骨粗鬆症の治療は家族を巻き込むことが大事

2022.06.01

つちはら整形外科クリニック
院長:土原 豊一 先生
副院長:看護師 上橋 ひとみ 様
神奈川県横浜市栄区鍛冶ヶ谷2-53-10-3

※記事作成時点のご所属です。

つちはら整形外科クリニックの概要と骨粗鬆症診療について

 土原豊一院長(以下土原先生):当院のスタッフは常勤医が私1人(非常勤の整形外科医2人、麻酔科医1人)、看護師2人、理学療法士3人(非常勤1人)、放射線技師1人、運動療法のトレーナー2人、受付スタッフ3人(非常勤3人)です。

 当クリニックは50年ほど前に造成された団地に立地しており、高齢の患者さんが比較的多いです。外来患者数は1日当たり平均200人ほどで、そのうち骨粗鬆症の治療のみの患者さんは60人ほど。「膝の痛み、腰の痛み+骨粗鬆症」といった具合に、別に主訴がある骨粗鬆症の患者さんを加えると半数以上になります。

 病院勤務医時代、骨折で搬送されてきた高齢者が、手術はうまくいったけれどそのまま寝たきりになり、次第に家族の面会が減り、しばらくしてお亡くなりになるケースをたくさん見てきました。この経験から「骨粗鬆症の患者さんが転倒して要介護になるのを防ぎたい」との思いで2016年に開業し、今年で7年目になります。

つちはら整形外科クリニックは横浜市栄区の住宅地に位置する。

治療継続に重要な要素は「定期的な受診」と「治療薬の確実な投与」

土原先生:私が骨粗鬆症治療のメインに据えているのは内服薬ではなく点滴注射です。その理由は、定期的に来院してもらうことで、確実に患者さんへ投与できるからです。つまり継続してもらいやすいからです。

 開業当初、治療継続率がなかなか上がらない時期もありましたが、現在は約70%に達しています。患者さんの声を聴く中で、「治療に参加している満足感」「治療をしてもらっている満足感」が治療継続のカギではないかと思うようになりました。点滴注射のために自分で足を運ぶことで得られる治療参加の満足感、医療スタッフに話しかけられたり答えたりできることの満足感が、治療継続のモチベーションにつながっているように思います。

 処置室にリクライニングソファを置いて、半身を起こした状態で点滴を受けてもらっています。複数の患者さんが同時に点滴を受けることができます。点滴中は医師、看護師が話しかけ、患者さんからの質問に答えます。点滴を受けている患者さん同士で話が盛り上がって、地域のコミュニケーションの場のようになることもあります。

上橋ひとみ看護師(以下上橋氏):点滴を打ち終わるまでの約15分~30分間、点滴注射や症状のことだけではなく、日常の出来事などについても話しています。夫婦で通われている患者さん、お孫さんまで3世代で通われる患者さんもいらっしゃるので家族のことも話します。患者さんに「クリニックに行くのが楽しみだ」と言ってもらえるような和やかな雰囲気を作ることが、患者さんの満足感と治療継続率アップのために大切だと思っています。

つちはら整形外科クリニック 院長 土原 豊一 先生と副院長の看護師 上橋 ひとみ 氏

 治療継続率を高めるための様々な取り組み

土原先生:他にも様々な取り組みをしています。クリニックとしては珍しい腰椎と大腿骨の骨密度が測定できる骨密度測定装置(DXA)による検査に加え、骨代謝マーカー、身長の測定などを定期的に実施しているのも、治療継続率向上のための取り組みです。骨粗鬆症は自覚症状がほとんどなく、治療による改善効果が分かりにくい疾患です。例えば骨密度にあまり変化がないときでも、患者さんや家族が治療継続のモチベーションを維持できるよう、様々な指標を示してあげることが大切だと思います。

