DICと基礎疾患

造血器悪性腫瘍DIC

目次
金沢大学附属病院 高密度無菌治療部
病院臨床教授 朝倉 英策 先生
※監修者のご所属は、制作当時のご所属です。

I. 病態と診断

造血器悪性腫瘍や固形癌などにおいては、腫瘍細胞中の組織因子(TF)により外因系凝固が活性化されることが、DIC発症の原因と考えられている。【図A】 (金沢大学HP)

造血器悪性腫瘍に対して、化学療法を行うと腫瘍細胞中のTFが一気に血中に流入するためにDICは一時的にかえって悪化することがあるが、これを理由に基礎疾患の治療を躊躇してはいけない。【図B】

急性白血病(特に、急性前骨髄球性白血病:APL)に合併したDICは、「線溶亢進型DIC」の病型となる。凝固活性化のみならず線溶活性化も著しいために、凝固活性化マーカーであるTATに加えて、線溶活性化マーカーであるPICも著増するのが特徴である。【図C】

線溶阻止因子PAIは上昇することなく、α₂-PIは著減する(典型例では、α₂-PI<50%)。著しい線溶活性化を反映してFDPや D-ダイマーは明らかに上昇するが、フィブリノゲン分解も進行すると、FDP/D-ダイマー比は上昇する(D-ダイマー/FDP比は低下)。臨床的には出血がしばしば高度であるが、臓器症状はほとんどみられない。なお、DICの病態は線溶活性化の程度に大きく依存するために、その適確な評価は重要である。【図D】

II. 治療

造血器悪性腫瘍に対して、適切な化学療法を行うことが最重要である。抗凝固療法としては、歴史的には未分画ヘパリンが頻用されてきたが、近年では、出血の副作用を考慮した薬剤選択が必要である。

遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(リコモジュリン)は、臨床試験の結果によると造血器悪性腫瘍に合併したDICに対しても有効であった。特に、出血症状に対して有効であった点が注目される1)。【図E】

急性白血病では、DICコントロールを行っても血小板数の回復は期待できないために、しばしば濃厚血小板(PC)の輸注が必要となる。フィブリノゲン著減例や、プロトロンビン時間が著明に延長した症例に対しては、新鮮凍結血漿(FFP)による凝固因子の補充を行う。

対 象:旧厚生省DIC診断基準に基づきDICと診断された入院患者(DICの直接誘因基礎疾患が造血器悪性腫瘍あるいは感染症)232例

方 法:ヘパリンとの多施設二重盲検無作為化並行群間比較試験により、本剤の有効性(DIC離脱率を主要評価項目とした非劣性試験)および安全性を検討した。リコモジュリンは380U/kg/日を1日1回30分静脈内持続投与、ヘパリンは8U/kg/hrを24時間静脈内持続投与し、投与期間は6日間とした。DIC離脱率の群間差について下側95%信頼限界が-5%を上回ったとき、非劣性が検証されたと判断することとし、下側95%信頼限界が0%を上回ったときには、優越性が示されたと判断した。

安全性:副作用発現率はリコモジュリン群で23.3%(27/116例)、ヘパリン群で25.2%(29/115例)であった。重篤な副作用はリコモジュリン群に1件(肺出血)、ヘパリン群に6件(脳出血、頭蓋内出血、カテーテル留置部位出血、骨髄穿刺部位出血、脳血管障害、腎機能異常が各1件)認められた。投与中止に至った副作用は、リコモジュリン群では0件で、ヘパリン群に14件[紫斑、脳出血、筋肉内出血、頭蓋内出血、骨髄穿刺部位出血、黄疸、血清AST(GOT)上昇、血清ALT(GPT)上昇、ビリルビン血症、LDH上昇、DIC、疼痛 各1件、カテーテル留置部位出血2件]認められた。

III. APLに合併したDICの特殊性

APLは、著明な線溶活性化を特徴としたDICを発症する。APLに合併したDICの特殊性として、all-trans retinoic acid(ATRA)による治療を挙げることができる。ATRAは、APLの分化誘導として有効であるが、APLに合併したDICに対してもしばしば著効する。

APLにおいて線溶亢進型DICを合併する理由は、APL細胞に存在するアネキシンIIの果たす役割が大きい。

アネキシンIIは、組織プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)と、プラスミノゲンの両線溶因子と結合して、このことでt-PAによるプラスミノゲンの活性化能が飛躍的に高まる。【図F】

APLに対してATRAを投与すると、APL細胞中のTFおよびアネキシンIIの発現も抑制される。このため凝固活性化と線溶活性化に同時に抑制がかかり、APLのDICは速やかに改善する(ATRA症候群は例外)。

なお、ATRAによるアネキシンII発現の抑制は強力であり、APLの著しい線溶活性化の性格は速やかに消失する。APLに対してATRAを投与している場合に、トラネキサム酸などの抗線溶薬を投与すると全身性血栓症や突然死の報告がみられる2)。APLに対してATRAを投与する場合には、トラネキサム酸は避けるべきである。

APLに伴うDICの治療については造血器腫瘍診療ガイドラインを参考にすること3)

引用文献
承認時評価資料,Saito H et al. J Thromb Haemost. 2007;5(1);31-41.
Brown JE. Br J Haematol 2000; 110(4): 1010-2
造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版(金原出版株式会社)47-48.
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