感染症リスクとブレイクスルー溶血(BTH):安全性情報

エムパベリ投与開始前のワクチン接種と追加接種について

エムパベリ投与中の莢膜形成細菌による 重篤な感染症のリスク

  • 他の補体治療と同様に、エムパベリでも莢膜形成細菌による重篤な感染症のリスクがあります。
  • 髄膜炎菌、肺炎球菌及びインフルエンザ菌などの莢膜形成細菌に対する感染リスクを軽減するため、原則、エムパベリ投与開始の少なくとも2週間前までに以下のワクチンの接種が必要となります。
感染症リスクとブレイクスルー溶血(BTH):安全性情報

なお、臨床試験ではワクチン接種後2週間未満でエムパベリによる治療を開始する場合には、ワクチン接種後2週間までは感染症の発症抑制のために適切な抗菌薬による治療を行うこととしていました。

エムパベリ投与と各種ワクチン接種のタイミング

感染症リスクとブレイクスルー溶血(BTH):安全性情報

1)一般社団法人日本環境感染学会ワクチン委員会編:医療関係者のためのワクチンガイドライン第4版, 日本環境感染学会誌 39:S1, 2024
2)一般社団法人日本感染症学会肺炎球菌ワクチン再接種問題検討委員会編:肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンス(改訂版), https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/pneumococcus_vaccine_re_1707.pdf(閲覧:2025年10月)

エムパベリ®患者安全性カード

エムパベリ®患者安全性カード

  • 「エムパベリ®患者安全性カード」は患者さんがエムパベリによる治療を受けていることを知らせるカードです(三つ折りカードサイズ)。
  • カードに患者さん氏名、主治医氏名、病院名、主治医電話番号、緊急時受診可能医療機関などの必要事項を記入してもらい、患者さんには本カードを常に携帯するようお伝えください。
  • また、医療機関受診の際には、受診先及び薬剤部/調剤薬局の医療関係者(医師、看護師、薬剤師など)に本カードを提示するようお伝えください。

エムパベリ®患者安全性カード(三つ折り)

感染症リスクとブレイクスルー溶血(BTH):安全性情報

莢膜形成細菌による重篤な感染症のリスク

髄膜炎菌感染症や重篤な感染症の徴候及び症状

  • エムパベリの投与により、髄膜炎や敗血症を含む、重篤あるいは致死的な感染症の発症リスクが高まる可能性があります。
  • 重篤な感染症は早期発見、早期に抗菌薬の投与などの適切な処置が行われない場合、急激に重症化し死に至ることもあります。
  • 重篤な感染症が疑われる下記のような徴候及び症状がみられた場合には、直ちに主治医に連絡するよう患者さん及び介護者にお伝えください。

髄膜炎菌感染症や重篤な細菌性感染症の対処方法

  • 髄膜炎菌感染症や重篤な細菌性感染症が疑われる場合には、これらの感染症に精通した医師と連携の上、直ちに診察、抗菌薬の投与などの適切な処置を行ってください。
  • 「細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014」では、髄膜炎菌に対して、感受性検査が判明するまでは第3世代セフェム系抗菌薬のセフトリアキソン又はセフォタキシムが標準治療薬とされています1)
  • 発熱時に早期の受診が困難な場合は、キノロン系抗菌薬を手持ちとして、まず内服してもらい、その後に必ず受診していただくようご指導願います2)
感染症リスクとブレイクスルー溶血(BTH):安全性情報

1)「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会編:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014, https://
www.neurology-jp.org/guidelinem/zuimaku_2014.html(閲覧:2025年10月)
2)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ:発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版

エムパベリ投与中の重篤な溶血発作(ブレイクスルー溶血:BTH)のリスク

溶血発作の要因

PK-BTH(Pharmacokinetic-BTH):薬剤の血中濃度が十分に維持されていないことによって起こるBTH
PD-BTH(Pharmacodynamic-BTH):薬剤の血中濃度は十分でも、感染や炎症等による補体の強い活性化が薬剤の効果を上回ることで起こるBTH

PNHにおける補体阻害と溶血のメカニズム(イメージ図)1)
近位補体阻害(C3阻害)

  • C3レベルで近位補体を「完全」に阻害すると、C3転換酵素は形成されず、C3フラグメント及びC5転換酵素も形成されません。その結果、血管内溶血及び血管外溶血の両方が抑制され、循環血液中に存在するPNH赤血球の割合は終末補体阻害(C5阻害)の場合よりも高いとの報告があります2)
  • 一方で、近位補体を「不完全」に阻害すると、C3転換酵素及びC5転換酵素が形成され、結果として大量のMACが形成されることとなり、急性のブレイクスルー溶血が起こる可能性があります。
感染症リスクとブレイクスルー溶血(BTH):安全性情報

Adapted with permission from N Engl J Med, Notaro R and Luzzatto L, Breakthrough Hemolysis in PNH with Proximal or Terminal Complement Inhibition,
387, 160-166. Copyright © 2022 Massachusetts Medical Society.

Expert’s Comment

大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 講師
植田 康敬 先生

  • 感染症以外が誘因となるBTHもあるので注意が必要である。
  • pegcetacoplan(エムパベリ)を3年間投与した海外の報告では、80例中22例(27.5%)にBTH※が認められている3)。重篤な血管内溶血を起こす可能性もあり、慎重な経過観察が求められる。

※BTHの定義:治療によりLDH値がULNの1.5倍未満になった後に、LDH値がULNの2倍以上となり、血管内溶血[疲労、ヘモグロビン尿、腹痛、息切れ(呼吸困難)、貧血(ヘモグロビン値<10g/dL)、血栓症などの重大血管イベント、嚥下障害又は勃起不全]の新規症状若しくは徴候、又は症状若しくは徴候の悪化が1つでも認められた場合と定義した2)

1)Notaro R, et al.:N Engl J Med 387:160, 2022(PMID:35830642)
2)社内資料:外国人及び日本人PNH患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(APL2-302試験)(2023年3月27日承認、申請資料概要2.7.6.9)(承認時評価資料)
3)de Castro C, et al.:Adv Ther 42:4641, 2025(PMID:40720060)

BTH時の対応

溶血発作に対する対症療法1)

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エムパベリの投与スケジュールと増量

  • エムパベリの投与間隔については、週2回の投与では各週の1日目、4日目の投与です。
  • APL2-302試験では、LDH値が基準値上限(ULN)の2倍超の場合、1080mgを3日に1回の間隔(1日目、4日目、7日目、10日目、13日目など)での投与に増量可能としていました。
感染症リスクとブレイクスルー溶血(BTH):安全性情報
6. 用法及び用量
通常、成人には、ペグセタコプランとして1回1080mgを週2回皮下投与する。なお、十分な効果が得られない場合には、1回1080mgを3日に1回の間隔で皮下投与することができる。

Expert’s Comment

大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 講師
植田 康敬 先生

  • BTHに対しては、日本国内で保険適用が認められている範囲内で、適切な対症療法を行う。

1)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ:発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版

監修:大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 講師 植田 康敬先生

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