 受診予定日に来院しなかった患者さんの情報はその日のうちに私と看護師で共有して、その日の夜か翌日、看護師が電話連絡をして新しい予約を取ってくれます。中には「わざわざ電話をかけてこないで」という患者さんもいますが、多くの患者さんは、医師や看護師が自分のことを気にかけてくれると嬉しいようです。

 上橋氏:「お待ちしていたんですよ、どうされましたか」「ここで治療をやめたらだめですよ」とお話しすると、「電話してくれてよかったわ」「もう仕方ないわね。じゃあ行こうか」と言ってくださる患者さんがほとんどです。新型コロナウイルス感染症の影響で外出の機会が減っていますから、動かなくなると、そのまま寝たきりになってしまいかねません。こんな時だからこそ、月1回はクリニックに来てもらうことが大切だと思います。

 土原先生:カルテとは別に、患者さんごとに骨粗鬆症治療薬の種類と継続率、残薬数などを、上橋看護師がパソコンの表計算ソフトで管理してくれています。その表に基づいて診療を終えた患者さん別に問題点を洗い出して対応を相談しています。

 診療後のミーティングが深夜に及ぶこともありますが、情報共有には手を抜きません。患者さんが一番嫌がるのは、医師と看護師とで言うことが違っていて「どっちが正しいの?」「私をしっかり診てくれているの?」と疑問が湧くことだと思います。そういったことが一度でもあると、医師や看護師を信用できなくなり、治療の継続に影響が及びかねません。

副院長の上橋氏が、すべての患者さんの治療継続率などを表計算ソフトで管理。診療後にほぼ毎日、土原先生と情報を共有。

 テリボンオートインジェクター導入の工夫について

土原先生:テリパラチド製剤を積極的に処方しているのは、特に骨粗鬆症の中でも骨折のリスクが高い患者さんです。骨密度がYAM値(Young Adult Mean;若年成人平均値)の60%未満の人、椎体骨折が2カ所以上ある人、大腿骨近位部骨折の既往があり明らかに連鎖骨折が懸念される人などが該当します。そういった人には二次骨折を防ぐために、最初からテリパラチド製剤を使います。「テリパラチドは秘密兵器としてとっておき、まずは別の治療から」といった考え方はしません。患者さんと家族にも次の骨折をしないためには必要な治療なんですよと説明しています。

 テリボンには、週1回の院内で注射するタイプと週2回自己注射するタイプがあります。院内で注射タイプはクリニックに来てもらって投与するので高いコンプライアンスが望めます。自己注射するタイプのテリボンオートインジェクターは、通常、通院1回毎に2週分(4本)か4週分(8本)処方します。打ち終えた注射器をクリニックに持ってきてもらうことでしっかり投与できている事を患者さんと共有できます。この確認が治療継続の動機付けとなり、当クリニックでの治療継続率は点滴注射と同じくらい高くなっています。

 テリボンオートインジェクターは針が患者さんに直接見えず、針の付け替えも不要なので、受け入れてもらいやすいのですが、それでも「注射はいやだ」「やりたくない」と言う患者さんはいます。そういった方には、「怖いだろうけれど、今、治療をしなかったらもっと骨折の連鎖が起きてしまい、要介護になるなんてことも考えられますよ」と話をします。無理やり押し付けるのではなく、「あなたと家族のために、この治療を受け入れてほしい」「介護にならないため、ずっと自分の足で立てるためにこの治療が必要なのです」と丁寧に話します。

 患者さんを説得するときには、「あなたが歩けなくなったらご家族が介護されるようになりますよ」と患者さんへ伝えると、「家族には迷惑をかけられないから、やってみようか」と言ってくれることが多く、ご家族の理解を得るのに効果的です。

 一方、家族から「毎月クリニックへ連れて行くのは大変」「もう年だから、治療はしなくていいです」などと言われることもあります。しかし「要介護にならないために必要な治療なのです」「おばあちゃんが要介護になったら、面倒をみるのはご家族ですよ」と話をすると、多くの場合、納得してもらえます。患者さん本人にやる気があっても、ご家族の協力がないと通院できないこともあります。ですから治療導入時にご家族の協力を得ておくことはとても重要です。

