりと研究をして今後の医療の発展のために力を注いでいかなければなりません。その一方で、今持っている知識や技術を有効にフル活用して、何とか少しでも目の前の患者さんのQOLをよい状況にすることが必要だと思います。すべての人をハッピーにできればよいのですが、現実にはギャップがあります。その差を少しでも縮める努力は、研究開発と、目の前の患者さんの治療とで、同時にやっていく必要があるのではないでしょうか。それが、医療現場で働いている人の使命だと、私は考えています。
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渡辺 航太 氏

慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学整形外科に入局。国立埼玉病院、大田原赤十字病院(現那須赤十字病院)、総合太田病院(現太田記念病院)、米国ワシントン大学などを経て、現在は慶應義塾大学整形外科学教室にて准教授を務める。同教室の脊椎・脊髄班では脊椎班チーフ。診療科副部長。

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