専門医からの動画「エリテマトーデスの皮膚症状― 皮膚科SLE・CLE専門医に聞く―」を記事にしてご紹介いたします。
福島県立医科大学医学部
皮膚科学講座 教授 山本 俊幸 先生
膠原病全般に言えることですが、膠原病で見られる皮膚症状は非常に多彩です。従って、様々な皮膚症状に精通し、実際の患者の皮膚所見を詳細に観察・検討することは、膠原病の診断確定に大変重要であり、特に早期の診断において大きな意味を持っているといえます。
皮膚科医がSLEを含む膠原病の皮疹を診察する際に、まず顔と手に着目します(図1)。これらの部位は衣服から出ているところなので、最初に診やすい場所です。特に、手の指は全ての膠原病において重要な情報を与えてくれます。
SLEの場合、まず頬、目の周り、耳、頭に注意します。
その他、上腕伸側や背部もエリテマトーデスの皮疹の好発部位なので、皮疹の有無の確認が必要です。
なお、活動性の高いSLE患者には口腔内の硬口蓋に出血性のびらんが見られることがありますが、ステロイド全身治療が始まるとすぐに消えてしまいます。
図1 SLEの皮疹で注目する部位
SLEの分類基準として、SLEの臨床研究の専門家からなるグループが2012年にSystemic Lupus International Collaborating Clinics(以下SLICC)1)を提唱しています(表1)。
従来のACRの分類基準と比較して、急性皮膚ループス、慢性皮膚ループス、口腔潰瘍、非瘢痕性脱毛がこの臨床的基準に含まれており、さらに、急性・慢性ループスの中に多数の症状が記載されています。とはいえ、実臨床ではあまり細かく分けずに、急性・慢性・亜急性・特殊型の4つのタイプで考えるとわかりやすいと思います(図2)。
表1 エリテマトーデスの皮疹の系統的診察 :2012年 SLICC SLE分類基準
図2 エリテマトーデスの皮疹の系統的診察 :エリテマトーデスの皮疹の4つのタイプ
急性型はSLEの蝶型紅斑、慢性型は円板状エリテマトーデス(以下DLE)が代表的です。
DLEは露光部の顔面・耳・腕・手・頭に好発し、角化性萎縮性紅斑と呼ばれており、白色の鱗屑を伴うガサガサした紅斑が見られます。頭にできるDLEは瘢痕性脱毛と言われ、髪の毛が生えてこなくなることが多いです(図3)。また、DLEは鼻粘膜や口唇に生じることもあり、その場合は粘膜エリテマトーデスと呼ばれます(図3)。さらに紫外線の当たらない背中にも見られることがあります。DLEがいろいろな部位に汎発する「widespread DLE」のタイプは、途中からSLEに移行してくることがあるので、注意が必要です。
図3 円板状エリテマトーデス(DLE)
急性と慢性の中間型である亜急性エリテマトーデスは、皮膚科医にとっても分かりにくく、皮膚科医の間でも考え方や捉え方が若干異なります。臨床像は環状ないし連圏状を呈する紅斑と角化性丘疹あるいは鱗屑を伴う乾癬様皮疹の2つのタイプがありますが、いずれも本邦人には少なく、露光部位に好発し、瘢痕を残さずに治癒するとされています(図4)。
図4 亜急性エリテマトーデス
特殊型は深在性エリテマトーデス、水疱性エリテマトーデス、結節性ムチン沈着症、新生児エリテマトーデス、肥大型エリテマトーデスなどが代表的ですが、他にも稀なものが幾つかあります。深在性エリテマトーデス(図5)は、脂肪織に浸潤する炎症細胞により脂肪融解が起き、皮膚がやや陥凹して見られます。水疱性エリテマトーデス(図5)は活動性の高いSLE患者の顔や手足に見られます。SLEに限らず、膠原病ではムチン沈着がしばしば見られますが、真皮内にムチンが多量に沈着することによって結節性病変が多発する結節性ムチン沈着症(図5)があります。また、シェーグレン症候群の母親から生まれた新生児の顔や四肢に環状を呈する紅斑が見られる新生児エリテマトーデス(図6)と呼ばれるものがありますが、こちらは生後半年までに自然に消退します。さらに、角化の強い皮疹が顔・腕・手などに見られる肥大型エリテマトーデス(図6)も含まれます。
図5 特殊型エリテマトーデス:深在性エリテマトーデス・水疱性エリテマトーデス・結節性ムチン沈着症
図6 特殊型エリテマトーデス:新生児エリテマトーデス・肥大性エリテマトーデス
SLEの皮疹は、特異的なものばかりではなく非特異的な皮疹も見られます。SLE患者では末梢循環障害に伴う手足の症状以外にも、薬疹、蕁麻疹、脱毛、ウイルス感染、真菌感染、また皮膚の良性腫瘍である皮膚線維腫も多発して見られることがしばしばあります。
SLEの診療では、内科と皮膚科との協力体制が欠かせないと考えます。内科の先生に知っておいていただきたいポイントとしては、「SLEの皮疹は多彩である」という点です。SLICCに取り上げられた様々な皮膚症状は、同じような頻度で見られるわけではなく、かなり稀なものも含まれており、逆にSLICCの基準に含まれていないものでも、実臨床では重要な皮疹が幾つかあります。そのため、皮膚科の中でも膠原病の皮疹を見慣れていない医師もいます。従って、膠原病の皮疹に精通している皮膚科医との連携を密にすることが、皮膚科との協力体制をうまく築けるポイントだと思います。
REFERENCES
1. Petri M, et al. Arthritis Rheum 64: 2677-2686, 2012. より一部改変引用