上橋氏:「私は旅行しないから、もう歩けなくなってもいいんだ」と言う患者さんもいます。そういうときは、立って着替えができるかどうかで家族の負担が全然違うことを説明すると、患者さんも家族も「やっぱりそうよね」と納得して、一体になって治療に取り組んでくれることが多いです。

 治療をやる気はあるけれど、自己注射はどうしても難しい患者さんも中にはいます。ある患者さんは、訪問看護師に注射を打ってもらっています。週に何度か通ってくる娘さんに打ってもらっている患者さんもいます。テリボンオートインジェクターは週2回の投与なので、患者さんの状況に応じてそういった対応ができるのも良い点だと思います。

自己注射の副作用予防と初回の説明について

土原先生:テリボンオートインジェクターの導入時には、嘔気・嘔吐の副作用に気を付けています。症状が出てしてしまうと、2回目以降の継続が難しくなるからです。逆に副作用が出ず初回を乗り切れれば、ある程度続けられそうな感触が得られる印象です。

 具体的な方策としては、当院ではテリボンオートインジェクターの導入を承諾してくれた患者さんには、500mLのミネラルウオーターを渡しています。院内で1回目の注射をするまでの空き時間に飲んでもらうのです。脱水気味だと血中のカルシウム濃度が変動しやすく、嘔気・嘔吐が出やすいと考えているためです。こうした方策により導入初期の脱落が減り、当初は 4割程度だった治療継続率が約7割にまで改善しました。

上橋氏:1回目の自己注射は看護師の介助のもと、処置室でやってもらいます。事前説明は、プレッシャーをかけないように、できるだけシンプルにしています。もともとテリボンオートインジェクターは操作がとても簡単な印象で、「消毒綿で注射部位を拭いて、キャップを外してポンと5秒体に押し付けたら終わりです」くらいの説明で十分伝わります。詳しく知りたい患者さんには、説明用のビデオ(AK-Pad)を見てもらっています。

 2回目以降の自己注射については、「打ち忘れたら翌日打てば問題ないです」「お出かけのときはしっかり楽しんで、帰って来てから打ってください」「週2回打てれば大丈夫ですから、気楽に考えてください」といった具合に伝えています。一番大事なのは2年間続けることなので、患者さんがあまり気負わず治療をスタートできるよう意識しています。

 院内で1回目の自己注射を終えた後は、「やってみたら本当に簡単でしょう?」「バッチリできていたからもう大丈夫。ご自宅でもきっとできますよ!」と患者さんの気持ちを盛り上げます。自信を増してもらえれば、2回目以降の自己注射がスムーズに行えると思います。

病気を治すことと、要介護にならないよう意識を高めることに注力

土原先生:今後の抱負としては、引き続き2つの仕事をしっかりやっていきます。1つ目は患者さんが病気を治すのを手助けすること。2つ目はどうしたら要介護にならないかを啓発し地域の方々の意識を高めていくことです。2つ目については骨粗鬆症に限りません。私から患者さんに折々お話をしていますし、上橋ら看護師も点滴や薬の説明の際に話をしてくれています。話を聞いて、「ああ、クリニックに来て、話が聞けてよかったわ」と言ってくれる患者さんも多いです。要介護にならないための心構えが浸透すれば、治療継続率はさらに上がっていくでしょう。その段階になったら、定期的に来院してもらえる薬剤にこだわる必要もないかもしれません。

 先日、患者さんが亡くなった際、「おばあちゃんは老衰で亡くなりました。最後まで骨を折らず、自分の足で立てました。ありがとうございました」と、家族から連絡をもらいました。そういったことは本当に救いになります。この地域で同じような声がたくさん聞けるように、これからも頑張っていきたいと思います。

つちはら整形外科クリニックのスタッフの皆様

 
テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター製品情報
https://akp-pharma-digital.com/products/list/155


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