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症例からみるSLEの初診から確定診断までの経過

SLEなどの膠原病による自己免疫的機序が疑われた蛋白漏出性胃腸症の一例

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学共同専攻リウマチ膠原病内科学分野 准教授 一瀬 邦弘 先生

全身性浮腫による受診時の所見

本症例は46歳、女性。X-1年の10月頃より眼瞼浮腫が出現し、X年3月には下腿浮腫が認められており、検診にて脂質上昇が指摘されている。同年4月、近医を受診し、全身浮腫、TP(総蛋白)が5.0g/dL、Alb(アルブミン)が1.8g/dLと低値であったが、尿蛋白は陰性であった。同院に入院の上、利尿剤・アルブミン製剤が投与されるも浮腫や低蛋白・アルブミン血症は改善されなかった。腎生検により微小変化型ネフローゼと診断され、プレドニゾロン20mg/日が投与されるも改善が得られず、その後、腎病変は否定された。
同年6月、精査を目的に当院を紹介され、低アルブミン血症の確認、両側の胸水によって呼吸音が減弱するなど全身性浮腫が増悪していたことから緊急入院となった(図1)。当院の内分泌・代謝内科、消化器内科を経て当科受診。入院時検査において腎機能が軽度低下しているものの蛋白尿陰性、アルブミン低下、低補体血症、抗核抗体80倍、抗カルジオリピン抗体陽性であった。また、強皮症でみられる抗セントロメア抗体の上昇も認められた。これらの結果によりSLEを疑うも抗DNA抗体は陰性で、口内炎や皮疹、関節炎、漿膜炎などのSLE症状は認められなかった。

免疫学的な機序による胃および腸への蛋白漏出が疑われる

尿蛋白陰性であることから腸管への蛋白漏出を疑い、血清アルブミンシンチグラフィーを行ったところ99mTc投与開始5分後には小腸が明瞭に描出され、その後も経時的に集積が増強されたため蛋白漏出性胃腸症(protein-losing gastroenteropathy;PLGE)を疑った(図2)。上下部内視鏡、小腸内視鏡検査では粘膜浮腫はあるものの明らかな粘膜上皮の異常は認められなかった。続いて実施した小腸生検では軽度のリンパ管拡張、間質の軽度炎症細胞浸潤、血管拡張が確認された。また、腸管粘膜の(分泌)腺に一致した血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現も認めた。胃生検では腺管基底膜へのIgG沈着、間質浸潤細胞へのIgA、IgM沈着、間質内細胞への補体の沈着を認めた。血清学的にも抗核抗体陽性、低補体血症があり、自己免疫的機序のPLGEを考えた。
本症例で確認された腸管内でのVEGFの発現については、VEGFは血管内皮細胞を増殖させるだけではなく血管透過性を亢進させる働きもあり、それによって血漿蛋白の漏出、そして腸管浮腫が促された可能性がある。

膠原病とPLGE

PLGEは、SLEに加えてシェーグレン症候群、混合性結合組織病、関節リウマチ、強皮症(抗セントロメア抗体陽性例も含む)、腸管血管炎、分類不能型結合組織病(UCTD)などに合併することが報告されている1)。また、SLE合併PLGEの約半数において、PLGEが他所見に先行したとされている2)。SLE合併PLGEでは、病理所見において異常なし20%、粘膜浮腫64%、炎症細胞浸潤73%、リンパ管拡張15%、粘膜委縮3%、血管炎2%であった2)

PLGEについて

通常、血漿中の蛋白の10%は腸管に漏出するが、速やかにアルブミンに分解されて再吸収されていく3)。しかし、PLGEでは肝臓での蛋白合成能を腸管からの漏出が上回り、低蛋白、低アルブミン状態となる3)。症状として低蛋白、低アルブミンによる浮腫、胸膜水があり、嘔気、脂肪便、下痢が認められることもある4)。また、補体の低下が蛋白漏出の程度を反映するとされている4)
蛋白が腎臓から漏出するネフローゼとの違いとして、ネフローゼでは蛋白の分子量が電荷により漏出するのに対してPLGEでは蛋白の分子量に関係なく漏出するため、鉄分、脂質、微量元素、脂溶性ビタミンも漏出する。脂溶性ビタミンの漏出によるビタミンD欠乏、ステロイド使用や長期臥床による骨吸収亢進があいまって骨粗鬆症につながっていく。ただし膠原病関連PLGEはアルブミン主体の漏出となり、高脂血症となる。SLEでは腎障害と合併することもある2)
PLGEと鑑別が必要な疾患を表にまとめた。PLGEの診断には99mTc-血清アルブミンシンチグラフィーが有用である。

本症例から学ぶ診断のポイントとコツ

本症例は、自己免疫的機序のPLGEと考えられたが、自己免疫的背景についてはSLEの確定診断に至らなかった。しかし、PLGEとSLEをはじめとした膠原病との関係についてはその後の経過の中でも常に心に留めておく必要がある(本症例ではUCTDを疑っている)。
腸管に蛋白が漏出するPLGE、そしてPLGEにはSLEなど膠原病との関係性が高いことを念頭において、早期の診断につなげていただきたい。

REFERENCES
1)Awazawa R et al. J Dermatol 2012; 39: 454-61.
2) Al-Mogairen SM. Rheumatol Int 2011; 31: 995-1001.
3)Braamskamp MJ, et al. Eur J Pediatr. 2010: 169: 1179-85.
4) 高橋裕樹. 日臨免誌 2001; 24: 112-24.

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