自己注射剤の特徴を生かして在宅患者に治療介入

2021.10.27

医療法人社団洋誠会かわいクリニック
医療連携部 部長 髙田 健太郎先生
東京都大田区西蒲田8丁目4−4 岸・東海ビル 5 階

※ご所属は制作当時のご所属です。

かわいクリニック 髙田健太郎先生

在宅診療の状況と骨粗鬆症診療の課題

髙田健太郎先生(以下、髙田先生) かわいクリニックは、東京都大田区全域とその近隣地域(品川区、世田谷区、川崎市など)を対象とする訪問診療専門のクリニックです。現在14人の常勤医が在籍しています。全員が内科医として訪問診療に当たっていますが、専門の診療科は異なっており、それぞれの知識を生かして様々な病気の患者さんに対応しています。

 例えば、私がいつも診ている患者さんに、骨粗鬆症の治療が必要と判断した場合には、整形外科出身の医師に相談してより専門的な対応をするといった具合です。皮膚科や精神科など、常勤の医師ではカバーできない診療科の疾患については、非常勤の専門医に協力してもらい対応します。このような体制を取ることで、いわば「在宅診療の総合病院」として、患者さんや家族に「かわいクリニックに頼れば何とかしてくれる」と思ってもらえることを目指しています。

 大田区だけではありませんが、患者さんの高齢化が進んでいます。また、国の医療費抑制の動きの中で、医療機関の機能分化が求められており、大規模な病院は急性期の患者さんを優先して対応することとし、それ以外の患者さんについては、なるべく入院しなくて済むようにというのが昨今の流れです。そこでカギを握るのが、高齢者の在宅医療だと思います。

 後期高齢者が日常生活動作(ADL)を大きく下げたり、入院したりするきっかけのほとんどは、肺炎と骨折です。従って在宅医療を担うクリニックは、これらの予防にしっかり対応することが重要です。肺炎に関しては、当クリニック理事長の河井誠先生が呼吸器内科出身ということもあって、早い段階から嚥下機能の検査を導入して、誤嚥性肺炎の予防に取り組んできました。

 しかし骨折の予防に関しては、残念ながら取り組みが遅れていたと言わざるを得ません。骨折の既往があるなど、本来は介入すべき患者さんが少なくないのですが、適切に骨粗鬆症の治療介入ができている事例は1~2割程度にとどまっていると思います。在宅医が骨粗鬆症にあまり意識を向けていなかったこと、他の疾患の管理で手一杯になり、骨粗鬆症に意識が回らなかったことなどが反省点です。ただ、骨粗鬆症を専門としない在宅医が、骨粗鬆症を診断して薬物療法を新たに導入するのは現実的にかなり難しいことであるのも事実です。

 一方で患者さん側の課題としては、在宅医が「このまま放っておいたら5年後には骨が折れるかもしれませんよ」と伝えても、なかなか治療に積極的になってもらえないことが挙げられます。初期の骨粗鬆症では、痛みや外傷といった明らかな症状がないのが理由の1つです。また、従来の骨粗鬆症の治療薬は通院が必要であったことも要因になっていたかもしれません。特に寝たきりに近い患者さんにとって、定期通院は負担が大きく、なかなか治療スタートに踏み切れなかったのです。

在宅診療前にスタッフと打ち合わせをする髙田先生

自己注射剤が課題解決に役立つ

髙田先生 2019年11月に登場したテリボンオートインジェクターは、週に2回投与の自己注射剤です。在宅医が処方できるので通院の必要はありません。患者さん自身、あるいは家族がテリボンオートインジェクターを腹部などに押し付けて投与します。先端部分に針が付いていて、押し付けるとカチッと音がして皮下に薬液が注入される仕組みです。使い方はとても簡単なので、患者さんや家族に説明するとすぐに覚えてもらえて、指導時間はそんなに長くかかりません。針はインジェクターの中にあって使用時には見えないうえに、針は29ゲージであり、投与時にチクッとするのさえ気づかない患者さんもいらっしゃいます。

 また、テリボンオートインジェクターは、医療機関で打つ同じ成分の注射剤(テリボン)で発現する吐き気などの副作用が少ない印象です。

 テリボンでもテリボンオートインジェクターでも、治療脱落につながる副作用の多くは吐き気です。発現すると患者さんが怖がって治療中断になる場合があります。これまでの経験より、一回当たりの投与量がテリボンの半量となっているテリボンオートインジェクターのほうが、吐き気などの副作用で治療中断に至る症例が少ない印象です。

 私が主にテリボンオートインジェクターの導入を進めているのは、骨折の既往がある患者さん、自己免疫疾患などの治療薬としてステロイド剤を3カ月以上服用している患者さんです。中でもADLはある程度保たれているものの、もし骨折したら寝たきりになって本人の生活が損なわれる、家族の負担が大きくなってしまうと考えられる場合には、積極的に導入を働きかけています。これまでに新規導入した患者さんは18例で、そのうち17例は1年後も治療継続できています。

在宅診療中の髙田先生

病診連携でさらに介入を拡大

髙田先生 このようにゼロから骨粗鬆症治療を導入する事例も増えてきていますが、先ほども述べたように、在宅医が診断して治療介入することはなかなか困難なのが実情です。一番の泣き所は、在宅診療では骨密度の測定ができないことです。この課題を解決するうえで、カギを握っているのは病診連携だと思います。

 当クリニックは、近隣の東京蒲田病院と様々な分野で連携してきましたが、2020年からは骨粗鬆症診療でも連携も開始しました。同病院を退院後に当クリニックが在宅医療を担当することになっている患者さんについては全員、退院前に骨密度を測定してもらうことになったのです。骨密度が低かった患者さんには病院で骨粗鬆症治療薬を導入してもらい、退院後は当クリニックが処方を引き継ぎます。

 病院から在宅クリニックへという、一方通行の患者さんの受け渡しで終わらないことを重視しています。患者さんの具合が悪くなったら東京蒲田病院整形外科の先生と連携して対応します。特に問題がなくても1~2年に1度は病院で再び、骨密度検査を受けてもらう体制を作っています。骨粗鬆症の治療は効果が見えづらいので、病院の先生に1年に1度、「骨密度が〇%良くなりました。よく頑張りましたね」と言ってもらえることは、患者さんのモチベーション向上、治療継続に役立つはずです。

 2020年12月から2021年7月までに、東京蒲田病院を退院時に骨密度を測定した患者さんは91人で、そのうち22人に骨粗鬆症治療が導入されました。ほとんどの患者さんにはテリボンオートインジェクターが使用されていました。今後も病診連携をさらに深化させつつ、骨粗鬆症治療に力を入れていきたいと思います。この取り組みが、在宅療養する患者さんのADL維持、QOL向上に役立つことを願っています。


テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター製品情報
https://akp-pharma-digital.com/products/list/155

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