全身性エリテマトーデス(SLE)は妊娠可能年齢の女性に好発する疾患であり、発症後に挙児を希望し、治療を継続しながら妊娠・出産に至る患者さんは少なくありません。今回は、個々の患者さんに応じた妊娠・出産を見据えた治療計画や管理のポイントについて、香川大学医学部附属病院 膠原病・リウマチ内科 病院教授 土橋 浩章 先生に伺いました。
香川大学医学部附属病院 膠原病・リウマチ内科
病院教授 土橋 浩章 先生
全身性エリテマトーデス(SLE)は妊娠可能年齢の女性に好発する疾患であり、発症後に挙児を希望し、治療を継続しながら妊娠・出産に至る患者さんは少なくありません。こうしたことから、患者さんにはあらかじめ妊娠中にSLEが増悪する可能性や、重篤な合併症が生じる可能性があることを十分に説明することが重要です。主治医は妊娠可能年齢の患者さんに対し、早い段階で妊娠に対する考えを確認し、SLEや薬剤の妊娠への影響、妊娠・出産のSLEへの影響などについてカウンセリングを行い、妊娠を見据えた治療計画を立てることが求められます1)。
当科では、SLEと診断された若年の患者さんには、最初に疾患について説明するとともに、妊娠・出産に関する注意点なども伝えています。また、SLEを発症したことで妊娠・出産をあきらめてしまう患者さんも見受けられますが、SLEの治療が進歩していること、病勢が安定している状態であれば、妊娠・出産は可能であることなどを説明しています。そして、患者さん自身に「母になりたい」という気持ちがあれば、われわれは全力で応援することを伝えています。このように、患者さんの「母になる権利」を尊重し、妊娠・出産を応援する姿勢を示すことは、患者さんとの信頼関係の構築にもつながると考えています。
挙児希望のSLE患者さんに対しては、リスクアセスメントを行った上で、寛解状態での妊娠が望ましいことを説明し、活動期にある場合は寛解状態に入ってからの妊娠を勧めます。妊娠中に使用可能な薬剤で疾患がコントロールされており、一定期間の寛解状態を維持していることが妊娠許容基準の1つとなっています2)。しかし、寛解の状態や維持期間に関しては明確な基準はなく、ケースバイケースで対応する必要があります。患者さんから、どのような状態になれば妊娠できるのか質問された際には、「重度の肺高血圧や進行した心不全がなく、妊娠中に使用できる薬剤のみで病状が安定しており、その状態が半年以上続いていれば妊娠可能です」などと説明するのが望ましいでしょう。
SLE患者さんの妊娠前の管理においては、寛解状態の維持に加えて、重篤な臓器病変、各種自己抗体の有無、血圧、骨粗鬆症リスクなどを確認して妊娠前や妊娠中にすべきことを明らかにし、対策を講じておくことが重要です。「全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019」3)では、妊娠前のスクリーニング項目として、表1に示す内容の実施を推奨しています。
私は、いわゆる「妊活」を開始した患者さんが受診された際には、妊娠の有無を確認し、なるべく早くから妊娠管理が行えるようにしています。
一方、なかなか妊娠に至らない場合は、患者さんとのコミュニケーションを通じて妊活状況を確認し、産婦人科受診を勧めることもあります。また、産婦人科医とのコミュニケーションも大切で、産婦人科医の意見も聞きながら、個々の患者さんに合った妊娠・出産のストラテジーを組んでいくことも重要と考えています。
プレコンセプションケアとは、適切な時期に適切な知識・情報を女性やカップルを対象に提供し、将来の妊娠のためのヘルスケアを行ことです4)。妊娠・出産は重要なライフイベントですが、SLE患者さんでは、それらに向けて、妊娠結果に影響を及ぼす可能性のある内科疾患(肥満、糖尿病、高血圧など)をあらかじめ治療するだけでなく、妊娠・授乳に適した治療薬の調整なども必要となります。
医師とのコミュニケーション不足によって、こうした調整などが行われないまま患者さんが予期せぬ妊娠に至ったり、可能であったと考えられる妊娠のタイミングを逃してしまうことを防ぐためにも、プレコンセプションケアの重要性を認識する必要があります。
欧米で実施されているSLEのプレコンセプションケアには避妊方法の指導も含まれています5)。一般的な避妊方法はコンドームによる遮断法であり、性感染症の予防にも寄与します。このほか、IUD(子宮内避妊具)やホルモン剤を用いた避妊方法もありますが、抗リン脂質抗体陽性の患者さんには用いることができない避妊方法もあるため、避妊のストラテジーに関しては注意が必要です。
私は、タイミングを見計らって、患者さんにパートナーの有無を確認し、患者さんが予期せぬ妊娠でつらい思いをしないように、避妊についても十分に指導しています。
表1 推奨妊娠前スクリーニング項目
SLE患者さんが妊娠していることが判明した場合は、速やかに産科を受診していただき、産科と内科が連携して産科・内科的評価を行います。治療中のSLE患者さんの妊娠はハイリスクであることを産科医、内科医、患者さん自身が十分に認識した上で、慎重な妊娠管理を行うことが求められます。
また、妊娠時の疾患活動性や病態、合併症のリスク評価のために、表2に示す患者情報の聴取や検査の実施を考慮します。検査結果を患者さんに十分に説明し、妊娠に伴うさまざまなリスクについて理解を得ることも大切です。
表2 全身性エリテマトーデス(SLE)で妊娠時のリスク評価のために必要な情報
近年、SLEの治療は格段に進歩し、生命予後も大きく改善しています。それに伴い、挙児希望の患者さんも増えてきました。SLEは妊娠可能な女性に好発するため、女性にとってのライフイベントである妊娠・出産は重要な課題です。本コンテンツをご覧いただいた先生方には、「お母さんになりたい」という患者さんの気持ちを受け止めて、どのように応援していくかについて、いま一度考えていただきたいと思います。
[出典]
1) Sammaritano LR, et al. Arthritis Rheumatol 2020; 72: 529-556.
2) 平成28-29年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業) 「関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成」研究班. 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針. 平成30年(2018年)3月
3) 日本リウマチ学会編. 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン 2019, 南山堂. 東京, 2019
4) Johonson K, et al. MMWR Recomm Rep. 2006; 55(RR-6): 1-23.
5) 金子佳代子. 医学のあゆみ 2016; 256: 243-247.