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症例からみるSLEの初診から確定診断までの経過

発熱と認知症症状を呈する80歳女性の症例が SLEと診断されるまでの経過

慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 講師 花岡 洋成 先生

初診時の所見と発熱の原因疾患の鑑別

認知症の症状を有する80歳女性の症例で、38 ~ 39℃台の不明熱を理由に総合内科を受診されていたが、発熱が2週間以上継続することから、リウマチ・膠原病内科への依頼となり、入院精査することとなった。高齢患者では熱性疾患により認知力が低下することは頻繁に経験するため、認知症は付随的なものと考え、発熱の原因疾患の鑑別にあたった。
発熱の原因として、悪性リンパ腫や白血病などの造血器腫瘍、結核などの感染症を念頭に検査を行ったがそれらは否定された。次に高齢に多い血管炎症症候群のなかでも巨細胞性動脈炎を疑った。また、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎として顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症なども鑑別疾患として挙げて、画像検査により血管周囲の炎症の有無、血液検査によるANCAや毛細血管の炎症の兆候を検査したが、これらの疾患も否定された。

高齢発症SLEを疑う契機となったターニングポイント

本症例は認知症症状のため問診を行うことが難しい状況であったが、胸膜や心膜の漿膜炎が認められていた。上述の鑑別および除外診断を進めるなかで、患者の消耗も激しく、低蛋白血症の進行により胸水の増加も認められた。こうした状況のなか、安易なステロイド剤投与を避けるため、くまなく診察を行ったところ、耳周辺に全身性エリテマトーデス(SLE)に特徴的な円板状皮疹を見つけた(図)。この皮疹の診断を契機に高齢発症のSLEが鑑別診断として挙がり、抗核抗体、抗ds-DNA抗体などの検査を行ったところ、抗核抗体、抗ds-DNA抗体の弱陽性が認められた(表)。この時点で、1997年改訂の米国リウマチ学会(ACR)によるSLE分類基準のうち、円板状皮疹、漿膜炎、抗ds-DNA抗体陽性による免疫異常、抗核抗体陽性の4項目に該当し、SLEと分類されたが、抗核抗体は加齢とともに陽性となるケースも多く、抗ds-DNA抗体も弱陽性であったため、SLEの積極的な診断に迷う面もあった。しかし、高齢発症SLEは、SLEに特徴的な臨床症状を欠くことが多く、特異抗体の力価も低いことが特徴でもあり、他疾患が除外されたこともあり、高齢発症SLEとの診断に至った。

治療後の経過と考察

本症例はSLEと診断の下、治療を開始することで速やかに解熱し、認知症症状の改善も認められた。そのため、本症例の認知症症状は、発熱に付随して生じていたとも考えられるが、中枢神経ループスの症状であった可能性も考えられる。早期に鑑別診断としてSLEが挙がっていれば、髄液中のIL-6濃度を調べることで、より明確なSLEの診断につながった可能性もある。
本症例の初診時の所見として、発熱、認知症症状、そしておそらく漿膜炎に由来するCRP高値が認められていたが、この段階でSLEを疑うのは難しく、さまざまな検査による除外診断が進むなかで、細やかな診察によりSLEに特徴的な円板状皮疹を見出し、SLEの診断へと結びついた症例であった。

本症例から学ぶ診断のポイントとコツ

SLEは比較的若い女性に多い疾患であるが、そうした先入観に捕らわれずに年齢にかかわらず鑑別疾患としてSLEを挙げるべきであったと痛感した症例であった。また、女性患者では毛髪で耳周囲や首などの皮疹や紅斑が隠れている可能性を考慮することも重要であると考えられた。
高齢発症SLEは、50歳以降に発症するSLEと定義されることが多い。その特徴としては、漿膜炎や関節炎、リウマトイド因子陽性、抗リン脂質抗体陽性などが多く認められる一方、腎症状などのSLEに特徴的な症状や症候を欠くことが多いため、診断が難しいとされる。発症頻度の男女比も1対1に近づいてくるため、特に男性患者では疑わなければさらに診断に難渋すると考えられる。しかし、一定数の高齢発症SLEが存在することを念頭に、年齢、男女にかかわらず、鑑別疾患としてSLEを挙げることが重要と考えられる。

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