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実践的SLE診療の How to
~ 患者コミュニケーションから紐解く ~

Vol.1

SLEはその疾患特性から、患者さんの生活を考慮した治療方針、日常診療での信頼形成が重要となります。今回は、治療方針を決定するための患者さんと医療者の対話型コミュニケーションであるSDM(=Shared Decision Making)を用いた患者指導のポイントについて、香川大学医学部附属病院 膠原病・リウマチ内科 病院教授 土橋 浩章 先生に伺いました。

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香川大学医学部附属病院 膠原病・リウマチ内科
病院教授 土橋 浩章 先生

“throughout life”を考慮したSLE治療の重要性

難病の1つであるSLEは、現時点では完治は難しく、患者さんは、寛解と再燃を繰り返しながら、この疾患と生涯にわたり付き合っていくことになります。さらに、SLEの特徴として、男女比が1:9と圧倒的に女性に多く、特に妊娠可能な年齢の女性に発症しやすい疾患であることがあげられます1)

当科でも、多くのSLE患者さんを診療していますが(図1)、20~30歳代の妊娠可能年齢の女性が多く、挙児希望や妊娠中の患者さんが大部分を占めています。

このようなSLEの特徴を踏まえると、結婚、妊娠、出産などの重要なライフイベントも含め、患者さんの“throughout life”を考慮した治療が重要だと考えます。

そのため、私は、日ごろから患者さんのライフスタイル、困っていること、希望、価値観などを把握し、治療を進めています。また、日常診療において、患者さんとのコミュニケーションを深めて信頼関係を構築することが、長期にわたる治療の継続にもつながると考えています。

図1 香川大学医学部附属病院 膠原病・リウマチ内科 2018年度外来・入院患者数

SLE患者さんとのコミュニケーションのポイント

患者さんとの対話のために

近年、治療方針を決定するための患者さんと医療者の対話型コミュニケーションとして、Shared Decision Making(SDM)が注目されています2)。患者さんと医療者が協働して治療法を選択するSDMは、膠原病領域においても活用されています。SDMを実践するためには、医療者は一人ひとりの患者さんの価値観などにフレキシブルに対応する必要があり、医学的知識に加えて、コミュニケーション能力も重要になると思います。

悩みを相談できる医師-患者関係を構築することが重要

SLEは20~30歳代の若年女性に好発する疾患であることから、結婚や妊娠、出産に関する悩みを抱えている患者さんは多いと感じています。また、SLEの主な症状の1つである皮疹は、患者さんの身体だけでなく心理面にも影響を及ぼし、QOLの低下を招く大きな要因となっています。こうした課題の解決に向けて、まずは患者さんが抱えている悩みなど、コミュニケーションを通じて把握する必要があります。そのためには、患者さんが困っていることなどを相談できる診療体制、医師-患者関係を構築することが重要です。当科では、男性医師には相談しづらいことは女性医師が対応するなどの取り組みを行っています。また、困っていることがあっても自らは訴えない患者さんも見受けられるため、医師から患者さんに「何か困っていることはありますか?」などと尋ねることも大切です。そのように尋ねても何も訴えない患者さんもいますが、「皮疹が出ていますが、気になりませんか?」などと具体的に尋ねることで、悩みを打ち明けてくれることもあります。

患者さんごとに治療ゴールや治療方針を決定

昨今、日常診療において、患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome:PRO)の重要性が高まっています。SLE診療においてもPROを評価し、患者さんが困っていることなどをマネジメントすることが治療ゴールになると考えています。患者さんによって困っていることや価値観などは異なるため、患者さんごとに治療ゴールを考え、治療方針を決定する必要があります。現在行っている治療でコントロール不十分な場合は、残存する症状によって患者さんがどの程度困っているかを確認のうえ、治療選択肢を提示し、十分に相談しながら治療方針を決めることが大切です。

患者さんに使用中の薬剤の増量や他の治療薬への変更などを提案した際に、受け入れていただけないこともあります。私は、そのような場合には現在の病状や処方変更の必要性について分かりやすく説明し、それでも受け入れていただけない場合には、「次回も悪化していたら変更しましょうね。改善していたら今の治療を続けましょう」などと伝えています。このように次回受診時の治療継続・変更の基準を明確にして、患者さんが納得してから処方変更を行っています。

患者さんとのコミュニケーションは服薬アドヒアランスの向上にも寄与する

SLEの治療は著しく進歩しています。SLEと診断された患者さんには、こうした進歩について十分に説明し、治療を受ける価値があることを理解していただくことが重要です。私は患者さんに、以前に比べて生命予後が著しく改善していることなどを伝え、患者さんが治療に対して前向きになれるよう努めています。

また、服薬アドヒアランスの向上のためには、患者さんにその薬剤の必要性を理解していただき、服薬への意欲を高めることが重要です。それを達成するためにも患者さんとのコミュニケーションを深めることは必須だと感じています。

加えて、服薬状況を正しく把握することも大切であり、服薬を怠っている場合に患者さんに正直に話していただけるような医師-患者関係を築くことが求められます。私は、服薬を怠っていると思われる患者さんへの処方時には「いま余っているお薬の分は引いておきます。どのくらい余っていますか?」と尋ね、残薬が確認できた場合には、「飲み忘れることもありますよね」、「お薬の効果を正しく評価できないので、なるべく頑張って飲んでくださいね」などと声をかけ、患者さんが話しやすい雰囲気をつくるよう心がけています。こうした患者さんとのコミュニケーションが服薬アドヒアランスの向上にも寄与すると考えています。

参考:Shared Decision Making(SDM)

SDMとは、患者と医療者が医療上の意思決定において、選択方法や情報提供の必要性、価値、優先度についてお互いの認識や意見を理解し、共有するためのプロセスのことです3, 4)。SDMは患者と医療者の協働と問題解決を目指す新たな調和的アプローチといえます5)。日本語で「協働的意思決定」、「共有意思決定」などと訳されます。SDMの必須要素として、Charlesら3)は、①少なくとも医療者と患者が関与する、②両者が情報を共有する、③両者が希望の治療について合意を形成するステップを踏む、④実施する治療についての合意に達するの4点を提示しています。また、SDMは医療者と患者がそれぞれ持っている情報を、両者が共有していくステップを踏むことで意思決定にたどり着くことを目指しており、Kristonら6)は表に示す9つのステップを提案しています。SDMを通して患者さんは1つ以上の治療選択肢のなかから意思決定を行うことになり、医療者は各治療法がどのような意味や価値を持つのかを適切に説明し7)、最終的に患者さんの意思や価値観を尊重した意思決定へと導くことが求められます。

SDMのプロセスモデル:9つのステップ

[出典]

1) 橋本博史. 全身性エリテマトーデス臨床マニュアル 第3版, 日本医事新報社. 東京, 2017
2) Elwyn G, et al. J Gen Intern Med 2012; 27: 1361-1317.
3) Charles C, et al. Soc Sci Med 1997; 44: 681-692.
4) Charles C, et al. Soc Sci Med 1999; 49: 651-661.
5) Godolphin W. BMJ 2003; 327: 692-693.
6) Kriston L, et al. Patient Educ Couns 2010; 80: 94-99.
7) Légaré F, et al. Health Aff (Millwood) 2013; 32: 276-284.

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